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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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進展あり……のはず

「大会まであと四日…そろそろ戻らないとダメなのです。」


「だな……」


頑張ればもう一体ぐらい契約できるかもしれなかったが、結局そこまで無理させて俺が大会に出られなかったら困るという事で大事を取って今日戻ることになった。


「ここからだとゴーバスまで歩いて結構かかるな。……乗り物使うか?」


「……いえ、せっかくここまでずっと歩いてきたので歩いて帰るのです!初志貫徹なのです!」


ソーラたっての希望でゴーバスまで歩いて戻ることにした。


……


「いやーしかし歩いたなー。……一週間ずっと歩きっぱなしだった。」


「もう一生分歩いた気がするのです。」


「けどまだまだ元気そうだな。」


「シドさんの言う通りだったのです。旅は歩いたほうがいろんなものが見れて楽しいのです。外を見ていると疲れより驚きの方がたくさんなのです!」


「ならよかったな。」


……とりあえずはソーラを守ることが出来て無事ゴーバスまで送ることが出来そうで良かった。リアンも満足してくれることだろう。


「結局何体と契約したんだ?」


「ええとええと……全部で6なのです!」


6か。上々な結果ではなかろうか。ほぼほぼ一日一体ペースだ。


「リアンも喜んでくれるでしょうか。」


「お前の立派に成長した姿を見たら、喜ぶに決まってるだろうが。だから元気な顔で帰ってやれ。」


「えへへ……はい!」


「しっかしあれだな。精霊ってのは女の子ばっかりだったな。」


「そうですね。綺麗な人が多かったのです。」


「リムルはちょっとそっけない所がグッとくる。キャーはグータラしてたが顔が俺好みだ。ベルはとにかくスタイルがいいしレイエールはもうビューティフルだ。アナも喋り方がアレだが可愛いから良し。クファマトは……ちょっと拗らせてたな。まああんなのもアリだ。」


「誰でもいいんじゃないですか!シドさんは節操がないのです!」


「誰でもいいんじゃない。誰もが等しくいいのだ!」


「屁理屈なのです!!」


「お前ももちろんいい。」


「ななな!……やっぱりそんな目で私を……でも私は少し背が小さいのです……」


「だからいいんじゃないか。可愛くていいぞ。」


「……うう……節操がないけどそんな風に褒められると照れてしまうのです~……」


なんだかんだソーラとの仲もそれなりに深まったに違いない。大体夜には一緒にゲームをして遊んでいた。こう見えてこいつはゲームがうまい。と言うか適応力がある。どんなゲームでも何回かやればコツをつかんでしまう器用な所があるのだ。


「シドさんは闘技大会が終わったらどうするのですか?」


「終わったら、か。」


「もし、最強の剣を手に入れたら……どうしちゃうのですか?」


「……帰るだろうな。」


「……」


……押し黙ってしまった。元を正せば本来の目的は剣を探す事だったのだ。それを達成できれば俺はエイスの町に戻る。それが当たり前なのだ。


「……そうですね。当たり前の事を聞いてしまったのです!」


……なんだか強がっているように見えて仕方がない。……人間関係と言うのはこういうところが厄介な所でもあるのだ。たかだか数日程度でも互いの間に絆らしからぬものが出来たら別れが惜しくなる。……そりゃあ俺だって、寂しくないわけじゃない。……だが、そんな事で感傷に浸るようでは冒険者足り得ないのだ。俺は剣を手に入れたらエイスに帰る。帰るのだ。


「お前はまた精霊と契約しに行くのか?」


「リアンと話し合って決めるのです。」


「そうだな、そうするのがいいな。」


これでもまだまだ精霊は数多く居るのだろうし、ある意味ソーラの旅に終わりなどないのかもしれないな。


「……なんだか精霊さんって、私達と似てるのです。」


「私達?」


「女の人だらけって、精霊術師もそうなのです。」


「ふーん……」


「昔精霊術師がたくさん居た頃の話では、その精霊術師さん達はほとんど女性だったのです。」


「へー。そいつはいい。」


「何がいいのですか!そういう意味ではないのです!」


何か理由でもあるのだろうか。


「女性の方が精霊さんと波長が合いやすいって言われていたみたいなのです。」


「ああ、あれか。目に見えない物を受け入れるってやつか。」


「多分そうなのです。それを包容力って言ったりもするそうなのですがあくまで書いてあっただけの話なのです。」


……包容力か。確かにそうかもしれん。自分と違う相手を受け入れるっていう事柄は男よりも女の方が得意そうな気がする。


「男ってのは頭でっかちと言うか意地っ張りと言うか、そんなところがあるものな。」


……あれ?


「でもリアンの親父って精霊術師だったんじゃないのか?」


「そうらしいのです。とっても凄い精霊術師だったってリアンも言っていたのです。でもリアンが私を引き取ってくれた頃にはもう居なかったのです。……男の人で精霊術師なのは本当に珍しいのです。……きっと、優しい人だったのです。」


「ふーん……そういうもんか。」


「シドさんも優しいのです。でもそれ以上にエッチだから精霊術師にはなれないのです。」


「もうそれは言うなっての……」


……午前中に出てきてゴーバスへと着いたのは夜の事だった。ちょっとのんびりしすぎたな。


「急に帰ってきたらリアンはビックリするでしょうか。」


「嬉しいビックリならいくらあったって困らねえさ。」


「……ただいまなのです!」


俺の言葉に笑顔で向き返った彼女は大切な人がいる部屋へとただいまと高らかに言い放った。


「うん。お帰りなさい。」


そしてその無事の知らせへの返事はソーラよりはずっと控えめだが、恐らくは彼女が出来る限りの笑顔だった。そんな二人はただ互いを見つめ合う。心が通じ合っているならば言葉はいらない。そう雄弁に語っているように見えた。……今回ばっかしは茶化すまい。俺は無言を決め込む事にした。


……


「~☆」


「~♪」


……無言を決め込むとは言ったが、完全に蚊帳の外って感じだな。ソーラはリアンの膝枕を堪能しているしリアンはと言うと膝下の可愛らしい頭を撫で撫でしながら互いに笑い合っている。


「リアンのいい匂いなのです~……久しぶりなのです~(ごろごろ)」


「ほんの少し離れていただけなのにね。(なでなで)」


「……リアンは寂しくなかったですか?」


「寂しくないって言ったら大嘘つきね。……でもきっとソーラが頑張ってるんだって思ったら、寂しい気持ちより応援してあげなきゃって思った。あなたの頑張りに応えるために、私は私のやるべき事を精一杯やろうと思ったの。」


「リアンは凄いのです。……私は、本当は旅立つ前は不安で不安でしょうがなかったのです。リアンの期待に応えられなかったらどうしようって……もしそうだったら、役に立たない私なんて居てもしょうがないのです……」


「そんな事、言っちゃダメよ。……ずっと一緒。居なくなっちゃ駄目。ソーラが傍に居てくれるだけで私は凄く幸せなんだから。」


「う……うう……」


膝の上で涙ぐむソーラ。……明るそうな振る舞いをしていても実際は負けそうな思いと戦っていたのだろう。人ってのは、強いもんだ。真っ直ぐな奴ってのは特に強い。


「……」


んでだ……傍観しているとは言ったが、この部屋に入ってから一言も言葉を発していないのだが……


「~☆」


「~♪」


「ε=ε=ε=ヾ(≧▽≦)ノ」


……何やってんだか。……ここまで来たら逆に喋ったら負けな気がしてきた。よし、ひっそりと喋ってはいけないというルールを追加する事にしよう。


「リアン大好きなのです~☆」


「私も大好きよ……ぎゅう……」


「えへへ~……」


つーかまだ飯食ってないんだよなぁ……何食おうかな。


「精霊さん達とたくさん契約したのです。」


「どんな精霊と契約したの?」


「最初は風の精霊さんの所に行って、次は火、その次は水、大地、闇の精霊さん達と契約したのです。」


「そうなの。大変じゃなかった?」


「なんとか頑張ったのです!リアンの事を思えば辛くなんてなかったのです!」


「本当にいい子なんだから……///」


たまには野菜でも食うかな~……いや、魚とかでもいいかもしれんな。


「……そうだ、一緒にお風呂に入りましょうか?」


「入るのです!」


そんなこんなで二人は風呂場へと向かって行った。……さて、明日は何するかな~。……今にして思えば何故一緒に入らなかったのか、あるいはちょっと風呂に入っている二人に御挨拶しなかったのかと思うのだがこの時の俺はそういう事に関する雑念から完全に隔絶されていた。……惜しい事をした。雰囲気に紛れて許してもらえたかもしれないのに。


……


「ソーラの髪は柔らかいわね。」


リアンはソーラの頭を洗ってあげている所だった。長く跳ねた髪だったが彼女の活発さと言うか快活さを良く表していると思う。


「照れちゃいます。でもリアンの髪もサラサラでいい匂いなのです。」


「前から思っていたけれど褒めすぎよ。みんなと変わらないはずよ。」


「そんな事は無いのです!私の一番お気に入りの香りなのです!」


嬉しいよりも恥ずかしいの方が勝るくらいにリアンの事を褒めてしまうのだった。そんな思いはお湯をかけて体に着いた泡を流してあげる。


「一旦は戻って来たものの、次はどうしようか迷っているのです。」


「……そうね。きっとソーラは以前よりずっと強くなっている。だけどやっぱりどんな冒険でも一人で行かせる事は不安だわ。……頼りないと言うわけじゃないのよ?」


「独りは、寂しいのです。」


「……うん。独りになんて、させない。……次の旅は、また落ち着いてから考えましょう。しばらくは旅であった事を聞かせてくれるかしら。ソーラから教えてもらった事をデータにまとめて新たな研究を行うわ。」


変な話精霊との契約を最速で行っていたらこうしてゆっくりしている時間など与えられない程になってしまう。だが年頃の娘に、そしてなおさら寂しがり屋のソーラにそこまでを求めるのはどう考えても酷だ。


……何もかもをかなぐり捨ててでもと言う意志があるのならばそれでもやらせたのかも知れないが、今の二人の間にあるのはそういう関係ではない。絆が間にあるだけなのである。絆とは友愛であったり、親愛であったり、友情など多くの感情を一手に含んだ者だ。それについて深く語るのはナンセンスと言うやつだ。


「明日からまたよろしくね。」


「はい。よろしくなのです!」


ソーラはやっと自分の場所に戻って来たのだなと言う実感を噛み締めていた。


……


「……すー」


夜遅く皆が眠りについているであろう時間。同じベッドにて夜を共にする。毎日の習慣だったような事をしばらく欠かしただけで生活リズムは微妙にずれてしまうものだ。それを徐々に戻さなければならない。もちろんそんな事を考えて寝ているわけではないが。


「……」


やはり疲れていたのか先に夢へと誘われたのはソーラの方だった。私はまだ隣でソーラの頭をさすったりしていた。……今日ぐらいは、もう研究の時間を取らなくても許されるだろう。明日から。……なんだか課題を後回し後回しにする人みたいだ。……けどこんな幸せそうな寝顔を見させられてしまってはダメだ。……起こしてしまうかもしれなかったが、その体を私はぎゅうっと抱きしめた。……こんなにも愛おしい存在が自分の中に出来るなんて……運命と言うのは、分からないものだ。


お父さんが居なくなって周りから憐みの目で見られたときはきっと絶望のどん底だった。そこから這い上がる事など出来ない。そう思っていた。……ところがどこまでも深い底辺に天使が舞い降りて私を救い上げてくれた。……彼女は、私にとっての天使なのだ。


私に出来ないことが出来る。もちろん逆もそうだ。お互いに足りないところを支え合って生きていく。……きっとそんな事をしていたら人生って言うのは終わってしまうんだろうな。……でも、誰かを憎みながら生きていくよりもずっとずっと、幸福な事だと思う。


……私も、眠ろう。


良く頑張ったね……。おやすみ、ソーラ。


……そうして、私も目を閉じる。……願わくば、夢の中でもソーラと一緒に居る夢を。


……


喋ってはいけないルールはいつまで適応なのだろう。……日付が変わるまでか?それとも朝になるまでか?……ルールはもう少ししっかり決めるべきだったな。……ていうか、マジで俺が居ない事になってる気がするんだが。二人の世界が完全に構築されていた。……俺、急に透明人間になってないよな?結局飯も食ってないし……


いいや。俺も寝ちまおう。


結局シドは12時間程言葉を発しない事に成功したのだった。ただ別に何が貰えるわけでもなく自分の気持ちが満足するかどうかの話だ。……満足はしなかった。何をやったんだろうと言う虚しさを得た。

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