満足してはいけない
「シドさんこの剣!なんだかすごく綺麗です!」
その刀身は金属特有の色に加えて薄ら緑がかった鮮やかな色をしていた。まるで風そのものが剣になったような印象を受ける。
「……フリュゲイルス。唯一無二の剣。振りぬく速さは風の如く。何よりその剣の切れ味はまるで相手に風が通り抜けたかのような心地よい気持ちのまま痛みも与えないほどのもの。」
「……」
俺は起き上がりその剣を握りしめる。
「ッ……」
何だこの剣……ヤバい。紛れも無くヤバい剣だ。……これは明らかに人知を超えた代物だった。誇張でもなんでもなくこの剣を使えばとんでもない速さで振りぬける。……反応できるものなど居ないほどに。かと言って切れ味もある。……俺はしばらく言葉を失う。
「凄そうな剣なのです。」
「……風の魔力から人へと与えられし剣。使いこなすにもそれなりの鍛錬が必要。そうじゃないとさっきのソーラみたいに力の暴走を招くかもしれない。……だけど、あなたならきっと大丈夫。力の使い方を知っているはず。」
「そうです。シドさんはとっても強いのです。良かったですねシドさん。その剣があればきっと無敵なのです。」
「……違う。」
「え?」
「……これじゃ、ない。」
……この剣は間違いなく人類が手に出来る剣の中でも最高クラスに位置するだろう。……でも、でもやはり違うのだ。……俺が求めている力を具現化してくれる剣ではない……
「……どういうことなのですか?」
「この剣は、確かに最高レベルの速度を叩き出すことは出来る。……だが、それが通用しない相手が居たとしたら……」
過程の話だが、過去の状況と同じ状況になった時にこの剣があったならどうなっていたか。
あの巨人にこの剣が通用していただろうか?……あいつらが魔物になってしまった時にそれに対応することが出来ただろうか。……残念だが、多分無理だった。……この剣が弱いわけではない。あの時の敵は人知を超えてなお強かった。……こうして生きているのはほとんど偶然に過ぎない。
……でも、その偶然に頼るのではなく自分の力でどうにかするために俺は今旅をしている。……この剣で満足してはならない。……まだなのだ。
「……確かに、あなたの言う事はあながち間違っていない。その剣は私が与えられる最高の剣だけれどもそれでも最強とは言えないかも知れない。」
「なんだか難しいのです……」
「人の手で作れる剣に込められる魔力を1、とても腕のいい人がどうにか作ったとして5と言う数値を与えるとするならばそのフリュゲイルスに込められた魔力は20。……でも、実は真の上限は100っていう様な事。」
「100って言うのは難しいのですか?」
「100と言うのは私の力の全てと言うレベル。……私の身の全てを使った魔力の数値が100と言う事。……それを扱えるとしたら精霊術師。……そうでない人に与えられるものはこれが限界……」
「……そっか。」
「私も、自分の命は、ちょっと惜しい……力になれなくてごめんかさい……期待外れだった?」
「……いや、そんな事ない。どうせ可愛い子を拝みに来るついでだったしな。それに剣が手に入る当てはまだある。」
闘技大会が十日後に控えている。それで優勝する事でもらえる剣に望みを託す。……しかしどんな経緯で手に入れたか知らないがこの剣よりも強い剣が本当に手に入るのだろうかと言う疑問を抱いている事は否定できなかった……
「他に用はある?」
「……いや、大丈夫だ。後これは返す。」
「……そんなに使えない?」
「逆だ。これをもし使い続けたらこれで満足しちまいそうな気がするからワザと持たない事にする。」
「……」
フリュゲイルスは再び魔力へと分解され精霊の元へと還っていく。……これでいいんだよな?
「……旅、気を付けて。」
「はい。精霊さんもお元気で!」
「また暇な時にでも顔を見に来るからな。」
「……次来た時は無理やり起こさないで。」
「待ってたら一生起きないだろうが。」
「……すう。」
そして出会った時の様にまた寝息を立て始めてしまったが、今回一つだけ違ったのは、眠りに着く直前、優しい笑みを浮かべた事だった。その微笑みはどことなくやはり精霊なのだと思わせるような包容力に溢れていた。
・・・・・・
「とーりあえず一体目終わりだな。」
「はい。……でも、シドさんの剣、どうしましょう。」
「おいおい、まだ旅は始まったばかりだろうが。次の精霊のとこに行くぞ。そしたらまたなんか貰えるかもしれん。」
「……分かりました。」
「お前が暗くなる必要はないだろう。」
「なんだかシドさんにただ働きさせてるみたいで私は嫌な女の子なのです……」
「ほう、じゃあせっかくだ。今日の夜、体で返してもらおうじゃないか。それで全部チャラに……」
「シドさんのエッチですー!!!」
真昼間からうら若き女の子にそんな事を言われる俺ってどうだ。
「……元気で何よりだ。」
俺達は次なる精霊の元へと向かう事にした。
「風の次は、どうする?」
「……じゃあウズックに行くのです!」
「……暑いぞ?」
「暑くても頑張るのです!!」
……しゃあない。次なる進路をウズックへと決めて俺達は再び歩き始めたのだった。
……
「あ、暑いのです……」
「……言わんこっちゃない。」
この国へと一度足を踏み入れたらそこは砂の集まる灼熱地帯なのだ。……あー死ぬ……
「日焼け止めクリームたくさん塗ったのですが、これじゃあ日焼けしちゃうかもしれないのです……」
「旅の途中でそんなの気にしてる場合か……」
「女の子は24時間美容を気にするものなのですー!」
「わーったわーった……」
騒ぐとそれだけ暑くなる……
「どこだっけか?」
「えーとですね。フレイズンって町の近くにカバネ洞窟って言うのがあるらしいのです。」
「そこに居るのか?」
「多分そうなのです。」
「……じゃあ行くか。」
ひたすら続く一面の砂の中をダラダラと進んでいく。
……
「……」
「……」
町に着いたとき俺達は一言も言葉を発せずにいた。……もうキツイ。少しは違うだろうかと思ってソーラに覚えたての力を使って風を起こしてもらったが砂を巻き上げて熱風を浴びるだけの結果に終わったのは残念だった。
兎にも角にもさっさと宿へと行きたかった。
……
「うおーーー!!!!」
「生き返るのです~!!」
照りつける太陽光線に晒されない室内はなんて快適なのだろうか!二人で部屋で久しぶりの冷気のなかに居る。
「水が美味しいのです!!」
「いくら飲んでもいいってのはいいもんだ。」
水が尽きたら命にかかわることもあってか遠慮しながら水を飲んでいたが飲みたいときに飲みたいだけ飲むのがやっぱり正義だ。
「んで、洞窟まではどれくらいかかるんだ?」
「聞いたら30分も歩けばあるそうなのです。」
洞窟ってんだから流石に魔物達も徘徊しているのだろう。まだ日は高い。
「じゃあちょっと休んだらすぐ行くか?」
「はい!一刻も早く頑張るのです!!今度は私も少しは戦いのお手伝いが出来るのです。」
「……洞窟内で竜巻を起こすのはやめてくれ。」
……
「どおおおおお!!!」
「あっはっはっは!!!」
「シドさん!!えーい!!」
「おお!!これは風だね!!この洞窟に居てこんな心地よい風が味わえるとは思わなかったよ!」
「あんまり効いてないみたいなのです……」
魔物との戦いをこなして洞窟の一番奥へとやって来た俺達だったがそこに待っていたのは当然のように炎の精霊だった。実はここに来たくない理由の一つとして炎はなんとなく男のようなイメージがあったためもしかしたら男の精霊なのではないかと言うリスクがあったのだ……
けどまさかの女!それも勝気で切符のよさそうな可愛い子!スタイルもこれまでの二人と比べても出るところが出ているナイスな子だ!!
・・・・・・
「なんだかあの男から変な風に思われている気がするわ。」
「……すう。」
離れた場所に居ても雑念は波となって2体の精霊の元へと届いた。……のかもしれない。
・・・・・・
最奥へとたどり着いた場所には精霊が待っていた。
「精霊さんなのです!!」
「今度の奴はちゃんと起きてるな。」
「は?もしかしてアタシの事見えてる?……って事は、精霊術師?……けどそっちのはなんか違うね。じゃあそっちの子かい。」
「はい!!契約をしてもらいに来たのです!!」
「嬉しいじゃないか。久しぶりな事があると嬉しいもんだ。アタシはベル。早速試練と行こうか。アタシとの契約はいたって簡単だ。これからアタシの姿をした相手と戦ってもらう。ちゃんと実体はあるから思いっきりかかってきな。」
「2人がかりでいいのか?」
「ああ、いいとも。それも含めてそっちの子の力だろ?アタシもここに居てからずっと鍛えてるんだけどこんな身だからなかなか技を試せなくてさ。ついでに鍛えた技がどれくらい通用するのか試させてもらうってわけさ。だから手加減無用、全力で来な!」
「気前がいい精霊さんなのです。……では、行くのです!!」
その姿は俺達と変わらぬ人の姿をしていた。灼熱のような赤色に毛が逆立っている。……だが俺は胸にばかり目が行ってしまう。……ぬぬぬ。けしからん。
「どこ見てるんだい!行くよー!!」
「ぬおう!!!」
……
向こうは徒手空拳。その体を武器として戦う相手だ。もちろん俺が前線で戦い後方でソーラが支援を行っている。
「おらっ!!」
「なかなかやるじゃないか!お兄さんもなかなか早い太刀筋だ!」
こちとら昨日まで飽きるほどすばしっこい魔物の相手をしていたんだ。今なら動体視力も一時的だろうがアップしているところだ。
「つぉ……りゃあ!!!」
「よっと!!」
「ソーラ!風の力でそいつをよろめかせろ!!」
「やってみるのです!!えーい!!!」
「おっと……なんと……これはなかなか……」
「ぐぐぐ……」
局所的に大きなエネルギーの渦が敵を包む。……だが、まだコントロールが十分でないのか俺もその影響を受けている……吹き飛ばされそうだ……
「うう……ごめんなさいなのです……」
「ん?」
閃いたぞ!!
「とーー!!!!!」
「おおおおお!!!????」
どうせ強力な風なのだから思う存分利用してしまえばいい。変化し続ける風のタイミングを見計らって追い風になったその瞬間、俺は風の勢いを利用して斬りかかる!!!
「……なんと!!」
「……手ごたえ、ありだ!!」
勢いに任せた剣が見事に体を真っ二つに切り裂いた。……切り裂いた?
「あー!!!!大丈夫だよな!?生きてるよな!?」
「……」
「う……嘘だろ……せっかくのナイスバディを俺の手で……」
世界の終りよりも何よりもあってはならない事が起こってしまった……
「なーんてね!最初に言っただろう?アタシの姿をした偽物だって。本物じゃないよ。」
「……ヒヤヒヤしたぞ……」
「ちゃんと人の話は聞くもんだよ、お兄さん。」
「これで試練は終わりなのですか?」
「ああ。もちろん文句なしだね。契約しようか。……心を、開いて。」
「はい。」
「アタシを、受け入れて。」
「……」
……
……
これで三度目だ。流石にもういちいち驚く事も無い。
……心と心がふれあい、溶け合う。
……
……
「オッケーだね。」
「はい!ありがとうございますなのです!!」
「ああ!」
「これで今度は炎の力が使えるようになったのか。」
「そうなりますね。……ちょっとここで使うのはやめておくのです。」
「それがいい。」
……実は洞窟内は陽が当たらないため意外にも外よりかは幾ばくか涼しい。……けど暑い物は暑い。そんなところで炎の力なんて使ったら自殺に等しい。
「しっかしこんなところまで遠路はるばるよく来たもんだ。」
「私は立派な精霊術師になるのです!」
「……若いってのは、いい事だ。……ソーラって言ったかい?……頑張んな。」
「はい!!」
……少し疑問に思ったのだが、誰もかれも同じような事を示唆しているような気がするのだが。……これからソーラの身に辛い事が起こると知っているかのような。……それも確信めいた何かがあるかのように。
「……俺にもなんかくれ。」
「ああいいよ。あげられるもんなら。」
「じゃあ、剣をくれ。めっちゃ強い最強の剣を。」
「剣か。……これでどうさ?」
「……」
目の前に現れた剣は刀身がまるで炎の欠片をそのまま金属に変えたかのような流形をしていた。……これもまた、人知の及ばぬ武器だという事がすぐに分かった。
「フレグラスコーン。それがその剣の名だよ。想像通り、炎の剣。その剣で引き裂かれたら体を炎で焼き尽くされるような痛みを与える。……そして持った奴の魂の強さの分威力は増す。アタシからあげられる最強の剣さ。」
「なんだかカッコいいのです……でも痛そうなのです。」
「……ふーむ……」
……強さがどうこうより、この剣。一つ気になる事があった。
「……この剣。なんか熱くないか?」
……握っている手が熱い。
「そりゃあ炎の剣だからね。ちょっと熱いぐらいはご愛嬌さ。」
「……いらん。」
「そうなのかい!?そんなに熱いの嫌いかい?アタシは熱いの好きだけどねえ。」
「そりゃお前は炎の精霊なんだからそうだろうが……」
結局この場所で貰った剣も俺には合わず返す事になった。
……俺が高望みし過ぎなのだろうか。……俺が思うとんでもない物はもっとなんというかとんでもない物なのだ。しかし精霊でもダメとなると……どうしたもんかね。




