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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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楽だが手間のかかる事

「……」


「……すう……」


「いい加減にしろ!!話してる時にはもう寝るな!」


いちいちこんなやり取りしていたら一生話が進まん!


「……実は、厳密には、寝ているわけじゃない。精霊には寝ると言う概念は存在しない。」


「……何か言いだしたぞこいつ。」


「人間の眠るって言うのは意識が途切れるものだけれど、精霊にとっては、調和するという事。……無に近い存在になる事。……す……」


「寝!る!な!!」


油断したらまた寝ようとしやがった!結局は理由をつけて眠りたいだけなのだろう。


「さっさと要件を言ってやれ。じゃないと一生寝続けるぞこいつ。」


「は、はい!あの、私と契約を結んでくださいです!!」


「……うん。いいよ。じゃあ、契約……」


「……」


「……そ、そんなあっさりで大丈夫なのですか?」


大概マイペースなソーラでも流石に呆気にとられるほどの自分流の空気が漂っているらしい。……まあ労せずいけるならそれでいいような気もするのだが……


「ううん……そう言われるとダメかもしれない。私的にはいいんだけど……じゃあ、一応試練を出すからそれを達成したら……」


「は、はい!!」


遂に本題か。……さて、どんな事を言われるやら。リアンの話だと最悪命を賭けて戦わなければならない場合もあるとか言っていた。……それに近い程度の事は言われる覚悟をしておいて間違いはないだろう。


「……ぴょんちゃん。」


「は、はい!ぴょんちゃんですか!?」


「ぴょんちゃんの尻尾。百個持ってきて。」


「……」


「……」


「……ぴ、ぴょんちゃんの、しっぽですか?」


「そう。……じゃあ揃ったらまた来て。……すう。」


そう言い残すと再び寝息を立てて横たわってしまった。……ぴょんちゃんの尻尾って……


「あの、シドさん。ぴょんちゃんって、あのぴょんちゃんですか?」


「まあ、だろうな。」


……ぴょんちゃんって言ったらその辺に普通に生息している跳ねるぐらいしかしてこない魔物だ。ハッキリ言って弱い。負ける事なんてまずありえない。……百匹?


「めんどくせえな……」


百は置いてあるかどうかわからないが下手したらその辺に売ってる可能性もある。ちょいと金はかかるかもしれんが買って持ってくればいい話でもある。


「……ちゃんと倒して手に入れたやつじゃないとダメ……」


「うおっ!!」


こっちの話は聞かないくせに向こうからは唐突に話しかけてきやがる……しかもまたすぐ寝てるし……


「というわけか。」


「シドさん!ぴょんちゃんのしっぽを取りに行きましょう!!」


「……そうするか。気のりはしないけど。」


俺達は風の祭壇を一旦出て街道へと出る。


「んー。一体だけを集中的に狙うってのもなかなか骨だな。」


いっそ現れた魔物を有象無象倒せばいいと言う方がよっぽど楽だ。街道に現れる魔物だけでも知る限り数十種類以上いる。巣かなんかがあれば集中してるんだろうが……


「もうすぐ夕方になってしまうのです……」


「流石に今日中に百匹は無理だな。やれるとこまでにしよう。」


「そうですね。……あー!居ました!早速ぴょんちゃんが一匹!」


ソーラの指差す方向には、緑色をしたよく見かけるそいつが居た。普段なら大した実入りも無いためスルーするような相手だが今回ばかりはそうはいかない。


「おーし。行くぞ!!」


何事も最初はまだ元気が有り余っているため速攻で駆け寄る!


「ぎゅう!!!」


跳ねた!!……そう、まともに倒そうとするとちょっとすばしっこいのだ。だからこそ相手にするのもめんどくさいのだ。こいつの有効的な倒し方は遠距離からスピードのある攻撃や広範囲の攻撃を仕掛けるのがベストだ。弓や魔法などが該当する。……残念だがどちらも俺の得意分野ではない。


「ちっ!逃げんじゃねえ!!」


「ッ!!ぎゅう!!!」


……かー……逃げること逃げること……いっそ立ち向かってくる方が楽なのに向こうはただ逃げ回るだけだからな……


「……しょうがねえな。おらーーーーー!!!」


俺は剣を投擲する!!剣は真っ直ぐ魔物に向かって行く!!!……が、惜しい。ちょっと脇の地面へと突き刺さり土を抉っただけだ。


「惜しいですシドさん!!」


仕方ないので剣を取りに行ってまた追いかけっこを開始する。


十分後……


ようやく一体倒して尻尾を切り取る。


「はー……」


これは疲れたのではない。……いや、まあ疲れたともいえるのだが肉体的にではない。精神的にだ。……ため息だ。……これを後99回だと?


「ああ、シドさん大丈夫ですか?」


「……大丈夫なのが逆にきつい。」


いっそ疲労困憊ならば無理と諦めようと思うんだが……


「あークソ!来るなら群れで来やがれってんだ!!」


「次のぴょんちゃんを探しましょう。」


……


「あ、シドさんあそこに二匹居ます!!」


家族なんだか恋仲何だか知らないがチャンスだ!


「てめえらそこで大人しくしてやがれ!!!!」


「ぎゅう!!!(な、何なのあの人は!?)」


「ぎゅーー!!(きっと僕たちの中を引き裂きに来た粗暴な乱暴者に違いない!)」


「ぎゅ……(わ、私怖いわ……)」


「ぎゅーー!!!(大丈夫!!僕が君を守ってあげるよ!命に代えても!!)」


「ぎゅう……(……カッコいい。す、好き……)」


「何喋ってんだか見当もつかねえが死ねーーー!!!!」


言葉も通じるはずが無いのだが何となくムカついたので通常の三割増しで魔物に攻撃した。


「やりましたー!これで三つ目なのです!」


「おーし!こうなったらガンガンやったるわ!次だ次!!」


……そう、最初だけだ。分かっていたのだ。こんな単調な作業、飽きるに決まっていると。


……


と言うわけだ。なんでこんなにやる気が無いか分かってもらえたに違いない。


「シドさんそっちですそっちー!!」


「おーう……」


「ぎゅー……」


俺の力無い一撃を受けた魔物は力無い悲鳴をあげて息絶える……この悲鳴何回目だよ……


「なかなかすばしっこいものですね。でもだんだん目が慣れてきたような気がします!!」


「そうかー……」


「あ!次が出ましたよ!」


「……」


変わり映えのしない流れ作業のような行為をひたすら続けて早一時間。……俺は何をやっているのかと言う疑問が頭に浮かぶのは何も不思議ではなかった。それからなるだけ何も考えずにただ淡々と事を消化していき更に一時間程狩り続けた。……無だ。無の境地だ。無駄ではない。無だ。


……バカ野郎!!こんな事してたら頭がおかしくなる!!


俺は我に返った!!


おっと、気がつけばもうそろそろ辺りも夕焼けから夜へと変わりつつあるのであった。……別にこのまま続行してもいいんだが、夜は単純に敵が探しづらいのと他の魔物からの襲撃を受ける危険が高まる。俺一人なら気にすることではないのだが戦闘要員ではないソーラが居る以上この辺りが潮時か。


再び現れた魔物を一体撃破して尻尾を獲得した。……これで最後にしよう。


「今日はここまでだな。」


「あう。……そうですね。もうだんだん暗くなってくるのです……」


「おし、じゃああの町に戻るぞ。……歩けるか?」


なんだかんだずっと俺に付き合っていたのだ。戦っていないとはいえ足は大丈夫だろうか。


「大丈夫なのです!旅をする覚悟をしてよりこのくらいは鍛えておきました!」


「辛かったらすぐ言えよ。」


「はい!」


無理をすることは決していい事ではない。いざと言うときに逃げられないほど疲れていては本当にどうしようもない。俺達が町へと到着して数分で辺りは闇に包まれた。町の明かりと星の光が大地を照らす時間だ。俺達は宿へと入り暫しくつろぐ。


「で、どれぐらい集まったんだ?」


「えーとですね。ひーふーみー……25個ですね。」


「ちょうど4分の1か。……けど二時間でこの数って考えると、単純に言って後……」


「6時間なのです。」


「……だな。6時間か。」


明日朝から夕方までやればやってやれない事は無いだろう。……仕方ない。乗りかかった船だ。最後までやってやろうじゃないか。


「それにしてもシドさん後半は段々ぴょんちゃんの動きに慣れていたのです。」


「まあな。」


単純作業の良い所はそこだ。やって行くうちにコツがつかめてくる。動きが単調でほとんど個体差が無いからこそ次にとる行動などは把握しやすい。


「ほんとは私も戦えればいいのですが……」


「今はしょうがないだろう。最初は誰だって見てるとこから始めるもんだろうが。」


「シドさんもそうだったのですか?」


「俺は、始めから強かったからな。特別だ。」


「シドさんは凄いのです!」


「はっはっは!!」


「……明日までには、精霊さんと契約できたらいいのですが。」


「……俺もやれる限りはやる。だからそんなにあせんなよ。」


「……えへへ。そうですね。シドさんが頑張ってくれているのはよく分かっているのです!きっとその内たくさんお礼するのです。」


「おう、楽しみにしてるからな。」


その後少し談笑した後ソーラは自分の部屋へと帰って行った。


……俺はと言うとしばらく軽く睡眠を取った。


……


……きっかり一時間。


……ぐふふ……


さてと、お待ちかねの楽しい時間の始まりだぜ……


寝起きの良さはこういう時の為にある。


せっかく男と女が冒険してるんだぜ?何にもないってのはインパクトが無いじゃねえか!チャンスは自分の手で掴みとるもんだろうが!


「時間的には、多分風呂に入って出てきたぐらいだろう。」


今日は一日中歩いてくたびれただろうしな、労をねぎらってやるのも必要な事だ。……ぐふふ。


「おーい。」


俺はソーラの部屋のドアをノックした。……俺の見立てではパジャマ姿で出てくるはずだ。……そのまま適当な理由をつけて部屋へとなだれ込んでそしてそして……はっはっは!!


「……あ、シドさん……なんですか?」


「……」


頭の中で考えていた適当な理由はソーラの顔を見たら吹き飛んでしまった。……彼女が、泣いていたからだ。


「……なんかあったのか?」


「いえ!!……だいじょぶなのです!……立派な精霊術師になれるかどうか、不安になっちゃったのです。」


「どうした急に。」


「……うー……私は単純で頭が悪いからあんまり気にしないようにしていたのですが……時々、時々思い出しちゃうのです。……周りのみんなが、私なんかが立派な精霊術師になんてなれるはずないって……」


「……」


「こんな私じゃリアンに、合わせる顔が無いのです……能天気で真っ直ぐなところだけが私の取柄なのに。」


「……」


「えへへ……ごめんなさい。こんな泣き言ばっかり言ってちゃダメなのです!一日も早く、頑張って立派な姿をリアンにも、シドさんにも見せてあげるのです!」


……能天気そうな見た目なのに、その心はいつも苦しんで、時には泣いている。そんな少女なのだと思った。


「そういえば、何か御用なのですか?」


純粋な笑顔でそう聞き返されるが、俺は何でもなかったと一言言葉を返して部屋を後にした。


……


……


……


「ちっ……」


ああいう顔は苦手だ。


俺は準備をして宿を出た。


……


「そうだよな。こうすりゃあもっと早く終わる。」


考えてみればソーラが一緒に居なくちゃいけないなんて言われていない。俺が一人で戦い続ければいいのだ。


俺は肩を慣らし首を回す。……おっし、第二ラウンドと行くか。こうなるとさっきの時間一時間寝たのが功を奏する。それだけ寝ればほとんど全回復に近い。


「さて、やるか。」


夜になると魔物は好戦的になりやすい。放っておいても向こうからやってくる。……ただ今回の獲物に関しては夜でも一緒だ。基本的には逃げる。


手当たり次第俺は単騎で魔物達と戦い続けた。


……


「ふんっ!」


「ぎゅう!!」


これで何体目だ?……もうちょっとしたら数えるか。体感ではこれで合計50匹分ぐらいって感じはするんだが……今何時だ?……2時か……


戦い続けて4時間近くが経とうとしていた。……まだ行けるな。


俺は久しぶりに戦いの雰囲気というものにどっぷりつかる感覚を思い出していた。……人間同士との戦いでは感じる事の出来ないこの食うか食われるかの空気……


一人で戦っていた時は四六時中この空気に晒されていた。……あの頃の自分が一番強かったと信じて疑わない。


……けど、それでも今の方が、好きなのも、否定はしない。


今俺がやるべきなのは、今の状態を維持しながら、当時の俺の強さを手に入れる事だ。


そうする事で、大切な物を守ることが出来るに違いない。


……疲れを知らない俺は夜通し戦い続けた。


……結局宿に戻ったのは明け方6時頃になってしまった。……軽くシャワーを浴びた後俺は眠りに落ちる。……きっとソーラが起こしに来るだろうその時まで暫しの睡眠を……

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