遭遇
「さーて……どうすっかなぁ。」
どこまでも広がる青空を眺めながら俺は上空目がけて言葉を吐き出す。……一応当てはあると言うかなんというか、ラズリードへととりあえず向かっているのだった。
街を出て速効思ったのだが、新しい力って何だ?
うーん……俺はもう十分強いし、何が足らないんだ。
……別に贔屓目無しに俺は強い。マジで強い。……じゃあ何が必要なのか。
……一つの会話が頭をよぎる。
……
「リンカスターの剣は良い剣だったな。」
「……聖剣……なんでしたっけ。とにかくカッコいい剣でしたね。」
「ま、名前がちょっとアレなのとキラキラしすぎてるのがちょっと俺には合わんかったが、俺もあれぐらいの剣を一本ぐらい欲しいもんだ。」
……
天啓だった。
そう!武器だ!!俺はもうこれ以上はそんなには強くならんのだから飛躍的に強くなると言ったら武器!最強の剣があればいいのだ!
あのクソ巨人だって切り裂ける剣があればあんなに苦戦しなかったのだ!
と、いうわけで最強の剣探し、プラス可愛い女の子探しの始まりなのだった。
そう、可愛い女の子探しは嘘じゃない。剣探しにも力を注ぐがやっぱり女の子あっての俺だと思うのだ。てかそれが生きがいじゃなかろうか。やりたい事は全部やる。それが俺の生き方だ。
……ぐふふ。可愛い女の子と出逢ってその流れで剣が手に入れば一石二鳥の大儲けだ。
「おおし!俄然やる気が出てきたぞ。とりあえずリンカスターの所にでも行って見るとしよう。」
あの剣は中々いい剣だった。ただあれを貰うってのは流石に無理だろう。それにやっぱり名前がちょっとだった。よく覚えてないが。最強の剣は名前も最強でなければならない。
けど確かあの剣は国からリンカスターに送られたとか言ってたはずだし、他に良い剣があるのかもしれん。貰えるかどうかは別にしても行って見るのが吉と見た。
そんな想いに馳せながらすたこらさっさと俺はラズリードへと到着した。
相変わらず賑やかな街だった。さーて可愛い子は、と……うーむそう簡単には居ないか。前回来た時もそんなにレベル高い子は居なかったしな……
「突然王様が変わってどうなるものかと思ったが、フィータ王女にお任せすればこの国も心配ないな。」
「うむ。あの若さにしてあの手腕……先代の王に勝るとも劣らぬ物だな。」
「わたし大きくなったら綺麗で優しい王女様みたいな人になるのー!!」
……
そういや、そんなの新聞で見た気もするな。ま、男の顔を見るより断然そっちの方がいいに決まってる。
「……とりあえず適当に腹ごなしでもするか。」
屋台めぐりをして腹を満たした俺の視線に……あれ?誰だっけか。見たことあるような気がするのだが……とにかくあいつの姿が目に入った。
「これは何とも美味しそうです!動物達に食べさせてあげたらきっと喜びそうですね!!……ああでも流石にそんなにたくさん買っていくわけにもいきませんし……かと言って食べられない子が出てしまうのもいけませんし……悩ましい物ですね……」
……屋台の前で食い物を目の前にして悩んでいるようだった。……誰だっけなこいつ。
「……?あれ!……ええと……あれ?どちらさまでしたっけ?」
こっちの視線に気付くと向こうもどうやら俺の事が思い当たるようだが、思い出せないようだ。……お互い様なのだがなんかムカつく。
「人の顔を忘れるとは失礼な奴だ。」
「た、確かに……!!失礼ですね。……普段出番が少ないけれどだからと言って他の人の事を思い出せないのはいけない事です。」
……あ、分かった。巨人と戦った時動物達を引き連れてたヤツだ。……それでも名前は思い出せないが。
「ああもういいもういい。それよりこんなとこで何してんだ?」
「え?私は午前中の仕事を終えて今お昼ご飯なんです!そうしたら動物達が好きそうな食べ物が目に入ってしまったので買っていくかどうか……むむむ、どう思いますか?」
「知らんわ。買ってけばいいんじゃないのか?」
「……でもたくさん居るんですよ……普段目立たないけれどいざというときの為にたくさん居るんですよ……みんなに買って行ったら流石に私のお金が悲鳴を……ヨヨヨ……」
泣き真似をしている。……ねだってるつもりじゃないだろうな……
「経費とかそんなんで落ちないのか?」
「……あー、なるほど。悪知恵ですね。そのやり方はちょっと義に反します。ただでさえ活躍の場が少ないのであまり他の方々の負担になるようなことは極力避けるのが私のモットーですから!」
「じゃあ諦めるしかないだろう。」
「……うう、不甲斐無い私を許して動物達……」
ま、いいや。丁度いいところに出てきた。
「リンカスターは元気か?」
「リンカスターさんですか?そうですね、もうだいぶ元通りみたいですよ。こないだも普通にグラムさんと手合いしてましたし。やっぱり二人ともカッコいいんですよね。憧れてしまいますよ。」
戦えるぐらいにもう大丈夫らしい。まあ何よりだった。
「巨人にだって勇敢に立ち向かって……」
……
「ん?」
「……ああああ!!今思い出しました!シドさんですよねシドさん!久しぶりじゃないですね!!って……シドさんで合ってますよね?」
「おう、そうだ。」
思い出したらしい。
「ふう……思い出せて何よりです!あの時はほとんどお話しできなかったからなかなか出てきませんでした。」
ほとんどどころか多分一言も会話してない。なのに異様に慣れ慣れしいのは多分性格なんだろう。まあ人当たりがいいと言えばそうとも言えるか。
「そういえばそもそもちゃんと自己紹介してないですよね!私はホーミンです。一応第六軍の隊長を務めさせてもらっている身です。出来たらよく覚えておいてくれたらうれしいです。何せ普段はあまり目立たないので。」
……そんな名前だったらしい。
「今日はどうしたんですか?ラズリードに何か御用でも?」
「ああ、リンカスターに会いに来た。」
「それだったら今は城で訓練中だと思いますよ。会うなら訓練が終わってからの方がいいですよ。訓練は夕方頃に終わりますから。」
「そうか。分かった。」
「では私もそろそろ戻らなければいけませんので、これにて失礼します!ではこれからも第六軍の事を御ひいきに!……なんて。」
アホな事を言うと走って行ってしまった。……あいつは可愛いよりも先にちんちくりんな面が目立ってなんだかそんな気持ちにならん。
「……あいつ歳いくつなんだろうな。」
……
さて、夕方までとりあえずは時間つぶしか。とりあえず武器屋でも見てみるか?……まあ店に置いてある奴なんてたかが知れてるだろうが……
「いらっしゃい。」
「おう。」
とりあえずザーッと眺めてみる。
……
このラズリードって国は数ある国の中でも特に栄えている国だ。食糧なんかも豊富だし、戦力だって高い。こんな武器屋に売ってる物だってかなりいい物が並んでいる。
「リンカスターが持ってるような剣は無いか?」
「あん?リンカスター様が持ってる剣って……あの聖剣か?……あんな凄い物そうおいそれとあるわけないだろう。」
……ち。まあそうだろうな。
「ああいう剣ってのは普通の手段で手に入るようなもんじゃないさ。手に入ったとしてもとんでもない値段になるだろうしな……」
「ごもっともだな。」
冷やかして店を出る。
……一般的に剣を手に入れるとしたらまあ買うのが普通なんだが、そんな凄い剣は当然売ってない。売りに出るとしたら法外な値段になっちまう。
後は……洞窟とかで手に入れるか、誰かに作ってもらうか……そんなとこか。
とりあえず宿屋に行くか。
……
着くやいなや俺はベッドでぐだーっと横になるのだった。
「……」
ちょっと気分的には落ち着いてきていつもの感じになってきたせいか、俺はいつの間にか睡魔に襲われる。
「どうせ夕方にならないと会えないんだし、ちょっとだけ寝るか。」
……思えば昨日の夜に気を失って以来寝ていなかったのだ。そんな体でちょっとだけ寝るなんて器用な事出来るはずも無かったのだが、それを考える頭もすでに休止状態に入ってしまっていた……
……
瞼が上がる。……どのくらい寝ていたのか分からないが体の重さからちょっと程度の睡眠でなかったのはなんとなく分かった。……時計を見る。
……
「……げっ!!」
もう10時……流石に今から尋ねるのはちょっと躊躇われる。……いや、逆にアリか?ぐふふ……
「……いや、流石にちょっとヤバいだろう。」
つーかどこに居るのか分かんねえ。……変な誤解されるのもそれはそれでよくない。
「……しゃあねえ、明日にするか……」
とりあえず起きてしまったので再び街にくり出す事にした。
……
昼間ほどではないにしろ夜は夜で賑やかなものだった。こういう大きな街は昼夜問わず飽きないものだ。そんな街並みをただ眺めて歩くだけでも悪くないものだった。
……ただ隣にいつもいる奴が居ないのはやはり違和感があるが。
「……ちっ。」
何かをするときには、なるだけ二人とか複数人の方がいい。ゲームなんかまさにそうで、一人でやるゲームなんて何も面白くない。
適当に誰かを横に侍らせて歩くのも悪くは……おや?
……見間違いじゃないだろうか……あれはどうみても……
「あら?まあ、シド様……ですか?」
隠せぬその美しさは、まごうことなくこの国の王女、フィータだった。
「王女が何でこんな街の中を……」
「自分の国の街を歩くのはおかしいでしょうか?」
優雅に微笑みながらそう言って言葉を返してくる。……おかしくないのだろうか?
「王女なんだから普通はあんまり出歩かないんじゃないのか?」
「そんなことありません。出歩かなくてはこの街の様子なんて分かりませんから。人の上に立つものが人々の暮らしも分からずして何が出来ましょうか。」
「危ない奴らに襲われたりとかあるんじゃないのか?」
「ふふ、私はこの街の人達を信じていますから。」
……そういうもんかね。ま、いっか。思わぬところで目の保養になった。
「……いや、てか出歩くにしてもちょっと遅すぎないか?もう10時回ってるぞ。」
人によっては深夜と言ってもいい時間なのに王女が出歩くなんてちょっとおかしい。
「……ああ……それはその……」
「王女様!!」
「……あーあ……」
「やっと見つけました!さあ、お城へお戻りを……」
兵士達が息を切らせて現れる。……何やら厄介ごとの気配だった。
「……シド様?一緒に、逃げてくださいませんか?」
その甘美な響きの裏には明らかに何かが顔を潜ませていることは明白だった。
……
「よし!逃げるぞ!はっはっは!」
だがそんな事は関係ないし、何より逃げた方が面白そうだ。それに何があっても王女のお墨付きだから怖いものなどない。俺たち二人は人ごみの中をぬって走り去る。
「お、王女様ー!!」
兵士達を置き去りに俺達は闇の中へと消えていく。
……
「どうやら撒いたようだな。」
「ふふ、何も聞かずに逃げてくださるなんて。良かったのですか?もしかしたらとんでもない事をしてしまっているのかもしれませんよ?この国の王女をさらってしまって。」
「さらっても何も自分の足で走ってたろうが。……てーか、もしかして結構おてんばなんじゃないのか?……結構走ったのに息も切らせてないし、割と日常的に抜け出したりとかしてないか?」
……
「(ニコッ)」
にんまりと笑みを浮かべる。……という事はそういう事だ。どうやら普段の貞淑なそぶりは演技らしい。
「だって、夜の街ってあんまり見せてもらえないんだもん。」
もんときた。……結構猫かぶってたな。
「夜の街が見たいから抜け出してきたのか?」
「そうなの。」
「……」
「……」
「そうか。」
それ以上言えん。ま、人は見かけによらんって事だな。
「ねえねえシド様?一緒に夜の街を歩きましょう?」
……同じ様付けでもこっちの様付けはまた何か違う危険な香りが漂う。
……
「よし、行くぞ!」
だがこっちとしては願ったり叶ったり!とりあえず見た目だけならばほぼ最強のこの王女を実質手に入れたようなものだ。後は……ぐふふ。
頭の中をピンク色に染めながら俺達は再び賑やかしい明りの中へと舞い戻るのだった。
そう、夜は、まだまだ長いのだ!!はっはっは!!
こうなってくると長く寝過ぎた事すら良かったのだと思えてくる。やっぱりしたいようにするといい結果が付いてくるものだ。改めて自分の理論の正しさを証明する事になったのだった。




