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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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ようやっとエイスの町の案内所へと到着する。日の出まで後30分と言ったところだろうか。シドはガラッと店のドアを開け放つ。早ければそこに彼女達の出迎えがあるかもしれないなどと思いながら。


「……」


出迎えは、無かった。だが、人の気配はある。……ドアの音を聞きつけてか、二階から人が下りてくる。ラミの姿だった。その表情には疲れの色が見えていたが、シドの姿を確認するとすぐに駆け寄る。


「帰って、来たの?」


「ああ。」


「……」


短すぎる会話に少し重い空気。……空気なんてシドにはどうでも良かった。空気にそぐわない会話をしてはならないなんてシドは思わない。二人は無事だから。


「カイガの街から来たって人が二人を運んできてくれたわ。」


「そうか。」


「……」


……何故、次の言葉が続かないのか。とりあえず意識は戻って今は寝てるとかそんな言葉を続ければいいだろうに。……何だと言うのか。


「二人は上か。」


こっちから聞くのは躊躇われたが、シドは尋ねる。……空気におされて求めていない答えなどされたくない。ああ、大丈夫よ。なんて言葉が貰えればそれでいい。だが、ラミの表情は重い。次の言葉を放つまでには長い間があった。


「……エナがずっと見てくれてるけど、二人共……」


「ああ、もういい。分かった。」


……遮らずにはいられなかった。……聞きたくない言葉そのものだったからだ。自分の目で確かめるためにシドは二階へと上がっていく。


……


「……」


シノとリーナはベッドに横たわっていた。その傍らではエナが何やらやっていた。何度か見たことがある治療の何かだ。……ていうか、シノ達がここに来たのはもっと早い時間のはず。なのにまだ治療中ってのは、おかしいだろうが……


「……ああ、ああ。シドさん……ですか。」


二人の傍に近寄るとエナが気付きこっちを見上げる。……ラミも大概だったがエナはもっと疲れているようだった。……衰弱に近いかもしれない。どれだけ長時間に渡って治療をしていたというのか……


「二人は無事か。」


「……言い方が難しいですね……生きているという意味では無事ですが、意識が無いという意味では無事ではないです……全力でやっているんですが、もうちょっともうちょっとですね……」


……エナは自分が知る限りでは一番腕のいい治療士だ。そのエナが全力でやっているというのに未だ意識が無いと言うのは、とにかく芳しくない状況だという事……


「……そっか。」


……もっとしっかりやれとか、悪態をつきながら催促しようかとも思ったが、ここまでやってる人間にそんな事言うのは酷な話だ。……言わなくたって全力でやっている。それがプロってものなのだから。


「と言いますか……シドさんはシドさんで結構酷い体じゃないですか。……シドさんがここまでになるなんて、一体何と戦ったらこんな事になるんですか?……ううむ、ううむ……」


エナは見ただけで相手の体の状態も大体わかる。普段の俺を見ているからいつもと違う体の運び方をしていたりすれば体の異常などもすぐに察知できると言う事だった。……別に酷くなんかないがな。


「……相当無理してるじゃないですか。」


「してねえから大丈夫だ。……いいから二人を診てやっててくれ。」


自分がいると変に気にさせてしまう。俺の治療まで始めるとか言い出しかねん。二人の治療に専念してもらわないと困る。


不承不承ながらエナは納得して二人の治療へと手を戻す。


……ここに居てもしょうがない。下に戻るか……


……


「……」


ラミは椅子に座っていた。……流石に疲れたのか、目はうつらうつらとしながら舟をこいでいる。


「……あ、下りてきた。」


「……お前、ずっと起きてたのか。」


「二人が心配だもの。……いったい、何があったの?」


「……ま、ちょっとな。」


「……二人共、ボロボロだった。」


……間近で良く見ていたから分かっている。……思い出すだけで嫌な光景でしかなかった。


「……」


ラミは二人が心配だからずっと起きていたという事だったが、それだけではないような気持ちがあるように見えた。暗い顔には違いないのだが、心配する暗さとは微妙に違うような感じがする。


「……私の、せい……?」


「あ?」


……そうか、この表情は、悔やんでる表情だ。自分がやった事に対して後悔がある時の顔なのだ。


「依頼先で、何かとんでもない事があったんじゃない……?……もしそうだったら私が紹介した依頼のせいで二人がそんな目にあったって事でしょ……」


ラミからすれば、そんな風に思うわけだ。だがラミは初めてだからという事でなるだけやりやすい物を選択してくれたと言っていた。ラミは自分の仕事をしっかりこなした。実際依頼内容については別に間違いなんてなかった。


「アホ。違う。……別にお前のせいじゃない。んな事気にすんな。」


……酷な話だが、依頼を受けるとは、そういう事なのだ。その依頼先で何があるかまで全てラミに責任を負わせるというのは流石にラミに悪すぎる。依頼は無理だと思えば途中でやめることだって出来る。それに実際問題ラミを通して受けた依頼に関しては完遂した。二人が傷を負うはめになったのに関してラミは関係ない。結局はあの盗賊共が悪い。あいつらさえ現れなければ良かったのだ。


「……お前ずっと起きてるから疲れてんだ。あんま思い悩むな。二人共お前のせいだなんて微塵も思うもんか。」


「……ごめん。」


……気遣ってくれて、ごめん。か?……ラミらしくなくしおらしくなってしまっている。


「……あんたは、大丈夫なの?……その、傷……」


「俺は無敵だからな。」


……誰もかれもそういうがこうして歩いて喋っていられるのだ。二人の傷に比べたら何てことは無いものだ。……二人が起きてきた時に俺が痛みに伏していたらカッコ悪いだろうし。


「……うん。」


……いつもならもっと適当にあしらう所だろうに。まったく……


「……もう寝ろ。」


「……エナが寝ないで頑張ってるのに私が寝るわけには……」


「気持ちはそうだろうがもう体が限界だろうが。……お前はお前でお前のやらなくちゃいけない事があるだろうが。いいから奥で寝ろ。」


日中になれば依頼所の仕事を行うのはラミだ。……俺は不本意ながらも睡眠をとったおかげで大して眠くない。


「……分かった。……何かあったらすぐに起こして。……エナの事、よろしくね。」


そう言って重い足取りで奥の部屋へとラミは入って行く。


俺は、ずっと椅子に腰かけながら、ただ待っていた。


……


「……」


いつの間にか帰ってきてからもう三時間も経っている。……それでもまだエナは下りて来ない。時たま様子を見に行ったりするのだが、ずっと治療を続けていた。下手したらもう半日以上になるのではないだろうか。俺が知る限りでは最長記録だ。


十分、そしてまた十分、時を重ねていき、エナがとうとう下りてきた。


「……」


「……終わったのか?」


「……え?……ああ、ああ、シドさん。……ええ、ええ、終わりました。」


「……二人は、どうだ。」


ご苦労様とねぎらいの言葉をかけてやらなければならないところなのだろうが、まず先に二人の事を尋ねねばならなかった。


「……シドさんは、命の灯という言葉を知ってますか?」


「……知らん。」


「平たく言えば、魂ですかね。私達の肉体にその命の灯が結びついて私達は意識を持って行動することが出来るんですねですね。それが離れてしまえばそれはもう命ではないのです。……今、二人の体にはその命の灯が宿っていない状態です。」


……それが離れてしまえば、もう命ではないって言ってるものが、ない?


「……じゃあ、なんだ?二人は、死んでるって言うのか?」


「……言い方が難しいですが、まだ、生きてはいるのです。私は知っての通り治療士です。治療士は外傷や内傷を治療するのが専らですけれど、私の力だとそれに加えて命の灯を戻したりする事も部分的に可能なのです。どのぐらいまでと言われると、その人の具合の程度によるのですね。たいていの場合はその命の灯を戻す事が出来るのですが……二人の命の灯を体に戻す事は出来ませんでした。……あまりにも二人とも重傷だったのです。」


「……どうすればいい。」


「二人を、待つしかありません……命の灯を、戻す事は出来ませんでしたが、そこに留める事は出来ました……後は二人が、その心を自らの体に宿す事が出来ればきっと二人は元の状態に戻ると思います。……ただ、命の灯がその身を離れるまで……三か月、ぐらいでしょう。……それを過ぎても駄目ならば、命の灯はその場所を離れて、消滅してしまうでしょう。そうなれば二人は二度と……」


「……自分で心を体に宿すってのはどういう事なんだ。」


「今二人の意識はその命の灯と共にあります。まあ、心というのは言ってしまえばその命の灯と同じなんです。そしてその意識は今眠りについている状態です。だからその心が目を覚まし、再び生きたいと言う強い気持ちにその体が応えれば再び体と一体になるのです。ちょっと分かり辛いかも知れませんが……」


「いつ、意識が目を覚ますんだ。」


「……分かりません。ただ、目を覚ましさえすれば、きっと元には。生きたいという気持ちがあっても体がそもそもなかったり、命の灯に耐え切れるだけの回復した体が無いと結局意識を取り戻すことは出来ないのですが、そこは私がどうにかどうにかしました。外傷に関しては太鼓判です。……逆に、これがもう私の全力なので、これ以上私から出来る事がないのです……流石にここまでやっても完全復活させられないのは初めてですね。……自分の力の無さを感じますよ。」


「……すまんな。助かった。お前が居なかったら、もう二人共ヤバかったかもしれん。」


「おお。おお……」


「ん?」


「シドさんからお礼を言われるなんて……数百年に一度あるかないかぐらいの天変地異事件ですね……」


「……アホか。」


「……シドさんからすれば、納得いかないかもしれませんが……二人を信じて、待ちましょう。……ふぁぁ……流石に……堪えましたね……16時間は過去最高ですよ……」


……それだけの時間一人で治療し続けてくれたのだ。もう、充分すぎるほどやってくれた。何の文句も言えるはずもない。


「上、上がっても大丈夫か。」


「ええ、ええ。大丈夫です。私も……上に寝に行きます。」


二人で二階へと上がる。二人共、安らかそうな顔をして横になっていた。……死んでいるみたいに、なんて言ったら縁起が悪すぎる。ただ眠っているだけだ。ちょっと長く。


「……ではでは……すいませんがシドさん……」


「ああ。」


そう言うとエナは空いているベッドに一気に倒れこみそのまま睡眠へと落ちる。


「……」


二人を眺める。……リーナは相変わらずの可愛さだった。シノも、まあ……いつも通りだった。


……命の灯か。


生きたいという気持ちさえあれば、二人は再び目を覚ます。


……二人共、生きたいに決まってる。死にたい奴なんて、居るわけがない。少なくとも俺が同じ状況になったら速攻で目を覚ますわけだ。


リーナには家族が居る。あいつらに悲しい想いをさせたくない気持ちがあればきっとすぐに目を覚ますに決まってる。


シノだって。……シノだって。


……俺はふと、シノと出逢った日の事を思い出す。


……


「死ぬつもりだったので、あなたと、一緒には、行けません。」


……


そんな事を言っていた。……これまでのシノの行動を思い返すと、あれは、心底本当だったのかもしれない。だからこそ命を捨てるかもしれないような行動を取ったりしたのだとすればつじつまは合う。


そうしたいというシノの想いと、死にたいと言う想いが絡み合って危ない行動だって惜しげも無く出来てしまっていたのかもしれない。


……じゃあ、なんだ。もしシノが生きたいという気持ちをもし持っていなければ、結局は目を覚まさないって事だ。


……


……


関係、無い。関係無いのだ。


過去のシノの言葉を俺は否定した。


お前はもう俺のものなんだから、勝手に死ぬのも許さん。


そうだろうが。


シノがどう思っていようが、関係なんてない。俺がそう言ったんだ。だからシノは必ず戻ってくる。


それを疑わない。


「……」


何を喋るわけでもないが俺は二人の姿を見つめながらただ時は進んでいく。


時が刻むのはタイムリミット。……いや、違う。二人が目覚めるまでの時間だ。


二人が目覚めるまでに、俺は俺のやらなければならない事をしよう。そして二人を出迎えてやるのだ。


それまで新しいゲームは、お預けだな。

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