やられっぱなしは性に合わない
「……二人はどうだ。」
「……分かりません。お二人共お体に酷い傷を……内側も外側もボロボロです。……今こちらで出来るのは最低限の処置と言ったところでして……申し訳ありません。」
とりあえず二人は寝かされて治療を受けているが……素人目に見ても危険な状態なのはよく分かる。
「……移動用の乗り物は無いのか?」
「乗り物、ですか?輸送用の為のクリーフを使えば。」
「……エイスの町へ行ってくれ。そこに居るエナって奴の所に行って二人を診せろ。」
エナなら二人をどうにか出来るだろう。見た目に反してあいつの腕はとんでもない。……ここに居ても事態は好転しないだろう。なら時間がかかってもそうするべきだ。
「わ、分かりました。すぐ用意します。」
クリーフを使えばエイスまで一時間かからないだろう。……それを早いとみるか遅いとみるか……
「あの、もちろん貴方も一緒に行かれるんですよね?」
「何も無ければ、行くつもりだ。」
「……どういう事ですか?」
「盗賊共は、どうなったんだ。」
「それは……」
口ごもる。聞かなくても分かるな。
「逃げられたか。」
「……その通りです。情けない話ですが……ですが、あいつらのアジトの場所が分かりました。」
「……南の方の森の中か?」
「……!なぜ分かったのですか?」
「……適当だ。」
カイガの町から西に向かったって事は多分アジトだってそっちの方向に違いない。かといってそこからさらに北に向かったら関所の方角だ。わざわざ人の出入りの多い場所にはアジトなんか作らんだろう。そうなったらカイガの西、つまりはこのガハク周辺なわけだ。もう一つ、あいつらが連れ去ったという女性達の姿も見えなかった。つーことはカイガからガハクに移動する間にアジトに戻ってそこに女達を置いているのだろう。……地形的に考えるなら、カイガとガハクの間から南に広がる場所、人目につきにくいと言う点を加味するならばやはり南の森の中ってのが一般的だ。……あいつらがまともな頭をしてればだがな。
もっとも大体の方角ぐらいならこいつらだって分かっていたに違いない。ただあの広い森をむやみやたらに探すなんて出来なかっただけで。とにかく場所が分かったならやる事は一つ。
「……あいつらをぶっ殺しに行くぞ。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!あなただって大怪我してるじゃないですか!!その体であいつらと戦いに行くなんて無茶ですよ!!」
「余計なお世話だ。いいからあいつらのアジトの近くまで連れて行け。」
「……失礼ですが、あなたをこれ以上私達の戦いに巻き込むわけにはいきません。」
話に割って入ってきたのは、たしか隊長とかいう奴だ。
「てめえらこそ俺の戦いの邪魔するんじゃねえ。」
「……あなたは私達の恩人とも言える方です。街を一緒に守って頂いた事、感謝に耐えません。……だからこそ、これ以上無理をさせるわけにはいかないのです。……これ以上私達に不義理な真似をさせないでいただけませんか。」
「……いつあいつらを潰しに行くんだ。」
「……日を改めて、ですがなるだけ迅速に……」
「アホか。……今が、その時だろうが。気を見るに敏だ。大体向こうだってばかじゃないだろうが、もたもたしてたらせっかく突き止めたアジトを引き払っちまうかもしれない。」
「……ですが、こちらの兵も多くが負傷してしまっております。」
「向こうだってそれは同じだ。いや、向こうはこっち以上に疲弊してる。……下手したら時間が経ったらまた数を増やして襲ってくるぞ。……今戦わなくてどうするんだ。」
「……」
そんな事は百も承知だった。……だが、それは賭けなのだ。逃げて行った盗賊達は十人程度、だがアジトに他の盗賊が居ないなどと誰が言えるだろうか。その数がいったいどれほどなのか……
「俺は行く。だから場所だけ教えろ。」
「……無謀です。」
「……」
「……どうして、見ず知らずの我々の助けになってくれたのですか?あの盗賊達と何か因縁でも?」
「んなもん、ねえよ。ただあいつらは、とにかく気に食わねえ。」
「……もう一つ、いいでしょうか。あの魔物は、一体?私達の手助けをしてくれたように見えましたが、皆さんの様子を見れば、その後あの魔物と激闘を繰り広げたようにしか思えません。何があったのですか?……あの魔物と対峙していた皆さんを見たのが私達にとっては最後です。そして我々が再び駆けつけた時には魔物は影も形も無くなっていました。代わりに皆さんはボロボロに。そして盗賊達に人質に取られていた女性の姿は見えなくなっていた。」
……知ったところでどうだと言うのか、説明したからと言ってなんだっていうのか。……いまはただただムシャクシャする……
「……話す事は、ねえよ。」
「……分かりました。変な事をお聞きしました。」
……とりあえずは納得したようだ。……釈然とはしないだろうがな。さて……もういいか。……こっちも怒りが限界だった。
「……剣を一本よこせ。適当なのでいい。」
「……本気で、行かれるおつもりですか?」
「そう言ってるだろうが。」
「……場所も分からずですか?」
「どうせ大地は繋がってる。手当たり次第にでも探してやる。」
……出会って間もないが、シドが言っていることが何の冗談でもなく、本気であると隊長は察する。
……自分にとっては大切な部下。その命を分の悪い賭けに賭けるわけにもいかない。
……だが、それ以上に、恩人が危険な事をしようとしているのを黙って見過ごす事も出来ない。……いや、してはならない。
「……皆、いいだろうか。聞いてほしい。」
隊長は意を決して兵士達へと自らの意志を告げる。
「……私はこれより、盗賊の残党退治へと向かおうと思う。」
「!?……隊長!?」
「蹂躙されたこの街の痛みを怒りと言う武器に変えて奴らにお返ししてやらんと腹の虫がおさまらん。」
「はっ。初めからそう言えばいいだろうが。」
「……案内役は、私が務めましょう。構いませんか?」
「好きにしろ。てめえが死んでも自分のせいだからな。自分の身は自分で守れよ。」
「……そういうわけだ。後の事は、副隊長に任せる。……頼むぞ。」
……隊長として、真っ先に部下を危険な目にあわせる様な事はやはり出来ない。隊長として、大切な部下の矢面に立ちたいと言うのは隊長の矜持であった。
「お言葉ですが。副隊長としてその任を受けることは出来かねます。」
だが、その覚悟にストップをかけたのは他でもない副隊長だ。
「なぜだ。」
「私とて、副隊長である前に兵士であり、この街を愛する者の一人であります。なれば、この身も共に連れて行ってもらわなければ困ります。この滾る想いを胸にただ隊長の帰りを待つなどという事が出来ましょうか。この街を汚した奴らに我らの怒りを知らしめてやらなければならないと思う次第です。」
人は、己の怒りの為に、戦う力を取り戻す。それを善だの悪だの論じる事は無意味だ。それが、人であるのだから。
己の心に背くならばそれは本来の人間足り得ない。
……二人の意志が他の兵士達にも伝播する。気力、活力、戦う力を呼び起こさせる。
「……自分達も行かせてください。隊長。」
「お前達……」
……
「いつまでくっせえ展開繰り広げてんだ。行く奴は全員行けばいいだろうが。全員であいつらをぶっ殺す。」
「……結局は、その通りになってしまったな。……皆の命、私に預けてもらえるだろうか。あの盗賊共を叩き潰す為に。」
おおおおおおおおおっっっ!!!!!!!
その檄に、皆、咆哮で応える。
・・・・・・・・・
「エイスの町の、エナという女性を尋ねれば良いのですね?」
「そうだ。大至急だぞ。」
クリーフの準備が整い、シノとリーナを連れて運ばせる。……二人共ほとんど動かない。容体は悪くなっているように見えた。
「分かりました。それではお気をつけて。」
兵士はそう言うとクリーフと共にエイスの町の方向へと走り出した。
「……お二人共、無事だと良いのだが。」
「無事に決まってんだろが。いいからさっさと行くぞ。」
「……こちらの剣を。」
「……ふーん。」
俺は剣を受け取る。
……適当って言った割には……
「……」
ちょっと振ってみるが悪くない。
「その剣は、私が予備として所有している剣です。急なものなので使い心地は容赦ください。」
「……悪くねえよ。ま、どんな剣でも俺が使えば最強だからな。」
……あのドラゴンに歯が立たなかったというのに、何を言ってるのか。……くそ。
街の守りの兵士を少々残してシド達は盗賊のアジトへと向かう。
・・・・・・・・・
こちらは盗賊のアジトだが、彼らは彼らでやはり大打撃を受けていた。
アジトに十人程度の人数を残し他は全員街を襲いに出かけた。……そして戻ってきたのは何と十人。
「お前ら何やってんだよ?他の奴らは何やってんだ!?」
「……うるせえよ。ここに居ない奴らは全員魔物にやられちまった。」
「……嘘だろ?」
「こんなくっそつまんねえジョーク言うかよ馬鹿。……ちっくしょう。途中まではうまく言ってたのによぉ……」
彼等は口々にあの理不尽な魔物の襲撃について怒りをぶちまける。……仲間達が次々殺されていく、思い出したくもないあの惨状もだ。
「……で、どうすんだよ。俺達。」
「……どうするったってなぁ。……とりあえずとっつかまえて来た女達とでも遊ぶとするか。……むしゃくしゃするしな。……あー腹立つぜ……くっそがよっ!!」
アジトの奥に設けられた牢には連れてこられた女性達が入れられていた。これまでの彼らの活動の戦利品と言うべきものだった。……既に暴行を受けた者達もいた。だが彼らにとって彼女達は道具でしかない。人としての扱いなど気にする必要はない。自分達の欲望を満たすためのはけ口以上ではない。
「しゃあねえなぁ……また一から人を集めていくしかねえよなぁ……ったくどこの魔物だか知らねえがいい迷惑だぜ!!」
「このアジトだってそろそろ引き上げ時かも知れねえしな。流石にあいつ等だってバカじゃねえだろう。そろそろこの場所に気付くかもしれねえ。」
「そしたらここにやってくるんじゃねえのか?」
「あいつらにそんな根性ねえって。街中で戦った時だって大したことない奴らだったぜ。……痛めつけてやったと言えば、あの男、傑作だったぜ。何度ぶん殴っても起き上がってきやがって、もう一度会ったらしっかり体に痛みを教え込んでやらねえとな!!だっはっは!!」
盗賊達はのんきに笑いながらカイガの街での出来事を振り返っている。
……だが根性無しと笑った彼らにによって報復の時はもたらされる。その時は決して遠い未来ではない。
・・・・・・・・・
歩きながら俺は考える。
俺に足りない物を。
……カッコよさ、抜群だ。はっはっは!!
……強さ。申し分ない。俺は最強だから。
……
……
なら、なんであんなことになるんだ。
自分自身の強さと守るための強さは、違うものだからだ。
いくら自分が強くても他人を守るための強さ足り得ない。
リーナが聞いてきた質問じゃないが、どちらかしか助けられないとするならばどっちを助けるか。……単純にその質問に対する答えはともかくとして、俺はそもそも根本的にこの質問の状況になった時点でダメだと思っている。
誰の手によってそうなってるのか知らないが、そんな状況になった時点でもう背水の陣だ。……もう後が無い。そんな状況は絶対に作らない。
最悪の事態から一歩手前の手を考える。そして、さらにその一歩手前の手を考える。そうする事でもう後が無い状態を回避することが出来る。
あの質問を例にするなら、誰かの攻撃によって二人がピンチに陥っている状況でどっちを助けるかを問われているわけだが、どっちかを助けるかなんかではなく、そもそもそんな状況を作り出してくる敵をぶっ殺してしまえばすべて丸く解決だ。
誰かを守るというのはご立派な事だが、それはしょせん守りなのだ。……守り続けるだけでは事態が好転しないことだって往々にあるだろう。ならば、更に上の段階。攻める事。脅威となる者を倒す。それこそが守る事の本質だと俺は思っている。
……盗賊を、さっさと倒してやれば、あんな事にはならなかった。か。
……だろうな。
……
俺は過去を悔やむのは、大嫌いなんだよ。
俺がこんな事を思わなくちゃいけないのは、無論あの盗賊共のせいに他ならない。
だから、ぶっ殺す。
軋む体をおしながら、怒りの感情を身にまといながら俺はただただ歩き続ける。この怒りの元凶の男達の元へと向かう。




