表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シドとシノの大冒険  作者: レイン
7/1745

地下へ

……出会いは突然に、まさにその通りだった。この人が、当主……


どことなくりりしい顔つきに、気品を漂わせる物腰。身にまとうオーラは一般人のそれとは大きく異なる。それが私にも感じられるレベルのものだった。


「おや、そちらのお嬢さんは?」


……明らかに私を指した言葉だった。


「ええと、初めまして。私はシノと言います。」


「私のお友達です。お父様。」


「……そうだったか彼女が話していた子か。私はこの屋敷の当主、ベレストラン・ヤマと言います。どうぞよろしく。お嬢さん。」


握手を交わした。ないすとぅーみーとぅー。


「失礼のないよう、おもてなししなさい。それでは、ごゆっくり。」


「分かりました。お父様。」


……去ってゆく姿を尻目に私とロミネさんは礼で見送る。


……トイレ。


……


トイレの中で、私は暫し考える。


……本当に、悪い人なのだろうか……そればかりが頭を占める。人を見る目は有る方ではない。だけれども、実際に相対してみると、根も葉もない噂なのではないかと思えてくる。


さっきの人も、ロミネさんも、イミルさんもトゥリエちゃんも、皆優しい。柔らかい物腰で、私の様な素性の知れない人でも優しく歓迎してくれている……それらすべてが演技だと考えることももちろんできるのだけれど……


……


「お待たせしました。終わりました。」


「では、戻りましょうか。」


「ととと……」


「お父様、今日は少し忙しいみたいです。」


「そうですか。大変なのですね。」


「ええ、お母様が亡くなってから、お父様にはたくさん負担をかけさせてしまいました。ですが、そんな中でも私たちを立派にここまで育ててくれたのです。こんどは私たちがお父様の助けになりたいのです。」


「……尊敬、しているんですね。」


「ええ、世界中の誰よりも。そんなお父様の為に私たちはいるのですから。」


……


……ここまで想われるほどの絆が……はたして嘘の中で出来上がるだろうか……私の中の疑問はまさにそこだった。


綺麗な部分や汚い部分、それらを一番近くで見ることになるのが家族だ。


ロミネさんのこの尊い想いは、きっと、本物。紛れもない本心。


そしてこんな想いを抱く人が、たとえ父親であっても、悪人であると知っていながら尊敬できるだろうか……


……あるいは、間違っていると分かっているとしても、それでもなお……


……1日2日で人の事など分かるはずはない。私のこんな考えは合っているやら合っていないやらというものだ。


どちらにせよ、思いこむことだけはやめよう。偏見な見方だけは絶対にやめよう。


……


「シドスーパースパークサイクロン!!!!!!!」


「ぎゃーーーーーーー!流石にやられたーーー!」


「はっはっは!俺は最強なのだ!」


まだ遊んでいた。一応決着はついたみたいだった。


「お父さんの方が最強ーーーーー!」


「なぬ!それはガセ情報だ!俺より強いやつはいないのだ!!」


「なんとぉーーーーー!」


「さっき廊下ですれ違いました。」


「ふふ、シノさんの事、気に入っていたようでしたね。」


「?そんなことはないと思いますが……」


人に気にいられるタイプじゃないのはよく分かっていた。


「昨日お二人の話をしたらぜひお逢いしたいと言っておりました。もしよければ後でシドさんもどうですか?」


「男とあってもつまらん。」


「泊まって行ってもオッケーって言ってたーーーー!!!」


「いえ、流石にそれはご迷惑すぎるので……」


「泊まっていくなら男と話すよりロミネ達と夜通し遊ぶわ。」


「……シド様、将を落とすにはまず馬からという……(そっと耳打ち)」


「……むむむ……まあ、時間あったらな。」


「ふふ、きっと喜ぶと思います。」


……


うつら、うつら……


トゥリエちゃんはさっきまで激しく遊んでいたせいか眠気が押し寄せつつあるようだった。


ここに来てから3時間くらい経ったろうか。傾いては来たものの陽はまだまだこの街を照らしている。


「お姉さま。もうそろそろお父様のところへ行く時間ではありませんか?」


「おや……本当ですね。いつの間に。」


「ん?どっか行くのか?」


「こう見えても長女ですので、これから父と一緒に会食に伺う予定があるのです。名残惜しいですが、私は今日はこれで失礼しますね。」


「ちっ……そうなのか。なら俺もついて行くぞ。」


「いえ、シド様、流石に止しましょう。」


「ふふ、それでは、また。」


ロミネさんはぱたと部屋から出ていってしまった。


「トゥリエちゃんは寝てしまいましたね。」


「そうですね。」


イミルさんは寝顔を見ながら愛おしいものを見るような表情を浮かべる。そのまま絵になるほど綺麗だ。


「シド様、私たちはそろそろ帰りましょうか。」


起こさないように小さな声で。


「……んじゃ、そうするか。じゃあまたなイミル。」


……シド様は私の目を見て、すっと立ち上がる。


「ええ、今日はありがとうございました。入り口までお送りしますね。」


「いえ、大丈夫です。トゥリエちゃんについていてあげてください。帰り道は大丈夫です。なんとなく。」


「……そうですか。では、お言葉に甘えてしまいますね。それでは、お気をつけて。」


「はい、それでは、失礼します……ぱた。」


……


すたすた。


……


すたすた。


……


ぐるぐると最初に入った時とは違う道を行き当たりばったりに進んでいく。


「道、迷ったのか?」


「いえ、一応覚えています。」


「そうか。」


表向きは道に迷ったという大義名分で、私はこの屋敷をそれとなく探索する。


……


「おお、君も可愛いな。今日から俺のところに来ないか。」


「うふふ、ご冗談を。」


先ほどからすれ違う使用人の方に次々シド様はちょっかいを出していく。やんわり断られ続け、5戦0勝と言ったところだった。


……


「シド様、ここは一階ですか?」


「多分な。」


「……あれは下へ下る階段ですか?」


「だな。」


……こういう屋敷にはありがちとも思えるような、怪しげな地下への入り口……と、思うのは私の考え過ぎだろうか。別段見張りの人がいるというわけでもないようだった。


「よし、行くか。」


「……行きますか?」


一応誰にも見られていない(と思う)のを確認して私たちは一歩一歩降りていく。


……


「広いな……」


「広いですね。」


……ここは、地下。だが、広さは地下のそれにしては広すぎた。


これほどの広さが必要な何かがここには、あるのだろうか……


「おや、どうかしましたか?」


……広がる暗がりの先から、使用人の方と思わしき人が姿を現す。


「おう、怪しげな階段があったから探検している。」


「はは、そうですか。確かに怪しげですね。この先に進むのですか?」


「進んじゃいけないのか?」


「いえ、別段そのようには申し付けられてはおりません。進んでいただいても結構ですよ。進みますか?」


「おう、ガンガン進むぞ。」


「そうですか。分かりました。それでは……」


私たちに進路を促すように、すす、と動き、その方の隣をすり抜けるよう私たちは、暗がりを進もうとする……


……


後ろで、シャッ……という、金属の擦りあうような音を聞いた。


……それが何かを理解する前に、シド様に体を突き飛ばされる。


「……おい、なんだお前。」


「いえいえ、進むと言う事でしたので。」


……使用人の方が携えていた細身の剣を抜き放っていた……突き飛ばされなかったら私の体は一気に刺し貫かれていたのかもしれない。


「ふん、はっきりしたな。お前はクロだ。」


……私たちに向けられた敵意、それは即ち、そういう事なのだろう。


「……勘違いなされないよう、私は、申し付けられた通り動いているだけですので。私の意思などではございません。しかし、なかなか素早い身のこなしですね。よく気付かれたものです。もう少しでそちらのお嬢さんの命を奪えていたのに。」


「アホか、白々しすぎるんだよ。客人と言えどもただの冒険者に家を好き放題歩き回らせるなんて逆に不自然だろうが。」


「……いえいえ、それで良いのですよ。表面上は大らかで素晴らしいベレストラン家で通っているのですから。冒険者の方であろうと礼を欠かしてはいけない。むしろフットワークの軽い方々に評価していただける方がありがたいですね。」


「その苦労の割には黒い噂が絶えないみたいだがな。」


「……そうですか。それは何よりです。」


ククッ……と暗い笑みを浮かべる。そして……一呼吸置いたと思うと、一気にシド様に駆け寄る。手に提げたそれを突き立てるために。


だが、ふん、と鼻を鳴らしたと同時にシド様も剣を抜くと同時に相手の一撃を薙ぎ払う。


「ッ……。」


よろめいた隙を見逃さず一気に切りかかる。


「ククッ……」


一太刀の元にその体は崩れ落ちた。最期に不気味な笑いを残して。……その意味は、分かりかねた。


「あっけないやつだ。」


……血だまりが広がる……まだ少しキツイ……


「よし、行くぞ。」


「……はい。」


内心ではあるが、心の奥底は凍えつつあった。


……私が見ていた人たちの姿は、全て、偽りだったのだろうか。


まあ、どちらかと言うと勝手に人の家を荒らしている自分たちの方がよっぽど落ち度があると言えなくもないのだけれど。


そう考えたら、少々過剰かもしれないが、屋敷の防衛と言う見方もできなくはない。


……おや、じゃあ私たちが悪人?


……とことこ。


はぐれないようにシド様のマントを握りながら、ほんの少しの明かりを頼りに進んでゆく。


「迷路……みたいですね。」


「道、ちゃんと覚えておけよ。」


「……出来る限りは。」


……やましいことが無いという前提だとしたら……こんな巨大な入り組んだ道が、あるのはどういう理由なのだろうか。


……この世界の常識に疎い私では分からないかもしれない。


……マップとかないのだろうか。無いだろうな。ダンジョンや洞窟などではなくただの屋敷だし……


……進んでいるのか戻っているのかもよく分からない。


……十字路だ。……3択か。いや、戻るのも道とするなら4択か……


「……こっちが怪しいな。」


「そうですか。」


「女の子の気配がする。」


「……そうですか。」


……この世界に生きている人が言っているのだから、それに従おう。何より私の主人なのだから。理由がちょっとおかしくても。


・・・・・・・・・


長く歩くこと、道の複雑さはどんどん増していっている気がする……これ、帰れるだろうか。


「ん、ここ、ちょっと違うな。」


「……かもしれません。」


少し開けた大きな場所に出た。通路ではなく、大きな部屋と言えば分かりやすいかもしれない。


その部屋には取っ手がついている場所が3つ。どこに続いているかもわからぬドアが3つあった。


「……開けますか?」


「おし、じゃあこれにするか。」


ガチャ……鍵はかかっていなかった。というより、他の二つのドアには鍵穴があった。もしかしたら開かないかもしれない。


……そこに広がっていたのは……


……なんでしょうか?


「なんだこいつら……」


「……生きて、いるのでしょうか?」


……部屋を埋め尽くさんばかりの長い容器……そこに入っていたのは、人だった。


「この世界には、こういうものがあるんですか?」


「アホか。」


そうですか……じゃあ、これは、誰かに入れられているのだろうか。誰か……


「……どれが美人の入った容器なんだ。」


「……どれでしょうね。」


……この光景を見て、思い当たるのは、やはり……人攫いの噂だった。


「……残念ですね。ここにたどり着いてしまったのも、あなた達にとっては不幸でした。」


……後ろから聞こえるその声は、さっき少しだけ聞いた。


……ベレストラン……ヤマ……


「おう、お前が犯人か。」


「……この状況で言うなら、あなた方が犯人だと思うのですがね。盗人猛々しいというものでしょう。」


「そっちが攻撃してきたから応戦しただけだ。」


「……進んでしまったからでしょう?一応確認されたはずですが。」


「進んでもいいと言われたから進んだだけだ。」


「……まあ、確かに進むことは構いません。尤も命はありませんがね。」


「なら、今度からそう言え。」


「……とりあえずいったんこの部屋から出ませんか?ここは話をするにも……話以外をするにも狭い。話はそれからにしましょう。」


ここは相手の屋敷……これって、まさに袋のネズミと言うやつではないだろうか……


ちら……シド様は、いつもと変わらないように見える。堂々としている……


……ならば、私も、堂々としているべきだろう……びし。


……同時に感じていた。願っていた、私の死の近づきを。


……一つだけわがままを言えるなら……シド様は、無事であってほしい。


赤の他人だとしても……だけれども、この人の死は、なんとなく見たくなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ