下手に群れると始末が悪い
よいしょよいしょ。ふう、終わった。流石に何度も同じモンスターと戦っていると慣れてくるものだ。さて、シド様とリーナさんは……遠くで何かを話しているようだ。
……そーっ。
自分なりに空気を読んで遠くから静観していた。
……ああ、ああ。リーナさんがシド様に抱きついている。……どきどき。何の話だろう。
それにしてもリーナさんは綺麗だ。しっかりしていて優しいし。あんな女性が私の世界に居たら誰も放っておかない。シド様の隣に居るべき人と言うのはリーナさんのような人に違いないだろう。
……自分で始めた思考だったが、ここで終わらせる。これ以上はきっと嫌な気持ちになる。やーめた。
ひとしきり話し終えた二人と合流して再び旅路を往く。そしてガハクが見えてくる。さっきのカイガの町より更に大きい街だった。
「まずは、情報収集ですかねー。」
セオリー通り街を歩いては盗賊についての情報を集める。
……この街でも盗賊の噂はもちろん広まっているため現在警備を強化しているという事、盗賊のアジトについては未だ見つけることが出来ていない事、盗賊達は八十人近い集団だという事。……分かった事はこのくらいだろうか。
「ラミさんの所にも既に依頼を出しているみたいですね。」
「つーかこういうのって国がどうこうするようなことじゃねえのか。盗賊なんか野放しにしといていいのか。」
「このガエインって言う国は広大な土地を持っているんですけど、武力自体はそこまで強くはないって言う話ですねー。後、人手不足みたいでなかなかすぐ駆けつける事も出来ないとか。」
もう何日か経てば、国か、あるいは依頼を受けた冒険者の手によって解決はするかもしれない。……それまでに起こることに関しては自分達で守るしかないのだろう。
「待ってみるか。」
「?待ってみる、ですか?」
「多分、ここに来る。多分な。歩き疲れたし、宿に行くか。」
その言葉に従って私達は宿へと足を進める。もうお昼を回っていた。
「シド様、どうしてここへ来るって分かるのですか?」
「どうせ盗賊なんてアホだからな、ひたすらデカいとこを狙ってくるに違いない。」
「……そうですか。」
「いきなりアジトを強襲してもいいんだが、流石に闇雲には探せないしな。」
一旦、待機か。
「エルニさん、心配してましたねー。」
「そういう性格なんだろうが危なっかしい奴だな。」
「スクリムさんが止めなかったら行っちゃうつもりだったんでしょうか?」
「あの様子じゃそうだろうな。……流石に無茶だっての。」
「八十人ですかー。……まあ、どうにかなりますよねー、シドさん?」
「アリが幾ら集まっても俺には勝てないからな。はっはっは。」
「うふふ、流石ですね。」
「……」
至極当然な、これが正しい流れなのに。……チクチクする。……えいえい。
「盗賊がもし来るとしたら、どのくらいに来るのでしょうかー?」
「……陽が傾いた頃か、真夜中ってとこだろうな。普通の頭をしてればだが。今日来るかも分からんしな。」
そんな話をしていた矢先の事だ。外が騒がしくなってきたのは。……いつもこの街はこの時間は騒がしいのかもしれない。……更に騒がしくなってくる。
「た、大変です!盗賊がこの街に!早く逃げてください!!」
大慌てで宿の店員さんが知らせに来てくれた。
……
「……まだ、陽は高いですね。」
「……普通の頭しとらんのか。」
あっけにとられたが、どうせやろうと思っていた事だ。早い方がいい。私達は急いで街の入り口へと集まる。
・・・・・・・・・
……もう既に戦いが始まっていた。警備の人達が盗賊と相まみえている。……流石に数が多いせいか押され気味に見える。人数比で言えば1人で2~3人を相手取っているのだからそうもなるか。
「お前らぁぁー!!殺せぇぇ!!!全部奪ってやれぇぇええ!!」
「ひーひひひっっ!!」
「おらぁっ!!しねやぁぁぁッ!!!」
……見るからに品が悪い。ああいう輩に捕まったらどうなるか分かったものではない。
「……物騒な言葉が飛び交っています。」
「おし、サクッとやるか。」
戦場へと私達は急遽参戦する。……早速シド様は戸惑う盗賊に先制攻撃を仕掛ける。
「な、いぎっ……!!!」
避けることも出来ず一太刀の元に盗賊は崩れ落ちる。
「けっ、大した事ない奴らだ。」
さて、これで私達もターゲットとしてロックオンされたわけだ。
だがシド様の攻撃を見るやいなや盗賊達は動きを変える。
「お前ら!!散らばれ!!奴らを相手にするのはこの街をぶっ壊してからだ!!」
……そう来たか。面倒で厄介な事をする。……敵の戦力こそ散るものの街を守るのは格段に難しくなる。だけど一人一人を相手にするなら私たち以外にも警備の人達も十分盗賊と渡り合えることになる。
「私達も、別れて盗賊を追いましょう。」
「いや待て、別れると奴らの思う壺だ。」
「思う壺ですかー?」
「騒ぎに乗じて上や後ろから不意打ちしてくるかもしれん。あいつらは盗賊だしな。単独行動は危険だ。」
もっともだ。速やかに解決したい思いとは反する事になるけれど、私達は三人で盗賊達を追う。
……
建物を荒らしている最中やって来た衛兵にイラつかないはずがない。彼らはルール無用の盗賊に他ならないからだ。
「邪魔だ邪魔だぁぁ!!ぶっ殺すぞてめぇぇ!!」
「ぐっ……ぐぅッ!!」
「ひゃあああッッ!!そんなざまで俺達と戦おうとは笑わせるぜぇぇぇ!」
若い衛兵は盗賊の素早い攻撃に手玉に取られる。
「死ねやぁぁぁッ!!」
「てめえが死ね。」
「びぎぃッ……」
盗賊が襲い掛かるよりも早くシドの攻撃が背後から炸裂する。……奇襲や不意打ちを得意とする盗賊が背後から撃たれるのも皮肉なものだ。
「大丈夫ですかー?」
「す、すみません!助かりました……」
「街の奴らはどうなってんだ。」
「は、はい。自分たち以外の住民は教会へと避難完了しています!!」
「ちゃんと守れるんだろうな。」
「全体の半分の人間で教会を死守しています。」
「ちっ……」
懸念していたのは相手に人質を取られることだった。ルールなどお構いなしの人間はそれこそ何でもやってくる。不意打ちだろうが勝負してくるならまだ行儀がいいもんだ。勝負の場に上がらないような奴は始末が悪い。……ま、自分が同じ立場になるような事があれば自分も迷わずそうするが。俺が盗賊なら速攻で街の奴らを人質にして抵抗できないようにしてじっくりいたぶるだろうか。……その辺の危険さはこの街の奴らも分かっているようだからひとまずは任せていいか。
いざとなっても俺が人質など構わず攻撃すればいい。俺はこの街の奴らとは何の関係も無い。思い入れも無い。被害を出すだけ出した後に結局人質なんて関係なく突っ込むなんて事するぐらいなら最初から人質を見捨てて被害を最小限に抑える。それで悪人扱いされようがどうでもいい事だ。
「次行くぞ。」
シド達は再び街中を奔走する。……だが、その中に更に一人加わることをシド達は知る由もない。
……
「本当に盗賊達が暴れまわっている……皆を、助けなくちゃッ!!」
・・・・・・・・・
「ちょこまか散ってんじゃねえぞ盗賊共がッ!!」
「シドさん、私が!……雷撃!!」
「ごぉぉッッ……!!!」
「邪魔だ死ねやぁぁぁ!!!」
……やっぱり私に向かっても飛び掛かってくる。……ただやっぱり強い人と比べると攻撃が大振りだ。私でも避けられる。
「……すっ。一応れでぃ相手なのですが、手心的な物は無いようですね。……えいえい。」
「よし、俺に任せろ!!だりゃあああああああ!!!」
「がぁああああああッッッ……!!!」
「っし……これで何体目だ!?」
「……私達が倒したのは13人です。……まだまだたくさん居ます。」
街中広がっているのだ、倒しては次、倒してはまた次。……警備の人達も奮闘してはいるが、そう簡単に倒しきれない。
「けど流石に全部倒す前にあいつらだって退くはずだ。あいつらの強みは数だからな。こっちの数が向こうの数を上回ればいい。あいつらだって不利な状況で戦おうとはしないはずだ。……まともな頭をしてればな。」
「盗賊なんてやってる時点であんまりまともだとは思えないんですけどねー。」
「……一旦教会の方に行くか。流石に警備の奴らもアホじゃないだろうからしっかり守れてるだろうがな。」
……教会へ向かう道の途中、やはり無残に崩れ落ちた街並みが目につく。……出来る事ならばこうなる前にどうにかしたかった。……けど人が出来る事はそんな万能じゃない。……だからこそ、今やれることを一生懸命やるしかない。
……
「大丈夫みたいですね。」
教会の外観を見る限り無事なようだ。警備の人達も身構えているが疲弊したり負傷しているような感じはない。
「流石に守りを固めてるところに飛び込んでくるほどはアホじゃないようだな。」
盗賊達の目的は金品などだろうし、人の命は半ばオマケのようなものだろう。……人命がオマケと言う神経が分からない。私の命と言うならばまだ百歩譲ってだが、街の人達の命を悪戯半分に奪うなんて許されてはいけない事だ。
「おい、今どんな感じになってる。」
「は、はい。ここへは盗賊達は今のところやって来てはおりません!ここ以外の警備の者達は各個盗賊の撃破にあたっている最中です!!恐らく奴らの残りの人数は60程度だと思われますが街全体に広がってしまっているためなかなか対応しきれない状態です……」
「60か……まとめてかかってくればもうちょっと楽なんだがな。」
「隊長……!!」
「どうした!?」
「盗賊達が建物の襲撃を中断し、一か所に集まり出したとの報告がありました!!現在、街の中心地に盗賊が集中していると!!」
「……どういうつもりだ……一度は散開したものを、再び集合するとは……」
「ちょうどいい。まとめて叩くチャンスだ。」
「……もしかしたらそちらに我々の注意を引き付けて教会を狙う可能性もある。ここの警備はそのままに盗賊の撃退にあたれッ!」
現段階で残っている警備の人達が二十数人程度、そこに私達三人が加わる。……まだ60か。……今は嘆いている場合ではない。とにかく急いで盗賊達の所へと向かう。
……
一方盗賊達は既に撤退の腹づもりで一旦集結していた。
「これで全員かぁ!?……結構やられたじゃねえか。だらしねえ奴らだ。」
「この街の奴らだけならどってことなかったんだがな。変な奴らが混じってやがる……生意気に結構やりやがる。」
「あの女連れの男だろ?……男の方はぶっ殺すとして……女二人は……ひひひ。」
撤退するつもり、だが。やり残しがある。……シド達に報復してやらなければ彼らの気が済まない。そしてシノとリーナを手土産にアジトへと帰る為に彼らは非道なやり方に手を染める。だが、そんなのは盗賊にとっては当たり前の事だった。何の躊躇もない。
「貴様らッ!!」
「おう?来たぜぇ?」
警備隊が駆けつける。そしてその中にはシド達もいる。彼らの標的はまさにそこに居る。
「盗賊共!!今すぐこの街から出て行け!」
「この数を相手にしてよくそんな事が言えるもんだぜぇ……てめえら馬鹿なんじゃねえのか?へっへっへ。」
見立て通りに盗賊達はまだ60弱生存している。単純に人数だけで戦力を語るならば盗賊の方が断然有利な状況のままなのだった。
「ふん、馬鹿と交渉なんてしても仕方ないだろうが。さっさと全員ぶっ殺すぞ。」
「お?てめえだぁ……何なんだてめえはよぉ?よくも俺達の邪魔してくれたじゃねえかぁ?あ?」
「気持ちわりいし臭いから喋んな。とっとと行くぞ。」
その言葉を皮切りに全員で攻撃を仕掛けようとした時だ。……奴らに連れられてその人物が姿を見せる。
「……」
「おうおう、これが目に入らねえか?人質だぜ人質?……さっさと逃げちまうからこいつ一人しか捕まえられなかったじゃねえか。……けどなかなかの上玉だしなぁ。カイガの町じゃ大した女は捕まえられなかったし、こいつはいい土産になるぜぇ!!」
その人質に対して効果的だったのはこの街の人間ではなく、むしろ自分達にとってなじみの深い人物だったことにシド達は驚くほかなかった。
「シ……シドさん!!」
「エルニか……」
……その人質は、自分達にとってとても大切な、守りたい大切な、人だった。……それが今、危険に晒されているこの状態。ここに来て事態は最悪の方向へと向かい始めている。……だが、これすら、悲劇の序章に過ぎない事を、神は知っている。
エルニを見殺しにして盗賊達を倒しても、これから紡がれる正史も、どちらも行きつく先は絶望的な展開なのだ。シドにとっても、シノにとっても、リーナにとっても、エルニにとっても……スクリムにとっても。




