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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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王女の密かな目論見

シド達がゴームを倒して帰って来てより数日、ラズリードにはある転換を迎える日が待ち構えていたのだった。


「どういう事だ、これは……」


ラズリード王が自室にて手にしているそれは一通の手紙。差出人不明のその封書に書かれた内容は……


ラズリード王。

これまで貴方がやってきた数々の非道な行い、この度その全てを余す所なく公表に至る所存である事をここに記します。

同封されているものをご覧になればこの手紙が真実であるとお分かりになられるはずです。

更に人質として王女様も預からせて頂きました。

七日後にラズリード全体はもちろん、大陸中の全ての国に向け、この事実を暴露させてもらいます。

……ご自分で幕を引くか、こちらで幕を引くのか、御選びください。

こちらとしては、潔い決断を願うばかりであります。


……脅迫だ。差出人の望みは失脚。……王座を退く事。王からすれば当然納得など出来るものではない。


……というより、これは明らかに内部の人間が関わっている。王たる者、外部の人間相手に機密を語るような真似は行ってはならない。……同封されていた物は王が国を守る為にやってきた事……それこそなりふり構わずやって来たが為、表に出せないやり方に関して克明に記された文書であったり写真であった。


巨人討伐のために目的を隠して冒険者を招集し、国外への脱出を禁止した事などもその一端にあたる。


……確かに全て真実ではある。……だが、正直な話、これだけで失脚に至るほどの効力は恐らくない。……無論、これ以外の証拠を提示してくる可能性も無くはないが大きな問題はそこではなかった。


王は兵士を呼び出しすぐに一人娘のフィータを連れてくるように申し付ける。……手紙の事は隠しながら。


……しばらくしてからだ。朝に侍女の者と街へ出ているとの話が舞い込んでくる。……血の気が引くような思いとはまさにこの事……今この時娘の安否が確認できないのがどれだけ不安な事か。


……こんな状況だが、それでも少しでも冷静にならなくてはならない……この国の王女たる娘を攫うなど、普通の人間が出来るだろうか。……やはり間違いなく犯人は内部に居る。……この状況を考えるにまず怪しいのは、侍女のメリアムルだ。……娘が小さいころより世話をしているため下手をしたら自分よりも信頼を置いているかもしれない女性。だからこそ、彼女が不審な行動をとったとしても、フィータは何の疑いも持たないかもしれぬ。……このまま娘を攫って目の届かないところに逃げおおせて七日間を待つ、と言った腹づもりだろうか?


「……関所の者に、これより七日間は、国外の出入りのチェックを厳しくするように、と伝えてもらえるだろうか。……特に国外へ出る者のチェックを。」


……気休めというやつだ。兵士にも少々怪しまれてしまったが、このくらいの指示はよくある事で、逆に何かあったと察してほしいぐらいである。


一番いいのは、ひょっこり城へと戻ってきてくれるのがベストなのだがそんな楽観的では王は務まらない。常に最悪の状態を想定しなくてはならない。


次なる指示を出す。大切な用事があるため、大至急王女を連れてくるように、だ。今度は緊急を要する命令を。


何にしても手紙を出した真犯人を見つけ出さなくてはならない。……言いたいことがあるなら真っ向から来ればいい。これまでやって来たことを明るみにと言うなら七日など待たずにすぐ公表すればいい。……たとえそれで然るべき罰を受けようともそれは私のやって来たことの代償だ。それをひた隠しにしてのうのうとしているのが気に食わないというならばそれはもっともだ。


……だが、娘を人質にと言う手段が気に食わない。これは取引でもなんでもない。実質拒否する選択肢を奪われたようなものなのだ。言われたことにイエスと返答しか出来ない。……もっと言うなら、私がこの王位を退いたことで真犯人は気が晴れるかもしれないが、その後の事を考えているのだろうか?急に王が居なくなったとしたら誰が代わりになるというのか。国中が混乱するやも知れぬ。そこを考えて……


思案の中で、王はもう一つの可能性に思い当たる。……これは、ラズリード国全体を混乱に巻き込み、情勢を揺るがしかねない事態にする事を狙ったもの。……他国からの謀略の可能性がある。……だとするならば、まずいッ!まずいのだッ!!


手紙一枚でここまでの事になるとは思いもしない。差出人はとんでもない事をしてくれたものだ。


・・・・・・・・・


「~♪」


そしてその差出人はのんきに鼻歌を歌いながら街道を歩いていた。


「……ラズリードはしっかりしている国だと思っているが、あれが王女と言うのはどうなのだ?」


「私は、嫌いじゃない。自分勝手そうで、きままなところ、好き。」


「重ね重ねご迷惑をおかけしますが。」


「……分かっている。しっかり護衛を務めさせてもらう。」


王の心配をよそに王女はメリアムルと、ある場所へと向かっていた。……護衛にカラマとノノノンを引き連れて。


「しかし、王族は運動などしないイメージだったが、存外体力はあるものだ。もう歩けないなどと言いだすのかと思っていた。」


「あれでいて活発なお方ですから。」


まあ流石に戦闘をこなすというのは無理だろうが、そこらの人間よかは体力がありそうだ。


「あー!ダグリックー!メリアムルー!ダグリック焼き食べたいー!!」


……度胸もそこらの人間よりだいぶあるようだ。……王族はこれぐらいでなくては務まらないのか。カラマは瞬く間に表れたダグリックを仕留める。


そんな事をしている内にお目当ての場所へとたどり着く。


「……なかなか酷い有様だ。」


「あの、巨人の、せい。」


「いかにも遺跡って感じの場所ね。いい建物だわ。」


……まあ、気に入ったらしい。中に入ってしまえば外観などどうでもいいと思うのだが……


「ここから先は魔物が多くなるかもしれない。十分に気を付け……」


「早く行きましょうー?」


……どうしてこんな護衛を引き受けてしまったのか。……遡る事、二日前だ。おてんば姫にこの相談を持ちかけられたのは。


・・・・・・・・・


「どうぞ召し上がってくださいませ。」


……客間へと招かれたのはカラリーサ達三人だ。セフシアはまだ療養中のためベッドに居る。……豪華な料理が並んでいる。手を付けるのが躊躇われる。……というかそこまでされるほどの義理が無い。


「では、遠慮なく。……これはこれは、美味しい。」


……一人手を付けてしまったなら……もう一緒か。遠慮しながらも二人も料理を頂く。……流石に美味しい。……こういう時に自分が何を恐れているか。……ただより高い物はない。その言葉に集約される。これを見返りに何かを要求されることが怖いのだ。


「気に入っていただけましたか。」


「え、ええ。とても、美味しい料理ですね。……堪能させていただいています。」


「それは良かった。」


……ラズリード王女、か。その豪華な身なりを見て思う。クリミナ様の時代では考えられえないような時代になってしまったのだろう。……それが良いことか悪い事かは定かではないけど。


「セフシアの事ですが……面倒を見ていただいて、ありがとうございます。」


「そんな、巨人を倒すために尽力していただいたのですから、当たり前の事です。気にしないでください。」


腕の骨にひびがはいっていたようで元に戻るまでは一か月を目安にとのことだった。今日もセフシアの元へ見舞いに来たところに王女自らがやって来てお話をしたいとの申し出があったのでやって来た次第だった。


「つかぬ事をお聞きしたいのですが、貴方達は、遺跡よりやって来たとお聞きしました。……冒険者、というわけではありませんよね……?」


「……私達はあそこに自分達の住む場所を作り、そこで生活をしていました。……そこへあの巨人が現れたのです。……迷惑な話です。」


「どうして、あのような場所に?」


「……そこにしか、私達の居場所が無いからです。」


……内心癪に障る質問だった。ただの一般人ならいざ知らず、王族ならばクリミナ様の事だって知っているはずだ。国を追われたこと……知っていて聞いているのだろうか。……知らないなどと言わせたくはない。


「私はそうは思いません。」


「……どういう事ですか?」


「貴方達の居場所はどこにだってあるはずです。それを拒否しているのはきっと他ならぬ貴方達自身ではないでしょうか。」


「……お言葉ですが、見ず知らず、何も知らない方にとやかく言われるような事ではないと思います。」


「極端すぎる考え方は良くありません。男の人達が許せないから居ない場所に住む、というのも。……国家に対して立ち向かうというのも。」


……それは私達に、そして明らかにクリミナ様に向けた言葉だ。


「人間は歴史から学ばなくてはならない。貴方達がやっていることも、そしてクリミナがやった事も、どれも間違いなのです。そもそもそんな性急に変わるものじゃありません。時間をかけてゆっくりと変えていくしかありません。急激な変化に対応できるほど人は器用じゃありません。」


「……それならば、王女様だったらどうすると?」


「……協力、してくれるという事ですか?」


……ただより高い物はない。どうやらこの食事代はこうして請求されるらしい。……何を企んでいるのか見当もつかないが、私達に何かをさせようと言うつもりらしい。


「……ただの一般の人間である私達が協力できる事などたかが知れていると思いますが。」


「協力……するのですか?……しないのですか?」


……静かな恫喝だ。


「……セフシアを助けていただいた御恩があります。協力できる事なら。」


「ほんと!?良かったー。じゃあ後はメリアムル説明してね。」


突然人が変わったように砕けた口調へと変貌する。……これが素なのだろうか。……この侍女と思わしき女性もグルのようだ。


「皆様にお願いしたいことは、王女様を、攫っていただきたいのです。」


「……攫う、ですか?」


「……匿う。と言っても差し支えないかと思いますが。」


「誰にも見つからないところで私を守っていてほしいの。遺跡にそんな場所無いかしら?」


そんな都合のいい場所が、と言いたいが、シェルターがある。脱出する時もあそこはほぼ安全状態を保っていた。そしてあの場所を知るのは自分たち以外にはアグリアやシノ達ぐらい。基本的にあの場所は絶対に安全かつ誰にも見つからない。


「シェルターで良ければ、あるはずです。」


「じゃあそこ!そこで私を匿っててほしいの。そうねー。まあ一週間ぐらい。」


「可能ではありますが……そもそもどうしてですか?」


衣食住をしっかり準備すればその程度は軽い物だった。どちらかと言えば問題は、何故そんな事をする必要があるのかに尽きる。


「うーん。それはちょっと秘密。でもその時になれば分かるから、ね?」


正直目的もわからない事に手を貸すのは気が進まない。……王女を攫うなんてばれたらとんでもない事になるし自分達の身だって危ないかもしれない。


「大丈夫!絶対安全だから!!」


……無理やりに強引に押されてしまい、私達はその目的不明の作戦に手を貸すことになってしまった。


……


「じゃあ手筈通りにね。」


「……この通りに動けば?」


「うん。それでいいわよ。」


「私はここに残ればいいのですね?」


「三人とも急に見えなくなっちゃったら不信感を抱かせちゃうかもしれないしね。二人は別の用事で居ないって事にしておいてね。それに、病人を一人放っておくのも気が引けるでしょ?」


……それはもっともな話だ。カラマ一人居れば並のモンスターなど相手ではないだろう。


「これって、遠からず貴方達のやりたい事に繋がってるかも。そう思ったらやる気出る?」


「そんな事言われなくても、しっかりやらせていただきます。」


「そぉ?……うん。じゃあお願いね。」


屈託の無さそうな笑顔でそう返される。……無さそうな、である。きっと何かどころではない物が裏には蠢いているのだろうが。それを知る由もない。


……


……別にクリミナがどうとか本当は関係ない。口実で使っているだけ。


ただ、この気持ちをなんと表現すればいいのか。……好奇心!!私が王女様やりたい!お飾りだけのじゃなくて、本当に国を動かす王女様を。

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