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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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人恋し夜

数時間に渡る戦いの末、連合軍は城へと帰還した。


……結果から言えば、巨人ゴームは一切無傷のまま敗走と相成った。……最強の戦士グラムと言えど、ダメージを与えられない相手を倒すことは出来ない。……長時間に渡り戦い続けた事はそれはそれで人間離れしたものであることは間違いないが……


「魔物がこれ以上増える事は……無いのか。」


だがひとまず王は安堵する。確かに前回の戦いでは倒せど倒せど敵が現れていくありさまだったが、今回は倒せば倒しただけ魔物の絶対数が減っていくのが目に見えてとれたという報告があった。


無尽蔵に湧いてくる魔物達が相手では兵力の限られているこちらはジリ貧になっていくのが目に見えていたからだ。敵の数に限りがあるとなれば巨人の対処に集中できる。


だがそれでもやはり巨人をなんとかしなくては行く先は国家の危機。……まだ半分と言ったところだ。残り半分を仕損じてはならない。


……


「後は巨人だけなんだー……まあ、ラズリードの力で倒せない魔物なんて居ないだろうし当たり前か。……それにしてもグラム達が解決したと思ったら、魔物達の発生を止めたのは冒険者達だって。……面白いんだ。」


ラズリード王には一人娘が居る。王女フィータその人だ。現在ならば次期ラズリードの王となるべく人物だ。もっともラズリード王はまだその地位を退くには若く、野性味あふれる人物であるため順当に行けば十数年は先の話となるだろう。……順当に行ったならば、だ。


「さーて……巨人が倒れたらその時は……うふふ~……」


王女の笑みは、誰の目に触れる事も無く静かに響き渡る。


……


「いやはや……皆さん、お疲れ様でした。遺跡では大活躍だったそうで……」


エッケルノの言葉が冒険者達を暖かく(?)迎える。


「私達の方は魔物達はだいぶ討伐できましたが……やはり巨人は倒すには至りませんでした……何とも情けないですね……」


「だが、魔物の数が頭打ちと言う事は、終わりが近いという事だ。我々第五軍も新たに準備を建て直し、巨人討伐へと再び出向く事になる。」


「ですが、戦ってみて分かったのですが、無為無策ではあの巨人はおそらく倒せません。第一軍隊長のグラム君や、第三軍隊長のシンクレス君とも意見が一致しました。何か決定的な策が必要ではないかと……」


「その策が確立するまでは再び待機という事になる。……皆の中でも、策を募りたい。案がある物はいつでも私達へと申し出てほしい。」


「俺が巨人をぶっ殺す。」


「……死体が一つ並ぶだけだ。」


「しかもスケベ男の死体だしね~。」


「一時的にとは言え、大事な第五軍の兵士がぺしゃんこになるのはあまり見たくありませんねぇ……」


……おせんべいみたいなシド様か……それはちょっと駄目だろうな……


「ええと……私達は、その巨人について、あまり知らないのですが……普通には倒せないのですか?」


……正直巨人がどんなものだか私は知らない。出来たら情報が欲しい。……みんな知ってたらごめんなさい。


「……あくまで戦った私達の感想と言うか、私見なのですが。奴には打撃や斬撃、あらゆる攻撃が通用していないようです。……そして魔法もおそらく効いていませんね。」


「何それ~……無敵じゃないのそれ?」


「……まあ、今のところは無敵と言っていいかもしれません。少なくとも有効な攻撃手段は見つかっていませんね……」


……お手上げだ。何にも効かない相手にどう立ち向かえばいいのか……


「やはりか。……私も地下で少しだけ奴と対峙したが……手ごたえが無いと言うのか……暖簾に腕押し状態だったな……」


「……貴方も、戦ったのですかな?……ええと申し訳ありません……どちらでしたか?」


「……こちらはカラマさんと言いまして……後こちらがカラリーサさん、セフシアさん、ノノノンさんです。ええと、私達の仲間です。」


「……一時的なものだと思ってください。……本当はこの国へは、恨みしかないのですから……」


「……穏やかでない話ですが……今は協力してくれるというのならば、今のは耳を瞑りましょう……あの巨人を倒すのには人手が足りません……」


「……あの巨人は遺跡の地下より現れた。……私達は立ち向かったのだが、同じ状況だ。一切ダメージを与えることは出来なかった。」


「ふむ……やはりそうですか……」


この国の戦士達が集まっても一切傷一つつける事も出来ない強敵……その巨体だけでも十分に厄介なのに……


「……あ……ノノノン……」


その時、セフシアはふと思い出した。……あの地下で、起こったことを。


「ふふふ、私は、もっと、前から、思いついてた。」


「……封縛、あいつに効いてたわよね?」


「その通り。私は、凄いから。」


自慢げにノノノンは誇る。そう、彼女の封縛は部分的にだが、巨人の動きを封じ込める事が出来ていた。


「封縛……?ですか?」


「捕縛魔法、まあ、アレンジ、してるけど。」


「……ダメージを与えることは出来ないが……逆にダメージに関わらない物ならば、効き目がある……という事でしょうか?」


「しかも、あいつ、馬鹿だから、片手を封じ込めたら、もう片方の腕では、攻撃しようとしてこない。」


「……それは何とも……」


「ふふん、私は、すごいから。」


「ならこいつが巨人を封じ込めてる間に俺がぼっこぼっこにしてやればいいわけだ!!はっはっは!!」


「……いえ、結局ダメージを与えられなければ事態を先延ばしにしているだけです。……ノノノンが一生巨人を封じ込めているわけにはいきませんし……」


それはそうだ。……あくまで防御的な手段であって、攻撃的な手段は未だ見つかっていない。


「……捕縛魔法ですか……失礼ですが、かなりの使い手とお見受けしますが……並の捕縛魔法であの巨人にどの程度効果が出ると思いますかね?……想像で構いません。」


「……私が全力でやって、片手をしばらくの間、抑えられる程度……ちょっと使える程度じゃ、多分、効果ない。」


「……でしょうな……ありがとうございます。……このラズリードにあなた以上の捕縛魔法の使い手は恐らくいません。……いやはや、情けないばかりです。」


「私が、凄すぎるんだから、仕方ない。」


「……ですがこれはとても大きな発見です。小さくとも対抗手段が一つ見つかったのですから。……もう遅いですね。今日はこの辺りにしておきましょうか……みなさんゆっくりお休みください。それでは……」


……みんなで遺跡へ行って、カラマさんと協力してカラリーサさん達を助けて……長い一日だったが、もう夜だ。終わらない一日はないのだ。


「私達は、とりあえずこの街で宿を取ることにしようと思います。」


「俺も一緒に泊まってやろうか。」


「だからいい加減にしろっての最低男が……冗談じゃなく殺すつもりで投げるよ?」


「……ふう、全く。貴様の冗談を聞くのも楽ではないな。」


「あはは~。ホントにね~。んじゃ、また明日ね~。カラリーサ~。」


「え、ええ……あ、アグリア……」


「はい!呼び捨て頂きました~!!」


「……それでは……///」


……カラリーサさん達は宿へと入って行った。……私達の宿は向こうだ。


……


「シノ達この宿なんだ。じゃあアタシもここに泊まろうっと。」


「そうかそうか。ぐふふ……(これはこれで結果オーライだ……ぐふふ)。」


「じゃあアタシとシノは同じ部屋で、シドは一人ね~。決定~。」


「おお!??何言ってんだ!!?」


「いいじゃない。一人部屋の方が広々使えるでしょ?それに女の子と一緒の部屋に泊まるなんて~……えっち~。」


……えっち~……らしい。いつも泊まっているのだけど……


「……まあ、いいだろう。」


「おや?意外に素直だったり?」


「ふん。……俺はちょっと野暮用で出てくる。いいかおとなしくしてるんだぞ。」


「おとなしくしてますね……ちょこん。」


「……」


「……じー……」


「……なんだ……」


「……お土産を……」


「……なんか買って来てやる。」


「いってらっしゃいです。」


お土産を予約しておいた。……催促したみたいで悪い事をしてしまった。てへ。お茶目な私を尻目にシド様はどこかへと行ってしまう。


「ふふ、仲良いんだから……」


「///」


恥ずかしいからそそくさ部屋とチェックインする。……二人きりならあんなやり取りもなんてことないんだけど……


「カラリーサ達さ、ここの城になんかあるのかな?」


「?何か、ですか?」


アグリアさんは思いついたように話を始める。


「さっき会議の時にさ、この国に恨みしかないって言ってたからさ。」


「……恨み、ですか。」


……そもそも彼女達があの遺跡に住んでいた理由は、苦しんでいる女性たちを救うためだったはずだ。……それはつまり、彼女達は苦しめられた過去があるという事、その原因は、この国にある……という事だろうか?


「……この国って、女の人に厳しいですか?」


「うーん、別にそんなことないんじゃない?普通だと思うけどね。」


「ですよね……」


聞いては見たけど、私にもそんな風には見えない。


「……クリミナって、人、知ってますか?」


「うーん……いや、聞いたことないかな。」


「カラリーサさんが……いつだったか、言っていた、気がします。その人が、もしかしたら関係あるのかもしれないです、無いかもしれないですけど。」


「……あんまり本人達が話したくなさそうだから、ほんとは詮索したくはないんだけど……ちょっとほっとけない感じしちゃってさ。おせっかいって言うのかね~。あはは。」


「……でも、アグリアさんのそんなところ。私は好きです……羨ましいです。」


「おお……おお……シノ……めっちゃ可愛い~!!なにこの可愛さ!!ウチの子になりなよ~!!なでなで~!!」


「あうあう。ダメです私はシド様の物なので……」


「ぶーぶー……ははっ、そんなにシドの事好きなんだね。こんなに想ってくれてるシノが居るのに、全く節操ないんだから。」


……いつまで、傍に居させてくれるんだろう。いつの日か急に捨てられてしまう、何てことも、あるかもしれない。


「私も、強引な方がいいでしょうか。」


「まあ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。一つ言えるのは、アタシはアタシが一番気持ちいいように動いてるだけ。アタシがやってるようにシノが同じことをやって、シノが堅苦しかったり辛かったりするならそれはしない方がいいかなって思う。」


「……そうですね……」


「誰だって自分にとってやりやすいやり方ってのがあるよ。その範囲の中で一生懸命やればいいんじゃないのかな?自分なりの一生懸命。」


……カラマさんと、同じことを言ってくれた。自分なりの一生懸命、か。


それを逃げるための言葉などではなく、前に向かう言葉として進んでいきたい。……口幅ったいかな……


……明日から、いや、今から、頑張ろう。私に道を示してくれたカラマさん、アグリアさんに感謝しつつ……


……シド様は、何をしてるかな。……女の人でも、探してるのかな。


・・・・・・・・・


誰にも認められなくてもどうでも良かった。


自分の生き方を貫くことが人生で一番大事なことだ。


その結果誰を傷つけても、それが、自分を貫くって事だ。


誰もがそんな風に生きればいい。誰かに遠慮なんかする必要はない。


……だから、人は遠ざかっていく。


分かっていた。分かっている。


それでいいんだ。あの日もそうだった。


でも、何故だか彼女は離れて行かなかった。


……そんな出会いが、何をもたらすのか。


一人で生きていくのが長すぎたから、想像もつかない。


分かる日なんて……来るんだろうか。


……


「ってわけで来たぞー!!!」


「次は冗談じゃないって言ったわよね……死ね……大ッ……旋ッ……風ッ!!!!!!」


「さて……手が滑って苦無が心臓を貫いてしまうかもしれないな……まあ、いいだろう。」


「動きは、私が、止めてやる……あ、新アレンジ、思いついた。重縛……」


「……だっ!!!ちょ……待ッ……っぐあああッ!!!!!」


「……巨人を殺したら、次は貴方を殺さなくてはならないようですね……」


ゴゴゴゴゴ……


……


「?シド様、お帰りなさいです。」


「……なんかぺしゃんこになってない?」


「……巨人に踏みつぶされましたか?」


「……ちくしょう……」


しばらくしたら元に戻って自分の部屋に戻って行った。


後、お土産のお菓子を買ってきてくれた。


……美味しい。ついつい食べ過ぎてしまう味だ。


……


……一人の寝床は……ちょっとだけ寂しかった。


……こっそりアグリアさんの寝床に侵入した。

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