もう一度あなたと巡り合い
その声は、とても懐かしいもの。
かつて、俺が助けることの出来なかった彼女の声。
もう、声を交わすことも叶わなくなったあの、声。
「シ……さん……」
だけど、彼女はずっとこうして俺に語りかけてくれていたのかもしれない。
「シドさん……」
……頭の中に響く声、まるで魂そのものに語りかけられているかのような。
「……その声は……」
「はい、そうです。」
「……懐かしいな。元気だったか。」
「どうにか……」
「それは、何よりだ。」
口を動かさずとも、頭の中で会話が出来る。この感覚はキャーと話した時と同じ様な感じだ。
あいつはめんどくさいんだか何だか知らないがこういうちょっと少しずれた世界で俺と会話を行うのである。
「まさかまた話が出来るとは思わなんだな。」
「そうですね……私も、もう、お話しする事は出来ないと思っていました。」
「それがなんでまた。」
「おそらくですが、あの方のビリビリの影響だと思います。」
「……あのビリビリか。」
と言っても何の事だかよく分からない。
「あの時、私の魂はシドさんの魂と一体化しました。……ですが、結論から言えば、私の魂が消えたと言うわけではありませんでした。ただ、誰とも話せず、誰にも姿が見られる事が無いだけで。これまでも、私はシドさんとずっと一緒に居ました。シドさんが温泉旅行に行った事も、その先で絶対の七星という方々と戦った事、エイルさんが現れてゲンガー病を治すために悪魔と戦った事。ずっと傍で見てきました。」
「そうか。……見たくも無い物を付き合わせて悪いな。」
「いいえ。色々な景色が見られて私は楽しかったですよ。」
気を使っているようにしか思えない。……もし俺が何かの拍子に死んだら魂が解放されたりするのだろうか。……残念だがそうだとしても俺はそれをするつもりは無い。
「この戦争が始まってより、あちらの方と交戦してシドさんが電撃を受ける度、私とシドさんとの距離が近づいているような感覚を覚えました。」
「距離……」
「私とシドさんの魂は一体化しています。ですからほぼ同じ場所に存在しているのですが、その世界が異なるというだけなのだと思います。ですから何らかの原因でその波長が合致するような事があれば……」
「こんな風にまた意思疎通が出来る……」
「そしてその原因こそが、あの方の電撃なのだと思います。人の体に流れる電気信号に何らかの影響を及ぼしていると考えるのがこの現象に説明を付ける妥当な理由だと……」
「……はっはっは!あんまり専門的な事は分からんがとにかくラッキーだって事だな。流石俺だ。んじゃあせっかくまた会えたんだし、話でもするか。お前だって1人で退屈だっただろ。特別だ。いくらでもお前と話をしてやる。さあ、何から話すか。」
「シドさん……今のシドさんに、そんな余裕は、無いのではないですか……」
……そう。残酷にも、のんきに話している様な余裕は、無い。
「今、シノさんがあの方と戦っています。……シノさんを、助けなければいけません。」
「……そうだな。……その通りだ。」
……だが情けないかな。どうしても奴の電撃をかいくぐって会心の一撃をくれてやることが出来ない。
ある程度奴の電撃を防ぐ手段はあっても、それは攻撃と直結するものではない。
防御から攻撃へと転じると再び電撃の脅威にさらされてしまう。
「あのビリビリの正体はわかりませんが……とにかくシドさんにはあの電撃はとても大きな効果を及ぼしています。」
「……全くその通りだ。厄介極まりない。」
マントを羽織って地面へと電気を逃がしてようやく多少耐えられる程度なのだから話にならない。
「シドさん。今私とシドさんはこうやって意思疎通ができる程になっています。それは魂と魂の結合が不安定になっているという事です。」
「……まあ何となく言わんとする事は分かる。」
「そんな状況だからこそ、もしかしたらあのビリビリを防ぐ事が出来るかもしれません。……私が、あの電撃のダメージを抑えます。そうすればシドさんへダメージがいく事はありません。そうなれば後はシドさんが真っ向から戦うだけです。」
ダメージを抑える、という言い方に俺は引っかかる物を感じる。……軽減、という意味では無く、自分の体で抑えるという感じのニュアンスに聞こえるのだ。
「……それは、お前が痛みを肩代わりするって事じゃないのか。」
「大丈夫です。私の体はもうありません。痛みを感じたとて、それ以上の影響はありません。」
「……」
簡単に言うが、痛みは痛みだ。苦しいし、辛いに決まっている。
第一、あんなに長い事悲しい時間を過ごしてきたのに再び辛い想いをさせるのに気が引けないはずも無い。……こいつには、これまでどれだけ世話になって来たというのか。その恩を、こんな形で仇として返してしまうのか……
「シドさん。そんな事、気にしないでください。」
「……俺の心の声、丸聞こえなんだな。」
「……すみません。嫌、ですよね……」
「まあ、嫌も何もないか。伝わっちまうものは仕方ない。」
「……私は、シドさんがどんな思いでこれまで戦って来たのか、知ってしまいました。……お気楽そうに見えても、心の中でたくさん悩んだり、後悔したり……シドさんも、普通の人と一緒……いえ、もしかしたらそれ以上に苦しみながらここまで来たんだと思いました。」
「……それは思い違いだな。俺は、俺のやりたいようにやってるだけだ。」
「……シドさんが、シノさんをどれだけ想っているのかも……」
「……」
「……ごめんなさい。心の中をのぞき見られるのなんて、嫌に決まってますよね。……でも、私もシノさんを……そして何よりシドさんを助けたいんです。……私を孤独から助けてくれて、お姉ちゃんとまた会わせてくれた事。……あの時は、もうすぐ消えてしまうって思ったから、ちゃんと感謝の言葉も言えず、お礼もしてあげられませんでした。……今、あの時のお礼をさせてください。どうか、私に、任せてください。」
……どうして、俺の周りの奴らはこんな風に義理堅いのだろう。
いやそもそも、俺は既に十分助けられている。返すべき恩があるというのならばそんなものはとっくに返し終わっている。
「……1つ、お前に謝らなくちゃいけない事が出来た。」
「……シドさん。」
「俺と一緒に居たなら知ってるだろうが、もう、リムルの所にお前を連れていけなくなっちまった。」
「……」
ゴーバスへの入国禁止は、リムルの居る場所へ行く事が出来なくなってしまった事を示す。
「お前にしてやれる事はせいぜいそれぐらいだったのに、それすらも出来なくしちまった。……悪いな、お前が命を託した男はこんな男なんだ。」
「……いいんです。シドさん、私は、全部、分かってますから。……シドさんはソーラさんの努力と想いを、守ろうとしただけです。」
「……だからって命を奪っていいわけじゃない。」
「はい。シドさんはしっかりそれを自分で分かっている人です。……そんなシドさんだから、皆もついて行こうって思ってくれているんだと思います。」
「……お前の買いかぶり過ぎだ。……お前の事を思うなら、あんな事はすべきじゃなかった。」
「……もし、私の魂を受け取ってくれた人がシドさんじゃない人だったとして、その人はもしかしたら私をお姉ちゃんの所に連れて行ってくれない人かも知れません。そう考えたら、連れて行ってくれるシドさんがどれだけ優しい人だか私には分かります。」
「……そんな程度の幸せで、お前はいいのか。」
「上を見ても下を見てもキリはありません。でも1つ確かなのは、今私は、幸せな気持ちで居られているという事です。それを与えてくれているのは、シドさんです。」
「……」
「それに、私が何の精霊だと思っているんですか?悲しみの、精霊ですよ。……一時の痛みなんて、ずっと続く悲しみに比べたらどうって事、ありません。」
……そう、彼女は悲しみの精霊だった。
「……消える前にいつか言ってやりたかったんだが、悲しみの精霊ってのはちょっとネガティブが過ぎる。だからいっそ真逆の精霊を名乗れ。笑顔の精霊とか、能天気の精霊とか。」
「……ふふ、そうですね。もし、違う道を歩む事が出来たなら、その時には、そんな精霊に、生まれ変わりたいです。」
「……リコ、俺とお前は、このままこんな風にずっとしゃべったり出来るのか?」
「……分かりません。また何かの拍子で、何も話せなくなってしまうかもしれません。……だからこそ、今この瞬間を大切にしたいんです。」
「……」
俺は、迷っていた。……けど、もう、迷う時間すらなかった。
「ッ……シドさん、シノさんが……」
「……」
時は、過ぎていく。シノの纏っているマントがジハードの剣によって、切り裂かれる。
「……くそ……これで、防ぐ手だてが1個無くなっちまった。あの野郎め……」
「シドさん。……迷わないでください。あなたのやるべき事。それは、シノさんを助ける事。そして、あの方を倒す事……それ以外の事を考えてはいけない。」
「……」
「本当なら二度と話せなかったはずが、こんなに話せたなんてそれだけでも私は嬉しいです。」
「……リコ。」
「……これからも、私はシドさんと一緒です。シドさんの力になり続けます。……時にはポイポイ投げられたり、無残に投げ捨てられたりされても……」
「……ぐっ……あ、あんまり投げられるの嫌か。」
「……シドさん、よく私の事投げますよね。」
「そ、それは……す、すまん。」
いい手が思いつかない時にとりあえず武器を投げてしまうのが俺の癖なのである。
「……なーんて……いいですよ。それで、シドさんの望みが叶うなら。私は、嬉しいです。」
「……リコ、すまねえが、力、貸してくれるか。」
「言わずもがなです。……一緒に、戦いましょう。私も、精一杯頑張りますから。」
この溢れる頼もしさよりも、それに頼らなくちゃいけない自分の不甲斐無さを嘆きたい気分だが、今はそんな事している場合じゃない。
……あの野郎を、ぶっ殺す……!!
……
「……シド様……」
横たわりながらもシノは俺を見る。
……よく、耐えた。助かった。……などとは口が裂けても言えない。
「……待たせたな、後は俺に任せておけ。」
……俺は俺らしく、自信満々な言葉を言っておくのがベストだろう。そんな俺の言葉を受けて、シノはほんの少しだけ、笑った(多分)。
「休憩は十分に済んだのかい。……でも、残念ながら君達の秘策のマントはご覧の通りズタズタにしてしまったよ。……シノちゃんがお小遣いで買ったって言うのを聞いたら凄く心が痛んだけどね。」
「弁償しやがれクソが。」
「……そうだね。この戦いが終わった後、共に肩を並べて戦うその時にねッ!!!」
とうとう意を決して奴は俺へと向かってくる。これ以上、語る言葉も無いか。
「もはや君にこの一撃を防ぐ術は無いよ……ライブソニック!!」
もう、何発見ただろう、そして、何発喰らっただろう。何度喰らっても、慣れることの無いこの技を。
……
「シドさん、もし出来るなら、あの電撃を私で受けてください。」
……私で、と言うのはこの剣で受け止めろという意味だろう。
「出来るなら……か。」
……
「それぐらい……出来るに決まってんだろうが!」
それぐらい出来ねえと、何の為の力なのか分かったものではない!俺は向かってくる電撃の先に剣を構える。
「ぬ……ぐうううっっ……!」
……腕に、鈍い感覚が走る。これは、電撃による衝撃……
「シド様……」
「……これで、終わりだね。」
この戦いの終わりを見据えたかのような野郎の顔。しかし、その顔はすぐに驚愕へと変わる。
……
「リコ……大丈夫か。」
「……っ……だいじょぶです。……シドさん、そのまま……剣をあの方へ向かって思い切り振ってください……!」
……
「……だらああああああッッ!!!!!」
強く足で踏ん張りながら、俺は振りぬく!
その瞬間、俺の剣で食い止めていた電撃が、剣圧の勢いと共にジハードの元へと向かって行った。
「……!これはッ……くっ……はあッ!!!」
間一髪と言ったところか、ジハードは己の剣から再び電撃を出して俺の電撃を相殺する。……あの一瞬でその判断と行動に移れる辺りがあの野郎らしい。
「……シド……今のは……いったいッ……」
ようやく、焦りの表情を見せてきやがった。
「てめえならよく分かってんだろ。俺の相手は高くつくぞ。」
「……ああ。……この時を……どれだけ待った事か……君と……全力で真っ向からぶつかり合えるこの時を!!!」
……こいつにとって俺と戦うという事がそれだけの意味を持っているというのが滑稽だった。
こいつは、俺なんぞに追いつこうとして努力を続けてきたのだろう。
だからこそ、こいつは俺に負けるのだ。
……馬鹿野郎が……




