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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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たとえあなたが独りを望もうと

「シド……どうして行っちゃったのかな。」


「……きっと私が、ドジしちゃったから……どんくさかったから……」


「それは無いよ。」


仮にそうだったら、とっくの昔に居なくなってるはずだし……


だけどどうして行ってしまったのかと言う問いに確かな答えは出せてはいなかった。


僕達に愛想を尽かしたと言う事でもないと思うし、言葉通りライラックが居なくなったからと言うのも違うはず。


……見た目ほど、冷血漢な人間じゃないのを僕は知っているつもりだ。


「……ジハードは、居なくならないよね……」


「……」


「ジハード……」


その縋るような彼女の眼差し。


ライラックを失い、シドも離れて行った。もう、誰も居なくなってほしくないと言う懇願がひしひしと伝わってくる。


「……」


僕が、これから、2人を守っていく。


「……」


いや……違う。そうでは無い。


……もっと、何か違う。


……そもそもこんな悲しい思いをさせてしまったのは誰だ。


結局の所ライラックを守るだけの力を僕が持っていれば、僕達は今も変わらず賑やかに旅を続けていられたに違いない。


……子供だったからなんて、そんなのいいわけにもならない。


……努力が、足らなかった。僕はもっと死にもの狂いで強くならなきゃいけなかったんだ。


いつどんな時どんな状況でも、その力を振るえるように……


1年後、5年後、10年後。もし僕が世界で一番強くなったとしても、それまでに失ってしまった命は決して取り戻せないんだ……


……僕は……これからどうすれば……


……


「なら努力が足らねえんだろ。まだまだ努力しろ。」


……


ふと頭をよぎる、去って行った彼の言葉。


それは、まさしく真理であり、これから僕が歩むべき道を指し示す為の羅針盤のようなものだったのだ。


「……ジハード?」


「……フォニカ、ごめん。僕は、君の頼みを聞く事が出来ない。」


「……」


「ジハード、それってどういう……」


「ごめんね、オルテナ。……こんな状況になってようやく、本当にやるべき事、やりたい事に気が付いたんだ。……僕は、その道を歩もうと思う。」


その言葉を告げた時の2人の悲壮に満ちた顔はいつになっても忘れる事は無いだろう。


「これ、2人に。」


そう言って僕は自分の持っているありったけのお金が入った財布を差し出す。


「何に使おうか使おうかと考えていたら、結構いっぱいになっちゃってたからさ。これから2人がどんな風な生き方をするのかは分からないけど、きっとお金は必要になるだろうし……」


「いらないよ……いらないよジハード……!そんなものくれるぐらいなら……ずっと一緒に居て……私達……また、離れ離れになっちゃうの……嫌だよ……」


「……」


大切な人からのお願いを断ると言うのは、こんなにも、胸を痛めるものなのだと、痛感する。


自分のやりたい事を貫くと言う事は時にこういう事にもなる。


……シドは、いつもこんな思いを抱えていたのだろうか。


「オルテナ。……身勝手なお願いだけど、フォニカの事、頼むね。」


「ジハード……」


オルテナは、それ以上何も言わなかった。


結局お金を直接は受け取ってくれなかったけど、僕はその場にそれを置いていく事にした。


……これから、裸一貫で、生きていく。


そして、僕のやりたい事に2人を付き合わせていいはずもない。


ライラックの言葉を思い出す。


フォニカはこれからたくさん幸せになるんだと。オルテナも同じだ。


彼女達には彼女達の人生が。


シドにはシドの。僕には僕の人生が。


その別れ道が、今日この時だったのだろう。


……


「もう少し空気を呼んでくれる子だと思ってたけど……流石に今のはルール違反じゃないかな?」


「戦いにルールなんてありません……なんて身も蓋も無い事を言うつもりは無いですが、これはそもそもルール違反ではありません。」


「……聞こうかな。君のご高閲を。」


「その前にちょっと失礼します。すすす。」


私は転がっている杖を取りに行く。……こうやって見るとだいぶ痛んでいるな。しみじみ。


「シノちゃん、背中から撃っちゃうよ?」


「わーわー。待ってください。もう終わりましたから。」


すぐさま振り向く。


「……こほん。確かに今の戦いはシド様とジハードさんの一騎打ちでした。私もそう思って観戦してました。」


「そうだよ。僕と彼の決着をつけるための戦いさ。だったら部外者が脇から入ってくるのはダメだよねー?」


「……ですがジハードさんはこうも言いました。使えるものは何でも使うと。それはシド様も同じです。」


「人は、物じゃないよ?」


「……いえ、私は、シド様のものです。だから、私が間に入ったとしても、それはルールの範囲内での事です。」


「……シノちゃんは可愛らしいけど、時折わけのわからない事を言い出す癖があるようだね。」


「自分で言うのも憚られますが、それはいつもの事です。」


「シド。君はどう思うんだい?」


「……」


ジハードさんの会話の相手はシド様へとスライドする。私では話にならないと言う事だろうか。


「僕と君は、あくまで1対1でしっかりと決着をつけるべきだと思わないかい?……シノちゃんが加わって僕に勝ったとて、君は納得できるかい?……僕は君と戦っていて感じていた。やはり君は、全力で僕を殺しにかかっているのだと。……だけど、それはあくまで君自身が僕にトドメを刺すと言う思いが根底にある。……100人で一斉にかかって僕を倒せればいいかい?……そうじゃないはずだ。君は僕に圧倒的な力の差を見せつけて勝ちたいはずだ。……誰かの介入があったんじゃ、それは達成できない。僕の知っている君は、そういう男だ。」


……何となくジハードさんの気持ちだって分からないではない。だけど、私の気持ちをないがしろにされる筋合いなんてない。だが、当のシド様がもしそれを望まないのならば、私は引かなければならないだろう。


「……へっ。余計な真似しやがる。」


それは、きっと私が間に割って入った事に対してだろう。


「すみません……」


「……死なねえ程度にそいつと戦ってろ。俺は少し休憩する。」


「……!!」


「……分かりました。シド様。」


「シド……本気、かい?……君が、こんな大切な勝負を、誰かに任せるって言うのか……?」


「さっきから……分かったような口聞きやがってよ……何が僕の知っている君はそういう男だ、だ。てめえの中の時計はいつまで止まってやがるんだよ。いつまでもてめえの思い出の中の俺だと思ってんじゃねえぞ……!俺は勝つ為なら何でもするし、手段なんか問わねえよ。……それに今シノが言った通り、そいつは俺のもんだ。……間に入って何の問題があるかよ!」


「……!!」


「シド様……」


「……ちょっと足止めできれば十分だ。適当にやれ。」


「……はい。頑張ります。」


……嬉しい。シド様が私を認めてくれた事が。託してくれた事が。信じてくれた事が。


「シド様、マントを貸してください。」


「……へっ。」


シド様はマントを振りほどいて私へと投げつける。……大好きな、大好きな匂い。


「って、そんな感慨に浸っている場合ではありません。すすす。装着完了です。」


「……シノちゃん、命の取り合いに割り込んできたんだから、覚悟は当然出来ているんだよね。」


「無論です。マントを纏い、武器を手に、更にはシド様の応援と愛を受け取った今の私はスーパーシノちゃん2号並です。そう簡単に倒されるつもりもありませんし、あわよくば勝っちゃうつもりですらありますとも。」


「……2号、ね。……後悔するよ。ライブソニック!!」


「……っ……」


避けられない。


……だけど、ダメージは大した事は無い。いやむしろ、この間よりも、威力が落ちている……


「……微動だにしないね。……流石に間隔が短すぎたか。」


ジハードさんの語っている言葉が何を指すのかは分からないが、とにかく、チャンス。


「行きます。」


得物を手に接近する。


「……近接戦で僕に勝てると思わない方がいいよ。」


「そんなの、承知の上です。えい。」


「……」


軽々避けられてしまう。


「僕の流儀でね、女性の肌に付ける傷はなるだけ1つにしたいんだよ。」


「たしか、前に聞きました。」


「……致命傷は避けるけど、その寸前ぐらいは覚悟していて欲しいね!」


「ッ……」


ジハードさんの剣は真っ直ぐに私の胸元目がけて向かってくる。


「おとと……」


……突き攻撃はかわすのがとても難しい。特にリーチの長い人が相手だとなおさらに。


「……君と戦うのは、気が引けるんだよねー。……僕の力は、本当はこんな事の為に使う物じゃないんだからさー……」


「……ジハードさん、どうして攻めないんですか。もっとガンガン攻める事だって出来るはずです。」


「……シノちゃんは、責められるのが好きなのかな?」


「……えい。」


「……やれやれ、つれないね。」


私が攻撃を繰り出しては避けられ、見事なカウンターを放り込まれる。それを私は命からがらかわしてやり過ごしている。


……やはり、そう。


こんなものがジハードさんの本気なはずはない。さっきのシド様との戦い通りに攻めて来られたら私なんてイチコロだ。だけど今私は何とか生き永らえている。


……その答えは単純。ジハードさん自身が言っていた。傷を付けるのはなるだけ少なくしたいと。


そんなに長くジハードさんと一緒に居たわけでもないから察するぐらいしか出来ないけど、この人はきっと凄く真っ直ぐな人。自分の言った事に責任と誇りを持つ人。


彼がそう宣言したならば、きっと彼はそのルールを守ってその中で戦うだろう。そんなジハードさんだからこそ私が乱入した時に物申したのだろう。


そういう意味ではある意味これもまたジハードさんの私に対する全力なのかもしれない。


そうと分かれば……この戦い、私は勝つ必要はない。ただ、ジハードさんの必殺の一撃を耐え続けるだけ……


「……っ。」


まただ、ジハードさんは私に攻撃が当たる寸前、その威力を弱めた。だから私は避ける事が出来る。


ジハードさんが狙っているのは私の胸部。そこを刺し貫く事で一撃にて勝負を決する事が出来るからだろう。


でも、だからこそ狙いが分かっているから攻撃も単調にならざるを得ない。


そして私だって相手がどこを狙っているかが分かればそこへの攻撃を外させる事ぐらい出来る。


「こんな途方も無い戦いを、いつまでも続けるつもりかい?」


「……途方も、あります。」


「シノちゃん、聞かせてくれるかな。」


戦いの最中だけど、ジハードさんはやや攻撃の手を緩めつつ、私に会話できるだけの余地を与える。


「シドにとって、君は何なんだい?……そして、君にとってシドとは、いったい……」


「そんなの、一言で語れる様なものではありません。」


きっと戦いの最中、この会話はシド様には聞こえてはいないだろう。


「……大切な、とても大切な人です。……そして、とても大好きな。」


「……シドも、そう思っているのかな。」


「……そんなの、分かりません。」


そうであってほしいと、いつも思っているけど、そんなの、分からない。


「どうしてそこまで。」


「……シド様は1人で頑張り過ぎてしまうからです。」


「そうだね。確かに、シドはそんな人だね。」


「シド様は言ってました。自分は1人なら最強だと。」


「シドらしいね。」


「……私が側にいる事でシド様の迷惑になってしまいます。いつも足を引っ張ってしまって。」


だからこそ、私は飛び込んできたのだ。私の力を加える事でシド様1人で戦う力より高い力が生み出せないなら私がいる意味なんてない。


「……私は、決めたんです。」


……


「私達、二人で……強くなっていきましょう。」


……


どんな事があっても、私は側にいると。


力になってみせるのだと。


「私達……2人で強くなるって……決めたんです!」


……


シド様は私を独りぼっちの檻から助け出してくれた。


1人でどうすることも出来なかった私の手を強引に引っ張ってここまで連れて来てくれた。


おかげで今私は、少なからぬ人達のお世話になりながら生きている。


私はそれを幸せだと感じてる。


……だけど、実はそのシド様自身が、誰よりも孤独なのではないかという考えに行き当たるまでには長い時間がかかった。それまでの私は他人の事など考える余裕も無く、自分自身が生きるので精一杯だったのだ。


シド様の孤独は私のようにどうすることも出来ないからやむを得なしになってしまったものではない。


シド様は、自らの意志でそれを望んでいるように思える。


どうしてそんな風にシド様が思うのかは分からない。


けど、それはとても強い決意。


シド様は確固たる信念の元に自ら孤独であろうとするのだ。


だから、シド様は、1人ならば自分は最強だと豪語出来る。


……だけど、自分で選んだ道だから孤独でいいなんて、そんなの……私は寂しい。


付いてくるなと、邪魔だと言われても、私はシド様の側に居たい。……居てあげたい、せめて私だけは。


それが私を助けてくれたシド様への償いであり、私の偽らざるこの胸の想い。


私なりの……愛。なんて口幅ったい事を言えてしまうのはこれが私の頭の中だからだ。


きっと伝わらないとしても、それでも私は……


……


「……きっとシドも君の事を信頼、してるんだろうね。」


「え……」


その時の打ち合いは、命の取り合いなどでは無く、ジハードさんが何かを私に優しく語りかけているかのようだった。


「……僕の知っているシドは、あんな姿を見せてはくれなかったからね。……でも、それは僕達が信頼するに値しない人間だったからなのかもしれない。」


「ジハードさん……」


……その言葉を言った顔は、とても、寂しそうだった。


「……だけど、彼に、君と言う信頼できる相手が出来て嬉しくもあるかな。……ありがとう、シノちゃん。」


「……」


……その言葉を言った顔は、とても、優しそうだった。


「そして……これで、終わりだよ。」


ジハードさんの渾身の一撃が……来た。


「ッ……」


これまで通りに、私は身を翻して避ける。


だが、ここからがこれまでとは違った。


ジハードさんは更に私に追撃の一振りを加えようとする。


「……あっ……!!」


もっと早く、その行動に思い当たるべきだった。


ジハードさんが、私の身に着けているマントを……一閃にする。


「……流石の君でも、これは厳しいはずだよ。……スピア・ザ・ライトニング。」


冷たく無機質な声。この戦いの無情さを物語るかのような。


「……!!」


……マントと言う防御手段を失った私の体に容赦なく、痛みが走る。


「……たくさん、お小遣いを使って買ったマントが……」


「……破った僕が、謝れないね。……悪く、思わないでくれ。」


……立てない程ではない……でも……だけど……私は、倒れてしまう。


「……し……シド……様……」


「……」


……どうして、ジハードさんは、そんな顔をするんだろう。……やっと、私を倒したのに。


どうして……そんな辛そうな顔を……


「……」


……私は、しばし、横たわる。


意識も遠のきかけるが、視線の先に居るシド様の顔を見て、どうにか耐える。


「……シド様……」


「……」


その顔、その目は、私に雄弁に語りかけていた。


待たせたな、後は俺に任せておけ、と。


「……待たせたな、後は俺に任せておけ。」


……ふふ、当たった。


……少しは、時間を稼ぐ事が出来ただろうか。


役に立てただろうか。


その結果を、私は1番近い特等席で見る事が出来る。


……シド様が勝つその瞬間を……

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