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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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素早く、手早く、そしてなるだけ面倒でないように

「霧が晴れる頃には、全てが終わっている事を願うばかりですな。」


向こうからはこちらの姿は見えず、こちらからは好き放題攻める事が出来る。


一方的な攻撃。


これほど楽で素晴らしい事もそうそうない物だろう。


面倒くさがりな彼にとってはまさに究極の到達点とも言えるものだったかも知れない。


……


「急に霧が出たと思ったら……」


「……やっぱり何も見えませんね。」


それはあっという間だった。ジワジワとこの場全体をどんよりとした物が包んでいったのだ。


これを使う人間の心当たりは1人しか居ないのだが……それにしてもこれまで以上に強烈なように感じた。


まず密度が濃い。そして、いつまでこれが続くんだという程に。


「……っ……あ……っ……!」


「っ……っ!!!…………ッ!」


……そして時折薄ら聞こえてくる何かの声。どことなく悲鳴やら断末魔のようにも聞こえるのだがこの霧の影響かしっかりと聞き取る事が困難なのだ。


「……ヤバいな、これは。」


「……シド様……」


「……」


せめてシノと離れないようにその手を握っておくので俺は精一杯だった。今この期に及んで俺が感じる事が出来るのはこの小さな手だけ。後は何も見えない。何も分からない。


後どれだけこの状態が続くのか。不安が無いと言えば嘘だった。


「(……あいつがやってるんだろうが……大丈夫なんだろうなこれ。)」


……


「……いかんな、これは。」


後方にて指揮を執る彼女にもその異常事態は明らかだった。そしてその身でそれを感じていた。


何も見えない。誰がどこに居るのかも全く分からない。


せめて壁を背にして背後を取らせないようにするのでやっとだった。


「(指示を飛ばそうにも……どこに誰が居るのか全く分からん。)」


それどころか並大抵の声ではこの霧にかき消されてしまい何も届かない有様だった。


「(幾度となくこのような霧を出されたが……ここまで厄介な物は初めてじゃの。……完全にやられた。わっしがいくらどんな指示を出そうともこれでは伝達できん……しかし、視界が遮られてしまっているのは向こうも同じはず。……同じじゃと……思いたい。)」


否、同じではない。


……


確かにシド達やアグリアなど第5軍の正規の兵士でない者達はこの濃霧に立ち尽くしているが、元々エッケルノの直属の部下達はそうでは無い。


「……」


ある第5軍の兵士の1人が、ゆらゆらとヤシャマの兵士の背後から近寄る。しかし、それに気が付く事など出来ず、ただ、右往左往するだけ。そんな相手の息の根を止めるのは、いとも容易かった。


「がっぐうぅ……!!」


誰に気付かれる事も無く、粛々と兵士達は無防備な相手を打ち倒していく。


この濃霧が5分、10分、20分と限りなくどこまでも続く限り。


「この拠点の規模、それに皆の働きぶりを考慮すると、そろそろいい頃合いですかな。……それにしても、我ながら恐ろしい。いや、本当に恐ろしいのはあの薬でしょうな。彼女にもう少し分けてもらえればと思いますが、それは流石に他力本願が過ぎるという物。後で調達出来るかどうか尋ねてみるとしますかな。」


ここらが潮時だろうと、エッケルノは霧の発生を停止させる。


ようやくの事だ。次第に視界が晴れてきたのは。


「……ふむ。どうやら、見込み通りだったようですな。」


視界良好。彼はしっかりとした目で戦場を見る。


そこには明らかに大勢のラズリード軍が立っている姿、そして代わりに地に伏すヤシャマ軍の兵士達のなれの果てがあった。


……


視界が開けたその時には、全てが終わっていた。


「な……なんだと……」


「これは……いったい。」


あれほどの大軍が、もはや見る姿も無く、倒れていた。


「シド様……私たち、勝っちゃったんでしょうか……」


「……どうやら、そうみたいだな。」


……にわかには信じがたいが、目の前の現実はそうだと雄弁に語っている。


「ちょ、ちょっとシノー!シドー!」


「あ。アグリアさんです。」


「ようやく見つけた!……ねえ、これって、どういう事?まさか……そういう事?」


「……じゃねえのか?」


「……まさに煙に包まれたような話って感じ……」


「エッケルノさん、どこかに居るはずですよね。」


「無事で何より、ね。……カラマが言ってたの、もしかしてこの事だったのかしら。」


「どういう事だ?」


「……何が何だか若干アタシも混乱してるし、とりあえず全員合流してから話しましょ。それにきっと本人から聞くのが一番いいわよ。」


ごもっともな話だと思い俺達はひとまず集まる事にした。


「どうやらヘマはしなかったようだな。」


「霧で、何にも、見えなかった。」


まずカラマ達と合流。


「お前達、無事だったか。」


「ご苦労でしたな。とりあえずこの場所は占拠できましたしよかったよかった。」


……そしてこいつらも健在だった。


「エッケルノさん、無事だったんですね。」


「?もしや、心配をかけましたかな?」


「1人だけ戻って来ないんじゃそりゃあ心配するわよ。」


「……彼女達は私の安否を知っていたはずなのですが。」


そう言って奴の視線はカラマ達を見る。


「どうした。」


どうしたじゃねえだろうが、しれっとした顔して。


「……みんな思ってる事だろうから俺が言うんだが……知ってたんなら言えよ。」


「ああ、そうだな。まあ、終わった事だ。気にするな。」


「……カラマさん、そんな性格でしたっけ……」


よく分からん奴になったな。それとも素はこんな中身だったりするのか?


「……まあ、何はともあれ無事に終わったようで何よりですな。」


「それにしても、いったいあの濃霧の中で何があったわけ?全然見えなかったのにいつの間にか敵は全滅してるし。」


「言いませんでしたかな。私の部下達は霧の中でも動けるように訓練をしていると。」


「ああ……何かそんな事も言ってたような気がする……でも、他の人より多少見える程度かと思ってたんだけど……」


「見くびってもらっては困る。我々が常日頃から鍛錬をしているのは何も戦闘面だけではない。隊長の魔法をより効果的に運用するためにはあの状況の中でも動けるようにするのが何よりだ。故に、視界の悪い状態でも我々にはどうという事は無い。」


「じゃあ……アタシ達が身動き取れない間に、グラフィカさん達が敵をやっつけたってわけ?」


「よくやってくれましたな。……これで少しは楽になった事でしょう。」


「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたします。」


「……つーか、こんなやり方出来るんなら、いつでもこうやればいいじゃねえかよ。」


「ごもっとも、と言いたいのですが、普段の私の魔力ではこれほど大規模な霧を生み出す事は出来ませんな。あれだけの事が出来たのは、彼女のおかげです。助かりました。」


「まあ、頑張ってくれたから、良し。」


野郎がお礼を言った相手はノノノンだった。……何があったのか俺にはさっぱりだが。


「ですが、どうやらあの薬の効き目もそろそろ終わりのようですな。同じ事は出来そうもありません。」


「仕方ない。あれだけの魔法、そう何回も、使えない。」


「ですがほぼ無傷でこの拠点を押さえる事が出来たのに加え、敵将まで捕える事が出来たのは大収穫です。」


「敵将?」


「ペレストロイカ将軍です。あの動乱の中では流石の彼女も為すすべなかったようですな。」


「ペレストロイカ……名前は聞いた事あるな。確か女だよな。」


……女。


「……良からぬ事を考えておりませんか?」


「いいだろ、顔を見るぐらい。」


「あなたの場合それだけで済みそうな感じがしないのですよ。」


「それはその通りだろうな。この男は相手が美人だと分かると獣へと変わり果てる。」


「何を!?」


「でも、私達も少し会って話をしてみたいのですが……駄目でしょうかエッケルノさん。」


「……まあ、話をするぐらい減る物ではありませんしな。」


そして奴に連れられた先にその人物は居た。


「ほほーう。……これはこれはなるほど……ふむふむふーむ。」


「……シド様、どこを見てるんですか。」


「全体的にな。……ほほう。これはこれは。」


全身ロープで縛られ、目隠しをされているので厳密に断言する事は出来ないが、9分9厘可愛い。


「良い!この子は可愛い!俺の美的センサーがそう叫んでいる!」


「はいはい。分かったから。」


「……何やら騒がしいようじゃが、一体どうなっているのかの。」


彼女は喋り出す。捕まっているとはいえ、あまりおびえた様子も無く、むしろ落ち着いたような態度だった。


「ペレストロイカ殿……で、間違いないのですな?」


「……違う。……と、言ったところで無意味か。いかにもじゃ。将軍などと一応肩書はついておるが、ただの人間じゃ。」


「ご謙遜を。この戦いの中であなたの戦術に何度も苦しめられてきました。あなたは相当に恐ろしい人物ですな。」


「よく言う。雰囲気で物を言うが、おそらくおんしがあの霧を生み出したのじゃろう?……あんなもの使われてはこっちもお手上げじゃったよ。……まいったまいった。」


「運が良かっただけです。そして、部下達が私に応えてくれた。それだけですな。」


「……大した信頼関係じゃな。……手こずるわけじゃ。」


呆れたような、感心した様な態度でそう語る。


「それで?これからわっしはどうなるんじゃ?……まあ、ここで命を奪うか、はたまた交渉材料にでも使うかといった所じゃろうが、生憎皆のお荷物になるつもりは無い。いよいよとなればわっしは命を散らすのも辞さんつもりじゃぞ?」


「……さて、どうしたらいいと思いますかな、皆さんは。」


振り返って俺達へとそう問いかけてくる。


「殺す……というのはどう考えても短絡的過ぎる。有効なカードとして使うべきだろう。」


「でも、それをしたらペレストロイカさん、死んじゃうって言ってます。」


「……ブラフ……ではないだろうな。」


「わっしは本気じゃぞー!」


一見して軽い口調だが、これまでの戦いでヤシャマの人間の意志や決意の重さは身に染みている。おそらく本気なのだろう。


「あなたは、どう思いますかな?」


「俺か。……うーん……まあとりあえずその娘は俺の物にするとしてだ。そう考えると身柄は丁重に扱わなくちゃいけない。うん。」


「……」


「あなたらしい、回答ですな……予想通りです。」


可愛い娘を適当に扱うわけにはいかない。俺はペレストロイカの元へと寄って行く。


「ん?なんじゃなんじゃ。」


そして俺は、彼女の目隠しを外す。


「うおっ……急に何をするんじゃ。眩しいではないか。」


「……やはりな、俺の思った通り、いい女だ。」


「……何じゃお主は。」


「俺はお前の運命の男だ。俺の顔をよーく覚えておけ。」


「……ラズリードは、随分とアホを飼っておる様じゃな……」


「否定できないのが悲しい所ですな。」


「ペレストロイカさん。初めまして、私はシノと言います。こちらはシド様です。」


「ほう。まだこっちのお嬢ちゃんの方がよっぽど話し相手になりそうじゃな。……まあ、そうは言っても敵の相手に話す内容など大体知れておるが……」


「……実は、特に話す内容も無いのですが、一応挨拶をしておこうかと思っただけでした……」


「……」


「……」


「……そうか。まあ、それはご丁寧にな。わっしがペレストロイカじゃ。」


「はい。」


「……もうそろそろその辺でいいだろう。目隠しをさせろ。」


「む。断る。目を隠しているとせっかくの可愛さが半減する。断固拒否する。」


「……どこまでアホなのだ貴様は。もういい、俺が付ける。」


結局再びペレストロイカは目隠しをされてしまった。もったいない。


……


「さて、問題はこれからどうするかですな。」


まだ陽は高い。


「ここまで来てしまうと、後は首都ガイアルラへと攻め込むまで1つの街を残すだけです。」


……まだ、間に合うのだ。


「幸い損害も少なかった事だし、まだ攻め込むのは可能だと思うわ。」


「レーグレースだ。……今からレーグレースに攻め込むぞ。」


「……そう言えば、そのような事を言っていたな。……貴様がそこまで急ぐとはよほど何かがあるのか?」


「いけすかねえ野郎が、居やがる。だから、俺がぶっ殺す。」


「……いいでしょう。どちらにせよ、私達に退路と言える退路はありませんからな。進むも戻るもいばらの道ならば、見返りが大きい方を狙うとしましょうか。」


奴へと至るまでの道は既に開かれた。


……正直な話、今回の戦いは俺はまともには戦えてはいない。


だからこそ、レーグレースで今度こそ決着を付けなければならない。


じゃないと俺が口だけの男になってしまう。いつまでもそれではせっかく築き上げてきた物がどんどん崩壊してしまう。


……待ってろ。ジハード。今度こそてめえをあの世に送ってやる……!!

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