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シドとシノの大冒険  作者: レイン
430/1745

死神を討て

いかに敵を追いつめるか。


追い詰めるためには敵の策を全て潰す必要があった。


あらゆる面に置いて敵の先手を打つことによって敵の戦闘意欲を失わせる事でミスを誘わせる。そこまで出来れば後は勝手に向こうから弱ってくれる。


カラリーサの戦い方はまさにそれだった。


敵の奇襲攻撃の際にはそれよりも早く奇襲をかけ、敵が逃亡する時にはそれよりも早く退路を塞ぐ。


どうしてそんな事が出来るのかと彼女の元で働く兵士が尋ねたが、彼女自身も確固たる根拠を説明する事が出来なかった。


だからただ一言。


そんな流れを感じるからです。


と、普通に聞いたらオカルトめいた言葉を返した。


だが、彼女が感じるその流れとは、全体を把握して、これから先どのような展開になるかという未来予想図が頭の中に浮かんだ末での結果が見えるという意味であり、それは決して超常現象の類では無く、彼女の経験則と予測に基づくもの。


そして、ここまでの結果を顧みても、その信頼性は確かな物だった。


彼女が望む通りに状況は変化していく。


それが王の資質の一端。彼女がその気になれば人類の頂点へと立つ資格を持つ人間となり得るのだが、それは今は関係の無い話。彼女がそれを望まない限りは。


……


先に襲い掛かったのはヴィダールだった。鎌を振りかざしながら4人へと走り出す。標的は特に決めてはおらず、ただ刃の餌食になれば誰でもよかったのだ。


しかし今にも襲い掛かってくる相手に彼女達は動じない。


「ふふん、バカな男。」


そう口にして、ノノノンはその手を翳して魔法を撃つ。


「封縛。」


「ッ……!」


ヴィダールは、驚き、硬直する。


それは相手の自由を奪う魔法。とても高度で且つ、強力無比な彼女の専売特許のような物。これがあるからこそ、カラリーサ達は何の恐れも無かったのだった。


「悪いが私達は4人がかりで戦う事をなんの卑怯とも感じない。持ちうるすべての方法を駆使して貴様を殺すだけだ。」


薄く笑みを浮かべながら語りかけるカラマ。


「そーいう事。……さっさと終わらせるわ!」


次の一歩を歩みだそうとする形で硬直している彼に対してセフシアが攻撃をかけるべく駆け出す!


この封縛魔法にかかっている限り身動きは取れない。相手の技量やレベル、他には術者との距離によって若干の効き目の差はあれど、ノノノンの手ごたえはバッチリだった。セフシアが攻撃を加えるまでの時間動きを止めておくのは造作も無い。そう感じていた。


「ところが……どっこいなんだな、これが!!」


「えっ……!!?」


ノノノンの力に絶対の信頼を置いていたからこそ、セフシアは予想だにしなかった。ヴィダールが再び動きを開始するなんて事は……


「セフシアっ……!!」


「……くっ……これは流石にまずいって……!!あ……ぐッ……!!!」


大鎌がセフシアの体を捉える。


「刃を外したか。」


が、その体が切り裂かれる事は無く、長い柄の部分がぶつかっただけであった。どうにか体勢をよじって致命傷を避けたのである。


「っくぅ……痛ぁッ……」


だが、斬撃では無く打撃になっただけで、痛いのには変わらない。苦悶に顔を歪める。


「それ以上やらせんッ!!」


二の刃など当てさせるものかとカラマが瞬間に飛び込む。


「そう言えば、お前の命預けていたな。献上しに来たか。殊勝な考えだ。」


「戯言を……抜かすなッ!!!」


刀を手にカラマは斬りかかる。リーチの長い鎌相手にカラマは手数で追い詰める。


「……どうして、効かない。私の、封縛……」


今この瞬間だってノノノンはヴィダールに魔法をかけ続けている。だが当の本人は何もなくカラマと戦いを繰り広げている。


「考えられるとすれば、身に纏っている物がとても魔法耐性の高い物であるか、あるいはその人間自身が生まれつき魔法耐性が高い……」


「違うな、違うなべっぴんちゃんよぉ!そいつの魔法はちゃーんと効いてるんだぜ?」


「……!……さっきから聞こえてくるこの軽薄な声は、カラマが言っていた……」


「死斬月。」


「ぐっ……しまった……!!!!!」


彼は以前の戦いでも使ったあの三日月の剣筋を見せる。カラマはまたしてもその技に刃を手折られる。


「……あれが、リバイズ……」


「じゃーじゃじゃーん!!ご名答よ!なんだなんだ、俺ってばだいぶ有名みたいだなぁ。」


「……話には聞いてたけどっ……本当に喋る武器があるなんて……」


「おまけに死神だ!……もちろん、お前達全員を冥途に誘うなぁ……!」


どこを見渡しても口など付いていないが、やはりその辺りから声が聞こえてくる以上リバイズが喋っていると決めるしかなかった。


「……あるいは、腹話術?」


「だーれが腹話術だタコ!つーかこいつにヴィダールにそんな一芸無いっての。」


「……こいつ、口悪すぎ……どこかの誰かより下手したらムカつくわね。」


「どうして、私の封縛が……」


苛立つセフシアもともかく、ノノノンは未だ狐につままれたような感覚に陥っていた。一体何がどうなっているというのか。


「まったく効かないというのなら、最初の硬直だっておかしい。途中で何かが、変わったとしか、思えない。」


「ああ、効いてたぜぇ。ヴィダールには、な。」


「……その言葉で理解できた気がします。……ノノノンの魔法は確かにヴィダール将軍には効いていた。……ですがその大鎌リバイズには……」


「超!大正解だぜ!……俺はこいつの体を自由に動かせるんだよ。だからヴィダールの動きを止めた所で、代わりに俺が体を動かせばなーんの問題もありやしねえ!どうだよ!俺ってば凄すぎだろうし!ヒャハハ!!」


「……いい気になってベラベラ喋ってるけど、あんたバカじゃない!?だったらノノノンに無理して貰ってそいつとあんたごと動きを止めてもらえばいいだけよ!そうでしょノノノン!」


「……」


ノノノンの表情は、重い。


彼女は今の話を聞いた瞬間からリバイズにも魔法をかける事を試したのだった。だがしかし……


「バカはそっちだ!小娘ちゃんよ!まあ、そっちのはちゃーんと理解してるみたいだからなぁ……言ってやれよ、俺っちにはお前さんの魔法は効かねえってよ!」


「う、嘘よ!そんなの!」


「……確かに、その通り。さっきからかけてるけど、ご覧の通り。」


ヴィダールが能面の面の様に無表情なのと対照に体はすいすいと動き回っている。


「あの武器はああ見えて、おそらく物凄い力を持った武器。自ら意思を持つ武器、それは恐らく魔力の塊のようなもの。魔力に対して魔力をぶつけても、それを打ち消す事が出来ない程に、強力な。」


「……そ、そんな。」


4人の中で一番魔法に精通している彼女の言葉だからこそ、皆理解する。その言葉が嘘偽りなく真実であると。


「おおかたその魔法が俺達を倒すための奇策だったんだろうが生憎だったなぁ!てめえらの運命はここでみんな仲良く並んであの世行きだぜぇ!!だがせめて天国には行けるように願ってやるよ!なあヴィダールよぉ?」


「だが、ここまで強い人材の命を奪うのはどうかと思っている自分も居る。死とは、命を奪うだけには非ずだ。」


「……どういう、事よ。」


「俺はお前達に死を与える。だが、抵抗しないならば、命を奪わずに死を与えるという事も出来る。……お前達の在り方に死を与えるというやり方がな。」


セフシア達は彼の言う言葉が抽象的過ぎてイマイチ何を言いたいのかピンとこなかった。


「生きるとは、自分の想いに従って動き続ける事。その想いを変えさせて新たな道を歩む事。これもまた、死と呼ぶ。……そして同時に、誕生でもある。」


「何を、言いたいのですか?」


「お前達のその力は、とても貴重で頼もしい物だ。お前達は不本意かもしれぬが、我々に力を貸す選択をしたならば、その命はこの世界に留まり続ける事だろう。俺は命を奪いはするが、無意味に奪うつもりは無いのだから。」


投げかける選択。


それはまるで平和的な論者のように。……だが、そんなものは彼女達にとっては偽りだった。


「……上から物を言ってくれる。」


「今貴様が交渉など出来る立場にあるとでも思っているのか。」


そう、むしろヴィダールを追いつめているのは4人。


「そっちが、白旗上げるって言うなら、ともかく……」


「降伏しろなどという申し出……受け入れられるはずなどありません!」


4人の考えは初めから同じだった。


彼女達は自分達が手を組んでいる人達の正義を信じて、ここまで共に歩んできた。


多くの命が志を胸に散っていった。その命1つ1つの重さを考えれば、自分達が降伏など出来るはずも無かった。


「分かりあえないというのは、残念な物だ。ならやはり、ここで命を天に還すしかないらしい。」


「……私達は、死んだ人達の命の重さを知っています。そして、自分達がそれを背負っている事も。……いつか命散らす時が来ようとも、それは今この瞬間では決してありません。」


「その志、敵ながら、気高いと感じてしまった。死に逝くお前の、名前を聞かせて欲しい。」


敵である相手に、そんなこと教える義理などカラリーサには当然無かった。それにヴィダールも戦いの中で何度か彼女がカラリーサと呼ばれている事は知っているため厳密には名前は知っているのだ。


ただ、彼女自身の口から、それを語って欲しいという申し入れだった。


「カラリーサ……アスポート……」


何の気まぐれか、彼女は自らの名前を口にした。カラリーサとしか呼ばれなくなった今、自らの名前を呼ぶ事になどなるとはきっと思っていなかっただろう。


かつて、彼女が幼き頃幸せだったその頃の名を。


「感謝するぞ。これで心置きなく、お前達を死なせる事が出来る。」


そういうと彼は鎌を構える。


「……みんな、行きますよ!!」


「「!!」」


彼女の力強い号令に、3人は奮起する。そして察する。4人で、目の前の相手を倒そうという彼女の意志を。


それを3人は、心から嬉しく思った。


「冥利に……尽きるというものだ!!!」


「まずは、貴様からか。」


カラマが2刀目を取り出して斬りかかる!だが、その動きはヴィダールには見え見えである。


「っ……また、懲りずにか。」


だからこそ、ノノノンの技が、必要なのだ。真正面からの攻撃ですら対応できないようにするために。


「カラリーサの頼みなら、どんなものでも、瞬間、了承。そこから、動くな。」


表情には出さなくとも、その言葉の雄弁さが語っていた。いつにもましてノノノンの魔法は強力だった。完全にヴィダールの動きを封じ込める程に。


「学習しねえなあ!だから俺が居るんだってえの!!」


しかしそんなノノノンの想いをぶち壊すべくリバイズが唸る。そして、ヴィダールの体を自らが動かす。


「あなたこそ、学習したらどうですか。私達は、4人で戦う為に、ここに居るんだという事をッ!!!」


「!!!?」


遂に、カラリーサの鞭がうねりをあげて敵目がけて襲い掛かる。


「その鞭……飾りかと思っていたが、そうではないようだな。」


ヴィダールの目にはカラリーサは指令塔で戦闘面に置いてはからきし用をなさないと思っていた。


……だが、そこは大きな間違いである。


「(カラリーサ様の鞭は……)」


「(とても、強力。)」


カラマもノノノンもかつてその美技に見とれてしまう程に、美しい軌道を描きながら敵へと向かって行く。それ自身が美しき舞を踊るかのように。


「シャープワインダー!!」


「ヒッヒヒ!!……って、早ッ!!!しかも……避けられ……」


そう、避けられない。その速度に、その軌道の読めなさに。


「……なんて、な!だったらぶった切るまでよぉ!!おっしゃあああああ!!!!」


焦った表情を見せたのもつかの間……いや、厳密にはリバイズに顔は無いのだが……ともかくそれはリバイズの演技だった。打つ手なしのように見せかけておいていとも簡単に技を破る手だてがあったのだ。


ただ、向かってくる鞭を自らの刃にてぶった切るという手が。


「……」


「って……あらら……どこ行ってんだよ!!」


しかしそこはカラリーサ、早い判断で、放った必殺技をいとも簡単に手元へと引き寄せてしまう。もちろん自分の鞭が切られてしまうからである。


カラリーサの一連の動きは囮。いくらリバイズがどれだけの視野を持っていようと、全てを同時に見切る事など出来ないと考えての。


「死神の命……取った!!」


空いた隙を狙ってカラマの攻撃が迫る!


「そーいう事か……させるかバーーカが!!!」


だが、ヴィダールも、そしてリバイズも2手、3手を読むぐらいはお手の物。そこまで読んだ上で隙を見せたのだ。


「死斬月だ、こらぁッ!!!!」


「……」


ノーモーションに近い速さでカラマに対して必殺技を見舞う!この近距離ではいかにカラマと言えど避けるのは容易ではなかった。


しかし、カラマが何もせずともその攻撃は空を切った。


「……お、おろろ……?」


そのあまりに間抜けなリバイズの声は攻撃が外れたからではない。他の要因によるものである。そしてその要因が、カラマへの攻撃を外させたのだった。


「セフシアが、男の人を、抱きしめる姿なんて、とても、珍しい。」


ノノノンの呟いた言葉通りの光景がそこにはあった。


セフシアがヴィダールの背後から抱きついている。それはまるで恋い焦がれる彼氏にまだ傍に居て欲しい……そう、懇願するかのような乙女の……


「とあああああああああッッ!!!!」


「!!!!」


……乙女の仕草には程遠く、セフシアは全霊の力を込めてヴィダールの体を締め上げるッ!!初めてヴィダールが明確にしまったという顔を見せる。


「なっ……!こ、これはまずいぜヴィダール!こ、こいつは……!」


リバイズが代わりに体を動かそうにも、動かせない。ノノノンの魔法では無く、セフシアによって物理的に動きを封じられているこの現状では。


「……稲妻断空うううぅぅぅぅッ!!!!!!」


そのままさらに一層の気合を込めて彼女は叫ぶ。自らのフィニッシュホールドを放つため!


「落としいいいいッッ!!!!!」


心のままに、ただ、相手の体を掴んだまま、後方へと体を反り、相手の頭部を地面へと思い切り激突させる。


「……がッ……な……!!!!!」


これまでに味わったことの無い衝撃と痛みが己の体に走ったヴィダールは、血を吐き、そのまま意識を失う。それと同時に、その手に携えていた大鎌リバイズも地面へと落ちる。


……稲妻断空落とし。


シノが元々居た世界ではこれをジャーマンスープレックスと呼んだ。


セフシアの得意とするスキルは柔術のはずなのだが、果たしてこれを柔術と呼ぶのかどうかは甚だ疑問である。

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