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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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誰だって。

「これを抜けば大丈夫そうですね。……すす。」


「おーっ。やるねシノ。じゃあアタシはこれを……すーっと……ほい、次っ。」


「……あの、最低男の、命を、引き抜くように……すー……」


「むー……だいぶ厳しい事に……ええい……じゃあこれっ!!!……すう……っと……せ、セーフ……」


「……」


「カラリーサの番だよっ?」


「……考え中です……あそこを抜くのは……」


思案するカラリーサを離れたところから優しい眼差しで見守るのはカラマ。……そして、シド。こちらは未練がましい目で見つめている。


「くそう……俺のゲームなんだぞ……なんで俺が参加できないんだ……」


「貴様のような汚れた男とゲームの卓など囲めるわけがないだろう。ゲームに紛れて何をするか分かったものではない。」


「ぐぐぐ……俺のウインドの塔が……」


ちなみにウインドの塔とはまず小さな一つ一つのピースを塔の形に組み上げてそのピースを一つ一つ抜いていき積み重ねていく。見事最後までクリアすれば最初とは違う形の城が出来上がるというゲームだ。


「……本当は私達も遊びに興じている場合ではないのだがな。」


・・・・・・・・・


ゲームが始まるちょっと前に時間は遡る。


「待ち時間なんだし、ゲームでもやろうよ。シド、ゲームたくさん持ってるよね。ちょっと貸してよ。」


「ん、おお、まあいいぞ。これで貸し一つちゃらな。」


「ケチっぽい!!そんな男どうなのかな~……」


「……」


「ねえねえ、一緒にやらない?みんな一緒にさ。」


ちょっとKYっぽくもあるが、図々しいぐらいの生き方をするのが自分の信条だとアグリアは信じて疑わない。


「……」


一緒に戻って来たものの、流石にそれは完全に本流からずれる事になる。自分達は自由に遊んでいられる立場などではいけない。……許されない。


「どれで遊びましょう。」


シノはとりあえずいろいろ広げてみる。……一人、とあるゲームに惹かれた者が居た。


「あ、あれ、ウインドの、塔……」


「何なのそれ?……パズルか何か?」


「だいぶ前に、売り出されたけど、ほとんど出回らなくて……気付いた時には、プレミアになってた……」


「ほーう。見る目があるな。まあ俺は先見の目があったから発売して速効買ったのだ!!」


「……よこせ、最低男。お前なんかが持っていたら、このゲームが、可哀そう……」


「よーし、ならお前が俺のものになると誓えばいつでもこのゲームは遊び放題だ。」


「馬鹿でしょあんた!?そんな事であんたなんかのものになんかなるもんですか!?私たちの受けてきた苦しみをなんだと思ってるのよ!!?そうでしょノノノン!?」


「……うぐぐぐぐ……卑怯な……最低男……ぐぐぐぐ……」


「なんで悩むのよー!!!」


……思わぬ方向へと話は盛り上がっているシド様達は喧喧囂囂と言った様子で……カラリーサさんはうかない顔のままだ。


「……あの……」


何か言葉をかけようと思うの……だが。……なんて言葉を続ければいいのだろう。そもそも、彼女達は、私に対してあまり快い感情を持っていないのではないだろうか。状況が状況とは言え、再び遺跡へとやってきてしまいまたも約束を破ったのだから……その気持ちをぶつけられたら……顔には出ないかもしれないが、たぶん結構傷つくだろう……でもそれを承知の上でやったのだから、それは仕方がない事なのだが……


「カラリーサ、で、合ってる?」


「?……え、ええ。」


「ちゃんと名前聞いてなかったからさ。アタシはアグリア、あ、2回目だった。よろしく~。」


ちょっと強引ながらも握手を求める。手を出すその手に、カラリーサの手が、差し伸ばされる。


「……貴方にも、助けていただきましたね。……今更ですが、ありがとうございました。」


「あーいいっていいって。アタシはアタシの為に頑張っただけだったり~?でももし恩に感じてくれてるなら、一緒に遊ぼうよ。」


「……いえ、感謝はしているのですが……私達はそんな気分では……」


「じゃんけん。」


「えっ?」


「じゃんけん。ぽん。」


「え、えっ。」


カラリーサはあっけにとられるも反射的に手を出してしまう……チョキだ。アグリアは……グーの形。


「おっ。アタシの勝ち~。じゃあ一個言う事聞くって事で~、一緒に遊ぼうよ~。」


「……」


苦笑いしつつも、どうしようかまだ葛藤していた。もっとも先に比べれば大分その心は揺らぎつつある。最期の一押しがかかる。


「……やられてはいかかですか?」


「カラマ……」


「気分転換も……必要です。……奴と全力で戦うため、精神を回復するためにも……少し気を張り過ぎて詰まってしまうよりは良いかと思います。……という理由では、おかしいですか?」


「……いえ。……ありがとう。カラマ。」


自分の事を慮ってくれたカラマの気持ちを想うと、それを無下に出来ない気持ちがカラリーサを変えた。


「あはは。やるよね。」


「……じゃんけんで負けたのならば、仕方ありません。……やりましょうか。……アグリアさん。」


「さんはいらないけどね。アタシはカラリーサって呼び捨てにしちゃうよ?あ、じゃあアタシが勝ったら呼び捨てで呼ぶって事にしようよ。」


「そんな事しなくても、呼べますよ。……あ、アグリア……」


……


「……さん……」


「あっはっは。こりゃあ勝つのが楽しみだね~。」


……


……二人は出逢って間もないのに、打ち解けあった。アグリアさんが心を開き、カラリーサさんはそれに答えた。分かりあうとは、こういう事だ。……踏み出す勇気も出せない私には……誰かと分かりあうことなど、きっと出来ないのだ。


……踏み出せなかった自分を悔やむ……でも、踏み出していたならそれはそれできっと後悔していたのかもしれない……私の道はどちらも茨の道だ……ならば進まない事は?……その時は今自分を取り巻く茨に苦しめられるだけだ。


……私が入って行ける場所など……ない。それはどの世界へやってきても一緒だ。踏み出さない事が変わらなければ、自分の世界は何にも変わらない。……変わっていないのだ……


世界が……自分が、遠くなっていく気がする……


「シノ……お前も、やるのだろう?」


「……え?」


その言葉が、私を現実へと引き戻す。……初めて、カラマさんに名前で呼ばれた気がする。


「……ゲームと言うのならば、人数が多い方がいいだろう。……違うのか?」


「……いえ、たぶん、そうだと思います。」


「なら、参加するといい。」


「……」


……皆の前で聞くことも出来ない。そんな勇気も耐えられる心の強さも無い。だから、今、聞いてみる。……傷ついたとしても、それは仕方がない。……仕方ない……


「……私の事……恨んだり……嫌ったり……して、ないですか?」


「……私が、か?」


「……カラマさんも、カラリーサさんも……セフシアさんも、ノノノンさんも……です……」


「……」


本当は、私なんて見たくもないのかも、話したくもないのかもしれない。ならばいっそそう言ってほしい……


……本当に、そうだろうか……そんな言葉を言ってほしくて私は聞いているのだろうか?……きっと本当は違う。自分の予想通りならば傷は少ない。必要以上に傷つくことを恐れて、そんな風に思っているだけなのかもしれない……


そうだとしても、私が本当に言ってほしい言葉をかけてもらいたいならば、私はそれなりの行動や誠意を見せなければならなかった。……自分がその位置へと到達していない事は私が一番よく分かっている……


彼女達の積み上げてきた生活の場所を脅かし、嘘をついて、そして約束を破ってきてしまった。……遺跡の中でだって、私は役には立っていない。……居ても居なくても、支障はなかったのだ。……何にも出来ていない人間には、何も与えられる資格はないのだ……


でも……でもッ……


そんな風に、分かっていてもッ……


「……遺跡では、お前に、助けてもらった。」


「……何にも……出来て……いません」


「……私達を、助けに来て、くれたのだろう?」


「……」


「あの時敵だった私が後ろから魔物に襲われそうになった時に、お前は知らせようとしてくれた。」


「そんなの誰にだって……出来ます。」


「……あの場所に居たお前だから、出来たのだ。あの時私はお前達の命を奪おうとしていたのだ。助けないという選択肢もあった。だが、お前は私へと助け舟を出した。」


「……そんなの……当たり前……です。」


「なぜ、当たり前なのだ?」


「……大切だから……です。カラマさんも……カラリーサさんも……みんな、みんな、私が出会ってきた人達が大切……だから……」


「……」


「ッ……」


……久しぶりに……流す……涙、なんて……この世界で、初めてかもしれない……何の涙だか、自分でもよく分からない……


「……小さいなりをしているのに……小さな体でそんなに抱え込んで……全く……」


……なでなで……


頭を、撫でられる……そんな事されたら……もう一筋涙が頬を伝う……こういうのは一度流れ出すとなかなか閉まりきらない物なのだ……


「……お前からしてみれば急に私達のルールを押し付けられて、納得などいかなくても無理はない。……だと言うのにまさかそんなに自分を責めて苦しんでいたとはな。……顔に出さないから分からなかった。……すまなかったな。」


私は……そんな言葉……言われる……筋合いなんて……あるわけ、ないのに……


「お前はお前のやれる一生懸命をやってくれた。共に戦い合ったのだ……それぐらい分かる。……あの男には絶対に言わないが、あの男もカラリーサ様を救うため、精いっぱい戦ってくれた。あのアグリアと言う冒険者もだ。……その気持ちが伝わらない私達ではないつもりだ。……カラリーサ様達を助けてくれて、本当に……ありがとう。シノ。」


……私が、本当に言ってほしかった言葉は、憎しみでも恨みでも悲しみでもなく……嬉しい気持ち。喜ぶ気持ち……幸せの言葉、だったんだ……


ちょっとだけ惜しいのは……やっぱりその言葉を受け取るべき人は、本当は私ではなくシド様やアグリアさんだと、いう事だ……まだ私は頑張りが、足らない。……後ろを只ついていくだけでは、その資格は手に入れることは出来ない。……やれる一生懸命……それを、もう少しだけ超えることが出来たなら、私はカラマさんの言葉を、素直に受け止めていいのかもしれない。


「……ぐすっ。」


「……大丈夫か?」


「はい、涙は、止まりました。ぐすぐす……」


「ふふっ。ならいい。幸い今の会話も、私しか聞いていない。お前の泣き顔も、私しか見ていない。」


「……出来れば皆さんには秘密にしてくれますか?」


「ああ、約束しよう。」


……死ぬまで。その命の鼓動が尽きるまで。少しずつでも私は、強くなれるだろうか。強くなることは死から遠ざかることだと思っていた。でも……後悔しないために、一生懸命生きる事。それも死を迎えるために必要な事なのかもしれない。……少なくとも、今この瞬間に死ぬことは絶対にしたくない……


……


それぞれの葛藤を胸に抱きながらもウインドの塔で遊ぶ事になった。……持ち主は抜きで。


「なんでだー!!!」


「貴様は私と遠くから観戦していろ。妙な動きをしたら殺されても文句は言えん……」


「……あんたとゲームなんて出来ないし!!」


「男が、このゲームに、加わるな、ウインドの塔が、泣く。」


「いやー……多数決でシドは不参加って事で~……まあしょうがないね~またの機会って事で~」


「こんな絶好の機会をみすみす見逃せるものかー!!!」


「……ええと、シド様は私の指テクニックを見ていてください。わしわし。」


「それなら俺の指テクニックだってだな……!!!」


「往生際が悪い。ノノノン。」


「にやり、封縛。」


「うがっ!!!……ひ、卑怯だぞ……」


「いいから来い。……それでは、カラリーサ様、頑張ってください。」


「……ありがとう。カラマ。」


・・・・・・・・・


というわけだ。


「何が、と言うわけだ。だ!!!納得いかんー!!!あんなに楽しそうな場所に混ざらないなんてアホ丸出しだろうが!!」


「……シノを……」


「あん?」


「……あの子を、大切に、しろ。」


「……どういう意味だ。」


「……何かを失ってからでは、遅いという事だ。」


「……」


「あの子は強い。……だからこそ、守ってやらなくてはならない。」


「……何だ急に。」


「……貴様は最低なロクデナシ男だが……それでもあの子を守ってやれるのは貴様だ。」


「……」


「それだけだ。」


「(んな事……分かってるに決まってるだろうが……)」


自分の心は相手には伝わらない。彼が胸に秘めている想いは、彼が口に出さない限り、一生伝わらないかもしれない。だが、彼はそれでいいのだ。……そうやって生きてきた。そして、これからもそれは変わらない。……きっと変わらない。

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