ジハードの誘い
電撃を地中に埋めるとはさしもの俺も思いつかなかった。
だが分かってしまえば簡単な話。奴が電撃を撃つ瞬間を見計らってそいつを地面に逃がしてしまえばいいのだ。そう、こんな風に。
「ぐ……」
……だが、俺の体にはこれまでと変わらず、あの衝撃が走る。
「ぐ……ああ……ああッッ!!!」
「シド様!!」
……ば、馬鹿な……
電撃は、俺の体から剣を伝って地面に逃げるはず……
「……どうやら、さっきの自信は根拠のない自信だったようだね、シド。」
地面に逃がすって……こういう事じゃ……ねえのか……よ……
「がっ……はっ……」
俺は……またも情けなくぶっ倒れる。……これで、何度目だよ。
「シド様!!」
……また、不安そうな顔、してやがる。
「どうやらグラム将軍から話は聞かなかったんだね。……まあ、当たらからずとも遠からずなのは流石だけど、そのやり方じゃあ防げないよ。」
「……そうでも……ねえ……ッ!!」
……俺は、ビリビリ来てる体を無理やりだが、立ち上がらせる。
……そう、立ち上がらせられるのだ。
「……へえ。」
「……シド様……大丈夫、なんですか……?」
「……ったりまえだろうが。」
ちょっと虚勢を張るが、確かに俺はこうして立てている。
という事は全てのダメージを防ぐ事は出来なくとも、ある程度軽減する事は出来ていたという事……俺の理屈は100%間違っていたわけではない。
電撃は電撃。その一部は体を通り抜けて俺にダメージを与えたものの、同時に地面へと流れ込む事で一部のダメージをシャットしたのだ。だからこうやって立ち上がれた。
これに加えて今シノが付けているマントを身に纏えばッ……
「分かったよ、シド。……けど、やっぱりこの場所での決着は僕達には相応しくない。それにふさわしい舞台を、用意しようじゃないか。」
……いい所で話の腰を折ってくる奴だ。
「舞台……」
「レーグレース。首都ガイアルラから1番近い街の名だよ。そしてその場所にはおあつらえ向きに戦闘場があるんだよ。まあ、僕達ヤシャマ軍の人間が実戦形式の訓練を行う場所なんだけどね。……君がそこに来る事が出来たら、お望み通り、僕と君との決着を付けようじゃないか。」
「なるほどな……分かりやすくていいじゃねえか。」
「君ならそう言うと思っていた。僕は君をそこで待つとしよう。ただし、期間はこっちで決めさせてもらうよ。……こんな僕の独断で決めたワガママずっと通すわけにはいかないからね。……まあ、明日一杯までがリミットだね。それを越えたら僕はヤシャマ軍の将軍としてラズリードと戦うさ。」
……時間的には、厳しい。今日侵攻に失敗した足で、再度その場所を落として電撃的にすぐ次の場所を責めていかなければならないのだから。
だが、これはどう考えても絶好の機会。普通ならばまず降りてこない敵の頭とも言える奴が直接対決を受け入れるというのだから。
「……へっ。何のメリットも無いとか言ってたのは何だったんだかな。」
「だから僕が勝ったら僕の言う事を聞いてもらうよ、シド。」
「……そういう事かよ。」
「僕が勝ったら、ラズリード軍を降りて、ヤシャマ軍に力を貸してほしい。……ラズリードに居た君が仲間になってくれたならば、その声に耳を傾けてくれるラズリードの人達だって現れるだろう?それに君はフィータ王女とも何かしら交流があるようだ。上手く君を引き込めれば、この戦いを穏便に終わらせられるかもしれない。……そう考えれば、じゅうぶんなメリットのある戦いじゃないか。」
「都合よく勝った時の事ばかり考えやがって……」
「その為に、ここまで強くなったんだからね。……君に直接対決では勝てない。だけど僕は違う力を得た。仲間達の力、魔剣の力……使えるものは全て使って君を倒す。今度こそ、全力でね。」
「俺が約束を、守るような男だとでも思ってんのか。」
「守ってくれないって言うなら、強硬手段に出るかもね。……シノちゃんを人質に取ったり……」
「……」
「……ふふ、やっぱり、シノちゃんの事を話す時は君の目が一層鋭くなるね。それってつまり、そういう事なのかな?」
「……俺が勝ったら……てめえを、ぶち殺す。」
「……君がそれを望むなら、致し方ないね。」
目を瞑ったかと思うと奴は剣を鞘に納める。そして、地面に置いた水筒を掴んでシノへと投げつける。
「ありがとねシノちゃん。水、美味しかったよ。」
「……ジハードさん……」
「……じゃね。」
奴は身を翻すと、来た方向を歩いて行く。……いつしか姿は消えていた。
あの野郎、仲間を呼びに行く事だって出来るだろうに……性格的に絶対そんな事しないだろうと分かっていた。
「……シド様、レーグレースに、行くんですよね。」
「これは、チャンスだ。」
ジハードの奴をぶっ殺せれば、ヤシャマ軍に大打撃を与えられる事は間違いない。俺が、勝ちさえすればいい。
「……そのためには、一旦エッケルノさん達と合流しなくちゃいけませんね。私達だけではレーグレースにはたどり着けません。」
地図を見てもそれは明らかだった。
「……あいつらも流石に集合してる頃か。」
痺れが切れるまでそこで休んでから俺達は奴らが待っているであろう合流地点へと向かった。
……
「随分と遅かったな。どこかで道草でも食っていたのか。」
「うっせえよ。」
着いた頃には日も落ちてしまっていた。今すぐに進軍するというのは全く持って無理な話だった。
「明日もう1回攻めに行くぞ。そんでその後すぐにレーグレースに行く。」
「……敵の本拠地近くの街に進軍するという事の意味をしっかり理解しているんだろうな。」
「もう、そこまで行ったら後戻りも出来ねえって事だ。」
「……今日の戦いでこちらの戦力は大きく削られた。この戦力で本拠地まで駆け抜けるなど勝算が低すぎる。一旦退いて戦力を整えた方が得策……」
「時間がねえんだよ。……ぼやぼやしてられねえ。」
「……」
呆れたような表情を見せてくるが、ずるずる行ったところでどうなるというのか。攻められるチャンスが舞い込んできたならそれを利用しない手などない。
「そう言えば、エッケルノさんはどこですか?」
「……隊長は、戻っていない。」
「あ?……どういう事だ?」
「……どうもこうも、そういう事だ。」
「あのオヤジが、帰ってないだと……?」
「まさか……敵に……」
捕まった……あるいはもう既に……
「隊長の事だ。みすみすやられるという事は無いだろうが……とにかく現状では隊長と連絡が取れない状況にある。こんな状況だというのに進軍など、出来るわけがないという事だ。」
「……シノ、行くぞ。」
「シド様……まさか……」
「おい貴様……こんな夜にどこへ行く。」
「決まってんだろ。俺達だけででもレーグレースに行くんだよ。てめえらヘタレと一緒にチンタラ行動してられっかよ。」
「無茶を言うな!今日の戦いで分かるだろう!我々全軍で戦ったとて落とせなかったのだぞ!ましてやレーグレースは更に強固な守りを有しているだろう。たった2人で落とせるはずも無い!故に、そんな許可は出来ん。」
これだから、組織に属するというのは面倒なのだ。
「そうかよ。ならてめえらとの付き合いもこれまでだな。俺はラズリードから抜ける。だから好きにさせてもらう。」
「馬鹿者!少しは頭を冷やせ!何の策も無しに行く事など出来んと言っているのだ!……貴様は少し、相手と話す為の努力が必要だ……」
「……」
「……しかるべき作戦があれば、考えない話ではないと言っている。貴様の悪知恵であの場所をどうにか出来るというのならば……それに勝算を見いだせると判断したならば……貴様の案に協力しても構わないと言っているのだ。」
「グラフィカさん……」
「……ちっ……ちょっと待ってろ。」
俺はその場を後にするが、とりあえず特攻するのはやめる事にした。
……いよいよとなればそうしなくもないが、もっと楽な手段があればそれに越した事はない。
……
気分転換にアグリアの所に行ってみる事にした。
「あー、シド達やっと戻って来たのね。まさかとは思うけど道に迷ってたとか?」
「そのまさかで迷っちゃいました。」
「まあ、しょうがないわよねえ。あの濃い霧の中じゃあ四方八方塞がりって奴だもの。」
霧……。
「でもエッケルノさんが戻ってないのだけ心配ね。……まあ、あの人しっかりしてそうだからどうにか1人でも大丈夫だとは思うけど……」
「……どうせ、行ったら退けないってんなら、一緒か……」
「?シド?どしたの?」
……気分転換のつもりだったが、どうやら早速次の手が思いついたようだ。……いつも通り、行き当たりばったりの危なすぎる手だが……
……
気分転換など出来ないまま、再びあんにゃろうの所へと戻ってきた。
「何だ?妙案でも持ってきたのか?」
「……あのオヤジの霧で、強行突破する。」
「……」
「アレを使えば向こうは視界不良になってこっちの姿を追えなくなるはずだ。」
あそこは通り道であって落とさなければならないという場所ではない。
「奴らを振り切って真っ直ぐレーグレースに……」
「流石にそれは了承できない。……短絡的過ぎる。そして、衝動的過ぎる。」
……普通の感性をしていれば、そうなるだろう。
「その作戦が成功するためには、霧で敵がこちらを見失っている間にどうにか敵陣を突破してその足でレーグレースに突撃するという事だ。……越えなければならない偶然が多すぎる。そしてそれを乗り越えた先に待ち構えている壁が厚すぎる。……何より貴様が戦略に組み込もうとしている霧を生み出せる隊長は未だ行方が分かっていないのだ。それに仮に見つかったとしてもあの技を再び使える程体力が回復しているかどうかは分からん。……焦る気持ちは分からないでもないが、落ち着く事だな。」
……その言葉を聞いて、少し自覚する。
俺は、焦ってるのか。……このままのんびりやっていては、何かが間に合わなくなってしまうという事に。
ジハードとの戦いもそうだ。
そして俺はあの時すぐに戦いを終わらせてやると宣言した。
それら全てが、もうすぐ間に合わなくなってしまうのだ。
……自分で言った事の責任が、取れなくなってしまう事を、俺は恐れている……
それが、何かを背負ってしまった事で生まれた責任。
自由にやっていた頃には決して感じる事のなかったプレッシャー。
……俺は……
「何をふぬけた顔をしている。お前らしくも無い。」
「……お前は……」
その声は、俺を叱咤するかのように突然訪れた。
「カラマさんっ……」
「私も、居る。」
「ノノノンさん……」
「何も考えず勢いだけでやってきた男が、ああでもないこうでもないと策を巡らせたところでどうなる。悪知恵が働かないならばいつものように力づくでやる他ないだろう。……違うか?」
……そう。カラマの言う事は、その通りだった。
「カラマさん……どうしてここに……カラリーサさん達は……」
「カラリーサ様とセフシアはここには居ない。今日今しがた戦いを終えて私達2人はお前達の救援に向かう様にとカラリーサ様から命を受けてはるばるとやってきたわけだ。」
「どこかの、バカ男達が無謀にも敵陣に真っ直ぐ向かっているって言うのを聞いて、仕方ないから私達が、助けに来た。」
「だというのに、随分と消沈ムードでがっかりだな。これでは急ぎ来た甲斐も無い。」
「……確かお前達は、ティーグア方面の制圧に向かっていた。そしてその場所には敵のヴィダール将軍率いる軍が居たはずだ。まさか戦いの最中だというのにここへと馳せ参じたというのか。」
「それについて、報告がある。助けに来たついでの、報告……いや、報告ついでの助けに来た……?」
「どちらでもいい。とにかくもうティーグア方面の戦いに関しては気にする必要は無くなった。」
「……それは一体どういう意味だ。」
それを受けて、カラマは語り出す。自分達がここに来るまでに何があったのかを。
……
ティーグアの街にて、カラリーサ率いる軍と、ヴィダール率いる軍の戦いが連日に渡り行われていた。当初こそ、戦場に出た経験が浅いカラリーサが不利かと思われていたが、ふたを開けてみれば何の事は無く、カラリーサは一方的に敵を翻弄し、手玉に取って見せた。
王の資質。彼女はそれを存分に利用して戦った。
……そして、とうとう互いの雌雄を決するまでの状況へと今日至ったのであった。
「ここまで俺を追い詰めるとは……よほど死を恐れぬようだな。」
「命知らずな嬢ちゃん達には俺達が灸を据えてやるぜェ!ヒャハハハ!!!」
淡々と喋るヴィダールにけたけたと笑う大鎌リバイズ。
「そんの鎌うるさいのよね!さっさと壊してやるわよ!」
「女の魂が4つ……ここで冥界へと誘われる。……覚悟するがいい。」
「くだらんな。1度死を乗り越えて今ここに立っている私達に、今更何を恐れる事があるものか。」
「さっさと、終わらせる。……私達、4人で。」
そして最後にカラリーサは強く宣言する。
「ヴィダール・サースン……今ここで、あなたを倒します。……あなたの言う、死とやらを乗り越えて!!」




