お前は、俺の敵
「ここまで来れば大丈夫でしょうか。」
「どうだろうな。」
どこまで逃げたとて敵の領地には違いない。いっそ安全な場所などもとより無いとも言える。
「皆さんとも、はぐれちゃいましたね。」
「自分の身ぐらい自分達で守れるだろ。」
合流場所は既に決まっている。さっきのとこに攻め込む前に落としたあの……
「なんだか疲れちゃいましたね。」
「……まあな。」
……俺の耳の近くでさっきからシノの声が聴こえている。
「つーか、いい加減降りろよ!」
「いいじゃないですか、せっかくの機会だから堪能させてください。」
こいつ本当にズルく生きる術を学んできたな……いい事だけどよ。
俺に背負われてて疲れたもないもんだ。
「有事にはすぐ対応しますから。」
「ああ、そうかよ。」
生返事で答える。魔物が襲って来たら俺の代わりに思い切り戦ってもらわにゃ。
「……やっぱり、強いですね、ジハードさんは……私じゃ全然歯が立ちませんでした。」
「まぁ、お前よりは強いからな。仕方ねえだろ。」
「……結局ギンガさんに、頼ってしまいました。」
「……ああ。」
それを言ったら、俺だってそうだった。
俺など剣を交えてすらいない。
どうしてもあの電撃を不意に喰らってしまうとアウトなのだ。俺の対処法はあくまで真っ向からの打ち合いになった状態で使えるであろう方法だし。
「……こんな事言ったら、シド様、怒りますか?」
「聞いてもいないのに怒るかどうかなんて分かるか。」
「……私達、本当に、勝てるんでしょうか。」
「……」
「……ごめんなさい。変な事、言ってしまいました。」
……シノは、ここまで自分達の勝利を信じ続けてきた。それは、俺が勝てると断言したからかもしれない。
だが、ここに来てシノは俺の言葉に疑問を持ってしまったのだろう。
ようは、俺がこいつを信じさせられるだけの力を見せてやれてないからだ。
だから、不安になっちまったんだな。
「……勝つ。」
「シド様……」
俺は、こいつにだけは、俺がそんな程度の男だとは思われたくなかった。
「俺はジハードの野郎をぶっ潰す。そして、この戦争にも必ず勝つ。」
こいつの中での俺は怖いもの無しの最強のイケメンなのだ。
「……私、シド様を信じます。いえ、信じてます。……これからも信じ続けます。」
……それからしばらく、俺達は無言だった。
……
それから更に歩く事30分。どうにか敵にも魔物にも出会う事無かったが、実は方向がよく分からなくなっていた。
だって現在位置が分からん。分かるような物が無い。雰囲気で歩くしかないわな。
「……おっ、なんか泉っぽい泉があるぞ。」
「泉っぽい泉は泉じゃないでしょうか。」
「泉かどうか分からん。だから泉っぽい泉だ。」
「なるほど、勉強になります。」
俺もアホならこいつもアホだな。誰も見当たらないので休憩がてらそこで体を落ち着ける事にした。
「よっこいしょ。」
俺はどかっと座り込む。
「よいしょよいしょ。」
俺の背中でそう口にする。
「いや、座ったんだからお前は降りろよ。」
「むー……シド様の背中好きです(すりすり)。」
「わーったから降りろ(ひょい)。」
そこまでやってようやく背中が軽くなった。
「お水汲んできますね。」
「おう。」
泉の中心には噴水らしき物があり、絶えず水を噴射し続けていた。ヤシャマの建築物なのだろう。
シノは小さな体で泉の水を水筒に汲んでいる。
「……あんな小さな体でまぁ。」
……そう、あんな小さな体のあいつに俺はまた助けられてしまった。
これは男として情けないと感じなければならない。
なのでこれを一気に挽回する為にはやはりめちゃくちゃ活躍する事だ。そうすれば全部ちゃら!全て丸く収まる。
「シド様冷たくて美味しいお水です。」
「さんきゅ。……ぷはー!美味いな。」
「お代わりたくさんありますからね。」
水にそんな言い方するのもこいつならではな感じがして少し愉快だった。
「ここは何という場所なんでしょうか。」
「地図出せ地図。」
「すすす。」
……さて、さっき戦ってた場所からそんな遠くも無くヤシャマの領地の中の泉はと……
「神仙の泉、だよ。」
「……!?」
……馬鹿な……
声が聞こえたと言う事はそれなりの距離に居たという事。だと言うのに俺が気がつかなかった?
「あ……あなたは……」
シノは表情を変えずに青ざめる。
「やあ、シノちゃん、さっきぶりだね。」
その軽口の主は言うまでもない。
「……ジハード……」
「この泉の水は傷によく効くんだよ。他にも頭痛や肩こりとかにもね。女の人なんかはここの水を使った化粧水を使うと肌の潤いがよくなったり、ここの水で焚いたお風呂に入るとバストアップに……」
「そんなくだらねえ話しに来たわけじゃねえだろ。」
「……私は出来ればもう少し聞きたいのですが。」
「どうせでまかせの嘘だろ。水ぐらいでそんなの変わるか。このペテン師が。」
「人聞きの悪い事言わないで欲しいなぁ。まぁ、確かに後半の方はちょっと誇張したけどね。でも女性は綺麗になろうとしたら自然と綺麗になっていくものだからあながち間違いでも無いんじゃないかな?」
それをペテンって言うんだろうが。
「ジハードさん……どうしてここに。」
「ここはヤシャマ領なんだからどちらかと言うとシノちゃん達がここでくつろいでるのが本当はおかしいんだけど、まぁそれはいっか。待ち伏せ……なんて言えたらカッコいいんだけど、たまたま休息がてらここに来たら、ね。本当によく出来た運命だ。」
「……てめえ、いったい何を考えてやがるんだよ。」
「?」
いまいちピンと来ていないようだが、奴は俺達の背後から現れた。つまり背後から奇襲できた状況にありながら敢えて自分の存在を気づかせるような事をしてきたと言う事。
「……俺をおちょくってやがるのか。」
そうとしか、考えられなかった。
こいつにとって俺は大した相手ではない。いつでも手を下せる程度のそんな感覚。だからこそこんなやり方をしているに違いない。
「……ちょっと、水を飲んでもいいかなー。僕も喉渇いちゃってね。」
「はぐらかすんじゃねえよッ!」
「……お水なら、こちらをどうぞ。」
「ああ、ありがとうシノちゃん。」
俺の言葉など意に介さず。シノから渡された水筒に入った水をぐいと飲み干す。
「……ふう。美味しいね。」
「それは、よかった……んでしょうか……」
何がいいものか。こいつは敵だ。そんな奴が利する事に何のいい事など無い。
「これが、僕の答えだよ。シド。」
「あ?」
「君は僕がどうして全力で君を叩き潰さないのかって思っているんだろう?今この瞬間だってこの剣を1度振りかざせば2人共倒せるのに……って。」
「……」
「けど、さ。全力って、そもそも何かな。敵って……どこまでを敵って言ったらいいのかな?」
「……何をわけ分からない事を。」
「僕は、君達を本当の意味で敵だなんて、思ってないんだよ。」
「じゃあなんで、戦争なんざやってんだよ。」
「戦争を行う理由は、ラズリードを倒す為さ。けど同時に、ラズリードを救う為でもある。」
このわけのわからない論法は何度も聞いた事があった。
「……人類の、統一……ですか?」
「そうだよ、シノちゃん。これは人類が1つになり、手を取り合う為の戦いなんだよ。少なくとも僕達ヤシャマの人間にとっては、ね。」
……時折、こんな事を言う奴らと出会ったりもしたが、まさか国単位でこんな事考えてやってるなんてこっちは考えたくも無かった。
「それは、魔物と戦う為……ですか?」
「そうみたいだね。」
「そうみたいだと?」
「実は僕達は、厳密に詳細を聞いたわけじゃないからね。今後魔物は必ず我々に対して脅威となり、災いをもたらす。だからそうなる前にこちらから打って出て魔物を駆逐するって言う話だよ。」
「……馬鹿げてるぜ。」
「フィータ王女も、同じ考えに至ったんだろうね。だからこんな戦いが起きてしまった。まあ、仕方のない事さ。」
フィータにとっては自分達の権利と立場を守る為と言う意味合いもあったのだろうが、これで分かった。
「馬鹿げてるのは、てめえら全部だ。そんな戯言を真に受けてこんな大掛かりな戦いをおっぱじめるなんてよう。」
「……ジハードさん、魔物達が襲ってくると言う確証めいた物は何かあるんですか?」
「さあ、どうだろうね。少なくとも僕は知らないかな。」
「……ヤシャマの人間は揃いも揃って馬鹿ばかりかよ。何の証拠も無しに……何でそんなもんの為に戦える!」
「信じてるから、だよ。……ガイアルラ様を、ね。」
その目は、マジだった。こいつは心からそう言ったのだ。
「証拠が無いから、信じられない、か……けど、信じられる人が言った言葉なら、証拠なんか無くても、信じられるだろう?」
「……何?」
「ガイアルラ様が、何の考えも無しに、ここまでの事を起こすなんて僕には思えない。もし理由を話す事が出来ないのだとしても、そこにも必ず理由がある。話す事が出来ない理由が、ね。……みんなそう思っているから、戦えるんじゃないかな?」
「……てめえは信じてるんじゃねえ。自分で考えてねえだけだろうが!その方が楽だからそうしてるだけだ!てめえも!他のヤシャマの連中も!たった1人の妄言にどこまで踊らされればてめえ自身の馬鹿さ加減に気がつくんだよ!?」
どう考えても、ありえない。
この地上に居る魔物達がどれ程群れを成した所で人類に太刀打ちできる物か。大体そんな力あるなら時期を待たずしてとっくの昔に俺たち人類は敗北しているだろう。魔物達が伏して待っている意味が無い!
「僕がやりたいのは、君達と剣を交える事じゃない。……こんな風に、相手から差し出された一杯の水を、素直に受け取る事なんだよ。」
そう言うと再び水筒のふたに水を注いで一杯を飲み干す。
「……もし、この水筒の中身が毒だったら……なんて事考えたら、普通は飲めないよね。」
「……」
「けど僕は信じているのさ。君達を、ね。戦いこそすれど、それは憎いからじゃない。僕達は根底では分かりあっている。それを伝えたいから、戦っているんだよ。僕にとっての全力とは、戦っている君達を完膚なきまでに叩き潰す事なんかじゃない。むしろ、君達と分かりあって、共に肩を並べる為に努力し続ける事なんだよ。英雄と言う肩書は、その為にこそあったのだと僕は思う。英雄ならば、国と国を結ぶための懸け橋になれるかもしれない。皆は僕にその役割を期待して、その名を授けてくれた。……だからシド、君も僕達と一緒に……」
「黙れ……」
「……」
「黙れ!!てめえの綺麗ごとに耳を貸すつもりなんかこれっぽっちもねえ!色々言いくるめてとどのつまりは降伏しろってんだろうが!いいか!てめえらが魔物共と戦いたいってんなら勝手にやってりゃあいいだろう!けどなあ、少なくともラズリードはそんな事望んでねえんだ!なのにそんな相手に力づくで迫ろうなんてやり方、こっちが認めるわけねえだろうが!」
「……シド、どうして君は、そこまでして、戦おうとするんだい?そんなに、僕の事が憎いのかい?」
もはや誰が憎いとかそんな問題では断じてなかった。
「てめえが、俺の敵だからだよ。」
「僕達は相手が憎いから戦うのかい?いいや違うよ。憎むべき相手かどうかを知る為に……戦わなくてはならない。それが側から見れば愚かだとしても……その過程を乗り越える努力をしない限り人は、同じ事を繰り返すだろうね。相手を知る為……時には命を落としながらそれでも戦う。けれどその現実から逃げてはいけないと僕は思うよ。それは思考放棄、動かないという選択なんだから。だから僕は君達とだって戦う。でも憎いからじゃない。相手を知り……そして戦いのなかで僕を知って欲しいから……相互理解……それは一つの人類の到達点とは捉えられないかい?互いを知る事で世界は拡張され、認識出来る領域は大きく広がるんだよ。確かに、君の敵意に僕が応えれば、この場所は今すぐ戦場に変わる。……でも、もし互いが話し合う意志を持ったならば、この場はただの神仙の泉でしかない。そこで語らいあう人間にとってそこは戦場じゃない。……君は、自ら戦場である事を望むのかい?」
あーでもないこーでもないとぴーちくぱーちくとコイツは昔っから……こういう奴だ……!
「てめえと俺が出会うような事があればそこは昔話をするような場所じゃねえ……戦場だ!俺はてめえをぶち殺す!それ以外にてめえとの関わりを持つ事なんてありやしねえ!」
「……」
腹を割って話すなどより、煮えくり返った腑に溜まった怒りをぶつけ合うのが俺とコイツの関係……!それ以外など必要無い!
「抜きやがれ……ここでてめえを……ぶち殺す!!」
だが、奴は、動かない。
「……個人的にはその申し出を受けてあげたいけれど……ダメだねそれは。僕にもそれなりの立場がある。こんな何のメリットも無いような申し出は受けられない。……いざとなれば僕は仲間を呼んで君達2人を袋叩きにだって出来る。……ここは君達にとっては敵の巣なんだよ。」
「……」
「それに、さっきの戦いで分かった。シド、君は僕の雷に対抗するための術が無いって。」
「……」
「不意打ち気味だったのは謝るけど、そうだろう?……あれを突破できなくちゃ、流石に君でも僕を下すのは無理だ。」
「……舐めるな。あんな子供だまし、もう俺には通用しねえ。」
「……それは強がりだよ。ならさっきどうして防げなかったんだい?」
「ワザと1度喰らってやってどんなもんだか確認したのさ。……あれで確信した。てめえの技はもはやおそるるに足らねえ。」
「……それは例えば、今ここで君に一撃見舞っても、大丈夫と言う事なのかい?」
そこまで言ってようやくジハードは俺に向けて剣を抜き放った。
「……てめえの目で、しっかりと確かめてみるんだな。御自慢のその技、ぶち破ってやるその瞬間をよ!」
「……そうか、そういう事か。」
「あ?」
……攻撃してくるのかと思ったら、何か自分の中で納得しだした。
「いやいや、そういえば、グラム将軍には上手く攻略されたんだったのをふと思い出したのさ。という事は君も同じ手を使う事が出来るようになったわけだよね。」
確かにあいつとギンガと話してた時に思い浮かんだんだからそういう意味ではヒントを得たと言う言い方も出来なくはない、か。
「けどこれまで見せたのが全部本気だなんて、当然思ってないよね。」
「……」
俺は目で語る。
さっさと、かかって来やがれ、と。
「分かったよ、シド。君の誘いに乗ろう。……ライブ……ソニック!!!」
「!!」
遂に、奴は雷を放って来た!
「(待ってたぜ……この瞬間をッ!!)」
そのモーションを見てすぐさま俺は手に剣を出現させる!それは奴が雷を放つよりも更に速く!
そして……地面に突き刺す!!
「!?」
俺の行動に対してジハードの表情は少し驚きの色を見せる。
「シド様ッ……!」
視界に映ったシノの顔は不安げだった。
「(……今その不安そうな顔を、羨望の眼差しに変えてやる!!)」
そして……電撃が俺の体に直撃する。




