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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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自らが英雄であるために

「損害率……65%。修復完了まで見込み時間……約300時間……」


ギンガの体に備わっていた各機能はジハードの攻撃によって多くのトラブルを引き起こし、更には外的な損傷も多く、完全な修理となるとそれ相応の時間を要する事になってしまう。


そして戦いの疲れと精神の疲れからか、ギンガは今気を失っている。……意識が遮断されていると言う言い方が正確である。


「……ギンガさん、無茶……し過ぎです。」


コアはギンガから提案された作戦を聞いた時に思った。……危ない事を、して欲しくないと。


だから、出来るだけ早い段階で自分にワープの要求をして欲しいと。


だが、彼は自分の体がかなりギリギリの線になるまで耐えてしまった。それゆえ戦線への復帰には多大な時間がかかってしまう事になったのだ。


「……オーバーキラーであるギンガさんをここまで圧倒するなんて……」


作業を行いながらもコアは思案する。戦っていた敵の強さと言う物に関して。


ギンガは単独で黒い魔物と渡り合える程に強い力を持っている。しかしジハードはその彼を瀕死まで追い込んだ。と言う事はジハードは間接的に1人で黒い魔物よりも強いと言う事になる。


「……あの電撃は……」


しかし、やはりジハードに多大なアドバンテージを与えていたのは紛れも無く彼の剣から放たれた技だった。あれを受ける事によって本来の力の半分も出す事が出来なくなってしまうのだから。


「魔法のようで、でも根本的な本質が異なる……?……それはつまり、何かに起因したダメージを与えると言う魔法……?」


本来ならば魔法を軽減するのは魔法抵抗力と言うステータスに依存する。ギンガを例に挙げるならばその魔法抵抗力は極めて高い。彼には多くの魔法はほとんど意味をなさない。


「……でも、例えば……その人物に対して一定の割合のダメージを与える様な技だとしたら……」


しかしいくら魔法抵抗力が高かろうが例外はある。コアが考えるようにどんな相手に対しても同様の効果をもたらす魔法に関しては。


「それでも性質が電撃であることには変わらないはず。……また、あの電撃によるダメージはかなり個人差が多い。……人によって大きく異なるステータス……」


性別、身長、年齢。それらは人それぞれ違う。その違う何かを参照しているからこそ、あそこまでダメージに個人差が生まれるのだ。


そしてコアが確認している中ではシノが一番あの電撃に対する抵抗は強い。


「シノさんの特徴……」


身長は、低い。ならば身長が低い人ほどダメージは少ない?


「だとすればシドさんの様に高身長の人があそこまでのダメージを負ってしまう事にも説明がつきますが……」


しかし腑に落ちない事が一つ。


シノの抵抗力が高いように、その反対にシドはあまりにもあの技のダメージを受け過ぎてしまうという事象も同時に起こっているのだ。


「……シドさんよりもグラフィカさんの方が背が高い。だったらグラフィカさんも同様以上のダメージを受けていなければつじつまが合いません。」


シドとシノ。2人の間で大きく差が開いている何かが存在する。それこそが、あの電撃の威力を左右しているのだ。


その存在は、この世界では誰もが当たり前のように持ち、しかし多くの人はそれを大して自覚していないもの。そして、基本的に自分しか知る事が出来ない。というよりも、誰も自分のそれを明かそうとはしないもの。


「……」


さしものコアもその存在には思い当る事が出来ない。次第にギンガの修復作業へと意識を集中させていく。


……


「将軍!敵が息を吹き返して来ました!!」


「なんと。」


ジハードがシド達と交戦している間にペレストロイカが率いる部隊はエッケルノ達を襲撃していた。


主力である人間を数人欠いていたエッケルノ達は終始防衛に回るが、いかんせん敵の領地で尚且つ本陣も近いため戦力差は圧倒的だった。いくらもしない内にペレストロイカ達によって制圧されると誰もが思っていたが、現実はそう上手く行かない。


「4人加わっただけでここまで変わるとはのう。」


遅れてシド達が合流して来た事は彼女の耳に入っていた。副隊長が合流したと言うのは確かに大きいかも知れないがそれにしてもあの体勢を立て直すのは少々予想外だった。


「想いの強さが力になるのは身に染みておるが、敵も同じか。厄介な物じゃの。」


しかし、その抵抗も長くは続かない。このまま戦いを続ければ人数差で押し切ってしまうのは目に見えていた。


「ようし!それじゃあわっしも行くかの!……と、言いたいところじゃが、戦いの才能はからっきしなのが情けないの。」


「将軍は我々にご指示を!我々はその通りに……いえ、それ以上に働きますゆえ!」


「ほんに頼もしい限りじゃの。だからこそわっしも安心して作戦を立てられるのじゃ。よし、そのまま敵を追いたてい!情け容赦無用じゃ!」


「はッ!!」


ペレストロイカの指示は、そのまま攻撃であった。


……


「うー……これは流石に厳しーわね。」


「まったく、面倒ですな。」


「くっ……待ち伏せていたとはいえ、これほどの兵力を裂いてまで待っていたとは……!」


「それだけ私達を高く評価していたと言う事でしょうかね。……やれやれ、少々目立ちすぎましたな。」


「んぬ……ッ!!!!……くっそ、まだビリビリしてやがる……!」


走っている間にだいぶしびれは取れたものの、まだ微かに残っている。それゆえ要所要所でそれらが足を引っ張る。普段なら一撃で仕留められるような物を何度も何度も攻撃しなくてはならなかったり。


そんな具合では状況の好転はなかなか望めなかった。


「敵は、まだまだ出てきます。」


「ちょーっと休みたい感じ……これは流石に効くわー……」


あんにゃろうのせいでこんな有様だ。くそ……


「ぐああっっ!!」


「おの……れっ……!!」


俺達ですら多少善戦している程度、その前から戦ってる奴らは少しずつ倒れていっていた。


このままじゃ俺などは生き残れても部隊として壊滅してしまう。敵の本陣で孤立してしまえばそれはほぼ負けに等しい。


「おい!もうそろそろ限界だ!」


癪だったが俺はそう呼びかける。


「……逃げるのですかな?」


「これ以上は無理だ!分かってんだろ!?」


「まあ、妥当な所ですな。これ以上兵力を削がれてしまっては戦線継続は厳しい。……ですが、あれは結構疲れるのですよ。」


「んな事言ってる場合か!手があるんならさっさと使え!」


「相変わらず簡単に言ってくれますな……しかし他に手立てもありませんか。分かりました。退くとしましょう。……アクアミスト。」


ようやっと重い腰を上げたかと思うと辺り一面に霧が立ち込める。そして見る見るうちに俺達の視界を閉ざしていった。


「くっ……これは……!!!」


「ど、どこだ!何も見えんぞ!!」


この状況に慌てふためくヤシャマの奴ら。俺達の姿をどうにも捉える事など出来ない様子だった。


「……けど、これじゃあこっちも何にも見えねえじゃねえか!!」


「つべこべ言わずに逃げるとしましょう。とりあえず方向はお任せしますよ。出来ればどなたかと一緒に逃げてください。この場所から1つ前の拠点を合流地点に定めます。それでは……」


「ちょ……待てやッ!!!」


そんな急に言われてもどう動けばいいやら……


「ったく……どうにかしろとは言ったけどなんつーやり方だ。」


「シド様……シド様居ますか……?」


「……」


動乱の中だがどうにかその声だけを頼りにそちらへと向かう。……そして、シノの奴が居た。


「あ、シド様です。凄い霧ですね。」


「いいからさっさと逃げるぞ。」


「そうですね。……でも、はぐれちゃいそうですね。」


「どうにかついて来い。」


「私、足速くありません。」


「じゃあどうすんだよ。」


「シド様が私をおんぶしてくれると言うのはどうでしょう。これならはぐれません。」


またアホな事を、と思ったが、もう考えている時間すらもったいなく感じていた。いつこの霧が晴れるとも分からないのだから。


「……くそ、仕方ねえ!」


俺はシノを背負う。そして、とりあえず適当に走り出す。


「何でも言ってみるものですね。」


俺の背中でシノはのんきにもそんな事を言っていた。……俺に走らせるとはなんて奴だ!


……


「どうにかそれぞれ逃げおおせたようですか。……しかし、参りましたな。」


皆が逃げおおせたのを感じたタイミングでエッケルノも戦場から離脱したのだが、動乱の最中、彼は肩に傷を負ってしまっていた。


「アクアヒール……ふう。これはなかなかの痛手ですな。」


誰にも見つからぬよう木々の影に隠れながら自らに回復の魔法を放つ。……だが、そんなすぐに治癒できる程度のものでもない。


「……面倒、ですな。」


降り注ぐ痛みを治癒魔法が癒していき、それにエッケルノは少し目を閉じながら今後の行く末を考える。


「(このままではすぐに合流できませんな。……まあ、私が居なくてもどうにかなるでしょうが、兵力としてはだいぶダメージを負ってしまった。この勢力では城を落とすなど到底不可能。かと言ってラズリードに戻るのもそれはそれで厳しいものがある。)」


「……少し、勢い任せで来すぎてしまったかもしれませんな。私にこんな若い一面が残っていたとは嬉しいような悲しい様な。」


……


「敵軍逃亡!今もなお捜索しながら追撃中です!」


「かー……またもやられてしまったか。」


何度も霧によって逃げおおせていると言う話を聞いていながらもどうにも出来なかったペレストロイカは頭を痛める。


「出来たらあれを出しておる隊長を捕らえるか倒せればいいんじゃがなぁ……」


「ですが、敵はかなり損害を負ったはずです。」


霧が晴れた戦場を見渡せば、多くのラズリード兵士の死体が並んでいる。


「じゃな。これであまり大きな動きは取れまい。……それにしても、ジハード将軍は大丈夫だったのじゃろうか。」


ジハードが引きつけていたはずの人間がこちらに合流してきたと言う事はジハードが仕損じたと言う事。……あるいは……


「ジハード将軍がこちらへ合流したようです!」


「……まあ、そうじゃろうな。でも一瞬ヒヤッとしたぞ。」


ジハード自身が討たれたと言う想像もあったが、彼が後れを取るはずも無いと彼女も信じていた。


……


しばらくすると2人は合流した。


「見るからに無事そうで何よりじゃな。」


「そっちもお変わりなく、かな?どうやらだいぶやっつけたみたいだね。」


「無論じゃ!ジハード様がだいぶ注意を引き付けてくれたからの!」


「流石だねえ。僕は残念ながら成果0に近いよ。」


「なんと。そんなに苦戦したのですかな?」


「うーん……なんだろうねえ。なんて言うか……まあ、そんなところかな。」


少々煮え切らない言い方ではあったが、ジハードの考える事だからそんな馬鹿な話でもないだろうと彼女は察した。


「とりあえず今は追撃中じゃな。」


「了解。……それじゃあ僕は少し戦ってくることにするよ。」


「少しは休んでもよいのではないですかの?」


「そうもいかないんだよね。ちょっと割に合わない事しちゃったし、その埋め合わせをしないといけないからさ。何より、僕は努力しないといけないからね。」


「本当に頭が下がりますなぁ。」


……


ジハードは戦線から少し離れて、手当たり次第に魔物達と交戦し続けた。


「……さて、この短期間でどれだけ取り戻せるやら。」


彼が戦争の最中でもこうやって魔物と戦う理由はただ1つ。


レベルを上げるためである。


「2は……上げられないだろうなあ。」


短期間でレベルを急上昇させる事は難しい。とかく戦い続けたとしても、1も上がるかどうかという所である。基本的にレベルを上げるには日々の積み重ねなのだから。


「やっぱり、ちょっと割に合わない事、しちゃったよねえ……」


大打撃を与えるために彼は大技を放ったが、しかし、あれは何の代償も無しに撃てるものでは決してなかった。


……


魔剣ベータレイザ。


それが何故魔剣と呼ばれるのか。


魔剣とは聖剣よりも高い火力を有する剣とされている。


だが、その代わりに使用者に何らかの不利益をもたらす。


ベータレイザもまた、その例に漏れない。


ベータレイザが放つ電撃は、使用者と相手のレベルを参照して威力が決まるのだ。だから使用者のレベルが高い程多くの人間に多大なダメージを与えるとも言える。多くの人間は鍛えていたとしても20~30、よほど高くとも40程度のレベルである。


対してジハードのレベルは60。


「……けど、そんな強い力をバンバン使える美味しい話は無いんだよねぇ……」


そう。ベータレイザが持つ負の側面。


使用者が強力な技を使うには、使用者のレベルを犠牲にしなければならないのだ。


彼が頻繁に使用するライブソニックなどは一般的な技としてカテゴライズされるためレベルを消費する事は無いのだが、シド達に放ったヘブンズ・テンペスターのような大技を使用するのに彼は10のレベルを消費した。


つまり現在の彼のレベルは戦う前のレベル60から10を差し引いた数値。50レベルである。


「また短期間で大きな戦いをするってなるとちょーっときついかも知れないね……」


だから彼は全力で長期間は戦い続けられない。無論、それを補う為に今もこうして少しでもレベルを上げるために戦っているのだが……


「あそこで仕留められなかったのは、やっぱり痛いねえ。……あの中では、シノちゃんが1番高いって事か。……シノちゃんが凄腕じゃなくて助かったかな。」


先ほどの戦いを回想しつつ、ジハードは魔物達をなぎ倒していく。


そして、その体で再び戦場へと舞い戻るのだ。


戦場でしのぎを削り戦う事で、彼はレベルを上げ、そしてそのレベルを使って彼は英雄的力を行使できる。


それが、彼の戦い方だった。

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