サッコロからはるばると
「まずはラズリードか。」
「どんなところですか?3大王国とか何とか言っていました。」
「大したことないだろう。町に毛が生えた程度に違いない。」
「ですか……」
噂は聞きつつもまだ行ったことはないのだろうか。
「おっ。早速モンスターか。いがいがイカじゃねえか。」
「……さくさく行きましょう。」
シド様は愛用の剣を振るい、私はシド様に買ってもらった杖をぶんぶん振り回す。
……重い。気がする。
多分あれだ。3か月も遊んでいたから体力は落ちるは、きっとレベルも落ちているに違いない……何という事だろう。
……ちら。
「おらおらおらー!!はっはっはー!!雑魚共死ねー!!」
……シド様はそうでもないようだ。うーむ……早くも暗雲が立ち込めている……
とりあえず危なげなく魔物たちと戦いながら、ラズリード領へと私たちは足を進める。
……
「冒険者の方ですか。お気をつけて。」
やはり3大王国ともなると関所というものがあるらしい。まあ、普通に通らせてもらえた。
「おう、ピリカラピカはどこだ?」
「……あそこへ行くつもりですか?」
「……まずいですか?」
「……いえ、行くというのならば、ご自由にどうぞ。」
……少しつっかえるような言い方で遺跡の場所を教えてくれた。ここからだとラズリード王国を越えた先にあるらしい。
「やっぱりピリカラピカには何かあるな。」
「?」
「何があるか分かってるから自分たちは行かないようにしているんだ。分かっていて危険に飛び込んでいくのがアホらしいんだろう。」
「……用心、ですね。」
「安心しろ。何が出てきても俺が居れば楽勝だ。」
「……そうですね。安心します。」
……何が出てくるかを恐れて進まないのは、はっきり言って無駄だ。いつか進むつもりなら、早い方がいい。
……
「……大きいですね。」
町に毛が生えた程度……では済まない。ラズリード城下町だけでもとても広い。スカールの街が外観などを重視しているのなら、この城下町は賑やかさと言うか、活気に溢れている。行き交う人々の数もエイスの町とは比べ物にならない……凄い人数だ。
「まだちょっと早いが、とりあえず今日はここでゆっくりするか。遺跡に行くのは明日だ。」
「分かりました。では、これからどうしますか?」
「そうだな。まあ、ぶらぶら見物でもするか。」
何を見物するのだろう。綺麗な女性だろうか。まあこれだけの人が集まっていれば、そんな人もたくさん居るだろう。私はとにかく見慣れない物ばかりなのでついついあちらこちらへと目移りしてしまう。
「流石だな。豊かさで言うならこの国が随一だ。」
「衛士団達の活躍あってこそだよ。カッコいいぜ。」
「いずれはこの国が他の国を制圧するのも夢じゃないかもしれないな。ゴーバスやクノッサルだって資源の豊富さや人員の豊富さじゃラズリードにはきっと敵わないぜ?」
「ラズリード王の手腕がひとえにこの国を支えてらっしゃる。素晴らしいお方じゃ。」
……ずいぶん、この国は栄えているようだ。人々の会話が聞こえてくるが、どれもこれもこの国の良さを物語る会話ばかりだ。
「うーむ。なかなか80点以上の子は居ないもんだなぁ。」
「……そうですか。」
隣に連れている私はいったい何点なのか……虚しくなるからやめよう。きょろきょろ。
「あっ……あのっ……ごめんなさい。ごめんなさい……」
「謝って済む事ばかりじゃないんだぜ世の中……ちょっと裏に来いよ……」
……ひっそりと女の子がガラの悪そうな男の人に裏路地へと連れて行かれてしまったのを、見てしまった。
「……83……点!!」
「お眼鏡に適いましたか。」
「行くぞ!!」
……私もちょっと気になる。穏便に済むならばいいけれどそうでないなら……
……
「ひひひ……金か、体か。好きな方を選ばせてやるぜ?」
「あ……あ……あの……私どっちも……」
「そんなわけにいかねえだろうが?甘ったれたこと言っちゃあいけねえぞ?じゃあ、よう……命でも……置いていくか?」
「あんまり怖がらせんなよ。仲良くやろうぜ……?」
「……ご……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「ま、とりあえずおとなしくしてなよ……じっくり楽しませてもらうからさぁ……」
「あ、すいません。ストップです。」
「……は?なんだてめえは?」
「ええと、穏便に済まなそうだったのでつい飛び出してしまいました。」
「……わけわかんねえこと言ってんじゃねえよ。わけわかんねえついでにてめえも俺たちの遊び道具にしてやるよ。」
「……私はズルいので助っ人を呼びます。シド様ー。」
「おらああああ!!!!」
「ッ……!!な、なんだてめッ……!!ぐ……ぐあッ……!!」
「お……おい……嘘だろ?いきなり何しやがっ……だあっ……ぐッ……」
瞬く間に死体が2つ並ぶ。
「……お、落ち着けよ。こ、こいつが悪いんだ。こいつが、俺たちにぶつかってきやがったんだ!!」
……
「じょ、冗談だって……もうなんもしないからさ……悪かったよ……悪かったって!!……助けてくれー!!!」
……逃げていってしまった。追いかける事も無いだろう。
「誰かに見つかるとめんどくさいし、宿に行くか。お前も来い。」
「は……はいぃ……」
……まあ、か弱い美少女を助けるためだ。最悪見つかったとしてもお咎めは無しだろう。この世界はそういうものだ。あの逃げた一人も自分たちが悪い事をしたのが発端なんだから表に出ることも出来まい。
……
「ったく、どこの国にもゴミみたいなやつらは居るもんだ。」
「……どうぞ。」
「あ……は……はいぃぃ……失礼します。」
気を落ち着かせるために飲み物を出した。シド様の分も自分の分もしっかり準備した。
「……大丈夫でしたか。」
「は、はいぃ……助けてくれて、ありがとうございますぅ……あ、ああ、でも、私がぶつかったのは本当なんです……ああ……本当に悪いのは私なのですきっと……」
「美少女は無罪だ。あんなクソ男どもより君の命の方が何百倍も価値がある。」
「……噛み砕くと、あなたのせいではないです。気に病むことは有りません。あなたが無事でよかった。と言うような感じの事を伝えたいようです。」
「なんで勝手に通訳みたいにしとるんだ……」
「……ああ。私がドジなせいで。よくサッコロでもお前はドジなんだから気をつけろとよく言われました……」
「サッコロ?あんな寒いとこから何しに来たんだ?」
「?サッコロ?」
「……サッコロは私が住んでいる地方です。この世界に着いたときにお世話になった人にそのまま連れられて……」
「この世界に着いたときに……?もしかして他の世界から、来た人ですか?」
「はい。私、異世界人です。」
「……ですか。」
最近、他の世界から来る人は珍しくないと聞いてはいたが、実際に知り合うのは初めてだ。
「サッコロではなかなか作物などが育たないので、寒い地方でも育つ植物の種や、寒さを和らげるようなアイテムなどを探しに来たのです。猛反対されてしまいましたけど、クロックさんのお役にたちたくて……」
そのクロックさんと言う人がこの人の恩人らしい。
「て……ああ……私、自己紹介してませんね……私、福大雪美と言います。私の世界での名前なのでちょっと変わってますけど気にしないでくださいね。」
……漢字?それじゃあ、私と同じような世界から来ている人だ。……本名なのだろう。
「私は……シノと言います。私も、その、他の世界から来ました。」
「ええ!!そうなんですか!!初めて他の異世界の人と逢いました!!」
「……私もです。」
……厳密に言えば何度かそれらしき人は見ているが、正確に異世界人だと判断出来た人が初めてと言うだけだ。対面した異世界人としては初めてと言った方がいいかもしれない。
「はー……シノさんも他の世界から……それではそちらの方も?」
「俺はこの世界の人間だ。」
「シド様です。……ええと、後は見た通りの人です。」
「お、遅ればせながら……さっきは、助けていただいて……ありがとうございます……」
深々とお辞儀する……感謝の意を示すのには申し分ないやり方だ。やっぱりこの人は日本の人だ。
「ああ、気にするな。それより今日の夜は空いてるか?」
出た。始まった。いつものパターンだ。
「え、え……できれば早めに用事を済ませてサッコロに帰らないといけないのですが……」
「ぬ……ぬ……なんと……あ、じゃああれだ。俺が用事を手伝うから一日だけ付き合ってくれ。それならいいだろう。」
「あ、あ、その……どうでしょう……用事って言っても大した用事じゃないんですが……」
「シド様……(ひそひそ)あんまり押しが強すぎても怪しがられてしまいます……とりあえずこの場は助けたと言う恩だけ売っておいて、後日またあらためるというのは……」
「ぐっ……せっかく美少女を目の前にしてお預けとは……」
「(ひそひそ)……遺跡には可愛い女の子たちが目くるめく世界ですよー……」
「おー!!!いや、そうだな!無理強いは良くない。遊ぶのはまた今度にしよう。とそれはそれとして君の用事を手伝うのは本当だ。」
「え……え?な、なんですか?何があったんですか?」
「いえ、何もありませんでした。シド様は本来こういう善意に溢れた人なのです。きらきら。」
「は、はぁ……ただ、手伝ってもらっても、何にもお返しできませんけど……」
「ああ、構わん構わん。可愛い子が困ってるのを見過ごせるほどクソな男じゃない。」
「……優しい、ですね……暖かい人ですね。」
「(くっくっく、ちょろいもんだ。)」
ちょろいですね、雪美さん。ちょっと不安になりますね。
……
「ええと……これと……それと……うーん。」
帽子やらコートなどの衣服を品定めしている。そのサッコロと言う場所ではそういったものがなければうかつに外に出るのも危ないらしい。
「これなんてどうでしょうか。」
「ああ、いいですねこれ。暖かそう。これを10個ぐらい買って……後は作物の種ですかね……。」
寒い地方で育つ作物か……なんなんだろう。よく知らない。
「クルポーンの種を持てるだけ買っていきます。」
……クルポーン?
「地中深くに埋めて育てる植物で、気候の影響をあまり受けないんです。深い地中から出てくるために力強い太い茎になって、ちょっとやそっとでは枯れない植物なんです。」
「けどあんまりうまくないぞ。」
「仕方ありません。味よりも、生きていくことの方が最優先ですから。」
……気候が変われば生活も変わる。それでもそこに生きる理由があるのだろう。
「こんなものですか。ふう。」
大して役に立ってないような気がするが、まあ、仕方ない。
「すぐ、帰ってしまうんですよね。」
「クロックさんに……心配かけてしまいます……そんなの、居候の風上にも置けません……」
「またなんかあったらこの俺に言えば何でも助けてやるからな。」
「あぁ……あぁ……お二人には本当に感謝しています……私の方こそ、なんでもお力になりますよ。いつかサッコロに来ることがあればいつでも訪ねてきてください。歓迎しますよ。」
「……ちなみに、そのクロックって、美人か?」
「?クロックさんは男性ですけど。」
「ちっ……」
雪美さんは不思議そうな顔をして首をかしげている。まあ、世の中女性ばかりじゃないだろう。
「それでは、私行きますね……」
「もう悪い奴らにひっつかまるんじゃないぞー。」
「お元気で。」
……彼女はその姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれた。重そうな荷物をたくさん抱えて……
「あの、サッコロって、ここからどれくらいかかるんですか?」
「……歩っても8時間ぐらいだな。」
「……流石に、馬車とか、使うんですよね、雪美さん……」
「普通はそうだが、使い方分かるかどうか不安になってきた……」
……
おせっかいだとは思うが馬車の使い方を教えてあげにいった。
……案の定ここまで徒歩で来たらしい……
結構お金は持って来たらしいが使わなければただの置物だ。有効活用してほしい。
……そんな一幕があったりして、私たちはふたたび宿へと戻ってきた。
「……世界は広い。美人と言えども多種多様だ。あらゆるジャンルの美人は俺の元に集まる運命なのだ。」
「……そうですか。」
「こうしていつもより行動範囲を広げるだけでまた新たな女の子と出会う。そうする事で最終的には俺の事を知らない女の子は居なくなるに違いない。」
「……かもしれませんね。」
「つまり!ピリカラピカ遺跡にも間違いなく女の子は居る。今日でそれが分かった。俺が動く先には必ず女の子が居るのだ!そうと決まればさっさと遺跡を終わらせたら世界中を旅するぞ。」
……世界中か。ようやくこの世界の住人と言えるぐらいにはなったつもりだったが、実際に行動した範囲と言えば極々狭い範囲だ。
……旅と言うのは、あまりいいイメージが無かったが、今日みたいに新しい人たちとの出会いがあるというのならば、そんなに、嫌いじゃない。
「明日はサクッと行くぞ。というわけで、よく寝とけよ。」
「……はい。」
お互い自分のベッドに入る。明日に備えて、それが冒険者にとって一番大事な準備だ。
……
「……すす……」
「……寝ろっての……」
「……」
「……一緒に寝るぞ。」
「……はい。」
……今日は、一緒のベッドで眠りたい気分だった。私はその暖かい場所へ潜り込む。
どこか懐かしいその温もりを感じながら、別の世界へと意識は誘われていった。




