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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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最弱のトドメ

……たぶん後、2.3発…それで倒せる。


だからこそ、ここで銀固めの素早さはほぼピークを迎える。


どうにかこうにか逃がしはしていないが、攻撃を加えるのは厳しい……


そしてこのエリアは地下2階……若干リミットが迫っていた。と言うのも銀固めは洞窟にのみ生息する。行動パターンは体力が少なると一目散に洞窟の出口へ向かって走り去る。そして洞窟から出た時、消滅する。その場合は何も得られない。骨折り損のくたびれもうけだ。


余談ではあるが、例えば10人ぐらいのパーティを組んでいるような冒険者であれば包囲等、工夫すればわりと容易く倒せそうな気がするが、実際その通りだ。ただその場合手に入る報酬が人数に比例して加速度的に減少する。メリットばかりではない。


時折、他のモンスターが通りがかったりするがもうあっち行けと言わんばかりに完全スルーだ。


「いやはや。もう少しっぽいですが追いつけないものですね。」


「なんだお前。男はどっか行け。」


隣に男が並走してやってくる。視線はそのままに相変わらずの口調で返す。


「一応、協力体制を敷こうと思って来てるんですけどね……」


「アホか!!あれは俺たちのもんだ!隣からしゃしゃり出てくるな!!分け前が減るだろうが!!」


「とりあえずその点についてはご心配なくと、言っておきますよ。説明は後の方がいいでしょうけれど、とにかく今はさっさとあれを倒さなくては?もうすぐ地下1階。出口は目と鼻の先ですよ?」


「んなことは分かってる!!」


……というかこいつ、服装を見るに魔法使い系なのに、どうして俺と同じぐらいの速度で走れるんだ?それどころか、俺の前に抜きん出る。服の背中のマークを見て理解する。


「韋駄天か……」


「そうなんですよ。あ、だけど僕自身は非常におっとりしたタイプなので、性格までせっかちってわけじゃないですから。勘違いのないように。」


……奴らがどういう考えで協力を申し出てるのかわからないが、こいつがいる以上このままじゃ手柄は取られちまう……うぬぬ……


……いっそこいつを倒しちまうか……


「……何か不穏な気配を感じるのでお先に失礼しますね。」


剣を抜こうとした矢先、あっという間に銀固めの方へと走り去る。……あんにゃろう……


見る見るうちにそいつは目標の得物への距離を縮め、とうとう追いついた。……?追いついた、が、抜き去って行った……


「なんだあいつ……?あほだな。」


どこまでもどこまでも先行していく。だが、銀固めも進行方向は変えない。おそらくはそちらが上へと上がる階段なのだろう。


……韋駄天はその足を止め、こちら側へ、ともすれば銀固めの方へと振り向く。……魔法か?


今更ながら銀固めに魔法攻撃は一切効果がない。魔法は卑怯とでも言いたいばかりだ。まあ遠くから攻撃を当てられるだけでもそれはそれで十分凄いのだが……


「では、後はよろしくお願いしますよー。火炎弾。」


「は?」


前から大声で何か宣言したかと思うと。天井に向かって魔法を放った。……いや、崩れるレベルで。


「だあああああ!!!!!」


あっという間に岩盤は崩れ、進路は塞がれる。自分にとっても……銀固めにとってもだ。


「……!」


銀固めは、やむを得なく次の逃亡ルートを探すため、後方へと走る。そこに自らを狙う冒険者がいたとしてもだ。


「頂きだ!だりゃあああああああ!!」


こちらへ向かってくる得物へと渾身の一撃を込めるッ!!剣の一撃は確実に銀固めを捕えた……が、まだ……一押し足りなかった……


2度目の攻撃の機会を与える間もなく、元来た方向へと走り去っていく。……再び追いかけるが……もう奇策はない。全速力で追いかけるが流石に敵も必死なのかどんどん離されていく。


……くそ……なんてこった……俺の女の子が……がく……


とうとう獲物は見えなくなった。


シドは悲しみに打ちひしがれた……


……


……


……


負け犬のような哀愁漂う姿を纏ってとぼとぼとシドは歩っていく。何だったら半ベソ気味で。


「ちくしょう……ちくしょう……ぐすぐす……」


そんなシドの元へと駆け寄ってくる人物が居た。……シノだった。


「シド様。シド様。」


「……シノか……」


「はい。私です。」


「?何持ってんだ?」


シノはその手に見慣れない杖を持っていた。


「ええと、さっきのモンスターを倒した時にこれが……」


「……倒した。のか?」


「……どうでしょう……」


「いや、どうでしょうってお前……」


……


はぁ……疲れた。気持ち的にはついていこうと思っていても体は既にきゅうきゅうだ……もう諦めてしまおうか……


そう簡単に人は変われなかった。ここはB2階……多分もう無理だ。足がガタガタだ。何かの拍子に転んだらもう起き上がれないだろう。


「これは……いける……か?」


?何か思い当ったようだった。今は丁度、十字の道をシド様と先行した冒険者の人が走って行った矢先だった。……なんだろう。そして、立ち止まった。リーダーらしき人も遅れて立ち止まる。私も遅れて、立ち止まる……もう走れない。


「お嬢さん。一つ、質問を……する……か?」


……質問があるみたいだった……その質問を理解するだけの余裕があるかどうかわからないが……


「向こうの道と、こっちの道と、そっちの道と、今走ってきた道……どれが、良い……か?」


……この4つの道で、どれが良いか?……何を聞いているのか分かりにくい。どうやらこの人はフランクな方ではなかった。何だったら口下手なのだろうか……それともクールなのだろうか……


正面なら、そのまま追いかける。これまで来た道なら、逆に下に向かって戻ることになる。左右の道は……言わば遠回りの出口ルートだ。


「……右に……します。」


本当にそれで正しいのか考えるための時間を取るべきだったのかもしれないが、もうそんな余裕はない。直感だ。……何が正解なのかも知らないが。


「なるほど。しっかりマッピングを活かしているようだな。最低限の仕事は果たしている……か。」


……あのモンスターが出口に向かってまっしぐらなのは見て分かった。大体マップの最短距離を選んで逃げている。帰りはスムーズに帰れるようにしておけとシド様に言われて私が大雑把に考えた通りのルートを逃げていた。


またこれまで来たルートを戻る場合、実は入る時は入り組んでいたもののそこから上の階へと上がる道へは行くことが出来ない。つまり、実質答えは3つの内どれか……


「……もし、正面が正解だとしたら、こんなところで立ち止まらない……ですか……?」


「まあ、そりゃそうだわな。こんなとこで話し込んでないで追いかけろって話だ。」


「先に行った仲間が、正面の道を塞ぐ。だから銀固めは、いったんこの道に戻らなければならない……か。」


「進路を塞ぐ。定石と言えば定石だ。ま、あいつの足があればこそだがな。」


「……あの……どうして協力を……?」


どんなアイテムが出るかもわからないし、百歩譲って可愛い女性が出てきたとしても、シド様が渡すはずもないし、見返りはあまりないように思える……


「スカーダは韋駄天を披露したい。クロウズは普段見慣れない銀固めのデータが欲しい。俺は走りたい!!それが理由だ!」


「……そうですか。」


……うわ、眩しい。これで嘘だったら悲しい。本当なのかもしれないけど私の様な陰の人間にはちょっと辛い……


すると遠くから、大きな音が聞こえてくる……岩が崩れるような……?


「おうおうやったか。じゃあそろそろ来るな。嬢ちゃんはそっちの道でいいんだよな?」


「……もしもこちらへとやってきてしまった場合、やむを得なく倒してしまうが……その時はすまない……か。」


「……いえ、色々とよく分かりませんが……お世話になりました。」


「あの兄ちゃんによろしくな。一応なんかあったらゴーバスへ来てくれって言っといてくれ。行くぞ。」


「次に会った時には、銀固めが何を出して言ったか教えてくれると助かる……か。」


そう告げると彼らは私が選ばなかった方の道へと消えていった。


……少し立ち止まったおかげで、気持ち程度だが体力は戻った……夜露の一滴ほどは。


……とりあえず私も自分が選んだ方向へと移動する。歩きながら……あの……クロウズ……という人の見立てではどちらかの道へと来るはずだという……


少し進んで、向きなおる。……とりあえず待ってみることにする……という大義名分で休む。ふうふう……


「……疲れた。」



「あ。」


どうやら、幸か不幸か、こちらを選んだようだ……少し戸惑った様子を見せるが、こちらへと向かってくる。おそらく私の脇をすり抜けて出口へと向かうつもりだろう。


……さて、私はずっとぶら下げていた荷物を、遂に降ろすッ!!ドスンッ!!ふんすっ。


……ちょっとは体が軽くなったはず……たぶん、瞬間的にだけど……


私の横、右か、左か。二つに一つ……あるいはセンター?いや、めんどくさいから二つにしておこう。


……ッ……右……右へ来ると想定して、私は手に持った杖を横に振りかぶるッ……!!が、かと思いきや……宝箱は左側へと素早く身を翻らせて、すり抜けていく……このまま杖を横に振ったところで届かない……その思考の間にもモンスターは後ろへと逃げていってしまう……


ふと、瞬間的に脳に浮かんだのはいかにも原始的で単純な行動。脳が足りていない。……やらないより、マシか。


杖を横へふる勢いをそのままに後ろへと振り向きざまに、私は杖を、投擲する。……回転しながらブーメランのように相手の方へと……いや、大体相手の方へと向かっては行く……行っているような気がする……


……素人が急にやったらこんなものだろう。


「あ……」


達観しつつもその流れの行く末を見ていた時だった。狙いが逸れ、壁へと当った杖が跳ね返って逃げていたモンスターにコツンと当たった。……とは言え本当にただ当たっただけの一撃……あれでは子供だって倒れない。しかし……宝箱は、動かなくなった。


恐る恐る近づいてみるが……逃げる気配はない。というか、もう生き物としての気配をなくしていた。必要だったのは本当に最後の1ダメージ。それによって銀固めは倒されたのだった。


とまあそんな顛末があったのだったが、説明は省いた。というか、説明が下手なのでどうせうまく説明できないから結果だけで十分だと思った。


……


……ぴーん!!閃いた!!そうか、そういう事か!!なるほどなるほど。何のことはない。あいつが逃げた先にシノが居たに違いない。そこに最後の一押しダメージを与えたから倒したわけだ。なんだそういう事か。ふふふ。


「やっぱり俺は運がいい。」


「そうですか……」


「ってか、お前、めっちゃ疲れてるな……」


表情には出さないが肩で息するような様だった。……よく考えたら最下層からここまでずっとダッシュしたら並の冒険者でもきついはずだ。しかも体力はないし、戦い慣れしていないし……


「まさか……ずっと走ってきてたのか?」


「……どうでしょう……」


……たぶんそうだろう、というか歩っていたらまだこの階層に来れていないだろう。


「お前は……まだ病み上がりだろうが。」


「いえ、健康……そのものです……」


「……無理すんな……」


「……」


「ん?……あいつ倒したら、その杖が出てきたのか?」


「まあ。」


「!!じゃあ!!俺の女の子は!!?」


「……さあ、どうでしょう……」


……再びシドは悲しみに打ちひしがれた……


……


B1出口にて。


「あいつら無事倒せたみたいで何よりだな。」


「50%の差で大きな幸運を手にした……か。」


「だな。けどまあそれも大切なことだ。ははは。」


……彼らはもう依頼を終えて帰るところだった。シド達に肩入れしたのは言ってしまえばついでだった。


「やっぱり韋駄天と言うのは偉大なものです。韋駄天の前には銀固めすら相手にならない。いやあいい戦いでした。次はぜひ金固めと逢いまみえたいものですね。」


「金か。流石に逢ったことねえな……何落すんだろうな。」


「その人間に大きな幸福をもたらす何か……か。」


「まあ、そんときゃまた頼むぜ。スカーダ。」


「この韋駄天を必要とする人がいる限りこの韋駄天が消えることはないですからね。」


「自信過剰……か。」


いつも通りの軽口をたたき合いながら、彼らは自らの故郷、ゴーバスへと帰って行った。


シド達もちょっと遠回りをしながら洞窟から出ていった。

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