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シドとシノの大冒険  作者: レイン
21/1745

それでも歩き出そう

……決意を確かなものにした……


だが、またも、私の決意は揺るぐ事となる……次なる相手が、やってきたからだ。


「ラナと、リーナか……ルーナは?」


「ロミネ達と一緒に客間に居ます。」


「……そうか。」


……


「お父様……で、いいのでしょうか……これまでのように……」


「……構わない。お前たちも、私の娘だろう。」


「……お父様……」


「……聞いていたのか?」


「聞いていてしまいました。」


「……そうか。」


「……お父様が、罪を背負うというならば、それは、私たちが背負うべきものです。」


「その通りです。私たちは、お父様を脅していたようなものですもの。罰は私たちが受けます。」


……この子達なら、そういうだろうな。


「……お前たちは、ロミネ達のために、必死で戦ってくれた。自らの身も顧みず。そんなお前たちにどうしてそんなことをさせられようか。お前たちは、私の恩人だ。」


「……それは、私たちだって、同じです。お父様にとってロミネ達が娘であるように、私たちにとっては、あの子達は、かけがえのない姉妹なのです。」


「お父様が守ってくれていたから、こうしてロミネ達は、今笑顔でいられるんですよ?」


「……お前たち……」


「……お父様が、もし、それでも皆さんに全てを打ち明けるというのなら、私たちも、自分たちの罪を打ち明けます。偽りなく。」


「……」


「あるいは……恥だと思うかもしれませんが、それでも、全てを隠しながら、罪を償いましょう……」


「……それは……」


「どちらか、選んでください。お父様。私たちは、どちらでも、お父様についていきます。」


「……」


「私、自分がわがままなんだって思ったんです。……私たちは悪いことをしてしまったし、それを償わなくてはならないのもわかっているのに……お父様と、お姉さま、妹たちに囲まれて、もっともっと生きていたいって思っちゃうんです……」


……私だって……娘たちと……生きられたら、と……思わないはずがない……だが……


「……もし、お父様も、私たちも、居なくなったら、ロミネ達は、どんな顔をするでしょうか……」


……悲しむ、だろうか……


「お父様が居なくなることが、あの子たちにとって、本当に最善の選択なのでしょうか……?」


「……私の、けじめの問題だ。」


「……私たちの、わがまま、自分勝手なわがまま。……一緒に、ずっと一緒に、生きてほしいのです。お父様……お願いいたします……」


「他には何にもいりません。ただ、この家族のあるべき場所、ただそれだけあれば、それだけで……」


……この子達に罪など無い……だが、この二人が懇願することを叶えることは……


……そう、私だって、そうしたい……やっと家族が一つになれた。


「ええと……それに、お父様が居なくなったら、ロミネ達が、その、シドさんについて行ってしまうかもしれません……」


「そう……そうです!ちょっと女の人にだらしないところがありますし、あの子達シドさんの事気に入ってしまっている節もありますし、よくないと思います!」


……なんという理由だ……最後の一押しがその理由とは。


……私は、私が思っているよりも、全然、誠実で真っ当な人間では、なかったな……


ただの、自分勝手な、父親だ。


「……それは、困るな……あの子たちは、素直でいい子だからな……」


「……はい、素直で、いい子です。」


「……ダメな父親だと、思われるかもしれん……いや、私は誰よりも、卑怯だな……」


……エレム、すまん。いくらでも軽蔑してくれて構わない……私は、恥を晒しながら、生きていこうと思う。


「……一生償いきれないとしても、それでも、お前たちと一緒に……居たい。……そう、思っては、いけないだろうか……」


「……いけませんね。きっと、みんな怒るでしょうね。……でも、私も、そうしたいです。」


「ふふ……私たち、家族で共犯ですね。」


「……そうだな……すまない……」


「いいえ……一緒に、償っていきましょう。……みんなに内緒で。」


……私たちは、今日ここに、みっともなくも生きていくことを誓い合った。一生終わることのないいばらの道だとしても、支えあう家族がいるならば、私は、絶対に折れない。


そう、思う。


……


「つぁりゃーーーーーーーー!!!!」


「シドブラックバーニング!!!」


「イミルお姉さま、あれはいったい何でしょうか……私、なんだか心が躍ります……!」


「……おそらく、今流行りのヒーローに違いありませんわ!……ですよね、ロミネお姉さま?」


「そうに違いない。なんてカッコいい。……グレート。」


……戻ってくると、何やらわけのわからないことをやっていた。


「おとーさまーーーーーーーー!!」


……飛びついてくる。……元気が有り余った子だ。


「お……お父様……しばらく見ないうちに……ダンディズムが増してますね。ブラボーです……」


「……う、うむ。そうか……」


「お久しぶりのお父様分補充ですわ!すーはーすーはー!」


「……ああ……そうか。」


「お父様……たくさんご迷惑おかけした分、私たち娘ともども、頑張っていきます……これからもよろしくお願いいたします……」


「……8歳なのにしっかりしているな……」


……こんな子達だっただろうか……しばらく見ないうちにイメージが……


……いかんいかん。父親失格だ……この子達はいい子この子達はいい子……


「おう、戻ってきたのか。」


「……ロミネ、イミル、トゥリエ、この男に近づきすぎるなよ。この男は危ない男だ。」


「おらああ!!!!!!」


……いきなりドロップキックをかましてきた……


「……こういうやつだ。」


「シドさん……お父様を苛めるのは非常にバッドです……」


「お前ら俺のこと好きだろ!!」


「お父様の次くらいには好きですわ。一番はもちろんお父様!お父様分お父様分!すーはーすーはー!」


「んなアホな……」


「シドさんもお父様のようにもっと中身を磨けば、さらに素敵な男性になると思います……現状はお父様がベスト1です。」


……


「そういえば、貴様……」


「……なんだ。」


「トゥリエに手を出そうとするという事は、ロリコンか?」


「アホか!!!(先行投資って言葉を知らんのか。)」


「……再三言っておくが、娘はやらんからな。」


「いいか、可愛い子ってのはみんな俺に引き寄せられるようになってるんだよ。だから自然に向こうから寄ってくる。」


「……アホか。」


「ロリコンかーーーーーーーーーーー!!!!」


「シドカーニバルエクラマインド!!!!!」


また始まった……ちなみにヤマも巻き添えを食った。


「ロリコンは死ね!ヤマブレイムン!!」


ヤマも加わった。


……


向こうでは大の大人が子供に交じって遊んでいる。


……でも、そんな傍から見るとバカバカしいような日々を、私たちは求めていたに違いなかった。


「ラナお姉さま。お父様たちがエキサイティングしています……大丈夫でしょうか。」


……ロミネ。その名前を私は一時的に名乗らせてもらっていた。今では、私の……妹?姉?……どっちなんだろう……とにかく姉妹だ。


「……大丈夫でしょう。分別の付く大人なのですから。」


「火炎弾!!!」


「ぶっころしてやる!!!」


「おらーーーーーーーーーーーーー!!!」


「……大丈夫でしょう……多分。」


3人とも、一応、一般の方々の目もある事をお忘れなく……


「……」


「?どうか……しましたか?」


なんだかもじもじしていた……可愛い。一応私やリーナ、ルーナはこの子達の身代わりという役割で生まれたので、髪の色や、背丈、顔立ちのモチーフはこの子達だ。


……当時はそっくりだったはずだが、成長の過程で今となっては私もこの子も随分と変わってしまった。


……ぎゅう……


……抱きつかれた。……可愛い……鼻血出そう。


「……私、ずっと、ハグっとしたかったです。こうやって。直接触れたかった。」


……これまでこの子とコミュニケーションを取った時は、あの容器越しだった。……本当に調子が多少いい時ぐらい、そのぐらいしか会話はできなかったが……こんないい子が苦しんでいる姿を見るのは、やはり辛かった。


彼女たちは、私たちを敵ではなく、家族として受け入れてくれていた。それが何故なのかは彼女たちでなくては分からないことだろうけれど、嬉しかった。その頃から、お父様に、そしてこの子達のために何かしたいという思いは確かな物になっていた。


「私、一応長女です。だからしっかり者です。パーフェクトなお姉ちゃんです。でも……時々思ってました。妹たちはお姉ちゃんが居てくれて嬉しいってよく言ってくれて。だから……私も……お姉ちゃんが……ちょっとだけ……欲しかったんです!!」


……


「嘘です。すっごく!!欲しかったんです!!それはもう!!……だから……あんな辛い事もあったけど……私は今……すごく幸せで、ハッピーな気持ちなんです……だから……ぎゅう……」


そういうと、ひときわ強く、私の事を抱きしめる……


幸せなのは……こっちの方だった。こんな幸せなことばかり……この身に有り余る……


「うん……ありがとう……」


私も強く、強く、抱きしめる。願わくば、この絆が、永久であるように。


「……そうだ、一つ、教えてあげますね。……私と、お父様しか知らないこと。ロミネにも……」


「?シークレットなものですね。……」


……


「はあ……はあ……このロリコン色欲大魔神が……」


「はあ……はあ……陰気臭い死にかけクソ野郎が……」


「引き分けですわ!!引き分けですわ!!!」


「勝ちーーーーーーー!!」


とりあえず終わった。四人入り乱れてもうわけが分からなかったが終わった。


「あー……周りの目とか……少しは気にした方良かったと思うのですけれど……皆さん、何の余興なんだって顔してらっしゃいますね……」


「親しみやすい家族というアピールだと思えば……ギリギリ許容できなくも……ないような感じがします。」


「……ロミネは、加わらなくてよかったの?」


「……ひしっ……」


「ふふ……いつもしっかりしてる子なんだから……よしよし……」


「///」


……


唐突に始まった朝食会だったはずがいつの間にどんちゃん騒ぎになり……宴もたけなわといったところに差し掛かった。


……浮かれてばかりはいられなかった。これからの事を考えると、辛い道のりだが、それでも歩き続けると決めた。娘たちのためにも……


「ええと、皆さん……見苦しい真似をお見せしてしまいましたが……今後の話をさせていただきたい。」


……自分でも威厳はある方だと思っていたのだが、一気にストップ安だ……


「皆様方の身元や、今後の保証は可能な限り私がお手伝いさせていただきたいと思います。各々自分たちの場所へとお送りいたします。また、何か困ったことなどあれば、気軽に私へとご連絡いただきたいと思います。出来る限りのご協力はさせていただくつもりです。」


「そんな……守っていただいただけでもありがたいのに、それ以上ご迷惑をおかけする事なんて……」


……真実を隠すというのは、心が痛むものだ……


「いえ、迅速に防げなかったのは、私の不徳の為せる業と言えます。……ですから、お気になさらず。」


……自分で言っていて、白々しいのは分かっている……


「……貴族の方々と言うのを、私たちは見損なっていました。あなたのような素晴らしい方も、居るのですね。あなたこそ、本当の貴族だと思います。」


……そんな、立派なものなどでは、ないのに……私は、最低の貴族なのに……


……


こうして少しずつ、彼らを元の場所へと送っていくことになった。


私はというと、自室で椅子に腰かけている。……本当に久しぶりに、肩の荷が下りた気分だ……


……あの変態男はいつの間にか居なくなっていた。


……もっと、礼ぐらい言わせてほしいものだ……


「……お父様、失礼します。」


……ラナか。おや、ロミネも一緒だ。


「どうした、二人とも。」


「いえ……ちょっと……お疲れではないでしたか?」


「……これからの事を思えば、疲れてなどいられない。そうだろう……」


「……そう、ですね。」


「……シドさん、帰っていきました。最後に私たちに愛の言葉をつぶやいて。♡……」


「……アホ男め。ロミネ、絶対にあいつにたぶらかされるんじゃないぞ。」


「お父様が居てくれるうちは、お父様がナンバーワンです……♡」


「……ま、あの男も、居ないよりは、役に立ったな……」


「……シドさんは、最強。ですものね。」


「お前にそう言えと、あの男に言われた。あの男は最強だと。」


「……そうだったんですか。お父様が変なことをおっしゃったと思っていました。」


「……なんだったのだ。」


「……ふふ……なんでしょう。」


……


実はラナは、自らの身で、分かっていた。


どこまで意図していたかは分からないが、あれは作戦の一つだったに違いない。


あらゆる命令を聞かなくてはならないが、できない命令は聞くことはできない。


空を飛べと言われても飛べない。

一秒以内にワープしろと言われても出来ない。

聞いてない話を話せと言われても出来ない。


……私自身の不完全さもあるのだろうが、命令には抜け穴があった。


聞けないことは聞けないし、やれと言われたことも細かく言われなければ、やり方は自分で選べる。


戦えと命令されても、全力で戦うか、手を抜いて戦うかは言われなければ私が自分で決められる。


だからシドさんと戦う時も、実際は互いに手を抜いて戦う事で体力の消費を抑えていたのだった。


……いや、さらに言えば、私は、シドさんを倒せという命令を、無視できていた。


シドさんは、最強だと命令されていたからだ。


かなり強引な解釈だが、最強の人に勝つという事は不可能。そう私が認識したことで、倒せという命令は達成不可能と判断できた。


そういった意味でも、私は不完全な存在だったんだろうが、今回はそれが功を奏したわけだ。


……シドさんがどこまで考えていたかは分からないし、効果があるかどうかだってその時分かったことだった。コンタストの命令がもっと違うものだったならばその手だって使えなかっただろう。結果から見たら偶然だ。


……分からない、人だ。


「……どうせまたやってくるのだろう。その時はさっさと追い返そう。」


ついつい皮肉めいた言い方になってしまうが、ラナとロミネには本当の気持ちが伝わっていた。だから二人ともクスクスと笑い、ロミネは指をキツネの形にして父親に見せる。


「……?それは……はい、もちろんです……か?ラナに教わったのか。」


耳に栓をした状態でラナが奴らに返答するための急ごしらえの策の一つだ。


予めある程度汎用性の高い言葉を決めておき、ラナが私の手の形を見てその言葉を喋るという苦肉の策だ。ちなみにキツネの形は、はい、もちろんです。だった。振り返ると……綱渡りのような危うい策だったな。


「教わりました!今度イミルやトゥリエにも教えてあげます。私たちファミリーの合言葉にします。」


「……ふ……そうか。」


形のないものでも、家族を繋ぐ確かな物。そんな物からでいいのかもしれない。この家族の、新たな絆は。


……そんなことを思いながら、私たちは新たな一歩を踏み出す。

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