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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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捨てた命拾い

昨日も、私はこの足を、踏み出すことが出来なかった。吹き付ける風。私を誘っているように揺蕩う。


決めたはずの覚悟が、この足を踏み出させてくれない。本当は覚悟なんて、出来ていないかも、しれない。


でも、そんなものが出来る様になるのはいったいいつになるのだろう。


私は、もう、それを待ちたくない。


全て、無くなりたい。


私自身。何もかも。


夜の11時から12時。それが私が決めた、足を踏み出すための時間だった。


その時間に私は建物に忍び込み、この場所に立つ。そして、前へと一歩を踏み出す準備をする。


そんな日課は今日で13日目を数えることになる。


いっそ何かの間違いで足を踏み外してしまえたなら、何かのせいにしてしまえたなら。そう思っているけど足はいつも動かない。微動だにしない。


後悔なんてない、未練なんてない、何も、ない。


……


……


……


……そんなはず、なかった。後悔はいくらでもある。未練だって数えたりない。


でも、自分が一人きりになって気付く。それはあくまで後悔らしきものや、未練らしきものであって、後悔や、未練そのものとは似て非なるものでしかなかった。


それはしっかり生きてきた人が持つことのできる確かなもの。それが自分を繋ぎとめてくれる。


いつからか分からないけど、私は、生きていなかったのだ。


だから自分を繋ぎとめるものは不確かな何かでしかなかった。


この世界に、私を繋ぎとめる物は、もう、何もない。ただ一つだけあったであろう唯一の家族すら喪ってしまった今


私は、消えてなくなりたい。


気が付けばそれしか考えられなくなってしまった。


早くこの足を踏み出したい。踏み出したい。


私を、ここではないどこかへと。どこかへと。それを自分に願うばかり。


……


右手の腕時計は11時59分を指し示している。今日も、また、駄目なのだろう。足は動かないくせに腕は簡単に動く。嫌になる。もうすぐ死を望んでより14日目になる。私はいつ、逝けるのだろう。


そう、思った時、体が、揺れた。いや、大地、そのものが揺れている。地震、だ。決して小さくない。


一瞬予想もしない出来事に気を取られている間に、私の足は、大地から離れていた。


浮遊感。


頭から、下へと。


私は、落ちている。


ほんの刹那、私の中に恐怖感が芽生えたが、それをかき消すかのように私の心は全てを悟った。


やっと、終わるのだと。


最期の一歩すら自分自身で歩むことは出来なかった。だけどそれも私らしい。


そんな私の最期に相応しい、幕引き。


そんな私の、薄れゆく意識の中で声を聞いた気がした。


「ちょうどいいやぁ。んじゃあキミにしとこうかぁ。」


……気の抜けた、間延びした変な声だった。


……私の意識は、途切れる。


……


……


……


「とまあ、説明はだいたい以上になりますけど何か質問とかあります~?」


…………気の抜けるほど明るい声でその女性は私に問いかけてくる。私は何とも答えずただぽけーっとしていた。というかそれしかできなかった。


「あれあれ?もしかして、分かりづらかったですか?おかしいな~?私に限ってそんなはずないんですけどね~。」


確かに分かりやすかった。そんなに頭のよくない私でも言っていることは大体分かった。だからこそ、理解に至れなかった。受け入れるにはあまりにも突拍子もなさ過ぎた。


ここは、私が居た世界とは、違う世界。


私にとって異世界なのだと、彼女は説明してくれた。


不本意ながら人生のピリオドを打ったその瞬間、体も心も、この世界へと転移してしまった(らしい)。


これまでと違う世界、今まで通りは生きられませんが、それは裏を返せば今まで出来なかった生き方が出来るという、恐らく希望を持たせるような事を話された。


「だから、生き方は自由です~。何をしようと自分の元へ帰ってくるでしょう~。」


……自分の元へ……


……


「まぁ分からない事があれば後からでも聞いてくださいね~。では10秒ほどお時間頂きますね~」


?何のための10秒なのかと質問しようかと思った瞬間にはさっきまでの人当たりの良さそうな顔は大真面目な顔へと変わっていた。


……


見入っている間に10秒くらい経ったようでその表情はまた緩い顔に戻った。


「ほうほう、ふむふむ~。あぁなるほど~はぁはぁ……まぁ、あんまり深入りはしませんから、とりあえず最低限のお話をしますね~。」


……なんとなく、本当になんとなくだけど、心を盗み見られた気が、する。


「まずあなたのこの世界でのレベルというものが存在します~以前の世界ではいかがでした~?」


レベル。強さみたいなもの、かな。学力とか筋力とかそういう指針?


「それに近いですね~。単純にレベルが高い方が優れていると考えてもらえればいいですかね~。」


ゲーム的な。


「元々この世界で生まれた生物であるならレベルは初期数値の1から始まるんですけど、他の世界からやって来られた方の初期レベルは1~50の数字がランダムで充てられる仕組みになってるんです~。」


1~50?


「やっぱり前の世界の方が辛かったり逆だったり~まぁとにかく急にここで生きろ~って言われても厳しいのでそういう方へのボーナス的なものですね~。」


私みたいな、何にもしなかった人に、ボーナスか……頑張ってる人が聞いたら怒られそう。


「長生きしてくださいね~。」


ウインクされた。


「それであなたのレベル、ズバリ!いくつでしょう~?」


……25から少し引いて20と回答してみた。


「惜しいですね~!正解はなんと50です!」


惜しかった(惜しい?)。


「50レベルは最大ですし、運いいんですね~!以前の世界ではよっぽど善人でした~?」


……ッ……


「……ワザと、ですか……?」


「あはは……趣味悪かったですね~。」


「……ぷい。」


少しワザとらしく私はそっぽを向く。


「さっきの10秒であなたに関して大体分かっちゃったんですよ~でもプライバシーとかって気にしますよね~。私の能力ったら恨めしい~。」


「……冗談です。別に気にしてません。」


……事実なのだし……


「まぁでもでも~新たな生活を送るのならこれほどの好条件はないですよ~?送るのなら。ですけどね~…」


……新たな、生活。そんなの……


「ただ、厳密な数値としては教えられないですけど、あなたの元の世界で言うような学力であるとかそういったものがこの世界ではもう少し細かく表せるんですけど、全体的に低いんですね~。」


「ざっくばらんな言い方だとあなたの元々の能力としては……普通の人より結構下な感じですね~。だからレベル50と合わせて、帳消しか…下か、って感じですかね~。」


それは、的を得た評価だ。何にも努力していないのだもの。


「でもですね~レベル50は数字以上の意味があるんですよ~。ただまあ、それは後々どうするか決めてからですかね~。」


……何を聞いても、ふーん、で終わってしまう。その事柄に興味を持てないんだもの……


「でですね~?一つ決める事がありまして~、それだけ済めば後はフリーダムなストーリーです~!」


ふりーだむ。


「名前、どうしたいですか~?新たにこの世界で生きる上で全く違う名前にするのも出来ますよ~?そのままでもいいですけど~。」


「決めないと……駄目ですか?」


「あ~……話終わったら、死んじゃいますか~?」


……無言を貫く。


「ですか~……じゃあ、そのままでいいですかね~……一応1時間くらい決める時間の猶予があるんで、その間この町をぷらっとしてみませんか~?ビジネス的にはそこまでの義務はありませんけど~……私もあんまり気分良くありませんし~……な~んて。無理にじゃあないです~。」


……ああ、気を遣わせてしまっている。でも……


「町……?」


「町ですよ~。」


「……町。」


……私は特に考えなく町に繰り出した。


・・・・・・・・・


ぽてぽて……


町並みも、町を歩く行き交う人たちも、やっぱり違うんだ。


一つ思うのは、武器(?)を携えている人が大半みたいだった。


この世界では、それが必要な争いが、あるんだろう。


……もしくは、楽器かな。音楽が盛んなのかもしれない。それか調理道具とか、何に使うのか勝手に決めちゃいけない。


とてとて……


私は、どうしよう。


違う世界、か。


元の世界からしたら、私は当初の予定を達成したはず。私は死んだ。だからもう。


……なんて、そういうことじゃないね。


でも、死ななかったけど…少しだけ、怖かったな。少しじゃないか。


もう一回あんな思いするんだ…


ぶるぶる……


身震いする。


「おい、お前。」


良かったのか……良かったなんてこと、ない。


まだ未達成。私はそんなのばっかりだ……


「ちっ……無視とはいい度胸だ。」


死ぬ人みんなあんな怖いんだ…でもその時にはもう遅いんだ。


「その帽子取っちまうからな。ひょいっと。」


?いつのまにか被っていた帽子が脱げた。


私は上を向いた後、後ろに振り返る。


「……」


「……」


私よりだいぶん大柄な男の人が、帽子を手に立っていた。その人が何を思ったのかわからないが、黙ったまま互いを見合っている。


「……」


「……」


少し、驚いてる?そんな風にも見えた。


「……ぽえ……?」


「首を傾けて何言ってるんだお前……」


何を話していいか分からない時は大抵こんな感じに返事することにしていた。


「お前、名前は。」


「……」


少し呆けたフリをして相手をじーっと見つめてみた。


「……」


「……」


「……じーっ……」


見つめているつもりがいつのまにか見つめられていた。……恥ずかしい。


「そわそわ……」


「じーっ。」


「もじもじ。」


「じじーっ。」


「てれてれ。」


「じー!」


「(///∇//)ぽっ……」


「お前……もう少し表情に出せんのか。」


……正直そんな気分じゃなかった。


「まぁいいさ。お前は俺にメロメロなようだしな。」


「はぁ。」


「よし、じゃあとりあえずは俺の身の回りの世話からだな。料理に荷物持ちになんでもお前の役目だ。よし決定。わっはっは。」


カラカラと朗らかに高笑いしている。


何か都合のいい勘違いをしているか、私を誰かと間違えているのか。


「ええと、私はあなたの、某さんではないのですが……」


「そんなことあるわけない。今日からお前は俺のお付きだ。」


……この世界の習慣が分からない。だけど、あまり気分は良くない。


私を、いいように使おうとしているだろうというのは何となく察した。


「すみません……私、この後、」


……死ぬんです。と言えば、解放してくれるだろう。


「あいた……」


と思うより早く頭をペシっとされた。


「この後も前もあるか。とりあえずこれ持て、ほれ。」


反射的に手が出てそれを受け取ってしまう。布的な袋に色々入っている。


……ちょっと重い。私は力は弱い方だ。


「あの……私は、あなたの、何なんですか。」


ちょっと不機嫌な感情を込めて問いかける。


「ん、そうだな。なんにするか。まぁ、しばらくしたら決める。」


そう言ってその人は歩き出す。私が歩ってきた方向へ。


……話がまるで通じてない。


溜息を一つこぼす。


……この荷物、どうしたら。

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