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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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新たな始まりと終わりの亡者

……階段を上り終えて、地上へ出る。


夜は深い。まだ夜明けにはだいぶ遠かった。


……


微睡み、揺蕩う意識の中で、温かいものを感じた…


私の中の私が問いかける。


「生きたい……?生きたくない……?」


「どっちでしょう……」


……曖昧に答える。


「だめ、どっちか。」


……厳しかった。


……自分のことだから分かる事。


この質問は、そのまま自分の生死を決めるものだと。


「さっきまでは死寄りだったけれど、今は半々。だから自分で決めましょう。」


……


「ここで死んで、誰かの役に、立つでしょうか……」


「……」


「……私、まだ、シド様に……あの人に、ご飯を作ってません。」


「約束、しましたね……」


「生きてて欲しいですかって質問の答え、気が向いたら、教えてくれるって…言ってくれました…」


「言ってくれましたね…」


「だから。生きます。……もうちょっとだけかも、知れませんけど……」


「今なら、楽に、死ねると、してもですか?」


……確かに、このまま死ぬならなんの苦痛もなさそうだった。


……


「私は、図々しいので、もっと、いい死に方を、見つけて、死にます。」


「…流石私です。」


「てれてれ。」


「…じゃあ、戻りましょうか、あの人の元へ。」


「……はい。」


命の鼓動は、まだ絶やさない。


そう、決めた。


……


……


……


「……むくり。」


「……やっと、起きたか、バカめ…」


「……すや……」


「人の背中で二度寝するな。全く……」


「……痛いですね。あの氷。」


……さっきまでは、もしかしたらこのまま死んじゃうかもしれないと思っていたけれど、とりあえず今は大丈夫そうだった。ただ、その代わりに体が痛い。


いたたた……


「シド様は……大丈夫、ですか?」


「俺は無敵だからな。はっはっは。」


……そうは言っても、きっと自分だって、辛いはず…だけど、それをひた隠して、私を背負ってくれている。


……後、あったかい。少しだけ痛みが、和らいでる……気がする。


ううん……でもやっぱり痛い…


いたたた……


「……あの、重くないですか。」


「もっと重くなれ。せっかくおぶってるのに感触が薄っすらだぞ。」


「はぁ……そうですか……」


……


「……あんまり、心配かけさせるな。」


「……心配、しましたか?」


「……ふん。」


……私は、また、その背中で、眠りにつくことにした。


……


……


……


……


「お父様……これで、終わったのでしょうか。」


「……多分、な……」


シドたちがエイスの町へ帰っているころ。まだべレストラン家の者たちは地下に居た。動けなかったというのもあるが、全てが終わったのだという脱力感と達成感が、未だ抜けない。


今日という日は、それだけの事があったに違いなかった。長年の苦しみから解き放たれ、大切な人の仇を取ることができた。


そして、この日から、これまで通りの関係でなくなる日でもある。


「……私たちは、これで、自由になった。だが、それでも、私のやったことは、償わなくてはならない……」


「……償い……ですか。」


……この地下には、自分たちの自由を奪われた人たちが大勢居た。たとえ命令されたとしても、その自由を奪ったのは、自分たち……


彼らには、権利がある。不当に自由を奪われた報復を行う権利が。


彼らには、権利がある。不当に奪われた時間の代償を要求する権利が。


たとえそれが、物や、財産や……あるいは、自分の命をもってするようなことであっても……それは仕方のないことだ。当然の報いだ。


「全ての呪いは解けたはずだ。……陽が昇ったら、彼らをこの地下から解放し、そして、私は、しかるべき罰を受けることになる。」


「……そうですね……その通り、ですね……」


「……私は、自分の娘の命を助けるために、多くの者を不幸にしてきた。そういう意味では、私も、呪術の徒の奴らと、何の変わりもない。自分勝手な、人間だ。」


「……」


「もしかしたら、この命、朝になったら、もう、無くなっているかもしれんな。ふふふ……」


……そうだとしても、こうして誰かと語らう時間が与えられるだけ、過ぎた幸せというものだ……


「……こんな時だからこそ……お前に、言っておきたいことがある。」


「……」


「私は、お前や、お前の妹たちにも……迷惑を、かけてきた。お前たちも、私によって不幸にされた者たちの一人だ。だから、お前にも、私に報復する、権利がある。」


「……」


「……曲がりなりにも、長いこと一緒に過ごしてきて分かっていた。お前たちが、よく、辛そうな顔をしていることを……」


……それはおそらく、愛されないという悲しみ。


彼女たちは、私に献身的だった。私を本当の父のように慕ってくれた……それが、地獄の中で生きる私にとって、どれほどの安らぎだったか……


「……だが、そんなお前たちの気持ちを、私は、敢えて踏みにじってきた。」


娘たちは光も当たらないような地下で苦しみ続けているのに……自分だけ平穏を感じるなど……許せることではなかった……そんな自分のわがままのために、彼女たちに無理を強いてきた。


……私に、親の資格など、無かったのかもしれない。彼らが、たまたま現れてくれなければ。


私を慕ってくれた彼女たちどころか、自分の娘すら救ってやることもできなかった。


「言葉をいくら尽くしても足りぬだろうが……本当に……すまなかった。」


「……」


ロミネは、いや、彼女は晴れて、真の名、ラナを名乗ることが出来る。


そして……


……


「あのー。お父様ー。お姉さまー……」


……


「……イミル……」


イミルが、階段より現れる。


……いやさ、彼女もまた、リーナという真の名前を名乗ることが出来る。


……というより、彼女は何をしていたのだろうというのが至極真っ当な疑問だろう……


彼女は、彼女の役割を果たしていた。


もう完全に蚊帳の外であるが、この屋敷のメイド、シレスタ。敵のリーダーの可能性があると思われていた一人だが、結果から言えば、完全に無関係だった。


今回の計画だが、怪しいと思われる人物三人をほとんど同時に対処しなくてはならないのがカギだった。


コンタストの対処をシド、シノ、ラナが受け持ち、レーヴァスの対処をヤマ、ルーナが受け持つ。また、ルーナは地下の娘たちが人質に取られる可能性を考慮してあらかじめ護衛という意味もかねて待機していた。もちろん耳栓をして。


そしてシレスタの対処を受け持ったのがリーナだ。


夜中に地上に現れたシドとシノはまずリーナと合流し、三人でシレスタの確保に向かった。敵とは何の関係もなかったため、あっさりと確保し、身動きを取れないようにした。……シレスタにしたら迷惑な話だっただろうが……


その後、リーナとシレスタは、屋敷にある物置へとずーっと隠れていた。


……そして静かになったので、出てきたというわけだった。


「……すまないな。ご苦労だった。」


「いえ……終わったんです、よね?」


「……ああ。呪いは、全て解けた。全て、終わった……」


「……そうですか……あの子は……?」


キョロキョロと見渡している……ルーナの事だろう。


「向こうの部屋で倒れている……あの子も、よく戦ってくれた……本当に、助かった。」


「そうですか。うふふ……頑張り屋な子ですから。」


そういって彼女の活躍を讃えると、ルーナのところへ行き、背負ってこちらに戻ってきた。


「おとーさまーーーーーーー!!!おねーさまーーーーーー!!」


「……こんなに傷だらけになって……」


「だいじょーーーーーーーーーぶ!!」


……これで、全員、揃ったか。


「お前たちは、これで、自由だ。」


……そう、彼女たちは、もう、誰のものでもない。呪術の徒のものでも……私の、ものでもない。


「お前たちは、どうしたい……」


……私が……これからも一緒にいてくれないか……などと頼めるわけがない。分かっている……どこまで私は自分勝手なのか……恨まれても当然なのだ……


「お父様は……私たちの事を……嫌い、でしたか?」


「……私は、お前たちの事を、名前で、呼んだことがない。」


「嫌い……だから、ですか?」


……違う……そんなはず、ない……大好きで大好きで……愛しているから……


だが、そんな質問をするということは……やはり、そう思わせていたのだな……


「私たちは……ずっと、辛かったです……」


「……そうか……」


……


「私たちが、この屋敷へと初めて来たときのお父様の顔……今でも、よく、覚えています……」


……私にとってはこの子たちは、スパイ同然、そう思っていた。……だから必然、彼女らに向けた目は恐らくだが……忌々しいものを見る目だったのだろうな……


「おとーさま。泣きそうな、かおだったー……」


「……泣きそうな、顔……?」


「ふふ……なぜ、そう思ったのか分かりませんが……この人は、きっと悲しんでいる、辛いのだと。そう感じました。」


「ですね。私たち、お父様の監視をしなくてはならないと命令はされましたが、それ以外の事は自由でした。だから、少しでも、笑顔でいてほしいって、その時、3人で思ったんですよ。」


「……そうか。」


「おとーさま。やさしい、ひとだった。だから、おとーさまのためなら、なんでもやってあげたい。そんなふうにおもったー……」


「……私は、お前たちに、優しい父では……なかったのに……」


「そんなことなかったですよ。ちょっと、不器用かもしれないなって思ったことはあったかもしれませんけど。……私たちにとっては、優しくて、頼りがいがあって……強い、お父様、なんですよ?」


……出来過ぎた……子たちだ……


「もう一度、聞いて、いいですか……?お父様は……私たちの事を……嫌いでしたか?」


……


「……大好きだ。本当の娘のように思っている……ずっと、これからもずっと、側に居てほしい……そう、思っている……」


……この子たちの思いに、嘘など言うべきでは、ない。


「ラナ……お前は本当にしっかり者だ。私の足らないところをいつも補ってくれる。私の辛い気持ちを、いつも半分肩代わりしてくれた。ありがとう……」


「……お父様……」


「リーナ……お前はその優しい心をいつも差し伸べてくれた。……それに甘えてはいけないとわかっていながらも……まるで……エレムと一緒にいるような気持ちにさせてくれた……」


「ふふ……お父様……」


「ルーナ……お前の元気な姿を見る度、ロミネ達も、こんな風になれる日が来るだろうかと思った。そして、そんな日が来たとき、ロミネも、イミルも、トゥリエも、ラナも、リーナも、ルーナも……みんな揃って笑顔であれるように……私は、生きてきた。」


「……ロミネたちも、わたしの姉妹。だから、私たちが守るー!!……それが、かぞく、だから。」


……ああ……そうだな。


「……もう、お父様を、一人ぼっちになんか、させないー。」


……零れ出る涙は……止まらない……止め方を、だれか、教えてほしい……


こんなに泣くのは……エレムが亡くなったとき以来かもしれない……あの時は悲しみの涙だった……世界の終わりを感じさせるような……


だとすれば、これは、私にとっては世界の始まりを告げる、祝福の涙に他ならない……


今日この瞬間から、私たちは、新たな家族になる。本当の、家族に。一つ一つゆっくりだが。


……


……


……


……


……


……


……


……


「まさか、まさか。コンタスト様が?」


「レーヴァス様は、どうなった?」


「死、死、死、死んだのか?」


「……ではではではでは、わたしたちはわたしたちはわたしたちは?」


「死死死死死死死死死死」


……主を失った信者たちは、どうなるのだろうか。


それを神と崇めてきた。


彼らにとって全てを捧げるに相応しいものだった。


それを失ったら。


彼らに生きる意味は、もう無い。


「……呪術の徒に未来あれ。」


「次の世界でまた逢いましょう。」


「終わり終わり終わり終わり。」


「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ。」


……各地で突然死が次々と相次いで起こった。


彼らは、他人を呪うことだけを生きる糧として今日まで命を保ってきた。


……その彼らの野望が明るみに出る前に、命は閉じる。


多くの者に触れられることもないまま、ここに呪術の徒は、滅びを迎えた。

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