時航者と時航者異世界人
「失礼します。すすす。」
「うん。」
相手の返事を待たずに部屋に押し入る私は一見強盗のように見えるけどこんな可愛くていたいけな強盗は居ないのさ←
「こんにちはモルフィンさん。私と言う名のシノちゃんです。」
「……よく分からないけど、逆じゃない?」
「かも知れませんでした。ですが出会ってそうそうこんな砕けた会話が出来る事が私は嬉しいです。てれ。」
「ふふ、そうだね。せっかく来てくれたんだからゆっくり色んなお話をしてくれると嬉しいな。」
一時間でも二時間でも他愛も無い話に花を咲かせたいではあるのだが……
「……実は割と真面目な話があってここに来ました。」
「……真面目な話?」
……私は語った。私の知りえぬ謎の集団がこの世界中で今まさに暗躍している事を。そして大切な人達がそいつらにさらわれてしまい……そして……
「いま世界ではそんな事が起こってるんだ……」
「異世界人だけが狙われているのか……あるいは特殊な能力を持った人が狙われているのかハッキリはしません。私が一番怖いのは……時航者が狙われる対象になったりしたらって事です。」
……今の私にはそれが一番怖い。
「もしそうなったら……私も、狙われるかもしれないって事?」
「……」
紆余曲折あったとて、この世界において私はモルフィンさん達と友好な関係を築けていると自負している。しかしそれだってたった一つのほころびで瓦解してしまうもの。ましてや皆さん7人の絆はとにかく強く誰にも壊す事など出来ないだろう。
……だからこそ、誰か一人でも欠けてしまえば……ダメなのだ。モルフィンさんに限った事では無いが……前の世界でパルさんが亡くなってしまった時のように……同じ結末が目に見えている。
「もしモルフィンさんの体の事を知らない奴らがモルフィンさんを無理矢理ここから連れ出そうと何てしたら……」
「……私、死んじゃうね。」
ここから動けない縛りがある事などお構いなしに自らの都合の良いようにされては……私だってたまったものでは無い。
「モルフィンさん……お願いです。少なくともこの事態が収束するまで……皆さん心苦しいかもしれませんがここに固まって居て欲しいんです。いつ誰が襲ってきても対応出来るように……」
「……シノちゃんの話だと、その集団の人達って言うのは随分強いんだよね。」
「……程度にもよるのかもしれませんが、おそらく強い人はとことん強いと思います……」
どんな状況だとしてもゴーバス軍の隊長をやっているようなレイナードさんをあんな目に遭わせてしまうぐらいだ……用心し過ぎる事も無いだろうと思う。
「それでも皆さんが力を合わせればきっと撃退出来ると私は思います。怖いのは……皆さんが出払っていて手薄になっている所を狙われる事です……」
「そうだね。3人ぐらいしかここに残らないなんて時も全然あるもん。」
……今日ここに来て、凄惨たる光景が広がって居なくて良かったと心から思っていた。間に合わなくなる前にここに来れて……良かったと。
「ちなみにモルフィンさん達はやっぱり今でも計画の方を……?」
「うん。着々と進んでるよ。」
「それは喜ばしい事です。」
……嬉しいけど、もし実行に移されそうになったらその時は必死に止めないといけない。
変な関係かもしれないけど、私が選んだ関係だ。
「それにね、実はこの間シノちゃん達が帰った後、みんなが言ってくれた事があるの。」
「?何ですか?」
「これまでは私達7人一つの目標の為だけに進み続けていた。けど、もう少しだけ欲をかいてもう一つ叶えたい事があってもいいんじゃないかって……」
「その、叶えたい事と言うのは……」
「……私をここから出せないかって、言ってくれたの。」
「……モルフィンさんを……」
それは……聞くだけで素敵な事だった。
「前の私なら……そんな事は出来ない、どうにもならないからって言い切っちゃってたんだ。だからみんなもそれ以上は言わなかった。その分他の私の望みを叶えようとしてくれてた。でも……やっぱり私、諦めたくないって思ったの。どうにか……ここから出て、みんなと一緒に……本当の意味で一緒に居たい。その手に触れて……握って……これまでのお礼をたくさん言いたい。だから、ワガママを聞いてもらう事にしちゃった。迷惑ばかりかけてて申し訳ないんだけどね……」
「……迷惑なんかじゃないですよきっと。」
「シノちゃん……」
「……皆さんの願いは、モルフィンさんの想いを叶えてあげる事……それがモルフィンさんの本当の望みなら……きっと皆さん全力で応援してくれます。私だって応援します。ここから出る事も出来ないなんてそんな不自由なルール……私嫌いです。変えられるなら……ううん、きっと、変えてみせます。」
「……ありがとう。みんなも、そう言ってくれたんだ。今のシノちゃんみたいに……凄く頼もしくて暖かい笑顔で。」
「はぅ……」
相も変わらず勢い任せで口約束してしまったけど……口約束だからって、蔑ろにしていいわけじゃない。守らなくちゃいけない約束がそこにはあるんだ。
……この約束を反故にする事だけは……許されない。何より私が許せない。
「きりっ。」
「?」
……いくらだって、背負って行こう。それで喜ぶ人が居るならば。
「でも、現実問題、流石にまだまだそれは先の話になっちゃいそうな感じですよね……」
「そうだね。正直な所、やっぱり難しいのは難しいと思う。なんて言っても私自身この容器や装置の構造や原理もよく分からないから。」
「時間を巻き戻したら……既にこの場所に囚われてたんですもんね……」
一体、誰の仕業なのかも分からない。人……あるいは人ならざる者の所業か……いずれにしても酷い話だ。
「こういうの、機械とかメカとかっていうんだよね。私……あんまり得意じゃないから……」
「私も苦手です。説明書を読んでもむしろこんがらがるタイプです。」
機械……そう言えば、カラリーサさん達の所で手にいれたデジタルゲートもほったらかしのままだな……
「前に話した魔物領に移動出来るかもしれないというアイテムも、実は機械なんです。」
「そう言えばそんな話だったね。」
「……それを直して正常に使えるようにする為には、少しそちらの分野に強い人の助けが必要なのかもしれません。それにもしかしたらその人ならここにある機械類についても何か分かるかもしれません。」
「そうだね。とりあえず詳しい人の話を聞いてみたいよね。なりふり構わず動いても……時間かかっちゃうもんね。」
ファンタジー世界ながらも、結局はマシーンなテクノロジーに頼ってしまうのもいかがなものかと思わないでも無いが、そんな悠長な事言ってる場合じゃないな。メカニックな人、どこかに居ないだろうか。
……
「私はギンガさんの端末プログラム。正式にはCORE-07と言います。」
「……ロボットって事ですか?」
「その言い方が妥当だと思います。」
……
「(あ……もしかしたらコアさんなら……?)」
「?」
「……もしかしたら心当たりがあるかもしれません、と、勝手に頭の中で思いつきました。」
「本当に?」
「……可能性の話ではありますが、かもしれません。」
ギンガさんの体を治したのはコアさんだと言っていた。調整……?とにかく体調管理的な事もコアさんがやっていたのだと言っていた。ならあるいは……というある種勝手な押し付けではあるけれどそんな兆しが見えた気がする。
「(問題が解決してもう少し落ち着いた時にでも……コアさんに会いに行ってみようか。)」
とりあえず今はシノちゃんブレインの隅っこの方にその事は置いておこう。すすす。
「ちょっと話が逸れちゃいましたが……ともかくモルフィンさん達には窮屈ですが……ここで待っていて欲しいんです。私達が急いで悪い奴らと戦って平和を取り戻しますから。」
「……ねえ、シノちゃん。」
「?何でしょう。」
「シノちゃんは異世界人なんだよね……その人達に狙われるの……怖くは無いの?」
「……あふ。冷静に考えて見ると確かに怖いんですが……でも、今既に怖がっている人達の事を考えると……あんまり気にしてられません。」
ナナちゃんや雪美さんは穏やかな暮らしを急に壊されたんだ。私はいわば冒険者だし、波乱万丈のその延長線上ぐらいにか考えていないのかもしれない。
「……出来れば、また協力してあげたいけれど……でも……誰かが出払っちゃったりしたら危ないってシノちゃんは忠告に来てくれたんだよね……」
「……この間は、ガラディさん達にとてもお世話になってしまいました。でも……今回はここに居て欲しいんです。ちゃんとこの場所で……大切なモルフィンさんを守って居て欲しいんです。」
「……」
どこか複雑そうな顔を浮かべながらも、それでも最後には私の考えを理解してくれたようでモルフィンさんは……
「……うん。分かった。なら、今回はここでシノちゃん達の無事を祈ってる。」
「……ありがとうございます。」
「……ごめんね、力になってあげられなくて……」
「……今こうやって普通に話していられるその時間が、私にとって何よりの救いです。」
命を賭けて戦い合う未来なんかより……ずっとずっと、幸せだ。
「こほん……ちなみに何ですが……モルフィンさん、その謎の集団について何か心当たりとかあったりしますか?例えば……前の世界でもそんな人達が居たとか……」
実際の所モルフィンさんに聞きたかったのはそこであった。私が経験していない出来事でも、他の人なら知っているかもしれない。
私が取った行動の何かが影響して事件の起こる起こらないが決まっているとまで大げさな事は言わずとも……可能性はある。
「……私も、そんな人達の事は知らないかなぁ……異世界人や能力を持った人たちばかり狙うなんて……一体何が目的なんだろうね。」
「……そいつらの本拠地さえ分かれば、すぐに乗り込めるんですが……」
「……ごめん。心当たりは、無いんだ。」
「……ですか。」
……仕方あるまい。裏でひっそりと暗躍しているという事はあまり世間に知られたくないという後ろめたさがあるのかもしれない。実は私の世界でも起こっていたけど私が世間に無関心で気がつかなかっただけかもしれないのだから。
「……モルフィンさんの居た世界で、戦争はありましたか?」
「……うん。あったよ。ラズリードとヤシャマの戦争が……」
「そこは、一緒ですね……」
「私は直接巻き込まれたりって感じじゃなかったけど……遠くでも誰かが傷付いてるのって辛いよね……」
「……」
やはり、今後起こる中でも世界規模な出来事の代表……人類統一戦争……ここを回避しなければ、私は大きく足止めを喰らう事になるような気がしている。
「(……誰の意志が、どう介在してその結果をもたらすのか。)」
少し歯車が変われば起こったり起こらなかったりする一方で……戦争はどの世界でも起こっているように思える。そこには何者かの強い想いがある……?
……問題、山積みだな。どうにも。
とても険しく大きく長い山でも……一歩一歩進むしか私には出来ないのだ。
この足で、確実に前へ進む事しか。




