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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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緩めなスタート

「もう既にだいぶ今更過ぎますが、せっかくのファンタジー世界なので今回は少しゲーム風に行ってみたいと思います。」


朝起きて開口一番何を言い出したのかと思えば平常運転で安心した。


「ほう。」


こういう時は好きにさせてやろうと思い俺は動向を見守る事にした。


「美少女冒険者シノちゃんはタンスを調べました。ごそごそ。」


自分で言ってて恥ずかしく無いのだろうか。


「シノちゃんのよそ行きのお洋服を手に入れた!」


およそ冒険用では無いファッション性の高い服が出て来た。


「やりました。」


元より自分の私物では?


「他にも何かあるかもしれません……ごそごそ。」


自分が使ってるタンスに他人のへそくりなどでも入っていると思っているのだろうか。


「シノちゃんの下着を手に入れた!」


……だから私物では?


「きゃあ恥ずかしい。これは戻しておきましょう。すすす。」


……実にアホらしいと思いながらも、ついつい見入ってしまう。いっそ今日一日この成り行きを見ているだけでもとか考えてしまっていた。


「まだこのお部屋は探索し終わってませんね。」


……俺は動向を見守る事にした。


「続いておトイレを調べてみましょう。ごそごそ……」


……便器しか無い場所のどこをそんなに調べる事が……


「美少女冒険者シノちゃんはトイレットペーパーを手に入れた!」


むしろトイレ以外のどこにあるというのか……


「しかも良い匂いのするトイレットペーパーです。なんだか得した気分です。触感も良いし嬉しいですね。すりすり……」


頬ずりしている。可愛らし……もとい、アホらしい。


「他にも調べてみましょう、ごそごそ。」


いや、だからこれ以上どこを探したって何も無いだろうに……


「美少女冒険者シノちゃんはおにぎりを手に入れた!」


「衛生面!」


「しかも3つも!」


「いや、数の事は問題にしてねえよ!こんな汚い場所にある食い物拾うな!」


「……シノちゃんは泣く泣くおにぎり3個を諦めました。」


見守るつもりが不覚にも俺自身が参加してしまった。くそ、突っ込まずにいられんかった。これはある意味俺の負けだな。


「美少女冒険者シノちゃんはゴミ箱を調べました。」


いちいち美少女冒険者付ける必要性!


「なんとゴミ箱の中には世界平和の光が入っていた!」


ここに来てよく分からんものが発見された!物なのか形の無い抽象的なものなのか分からん!


「シド様。」


「……」


「初めはどうなるかと思いましたけど、思いのほか楽しかったです。」


「……それは何より。」


「たまにはこういうお遊び要素があると楽しいですね。」


「……その心意気や良し。」


……どんな時でも物事を楽しめるような余裕があるのは素晴らしい事だ。たとえそれがどれほど意味不明な電波な空間でも。


「ふぁああ……あれ?二人とも起きてる。何してるの?」


「……気にすんな。戯れだ。」


「?」


……根を詰めてばっかりより、健全な朝だろう。


「ご飯を食べましょう。今日の自信作はお味噌汁ですよ。」


その自信作とやらはご飯、おかずとの相性バッチリだった。


……


そして一同依頼所に集合。


「じゃあガエインでいいんだな。」


「美少女冒険者シノちゃんはガエインへ向かいました。」


「それはもう終わりだ。」


「残念、シノちゃんの旅は終わってしまった。」


「終わらん。むしろこっからだ。」


「そうでした。大好きなシド様と夫婦漫才をしている場合ではありませんでした。」


「とりあえず道案内は任せちまっていいんだな?」


「確実というわけではありませんが、ハッキリとした事が分からない現状ではこれが考えられるベストです……」


「シノの言う事なら信頼出来るよ。ダメならダメで次を考えよう。」


「うん!今度こそ奴らを倒すぞー!」


約三日の準備期間を経て、俺達の指針は決まる。倒すより捕まえて口を割らすのが優先だが、まぁ心意気や良しだ。


「申し訳ありませんシドさん……一人でも人手が必要な時にお手伝いが出来ず……不甲斐ない限りです。」


「何言ってんだ。お前にはちゃんと役割がある。この中でしっかりとした肩書があって国を動かせるだけの力があるのはお前だけなんだからな。」


「シドさん……」


傷も完治したリンカスターは、一旦ラズリードへ戻る事を決めた。理由は言わずもがな、奴らの襲撃に備えるべく国単位で連携を取って動いていくに際して忙しくなる事を見越しての事だった。一日でも早く多くの人を安全に保護したいという彼女らしい考えからであった。


しかし、当然ながら全体を助けるあまりにナナの事から遠ざかってしまうような気持ちになってしまうのは否めないようで不本意そうではあるが……


「リンカスターさん、お気をつけてください!」


「それぞれが為せる最大限の事をしましょう。よろしくお願いします。」


「皆さん……」


心置きなく自身のやるべき事を出来るようにと、皆その背を押す。


「任せとけリンカスター。ナナは俺が絶対に連れ戻してやる。だからお前はあの不届きな野郎共を一人残さず一網打尽に出来るように頑張ってくれ。」


「……ふふ。」


きゅっと……口を真一文字にしていたかと思うと、やがてリンカスターはほころんだ。いつも凛々しく気丈な彼女と……そんな中にある女性味溢れた慈悲に満ちた笑顔を浮かべる彼女……その、後者の方を俺に向けてくれた。


「シドさん達なら絶対に出来ると信じているからこそ……安心して託す事が出来るんです。」


「リンカスターさん……私達に任せてください。」


「……はい。私も全てが片付いたら、またこの場所に戻って来ます。そうしたら……また、パーティをしましょう。」


……その約束があればこそ、きっとリンカスターはいつも以上の力で頑張れるだろう。そして、俺達も。


「「……」」


皆、笑顔を以て頷き、そして見送る。


……ま、俺以外は。だが。


……


「副隊長さんかぁ。カッコいいなぁ。」


「リンカスターさんの事?そりゃカッコいいに決まってるじゃん。」


「それはそうなんだけど、もし私が副隊長って言っても誰も信じてくれないでしょ?しっかりしてないし頭悪いし……」


その辺りの部分ってのは見た目じゃ分からない部分でもあるとは思うがな……ケイの奴は典型的な喋らなきゃ才女タイプだし。


「確かに佇まいが違うよねぇ。こう言われるとリンカスターさんなんて思うか分からないけどお姫様って言われたとしてもそんなに違和感ないかもなぁ。」


「お姫様でナイト様ですね。それは少女漫画な世界です……」


「むしろ男装の騎士とかリンカスターにピッタリじゃない?」


「あんな素敵な騎士様が目の前に現れたら私恋に落ちてしまいそうです……」


「魔物に襲われている所を助けてもらったりしたら、もう恋の始まりですね。」


……女性陣の中に花が湧いている。混ざっていると変な気持ちになっちまいそうだが、さりとて他に居るのはこれまた気の合わない野郎が一人……わざわざそっちに接近するなんて……


「(……何食わぬ顔して、ちょっと離れるか。)」


特に何も告げず俺は席を立つ。そしてあまり人の居ないゆっくりできる席を見つけたのでそこに座って外の景色を眺めている事にした。


「どっこらせ。」


乗り物ってのはまぁ便利だ。こうしているだけで勝手に目的に連れてってくれるんだから。


「(ほんとはちゃんと歩いていきたいんだが……こういう時は仕方あるまい。)」


さて、シノの奴が俺達を導くは……一体どんな場所なのやら。


……


「って、ここかい……」


てっきり初めて来る場所だと思っていたからちょっと拍子抜けした。


「トリメタスだね。」


……その跡地と言った方が良いんだろう。正確には。


「随分寂れてんじゃねえか……こんな所に住んでる奴居るのか?」


「とりあえず皆さん私について来て下さい。すすす。」


つー事は、あいつらの所に行くのか……


「(何となくあの場所に行くと俺は肩身が狭くなるんだよな……)」


理由は分からん。分からんフリをする。


……


「地下にこんな広い空間が広がっていたんですね……」


「暗いけど、ちょっとドキドキするね。」


「分かる!なんか他の世界に繋がってたりしそうだよね。」


以前来た時と比べると賑やかさがまるで違う。人数もさることながら妙にうるさい奴らばかりだとこうなるんだな。良いか悪いかは別として。


「着きました。ここです。」


やがて、大扉の前に俺達は立つ。


「(前みたいに開けたらいきなり野郎が剣先を向けてきたりしないだろうな……)」


「すみません、こんにちは。私です。」


……ノックと共に人畜無害そうな声で呼びかければ、とりあえずは大丈夫だろうと高を括る。


「あら?シノちゃん。合言葉を言ってくれるかしら?」


「あ、合言葉ですか。え、えーと。開けシノちゃん。」


「ぶっぶー。外れよ。チャンスは後2回。」


「……ひ、開けシノちゃん。」


「あら残念、後1回になっちゃったわ。」


全く同じ答えをしやがったこいつ。


「なんで貴重なチャンスをわざわざ1回無駄にするかね……」


「もしかしたらフェリアさんの聞き間違いだったかもしれない説です。でも2回確かめたら確実ですね。ホッとしました。」


「「……」」


俺達は皆、冷ややかな目でシノを見る。


「残念そうな目で見られていますが気にしません。それではラストチャンス行きます。というかこれしかありません。むしろ元より分かっていました。だからこそ最初の2回は遊んでしまいました。」


「そうだったの。全然気がつかなかったわ。」


「さぁこれで見事扉は開くはずです。開け……」


その最初が開けって言うのが間違ってるかもしれないとは思わないのか……古典的過ぎるし。


「シド様!」


「……」


「……」


結局、言葉尻を変えただけだった。大体俺と縁もゆかりも薄い奴らがどうして俺の名前なんぞを合言葉に加え入れるものか。まったく常識に囚われない想像力だけは群を抜いている。


「あら、惜しかったわ、残念ね……」


「むむむ、これしか無いと思ったんですが……まさか外してしまうなんて。」


「絶対外れるだろ……つーか、絶対惜しくないだろう。」


「ちなみに正解は何だったんですか?」


「正解は相言葉なんてありませんでした、が正解よ。」


「……なんと!」


……茶番だ。


「……もういいから開けてくれるか。気が抜ける。」


「そう?それじゃあ開けちゃうわね。」


無駄な一工程を経て、ようやく扉が開く。


「はい、どうぞ特別よ。あら?また新しいお客さんと一緒かしら。シノちゃん達は友達が多いのね。」


「うん!私達シノの友達だよ!私ケイって言いますお姉さん。よろしくお願いします!」


「あらそうなの。開口一番自己紹介してくれるとなんだか嬉しい気持ちになるわ。私はフェリア、よろしくねケイちゃん。」


初対面であるが故に少々訝し気な雰囲気が発生しそうだったがケイの奴のおかげでその点は心配いらなかった。こうなってしまえば後は勝手に互いに自己紹介をして相互理解に至るだろう。


「ついこの間ぶりですが、皆さんは居ますか?」


「うん。みんな居るわよ。ちなみに誰に会いたいの?」


「……モルフィンさんです。」


「あら、私じゃないのね……残念だわ……(しゅん。)」


「あ!いえ、そんな……フェリアさんともお話したいですし編み物したいですしそれから他にも色々と……」


「……ふふ、冗談よ。シノちゃんが可愛いからちょっとからかっちゃっただけ。そうなると……二人きりの方が良いのよね。」


「は、はい。すみませんが……それでお願いします。」


「分かったわ。とりあえずは、みんなこっちに来てくれるかしら。」


「……何か結構、グイグイ来るタイプだな……」


「でも凄く良い人だよ!まだちょっぴりしか話してないけど分かっちゃう!」


「ケイがそういう人に悪い人無しだもんなぁ。よし、私も良い人認定出しちゃう!」


のんきに言い合っているそんな姿を見てもフェリアはうふふとにこやかに笑っている。この調子なら俺が最初に来た時みたいな険悪なムードにはなるまい。


こいつらもキャラが濃い方だったが……これから会う奴らもどっこいどっこいな所がある。それが悪い意味での化学反応を起こさなければと心の中で思うばかり。

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