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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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少女は眠り、男は目論む

サッコロ行きの乗り物の中で私達はこれから起こるかもしれない戦いに備えて各々のやり方で体を整えていた。


「お、それドボンだぜー?」


「え?あ!ほんとだ!しゅん……」


「またケイの負けね。」


「うぅ、やっぱり私頭を使うの苦手だなぁ……」


「違うゲームにしますか?」


「うー……でも!めげずに頑張るよ!苦手な事から逃げてたらずっと苦手なままだもん!」


「偉い!流石ケイ!」


苦手な事にはぶつかっていくという考え方は実に凄い。私も見習って行きたいものだ。


「……緊迫感0だな。」


「そんな事無いよ。なんならシドも一緒にやりゃいいじゃん。」


「意味分からん。」


「シド様、いくらこれから何が起こるか分からない不安な状況だとしても、だからと言って自分達から暗いムードになってしまうのは何ともな話です。」


「そだよー!それに私達が暗くなってたらナナちゃんだって心配するよきっと。ちゃんと笑顔で迎えに行ってあげないと!」


「……その真面目にキラキラした目はやめい。」


私達だって遊び事じゃないのは重々承知だけど、悪い意味でのプレッシャーは自分達に悪影響を及ぼす。だったら多少なりともゲームでもして気を紛らわせる事でリラックスするのも一つの戦術……と言いたいんだけどシド様には上手く伝わらなかった。しょんぼり……


「(……でも、私は今こうしている事を間違いだなんて思わない。ナナちゃんを取り戻した時には……また笑顔で迎えてあげるんだ。その為に私達が笑顔を失っては……いけない。ナナちゃんはまだ小さいんだもの。)」


ちゃんと……助けるんだ。


……


シノ達がゲームに興じている間俺は、今回の敵という存在について少し考えを巡らせていた。


その何者かという奴らはナナを……いやさ、おそらく異世界人をさらって何がしたいというのか。珍しいから捕まえて売ろうってか?いや、異世界人は珍しいかもしれないが、シノやナナなど見た目や能力は俺達と何ら変わらない。そこに付加価値など見いだせない。何より異世界人を欲しがってる好事家が居るなんて聞いた事が無い。もしもそんな奴が居ていずれシノに魔の手が及ぶとしたら俺はそいつらを完全なる敵とみなして実力行使に出るだろう……


と、考えるとこの激突は結局避けられないものなのかもしれない。異世界人を……いや、俺からすれば俺の近くのたまたま異世界人である女を狙われたら、戦う以外の選択肢など……


「ちっ、どこの馬の骨か分からねえが留守中に俺の町で好き放題してくれたもんだぜ。」


……ツッコミ待ちか?こいつ。


「いつからお前の町になったんだよ。ちょっと前まで町の人間全員敵に回しておいて。」


「俺が快適に暮らす為の町なら俺が守るのが筋だろうがよ。俺がその場に居たらぶちのめしてやってたぜ。」


……考え方がある程度俺と似通っているのがムカつく。こんな脳筋野郎と思考回路が近いなんて……


「今更だが、お前らがついて来て一体何が出来るんだよ。大人しく町で待ってた方が良かったんじゃねえのか。」


「あぁ!?待っててどうすんだよ!お前らに全部任せて呑気に遊んでろってか?見損なうんじゃねえ!第一ナナの奴とは一緒にパーティをやった仲だ。だったら助ける為に体の一つや二つ張る位当たり前なんだよ。」


「体を張ったぐらいでどうにか出来る問題なんて大したもんじゃねえんだよ。いつまでも勢い任せで突っ走るとそのうち呆気なく死ぬ事になるぞ。」


ま、野郎が死のうがどうなろうと関係無い事だが。


「第一お前、戦えんのか?」


「おいおい、俺の何を見てそんな寝ぼけた事言ってんだよ。この鍛え上げた体を見ろや!」


「ポージングやめい!」


……野郎の体なんて見たくもねえが、強いて言うならあの野郎の方がよっぽど強そうだったがな。


「前の時だってケイの奴に任せてお前とエルは後ろで見てただけじゃねえか。アイの奴は知らぬ間にシーデルに捕まってたし……中途半端な強さならマジで今からでも帰った方が良いぞ。」


「お前なぁ……俺達がただ口先だけで行動するお調子者集団とでも思ってんのかぁ!?」


「思われてないとでも思ってたのか?」


「この野郎!!ああ、いいさ。なら見てろよ。もしそのわけわかんねえ野郎が襲ってきやがったら俺の強さ見せたんぜ!」


……考え事の最中に邪魔が入った。けれど無視すればよかったものをついつい気まぐれで乗っかってしまった俺が悪い。反省しよう。


「(……雪美の奴、無事だといいんだがな。)」


あのデカブツも居るし……大丈夫だろう。もし万が一の事があったら思い切りあいつを責め立ててやろう。


……


「着いたサッコロー!の……なんて街なんだっけ。」


「アガルタよ、ケイ。」


「あ、そうだった。」


「補足になりますが正確には村らしいです。私自身もあまり違いは分かりませんが。」


俺も分からん。


「今の所、あんまりザワザワしたりしてなさそうだね。」


少なくとも数日中に人さらいがあったという風には見受けられない。


「ちょっと聞いてみましょうか。もしもしそこ行くおじいさん。」


「おぉ?お嬢ちゃんは確かこの間来た冒険者の娘じゃ無かったかの?」


「おぉ、よく知ってますね……てれてれ。」


こっちは覚えてないが向こうは覚えているらしい。ふうん。


「楽しい食事会があったから覚えておるよ。あの時は楽しかった。それで、今日はまた何か用かい?」


「あの、つかぬ事をお聞きするんですが……雪美さんは……居ますか?その……この村に。」


「?雪美ちゃんかい?ああ、居るとも。多分いつものようにクロックさんの家に居ると思うが……」


と、言う事はまだ魔の手は及んでないという事だ。


「そうですか。分かりました。ちょっと雪美さんに会いに来たのでそれを知りたかったんです。ありがとうございます。」


「折角遠路はるばる来たんだ。ゆっくりしていきなさい。後ろのお友達も一緒に。」


……


「シノ達は随分顔が知られてるんだね。」


「?」


「さっきから道行く人色んな人達に顔を覚えられてるからさ。」


「ほんのちょっと前に来た事があったからですよ。」


「それもあるのかもしれませんが、皆さんとても笑顔で対応してくれています。かなり友好的な関係を築いた証拠ですね。」


「短い間だったけど割と色々あったもんね。」


「ルーチェさんやリラクラルさんともこのサッコロの地で出会ったんですよ。」


「へぇー、そうなんだ!それにしてもやっぱりサッコロって寒いね。って言うか猛烈に寒いね!!」


「今更!?」


こいつ単なるボケでは無い大ボケか?


「これだけ厚着してればそんなでも無くないか?」


「ケイは少し寒さに弱い所があるものね。」


「あふぅ、それでしたらケイさんこれを……」


シノは自分の手にそれを握って手渡す。


「うよ?おお!何この石!暖かい!!全然寒くないよ?!凄い凄い!」


「カブールストーンと言って持っているだけで寒さに困らないアイテムです。私はそんなに寒くありませんしもし良かったらサッコロに居る間だけでも使ってください。」


「いいの?ありがとう!」


「へぇ~世の中にはそんなアイテムもあるんだ。私も一個欲しいなぁ。」


「カブールストーンは中々激レアアイテムだからそうそう手に入らないんだよ。」


「そんな珍しいアイテムを持ってるシノさんはやはり凄い冒険者なんですね。」


「あ、あふぅ、持ってるのは本当にたまたまです……てれてれ。」


「……(ちょいちょい)」


「?」


俺はタンザナイトに手招きをする。


「何?シド。」


「……今シノがケイに渡した石あるだろ。あれって……どれぐらい珍しいもんなんだ?」


前にも気になった事だが、今回改めてタンザナイトに尋ねてみる事にした。アイテム知識に関しては紛れも無く第一人者だから。


「カブールストーンはね……そもそも普通じゃ手に入らないよ。宝箱なんかにも入ってない。精霊の力によって生み出されるアイテムなんだ。」


「精霊……」


「一般的には炎の力を持つような精霊の力の結晶みたいなものかな。」


「……なんでそんなもんをあいつが。」


「それは……分からないよ。直接貰ったってのはちょっと無理があるって思うし……考えられるとしたら、誰かから貰ったって感じじゃないかな?」


貰った……なるほど。それは一番可能性としては有り得る。


「……今のは中々いい線かもしれない。そうか……あいつが持ってる謎の品々は何者かに貰っているというかもしれないのか。」


だったら何を持っていようと納得ではある。ただそうなってくるとその何者かって奴の正体が分からないが。


「分からないよ?あくまでかもしれないの話だから。」


「分かってる。俺だってそのつもりだ。」


十分にあり得る。今までで一番しっくりくる仮説だった。謎の協力者の存在……


「あふぅ、シド様がタンザナイトちゃんとヒミツのお話をしています……私は一人除け者ですか……よよよ……」


「大した話じゃねえよ。それより雪美の家はこっちで合ってるよな。」


「あ、はい。大丈夫です。」


勘繰られる前にやめておこう。


「その雪美って奴も異世界人で……ナナをさらった奴らがそいつを狙う可能性が高いって事だよな。」


「予想ですけど、そうなります。」


「既に襲われた後じゃなかったってのはデカい。迎え撃つ準備も出来るしな。」


「そんでもって襲って来たそいつらからナナの情報を聞き出して助けに行くんだね。」


「上手く事が運んでくれるとありがたいのですが……」


「……そうだな。今のはだいぶ上手く話が進んだ場合の話だ。奴らがここに来るとして、いつ来るかなんて予測も出来やしねえ……だがとりあえず尻尾を掴まない事にはこっちも動きようがねえ。まどろっこしいではあるが……向こうの動きを待つ。」


「こうしている間にもナナちゃんは……とっても不安な想いをしているんですよね……」


「「……」」


あれぐらいの歳の子供が、周りに知ってる人間が居ない状況に置かれたら……泣く……かもしれない。けど泣けるならまだマシ。それすら出来ない状況に陥っている可能性すら……


「……一秒でも早く、助けてやる。今はそれだけしか考えねえ。」


「シド様……」


「……うん。その通りだよ。早く助けてあげよう。」


「そんでもって、お帰りなさいパーティでも開こうぜ。」


「うんうん!!そうしたら今度は何をプレゼントしてあげようかなぁ。」


どこの誰だか知らねえが……冒険という選択肢を無しにされてしまったこの礼は、高くつくぞ。


……


「……」


意識無き少女は、とある男の目の前にて横たわっていた。


「流石大したものだね彼は。こんなに手早く僕のお願い事を叶えてくれるなんて。」


この世界中で有数の醜悪な笑顔で、少女を見据える。


「パッと調べたところさして特別な能力は無いような感じだけれど、異世界人というだけで十分釣りが来る。異世界人って存在はそれだけで材料としての価値があるからなぁ。」


彼にとって目の前に映っているのは命では無く、材料。使えるかそうでないか。そんな二極単。


「まぁまぁこの子を使う事になるのはもう少し先になるか。有能過ぎる人材のおかげで実験材料には事欠かない。とりあえずこの子で何体目だ?モルモット570番か。これは向こう1、2年ぐらいは安泰だね。」


1日1人を実験材料にしたとしても1年以上保つ……そんな非人道的な考えを頭に描いては下卑た笑いが止まらない。


「それじゃあいつもの奴をはめてやって奴隷ルーム行きだね。その内その体も何もかも使い倒してやるからそれまでゆっくり心の準備をしておくといいよ。あぁ……聞こえてないかぁ。なら仕方がない。聞かない方が悪いよね。」


少女は今、無力。何も出来ず、彼がその気ならばこの場で命を奪う事すら出来る。生殺与奪の権利を完全に手中にしているからこその傲慢に浸る。人はこのような人間を外道と呼ぶ。


「能力に秀でた人間、他の世界から来た人間……実験材料はいくらあっても困らない。ささ、どんどん持ってきてくれると嬉しいなぁ。」


邪悪なる者の目論見は未だまだ……始まったばかりなのであった。

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