止まれぬ想いを胸にいざ
信じられなかった。レイナードさんの強さを聞いて知っていたからこそ……その光景を直視した時に目を疑った。それはきっとシド様も同じだったに違いない。口でどう言っていたとしてもレイナードさんの強さはきっと認めていた。だからこそ、私と同じように動揺したに違いないのだから。
その時々の状況にもよるから一概には言えないけれど……レイナードさんの強さはシド様に決して劣らない……パワーという観点だけに絞ったらあるいはシド様より上の可能性すらある。それ程の強者。
そんな人が……こんな重傷を負わされるような事があるなんて……その背後に潜む何者かに……驚愕せずにはいられなかった。
「……レイナードさんは……大丈夫ですよね……助かりますよね……」
あるいは最悪の結末すら覚悟しなければならないのかもしれないと……だからこそ、そんな自分の弱さをどうにかして欲しいから……そんな気持ちで私はエナさんに……
「無論ですです。」
「っ……」
……エナさんは、私に即答した。笑顔で、ごく普通に。当たり前のように。
「目の前の命を……必死に頑張っている命を繋ぎ止められないようじゃ……私が居る意味、ないですとも。」
「……エナさん……」
「……確かに人はいずれ死にます。遅かれ早かれ。それは抗いようのない未来。真っ当に生き……最後を迎えるその時が来たなら私は……ただ、祝福します。その人の一生を。生き抜いたその方の人生を……尊敬したい。けれどレイナードさんはまだ……その時じゃありません。これからも生きて……やらなくちゃいけない事がたくさん……ましてやナナちゃんとこれから楽しい日々を送らなければならない矢先こんな事になったなんて……私だったら悔しくて悔しくてたまりません。」
「……」
「そんな想いも言葉に出来ないレイナードさんの分まで、私が悔しい想いをします……そしてそんな私は悔しい想いをしたくないから……後悔したくないから今自分の全力を尽くします。今私がやれる精一杯を。」
……いつだってこの人はそうだ。私が不安そうな時はいつも、任せてくださいと言わんばかりの顔を見せてくれる。
その実……本当に一番怖いのはきっと……エナさんなのに。
……目の前にある命を救えるか失ってしまうか……そのかけがえの無い命を握っているエナさん……
「シノさんありがとうございます。後は……任せてください。」
「……私、何にもしてません……」
何にも……出来てない。この人の助けに、なれてない……
「傍に居てくれた……私だって一人で命と向き合うのは……怖いんですから。」
「……」
「……大丈夫です。もう、心配はいりません。それにシノさんにはきっとシノさんのやるべき事があるはずです。ここはちょちょいのちょいと私にお任せタイムですよ?」
「……」
今この場で、これ以上エナさんの助けになれる力を私は……持っていない……なら……私は……
「……レイナードさんの事……よろしくお願いします。」
……私の持ってる力で出来る事を……精一杯……
「はいはい!バシッと治して見せますからご安心ください!」
私は強く、頷く。前を向く元気を、貰う。
「(……ありがとう、エナさん……)」
その頼もしい言葉に背を押され、私は下へと降りる事にした。
……
「……私ったらまた随分偉そうな事を言ってしまったものですね……」
人の命を救うのが精一杯。
……救えなかった命がある以上、もはやエナにとっての精一杯は存在しない。
「……目の前にある人は救えるかもしれないけれど……ただそれだけ……遠くの人にはこの手は届かないんですよね……」
レイナードは持ち前のタフネスとダメージを最小限に抑える術を知っていたからこそ生存の道があった。
……しかし、その他大勢の冒険者達は皆その場で……死に絶えた。
「……誰だか知らないけれどもしも私の目の前に居たら言ってやりたいですね……命は失われたら戻ってこないって……」
……誰もが知っている。にもかかわらず、粗末に扱ってしまう人は絶えない。エナはそれに心を痛めていた。
「……なんて、後ろ向きじゃいけません。」
そしてしっかりと現実を見る。いつか叶えたい夢より、変えたい未来より、目の前にある命を救う為。
「絶対助けますからね。レイナードさん……」
……強き想いを胸に抱くエナに救えぬ命など……あってはならない。
……
「シド様……」
「……降りて来たのか。」
あまり浮かない顔ではあったが、それでも目はしっかりしていた。
「シノ……レイナードは……」
「……大丈夫です。エナさんのお墨付きです。」
それはおそらく世界中でも有数の信頼性を誇るものだ。あの野郎の延命は約束されたと言ってもいい。
「こっちもある程度話は理解した。ナナの奴をさらっていったクソバカ野郎が同じ事を繰り返そうとしてるかもしれないって事がな。」
「それ……どういう意味ですか……?」
あくまで仮定に過ぎないが、その何者かが異世界人を狙っていると思わしき話を他でもない異世界人のシノへとした。
「……異世界人の人が……また、狙われる……」
「確固たる確証は未だ無いけれど……もしもそれが確かなら私はその事実を世界中に伝播させるわ。異世界人の人を狙っている謎の人物達が居るってね……」
「ラミさん……そんな事が出来るんですか……?」
「私の力というわけじゃないわ。このエイスという町の持つ特異性よ。ここは世界の中心、だからこそ全ての国と関わりを持つ。どの国であっても自国の民を不当に危険に晒されるような事喜ぶはずがないでしょう?そうなればその謎の組織対この大陸中の国全てという図式が生まれる。そうなればその連中だってもはやおしまいよ。世界中から敵として扱われたらどうにもならない。」
「……ある意味どう動こうとそいつらの終焉は見えてるようなもんか。だからと言って……大人しく待ってるつもりも無いんだがな……」
放っておけば国がどうにかしてくれるとしても……んなもの待ってられないのが俺の性分なのだ。
「それにいくら国が助けてくれるって言っても……すぐ動けるわけじゃありません。その間にナナちゃんがどうなってしまうか……」
「……そうね。国単位で動くとなったら……最速でも一月ぐらいはかかってしまうかもしれない。それも、確固たる確証があっての上での話……もしもそいつらの目的が異世界人でない何かだった場合全然見当違いの場所を守ってしまう事にもなる……あるいはそいつらの目的は異世界人をターゲットと思わせる事で手薄になる別の何かなのかもしれない……」
「だとしたら中々高度な心理戦ですね~……」
「どの道そんな目立つ野郎共がこれで大人しくしてるはずがねえ……また必ず奴らは現れる……そして尻尾を掴んでさっさとナナの居場所を吐き出させて助けてぶち殺す。それが最短ルートだ。」
「……確かに最短……けれどとても危険だわ。あのレイナードさんをあんな目に合わせてしまうような相手……どれ程の規模なのか、何を狙っているのか……」
「それを……これから探しに行くんです。私達が……冒険者として。」
「シノちゃん……ナナちゃんと同じ異世界人であるシノちゃんが狙われる可能性は決して低くない。今回はシノちゃんは表立っていかない方が良いのかもしれない……私は、そう思うわ。」
ラミの忠告は……正しい。シノを守るという意味で言うならどこかの機関などに匿わせるとか誰にも見つからないような場所に待機させておくという方が安全なのだろう。
けれどそれはあくまで、第三者的な観点からの意見。シノ自身の考えとは同じとは限らない。
「……私は行きます。ううん……行きたいんです。」
「……シノ……」
「自分が怒ってるから行きたいんです。レイナードさんをあんな目に合わせて……ナナちゃんをさらって……そんな酷い事する人達に私……一言言ってやりたいんです。それに私……この世界で一番安全な所は……シド様の隣だと思ってますから。」
「「……」」
「ですよね、シド様?」
……こいつ、言うじゃねえか。
今のシノは、しっかり自分の考えを持っている。そんな奴なら連れて行く事に何の不安があるだろうか。
「……ちゃんとついて来るなら、守ってやるよ。片手間程度にな。」
「あふぅ。ちゃんとついていくから置いて行かないでください……」
……俺の手の届く所に居て、どうして守らずにいられるだろうか。
「……よし、そろそろ行くぞ、シノ、タンザナイト。」
「……うん!」
「はい。」
「絶対……気をつけなさい。」
「油断は禁物ですからね~……」
「……俺を誰だと思ってやがる。」
大それたことをしやがる不届き者をぶっ潰す旅に、俺達は出た。
……
さりとて初めはやはり、聞き込みからか。
「ナナをさらって行ったって奴について聞いてみるぞ。」
「分かりました。」
そう言って俺達は二手に分かれて……
「……いや、待て。やっぱり二手に分かれない方がいい。」
「?そうですか?」
……こいつ、本当に自分が狙われるかもって言う自覚は無いんだな……ちょっと怖くなってくる。
……
「戦いがあった所は直接見てねえよ……あんな血の海になったのを実際に見てたら……正気じゃいられねえよきっと……」
「こ、怖くて……震えてその場から動けなかったわ……見た目は普通の男の人だったのに……気がついたら……うぅぅ……」
「あんな笑顔を浮かべたまま平然と人を殺せるなんて……ありゃ人間じゃねえよ……レイナードさんまで倒しちまうなんて……化け物だ……」
……
「やっぱりよっぽどショックだったみたいですね……」
「いくら何でも……一気に十数人がやられちまう光景を見たら……仕方ねえのかもしれねえな。」
「それにナナをさらったその男がどこに行ったかも結局分からないみたいだよね……」
話によると、あのデカブツを含む他の冒険者達を半死状態に追い込んだ後にナナの所に近づいたそいつはナナを気絶させ抱えたままどこかに消えたとの話だ。まだ町に潜伏している可能性も考えられたが……もうだいぶ時間が経っている。おそらくこの町から消えおおせたと考えるのが妥当だった。
「消えちまった奴を追うってのは少々ナンセンスだな……第一どこに行ったのか見当もつかねえんだ。」
「……なら、追うのではなく、引きずり出す、ですね。」
「……それも少々賭けになるが、当ても無く探すよりはマシな気がする。」
あの野郎がラミに残した言葉……異世界人を狙っている。
それが本当かあるいはフェイクか……どちらにしたって手がかりはそれしか無い。ならそれにすがろう。
「お前はとりあえず置いておくとして……他に異世界人って言ったら……」
直近で思い当たる人物が……一人。
「雪美は?」
やはり、そうなってくる。
「サッコロに……行きましょう。」
「分かった。」
またあれこれ準備してまで寒い所に行くのかと思わなくも無いが、四の五の言っている場合では無い。
「じゃあ急いで防寒服を……」
「おいお前らちょっと待ったぁ!!」
「……あ?」
どこから聞こえたか、野郎の声が聞こえた。それも聞き覚えの無い野郎の声だ。
「いや、聞き覚えはあんだろうが!」
……無い。そもそも男の声など覚えはしない。
「私達だよー!」
「その間の抜けたアホな声は……」
「酷い!いくら私がアホの子だからってそこまで言われるほどはアホじゃないよー!」
……ケイだな。
「ジェイさん……それにケイさん、エルさん、アイさん……皆さん勢揃いで……」
「どうしたの?」
「どうしたじゃねえだろうが。聞いたぜ。ナナをさらってった奴らに一発かましに行くんだろ。」
「……んな事聞いてどうすんだよ。」
「決まってんだろ……俺達もついていくんだよ!」
「俺……達?」
……この騒がしいバカ達が同行するって?
「……いや、ついてくんな。ややこしくなりそう。」
「私達も行くよー!!だってナナちゃんを助けないと!」
「それに聞けばとても危険な相手かもしれないとの事……人手は多い方がきっと役に立ちます。」
それも人選によるだろう……こいつらじゃ逆に足を引っ張りかねない事になるやも……
「とにかく私達も行くからね!ねえシノ!どこに行くつもりなの?」
「……とりあえずサッコロに行こうと……」
「ようし分かったぁ!!なら早速準備だ!!!」
……俺の話など聞く耳持たない。この4人の中でどんどん話は進行してしまう。止めようが無かった。
「……何があっても知らねえぞお前ら。自分の身は自分で守れよな……」
「言われるまでもねえ。」
……バカだ。こいつは。




