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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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戦慄する者

「つ……りゃあああッ!!!」


初手は、レイナードの攻撃に始まる。


「ひゅう、やっぱりなぁ。こんな程度か。」


「っ……」


小手調べの間合いから放たれた攻撃ではあったが、完全にその攻撃を見切ったように余裕で避けて見せる。


「……うらああッ!!」


だから今度は更に切り込む。もっと深く、互いの命を削り合う距離まで。


「ふうん、随分力任せな攻撃だ。そんなんでよく隊長なんて務まるもんだ。ゴーバスってのも大した事ねえんだな。」


「……戦いの最中に……減らず口叩いてんじゃねえぞ!!」


「叩かせたくなかったらさっさとその攻撃を当ててみろよ。当てられるもんなら……な。フハハハッ!!」


不敵に、大胆に笑ってみせる。だがその軽口は伊達では無く、実力も確かだった。


「(……この野郎、言うだけの事はありやがる、本当に速い……!)」


レイナードとて、いつもより力を抑える分速度に振っている。にもかかわらずまるで敵を捉える事が出来ず、翻弄されるばかり。


「……ちぃっ!!」


「無理だろ、それじゃ。」


苦々しい表情を浮かべるのと対照的に、男は軽く嘲笑って、一旦二人の間に距離が生まれる。


「……随分、スピードに自信があるみたいじゃねえか。」


「そっちこそ、ご自慢の馬鹿力はいつ見せてくれるのかねぇ。」


「……」


挑発に乗ったとて何の旨味も無いと知るレイナード。この状況を好転させる術を頭の中で巡らせる。その時……


「……れ、レイナードさん!!俺達も加勢する!!」


「……っ。」


協力を申し出たのは、この騒ぎを見ていた取り巻きの内の一人の冒険者だった。そしてそれから口火を切るように……


「俺もやるぜ!」


「俺もだ。」


たった数日の間に築き上げた縁が、レイナードに味方する。瞬く間に十人程の冒険者達が集い、レイナードの後ろに立っていた。


「……お前ら……」


「変な遠慮とか入らねえさ。それに隊長様に媚を売るわけでも無い。」


「そうそう。この町で騒ぎを起こそうとする輩をただ見過ごせないだけだし。」


「あんなのを好き放題のさばらせたらこの町が住みにくくなっちまう。」


たとえその言葉が理由だとしても、レイナードは胸に温かいものを感じずにはいられなかった。


「……へっ、なら、頼りにさせてもらうとするか。」


まるで、軍の仲間達を率いて作戦開始するのと同じような心持ちで。


「急造の軍だが……それでも俺一人で戦うよりはずっといい。やれる範囲で構わねえ。ちょっと力貸してもらうぜ!」


「「おう!!」」


途端に士気が上がる。人数が多いというのはそれだけで大きなアドバンテージなのだ。


「「うらああああッ!!!」」


どれ程の強者であっても、多勢を前にすれば些かなりとも動揺の色を……


「んで?その程度で対等になれるとでも?」


「……!」


……動揺の色を見せるには、まだ、遠い。


「そっちこそ随分こっちを甘く見てるじゃねえの。こっちにも人数は居るんだよ!」


その言葉通りに……牙を剥く。


「……う……はっ……!!」


「……!!大丈夫か!!」


優位に立ったと思ってしまったが故に生まれた油断と言えばそこまで。キャンスの背後に居た3人が前衛へと躍り出て……冒険者の一人を返り討ちにしたのだ。


「こ、この野郎……!」


「言っとくがお前らを相手にするぐらいなら……俺達で十分過ぎるんだよ。キャンスさんの手を煩わせるまでもねえ!!!」


「う……うぉぉおおお!!!」


「死ねや……雑魚共がああ!!!」


……小さな規模から始まった戦いはあっという間に……十数人を巻き込む乱闘と化した。


「……」


やがて再び、レイナードとキャンスの二人は睨み合う形になる。周囲ではそれぞれの陣営の人間達が戦いを繰り広げている。


「まぁ結局こういうわけで……俺とお前が一騎打ちなわけだ。そんでもってお前一人じゃ俺には勝てない……ジ・エンド。どんな気持ちよ?」


「……こんな大騒ぎを起こしておいて、ただで済むと思うな。ここがエイスの町って分かっての話だろうな。」


「大丈夫大丈夫。もう大して時間なんてかからねえよ。もし何か来るにしてもその頃には俺達は跡形も無く居なくなってるさ。あのガキを連れて帰った後だからな。」


「……何を狙ってやがる、テメエらは。」


「色々だって。とりあえずお前んとこのガキが異世界人だったのが運の尽きだ。悪く思うなよ。」


「……なら、こっちも同じ事だ。」


「……ん?」


「……てめえがナナに敵意を向けて俺の前に現れた……それが運の尽きだって事だよ。」


どんな理由だとしても、納得など出来るはずも無かったのだ。


自分が守ると決めた相手を突け狙う相手の言い分など。


「……言っとくけどまだ俺は……一回も攻撃してねえからさ。分かってるよな。」


「へえ、速度しか取り柄が無かったわけじゃないのか。そいつは驚いた。」


「……吠え面、かけや。」


「……!」


その凄まじい速度を……攻撃へと転化させた一撃が……レイナードを襲う。


足蹴(ソックステップ)!!」


「……ぬおぉ……おおぉっ……!!!」


強靭でしなやかな足から繰り出される……脚打。ガードの体勢すらとる事が出来なかったレイナードの腹部を……打ち抜く。


「逃げる事も出来なかったな。そのまま……沈んで墜ちちまいな隊長さんよ。」


「レイナードさん……!!」


あろう事かナナはその姿をもろに見てしまう。その痛々しい一撃を……目の当たりにしてしまう。子供でなくとも目を背けそうになる光景であったが……


「……へ……」


「……っ……!?」


その笑みと笑い声を聞いて、余裕の表情が、曇る。歪む。


「へへへ……何だよ。この……程度かよ……!!」


「な、何……?」


思えばおかしい事である。そんな一撃でノックアウトになるような攻撃を受けて……立ったままの体勢を維持出来るはずなど、無い。


「……効かねえ。こんなもんじゃ……全然効いてねえぞ!!!」


「……ッ!」


一撃を受けた事を諸共せず、すぐに反撃の一撃を放つレイナード!自らの一撃を過信したキャンスは、堪らず距離を取って刃の一撃から逃げおおせる。しかし、その表情は今までのそれとは違い、余裕など無かった。


「(……バカな……あんなにまともに入ったのに……どうしてあんなに平然としてられるんだあの野郎……!!)」


手応え十分にも拘らず、あんな即座に反撃に移れるはずなど無い。それが彼の考え。だが、それは所詮、自分の中の思い込みでしかない。目の前の男の頑丈さを、彼は知らない。


「ようやくその余裕面が無くなったな。どうやら今の一撃でトドメのつもりだったと見える。けど俺はバカ力だけでもねえんだ……バカ丈夫でもあるんだよ!!」


自らの強靭な肉体を誇る。鍛え上げた肉体は攻撃にも防御にも転化できる。それこそがレイナードの強み。


「……変に腹を狙ったのが間違いだったみたいだな……なら、鍛えようがねえ顔面でも……打ち抜いてやりゃあ大人しくなるだろうがあッ!!!」


「この決して良い面じゃねえ顔面を狙うってのは……俺から言わせてもらえばナンセンスだな。」


「んああッ?!」


「自分の眼前だったら流石に攻撃の瞬間は見えちまう。後は自身の感覚に身を任せれば……」


「ん……なっ!!」


してやったりと言わんばかりに、したり顔でレイナードは男の蹴りを避けて見せる。先程まで自分が幾度となくされたように。


「な?俺みたいなデカいだけが取り柄の木偶の坊でもかわせちまうわけさ。」


「……てめぇッ……!!」


「……ふん!!」


「……ッ……!!」


再び、レイナードは大剣を一振りする。その刃は当たりはしない。


当たりはしないのだが……


「(……な、なんだ……この感覚は……こんな鈍い攻撃、当たるはずねえ……なのに……なのにどうして……)」


「お前、今心の中でビビってるだろ。」


「なっ……!」


言葉に出来ぬ、してはならぬその感情の名をレイナードは言い当てて見せる。


その感情は、恐怖。


「おかしなもんだよな。確かに当たらねえ気がしてならねえ。けれど何故かお前はこうして当たりもしない攻撃を恐れてしまう。それってどういう事だろうな。」


「……誰が……誰がんな攻撃を恐れるか!!」


「おそらくはこういう事だろ。毎回最善を尽くせば当たりはしないが……現実にはまぐれ当たりってのがある。もしもそれが今ここで出ちまったら……お前、間違いなく死んじまうよなぁ。」


「……!」


「お前さっきまでは余裕綽々だったから考えもしなかったんだ。この大振りなデカい一撃が……万が一当たっちまったらどうなるかを……」


圧倒的に蹂躙する立場の者が、今立たされているのは……戦場。


互いの一撃と一撃が交差し合う場。


「(俺が……ビビっている……?当たりもしない攻撃に……?)」


……どうして、当たらないなどと断言出来るだろうか。


「(出来るに決まってるじゃねえか……俺の速度を奴が捉えられるはずが……)」


ならばこの恐れは一体何であろうか。


「(……恐れなんてあるはずねえ……あるはずがねえ!!!)」


……自分に言い聞かせようとすればするほど、まるでその恐怖を自分で認めてしまっているかのようだった。


「お前これまで随分自分より格下とばかり戦ってきたんだろう。一度戦場の怖さを知っちまったら、今のお前じゃ勝てねえよ。俺には。」


「……ただの……ただの軍人風情が……この俺を……舐めやがってからに……!!」


「……」


「お前の攻撃が当たるよりも前に……俺がてめえの息の根を止めてやりゃあいい話なんだよ!!!!」


冷静さを欠いた攻撃は、狙いも定まらず、ただ怒りの感情の赴くままにレイナードを襲うばかり。その程度の一撃、遅るるに足らない。


「てめえらの企みが分からず仕舞いになっちまうのはまぁ仕方ねえ。今後もこんな事が続くようなら……見過ごしてやるわけにはいかねえからとりあえず今回は……」


「……!」


攻撃も、守りも、中途半端なその一撃によって生まれた隙を、レイナードは見逃さない。見逃したりなど……しない。


「……叩き斬る。」


「が……!!」


勝負がつく時など、ほんの一瞬。瞬く間に、勝敗は決する。


男の胴を真っ二つに、斬り捨てた。


「……凄えスピードだったが、そいつを活かしきれなかったな。もう少しメンタル面も鍛えておいた方が良かった。」


もう届かないであろう言葉を投げかける。これが練習試合だったならその教訓を次に活かす事も出来たであろうが……これは戦場。次など訪れない。


「雷撃ッ!!」


「がふっ……!!こ、こんの……」


「仕舞いだあああ!!!!」


「ぐげぁああああ!!!!」


そして、そちらの戦いにも、決着がついていた。


人数の差が、力を上回った。


「(……どうやら誰も死んじゃいないようだ。骨のある奴らで安心したぜ……)」


自らの危険も省みず協力を志願してくれた仲間達に感謝の気持ちと……いっそ勧誘してゴーバス軍に来てもらおうなんて事すら考えていたのであった。


「はぁ……はぁ……手こずらせやがって……」


「ぐ……ぐぐっ……」


息も絶え絶えな男達ではあったが、それを越えて3人はボロボロ。動く事すらままならぬ。


「……悪いなお前ら。厄介な事に付き合わせた。」


「れ、レイナードさん……どうにかなりましたが……こいつら、尋常じゃないぐらい強かった……」


「十人がかりで……どうにかこうにかここまでダメージを与えられたけど……」


「……そうさな。確かに只者では、ねえな。」


全員を率いる人間として、レイナードが代表で前へと躍り出る。


「……おいてめえら。」


「……っ。」


「全幅の信頼を置いていた隊長とやらは今しがた倒した。まぁそこに倒れてる真っ二つの死体を見りゃあ分かるだろ。お前らはおしまいだ。」


「……」


有り得ない現実に、さしもの3人は震えあがっていた。もう、ここが行き止まりなのだと。


「ハッキリ言ってお前らもぶち殺すのが一番なんだが……少々聞きたい事もある。お前らの目的とか……その背景とかな。」


もう、抵抗する力も無く、ただ、聞き入れるしかない。どれ程屈辱的であろうとも。


「もしも大人しくその辺りを話すってんならお前らの処遇についても考えなくもねえ。言い方は悪いがお前らのこれからは俺の胸三寸でどうにでもなる。さぁ……どうする。」


もう、選択肢など残されてはいない。受け入れるしかないのだ。その、提案を……


「いやぁ、凄い戦いっぷりだったなぁ。お見事お見事。」


「「……」」


何者かの乾いた拍手が、響く。


「……あ……あ……」


3人の顔は、青ざめる。


良い意味でも、そして、悪い意味でも……


「……何だ、お前は。」


「さぁ?」


……やがて、その場は血の海と化した。

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