嬉しい気持ちはみんなで分かち合おう
「というわけでナナちゃんレイナードさんおめでとうございまーす!!」
ぱちぱちぱち!!
人数の割に一人が何人分にも相当する拍手をするもんで万雷のような賑やかさが生まれていた。
この光景を見てパッと最初に想像したのは結婚式だった。
「(……まぁ、出た事無いけど。つーか出たいとも思わんが。)」
「二人の明るい未来を祝してカンパーイ!!」
「「かんぱーい!!」」
……実に楽しそうだ。そして俺はこのムードに乗り切れてない。なのでこの空間の中でも端っこの方で小さくグラスを傾ける。
「いひ~、本当に良かったねナナちゃん。」
「ありがとうございますエルさん!それに、こんなにたくさんの人にお祝いして貰えて……本当に嬉しいです!」
「祝うよー!私達祝っちゃうよー!というわけでこれ私達からのプレゼントだよ。」
「ケイさん達から……?」
「これからの生活に役立てばいいと思って選びました。もしよければ使ってください。」
「ふぇー……開けて……見て見ても良いですか?」
「いいよいいよー!喜んでくれるといいなー!」
遠巻きにその光景を見ていると、中から現れたのは何やら衣服のようだった。
「わわぁ……可愛いお洋服……」
「しかもサイズバッチリだよ!エルがバッチリサイズチェックしてくれたんだ。」
「いひひ、見ただけでスリーサイズが分かる目を持つのは何を隠そうこの私!」
「そういうわけなので、良ければどこかに出かける際に来てみてください。」
「はぁふぅぅ……こんな素敵なお洋服……本当にありがとうございます!とっても大切にします!」
「せっかくだから今着てみてもいいんじゃないかな?きっとお姫様みたいに似合うよ?」
上品な感じの服だし、外で遊んだりするよりかは、もう少しこう、社交場みたいな場で着るのが似合うかもしれない。
「あんな風に喜んでもらえるとプレゼントした甲斐があるぜ。やっぱりチョイスも任せて正解だったぜ。」
……そして何故か勝手に俺の隣に野郎が居る。
「……てかお前ら何急に混じって来てんだよ。今回全然出て来てなかったじゃねえか。」
「んなこたどうだっていいじゃねえかよ。それにお前らが居ない所で俺達もあの子の事は知ってたさ。第一こういう場は人が多い方が盛り上がるだろ?あれこれケチ付けるなんてそれこそ無粋ってなもんだ。」
……いいか。どうでも。確かにこいつを筆頭にケイやエルが居る事でだいぶ賑やかさも増している。ナナの奴が喜んでるなら文句のつけようもない。
「上手く収まって良かったですね。ナナちゃん……幸せそうです。」
皆に囲まれて、気恥ずかしそうながらも……心からの笑顔がそこにはあった。
「……あの野郎がどんな風にナナを育てるのか、見ものだな。」
十年後には今の姿が微塵も残らないぐらいのガタイの良い男と見分けがつかないぐらいの脳筋になってたら流石に引く。
「レイナードさんならナナちゃんを大事に育ててくれると思います。」
国は違えど同じように人の上に立つ立場同士通じる所があるのだろうと思いはするが……
「……いいよな。信頼されてる奴はよ。」
「ふふ、私はシドさんもちゃんと信頼してますよ?」
……リンカスター相手にちょっと愚痴っぽい言い方になってしまった事をわずかに反省する。当たり前と言えば当たり前だが、俺とリンカスターの繋がりなど一度助けたぐらいしか存在しない。そんなたった一度の出来事よりも印象的な繋がりがある人間などいくらでも居るだろう。
美人であるからゆえに俺が彼女を特別視しているだけであって、それは彼女が俺を思うような気持ちとは全く異なる事だって分かっちゃいる。第一こういう人柄の人間は誰とでも上手くやれるのだ。そして相手にもそう思わせる事が上手い。勘違いされやすい女って言ってしまえば分かりやすいだろう。
「(……そうさ。たとえ俺とでも、こいつは上手く話しを合わせる事が出来る。)」
……もっとも、見せないようにしている俺の本性を見たらどうなる事か想像に難くは無いがな。
「(まぁいいや……一応めでたい席でそんな事を考えていてもしゃあない。)」
「次のお料理が届きやした。」
「ははぁ……見た事無いお料理ですね……」
「ルーチェの自信作よ……今さっき味見したけれどとても好きな味がするわ。」
……そうさな。こうやって美味いものにありつけるならばこんな場が開かれた事を嬉しく思わないでもない。
「シドさんも一緒にあのお料理を取りに行きませんか?」
気を使ってかそうでないのか……どちらにせよ……
「……よし、行くか。」
美人の誘いは断るまい。
……
「よいしょよいしょ……」
軽い気持ちで手伝いを志願してしまった事を後悔する。覚悟が足りてなかったな……
「シノちゃんいいの?私は助かっちゃうけれどみんなと一緒にパーティに出てても良かったんだよ?」
「あふあふ……最初の方にたくさん楽しんじゃいましたし、いつまでもルーチェさんばかりにお任せしちゃうのも悪いと思ってこっちに来ました。それにルーチェさんのお手伝いをする事で少しでもお料理の腕が上達出来れば、なんてズルい考えもあったりします。」
「ズルくなんかないよ。むしろ自分の前に現れた機会をしっかり活かそうとするなんて偉いよ。その気持ちがあったらシノちゃんは自然と上達するよ。私が保証しちゃう!」
……自分の前に現れた機会……そうだ。それは決して料理に限った事でも無い。
やれる事は全てやる。世界の行き先を変えられるような事象ならば……飛び込んでいく。
私はもっともっと……世界と言う大きな枠組みの中に飛び込み……変えていかなければならない。
地道に地道に……されど確実に。
「はい!こちらお待ちどうさま!」
おとと、いつの間にか次のお料理が……
「シノちゃん盛り付けてくれるかな?センスはお任せするね。」
「あぅ……有終の美を台無しにしてしまいそうです。」
料理を作って一番最後の盛り付け。そして食べる人にとっては一番最初に見る事になる盛り付け……ここがダメだとその時点で減点……最高の料理にはならなくなってしまう。
「そんな気負わなくていいんだよ。う~んそうだね……自分が凄く綺麗だとか可愛いなって思うものを強くイメージして……その形に近づけてみるっていうのはどうかな?」
実に芸術家的な発想だ。けれど私にはそれを具現化する力が無い……うぅ。
「ちょ、ちょっとやってみます……」
こうかな……よいしょよいしょ……
「で、出来ました。一度見てもらっても良いでしょうか。」
「お?どれどれ~?ふむふむ……」
「……ごくり……」
あんまり時間をかけちゃうとせっかくのお料理の味が落ちてしまうかもしれない。出来たらここは一発でオーケーを貰いたい……
「うん。いいんじゃないかな?」
「……ですか。」
どうやら基準は越えていたらしい。
「……ちなみに、ルーチェさん的には何点ぐらいですか?」
……けれど私は、一つ引っかかってしまった。だから追加で尋ねてしまう。
「私も人の料理にあれこれ言える程の腕前じゃないからあくまで一つの目安としてなら言っても良いけど……」
「それで良いです。」
……ルーチェさんの反応が、少し、物足りなかったのだ。と言うより……お情けで良しとしてくれたように思えた。私に気を使って及第点をくれたに過ぎず、これがもしもお料理の試験か何かだったらきっと私の盛り付けでは……
「……70点ぐらいかな。」
しばし考えた後、ルーチェさんはそう答えてくれた。それだってきっと少し加点してくれているはず……
「ちなみに一切お世辞は無いよ?私の料理人としての誇りにかけてもいいからね。これは純粋な盛り付けの技術だけの点数。70点って数字は決して低くない。普通にお客さんの前に出すには十分な点数だもの。それより上の点数が必ずしも必要かって言われるとそうでもないかもしれない。そしてこれより上の技術を手に入れようとすると今までの比じゃないぐらいの努力が必要になっちゃうレベル。」
「……」
どんなに上手でも……プロになれるのがほんの一握りなように……才能溢れる人であったとしても……いや、そんな才能溢れる人達の中で更に一際輝くものが無ければ更に上へと駆け上がる事は出来ない。
……冒険の片手間では、きっとここが限界なのかもしれない。本当に料理にだけ専念する事で……その入り口がほんの少し見えるか……どうか……
「……私、何でも中途半端になりがちです。色々やってみたいけれど、どれも憧れて終わってしまう……結局振り返ってみると私の中には何も残ってないのかもしれません……」
自分に無いものを求めて様々な色を求めて見たところで最後には混ぜこぜのよく分からない色になってしまう。私にしか出せない色……そんなものって無いのかもしれない。
「シノちゃんは十分凄いよ。何も残ってないなんて事、無い。」
「ルーチェさん……」
「シノちゃん、最初から料理が上手だったわけじゃないでしょ?なのに、もうこんなに上手になった。盛り付けだけじゃない。今の今まで手伝ってくれた所を見れば分かるよ。シノちゃんは既に料理がとっても上手。でもだからと言って、初めから才能に溢れていたのかって思うときっと、そうじゃないんだよね?多分、とってもとっても頑張ったから今があるんでしょ?頑張れる何かがあった……それがあるのは素敵な事だし……そして何より頑張れたシノちゃんが一番素敵だよ。冒険も料理も何でも一生懸命やれるシノちゃんは本当に立派だもの。胸を張って良いと思うよ。」
「……」
「ちなみに頑張れる何かって、シドの事?」
「あふ……?!」
「やっぱりそうだよね~。好きな人の為だと美味しい料理を作りたいって思えるのか~……う~ん、その点はシノちゃんに負けちゃってるな~……」
……冒険も、料理も……どうしてそこまで上達したいのか、強くなりたいのか……
世界を救いたい……なんて誰が聞いても立派だと思う理由なんて……むしろ建前でしかないのかもしれない。
私の本当の願いはもっと個人的で独善的なもの。
……シド様とずっと一緒に居たい。
一緒に過ごしたい。
長く……いつまでも永く……ずっと。
……ただそれだけの願いの為に私は……一度しか与えられない人生をもう一度だけ……繰り返している。
……
今日はなんて素晴らしい日なんだろうか。モヤモヤは消えて無くなり、酒は上手いし料理はそれに輪をかけて美味い。何よりつい先日まで殆ど会った事の無い相手達とこうして席を囲んでいる。新たな出会いがこんなにも会った事、ここに至るまでの道のり全てに感謝したい。
「クロウズの奴が腹を壊してなかったらこうはならなかったのかも知れねえと思うと……面白えもんだぜ人生は……」
予期せぬトラブルがこうした結果に繋がるのだから分からないものだ。
「レイナードさん……うわとと……」
「お、どうしたそんなに色々プレゼントを持って。」
その小さな体に抱えきれないぐらいたくさんの物を持っていた。どれもこれも煌びやかでそれら全てがプレゼントだろうと察する。何よりナナの嬉しそうな表情がそれを物語っている。
「見てくださいこれ……皆さんから貰っちゃいました……よいしょ……!」
持ちきれないから一旦俺の所に置きに来たわけだ。後で礼を言って回らなくちゃいけないな。
「良かったじゃねえか。嬉しいか?」
「はい!品物も嬉しいですけど、何より皆さんの気持ちが嬉しいです。」
コメントまで立派とは……実によく出来た子だ。しっかりしてるせいでまだ7才という事すら失念しそうになる。
「……今更ながらだが、本当に俺なんかについてきちまっていいのか?」
「……と、言いますと?」
「……はは、悪いな。多分まだちょっと自信がねえ部分があるみたいだ。何せ誰かを育てるなんて未経験だからよ。」
あまり酔わないようにしているつもりだが……思った以上には酒が回っているらしい。よりにもよってナナ本人にそんな質問するものでは無かった。そっちだって不安に決まってるじゃねえか。こんなロクに知らない男と暮らすなんて……
「……どうして、俺の申し出を受けてくれたんだ?出会って間もない俺みたいな男の申し出を……」
「……」
たった……たった数日の付き合いだ。そんなもので今後一生の付き合いになるかもしれない重大な選択をしてしまってよかったのかと、尋ねる。
俺自身も同じだ。
一時の感情で軽率な判断をしてしまったのではないかという考えは今も消える事は無い。
「きっとレイナードさんは私の為を想って凄い覚悟をした上で私を引き取ろうとしてくれたんですよね……けど私はレイナードさんが納得してくれるような立派な理由じゃなくて……本当に言葉にすると……そんな事でって言うような事で……」
「……」
「その……本当に……何となく……何となくなんです……」
……それは理由のようなもので、かと言って理由とも言えないようなものでもあった。
「レイナードさんが私を引き取ってくれるって言ってくれた時……自然と私はそれを受け入れたいって感じたんです。けどそれがどうしてって言われたらちゃんとした言葉には出来なくて……」
……大した理由を話せない事を申し訳なく思うその姿を見て、俺は自分が情けなくなった。バカな質問をしてしまったと。
「……俺も、何となくだ。」
「え……?」
「……大した理由じゃ、無いだろ?」
「レイナードさん……」
「……けど、言った言葉には責任を持つ。理由がどうであれ……その想いや覚悟は何となくじゃねえ。俺はお前をちゃんと守る。それだけは約束する。」
「……」
それしか能の無い男だ。戦う力しか持たない男だ。そんな俺がしてやれる事はどうしたってそれぐらいなのだ。だからそれを全うしよう。
「……変な話ししちまって悪かったな。せっかくの楽しいパーティなんだ。もう少し色んな人の所に言ってお喋りしたり美味い物を食ってくるといい。」
「……は、はい!」
……真面目な話をするのは、また今度で良い。今だけは今後の不安など吹き飛ばしてしまえるように、今日の楽しい日々が未来で想い出になるように過ごしてくれればそれでいい。
「(『何となく』か……そうだな。その想いを……裏切らないようにしないといけねえよな。)」
きっかけなんてどうだっていい。そして納得出来るような理由が欲しいならそれを生み出してやれるのは他でもない俺なのだ。今後の成長の先でいつかそんな理由にナナが出会えたならばきっとそれは育て方が正しかったという事なのだろうが……俺にはそんな遠い先の事は想像もつかない。まずは日進月歩で進んでいくしかない。
……あれこれ想いを馳せている内に、最後も最後、宴もたけなわという所の記憶を最後に楽しい一時は終わりを迎えていたのだった。




