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22・交渉

「その腕を見込んで、助っ人を頼みたい」

「その腕と言われても……」


 いつの時点で団長に報告を入れたのか知らないが、早朝に単身で現れたことから、ただの様子見に来たわけではないと有希矢たちは考えていた。だが、とんでもない告白を聞き、騒ぎまで起きたというのに、頼みごとをしてくるゲオルグの無神経さと肝の太さに驚く。

 図太くなくては生きていけない時世なのか、異世界だからなのか。


『だから言ったであろう……運命が動き出してしまったと』


 ウルの重々しい呟きに、戸惑いが増す。


「理解してます? 私はあなたの団員に殺されかけたんですよ? それに、呪いの影響を見たでしょう?」

「だからだ。殺されかけただけで死んではいねぇ。いや、そう簡単に殺されるようなタマじゃねぇだろう? 怖ろしげな魔獣を飼いならし、剣はアディが一目置くほどの腕前だってぇじゃねぇか。その上に、【鑑定】スキルだ。あと、どれほど隠し玉を持ってるか楽しみってもんだ」

「買い被りは――」

「王都なら、解呪に詳しい魔術師に伝手がある。団員になれとは言わねぇ。手伝ってくれるだけでいい。たっぷり報酬は払うし、解呪に関する情報も集めさせる……どうだ?」


 これが謝罪の態度かと、脇に座ってなぜか酒の用意を始めたアディを睨むが、素知らぬ顔で口を閉ざし静観の構えだ。すでに、悪巧みの協議は終えているようで、アディが酒を用意しだしたのも気分良く酔わせて了承させるためだろう。

 有希矢は唇を尖らせ、罠に嵌ってしまった己を内心で罵る。甘いと言われたが、本当に甘すぎた。


「……それで、私に何をさせたいんですか?」


 ウルの忠告だからと諦め、解呪のできる魔術師に興味を惹かれて話を進めると、ゲオルグは強面を崩して目を輝かせた。

 魔術師のスキルで解呪できる類の呪いではないが、それとは別に解呪スキルをアクティブ化できていない有希矢は、本格的な魔術師に会ってみたい思いがある。

 そんな有希矢の腹積もりなど知らないゲオルグは、詳しい話をするために身を乗り出した。

 そして、『暴動鎮圧』に話は戻る。


 話が詳細になるにつれて、たびたび出てくるシビアで残酷な内情と現状。

 傭兵とは、他者の戦争に報酬をもらって手を貸す職だ。依頼されれば魔獣狩りはするが、同様に人も狩る。そこに正義や悪は介在してはいない。依頼内容に見合う報酬かどうかが、もっとも重要な点だという。

 そして、命の重さには順位がついており、上位の者の一言で平民の命は塵並みの価値になる。

 人権という加護がない世界。大罪を犯す盗賊と抵抗する平民は同列に扱われるのだと知り、有希矢は腹の中で元女神を嘲笑う。

 天秤の傾きを無視する女神。裁きの女神が聞いてあきれる。

 対して、ゲオルグはじわじわと後悔しはじめていた。話が進むにつれ、この見た目と中身がちぐはぐな小娘を本当に頼ってよいのかと、不安がつのってくるのだ。

 呪いについては今ひとつ信ずるに欠けるが、実際にわけの解らない騒乱が起こり、殺人未遂までいきかけた。

 しかし、当の本人は糾弾することなく『呪いの影響』だからで終わらせ、アディでも無意識に顔を歪める実話に顔色ひとつ変えることなく無表情を通し、抑揚の欠けた口調で短く問い返してくる。

 ゲオルグの頭の片隅を、ちりちりする何かが過った。


「それで、私はその鎮圧に?」

「いや、俺たちは王都の警備を任されている。何事もなければ、何もせずに報酬だけもらって解散だ」


 有希矢は頷くと、酒の器を一気に呷った。

 酒場で出された以上の強い酒だ。旨いとは思えても、時と場所と相手は選ぶべきだと学んだ。

 盃をテーブルに置き、熱い吐息を吐き出すとゲオルグに目をやる。


「承知しました。ただし、条件があります。私の周りに、モテる男とアディ以外の女性団員を近づけないでください。木端微塵になるような大魔法で攻撃されれば、私だって簡単に躱せませんから」

「ありがたい。条件はかならず守る」


 ゲオルグは気づいていない。有希矢の台詞が冗談ではないことを。

 大魔法を使って木端微塵にする気でかからなければ、殺せないと示唆したのだ。それすら躱す術を持ち、死ぬとまでは言わなかったことを。


 図らずも、三人は大手を振ってフォルショーを去る理由ができた。

 わらしべ長者だーと有希矢は呑気に喜んでいたが、それもゲオルグが乗獣を引いてくるまでだった。

 ゲオルグの乗獣は、地竜と呼ばれている大型トカゲだ。真っ青な顔で卒倒しそうになった有希矢を見て、ゲオルグは腹を抱えて大笑いした。

 現在、有希矢はゲオルグの背後に乗り、次は鳥型で空を飛びたいなどと妄想の世界に旅立っている。


『そこまで竜種は苦手か?』

(だって、顔が怖いんだもん……)

『ああ~ら。この子たちは高価な素材になるのよぅ? 見てみなさいよ~。素敵な模様じゃないのぉ。かっこいい靴になったり、鞄になったり……アタシの鞘を作るなら、是非とも竜種素材でオ・ネ・ガ・イ・ネ?』

(じゃ、ゲオルグにお嫁入決定! せいぜい貢いでもらえば? 有名な傭兵団の団長さんだし、お金持ちだわよ?)

『良いのか? ガ……クルチェを手放せば、其方に合う剣を探すのは難しいぞ?』

(でもさ、元々の約束じゃない? クルチェが本領発揮できる相手を探すって)

『まーあ、本気で覚えててくれたのねぇん。嬉しいわ。でぇもー、もうちょっと様子を見ないとね?』


 勝手なことを言い合う三人に気づかないゲオルグの背に頭を押しつけ、すこしでも地竜に触れないようにと注意しながら、有希矢は目を閉じた。

 王都で何が待つのか。

 運命が目覚めたとは、何か。


「大丈夫か?」

「ど、どうにか……」


 露骨に怯える有希矢に、またゲオルグは笑った。


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