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12・どうするべきか

 赤面しているところを見られる恥ずかしさに、とにかくアッシャーの腕から離れることが先決で、まだふらつきが残る体を起こした。

 ぎくしゃくと立ち上がった有希矢に、触れはしないまでもアッシャーの手がついてくる。言うほど無事と思えない危うさに、思わず助けの手を添えてしまっているようだ。 


(支えてくれただけなのに、ごめんなさいっ)


 ただの厚意に、過剰な反応をしてしまったことを後悔する。

 男女関係なく、親しくなるのを避けていた前世。ことに、良い容姿の男性が拘わると、高い確率で女性たちは有希矢を敵認定してきた。一人二人ならまだ無視できたが、同級生や同じゼミだったり、同じ部署の同僚たちなどの女性全員が突如として攻撃的になるのだ。

 その鬱陶しさと怖さに、学業や仕事以外での男性との接触をなるべく避けてきた結果、今の有希矢ができあがってしまった。

 純情と言えば聞こえはいいが、単に免疫不足で慣れていないだけだ。

 そんな有希矢にとって、いきなりの急接近は心臓に悪い。


『何よ? 今頃、いい男だって気づいたの!? アンタ、ここまで来る間、ずっと彼の背中にぴったりくっついてたのよ? それを今更……』

「……それを言わないでっ」


 クルチェの指摘に赤くなった顔を伏せながら、ぼそりと返す。


「本当に大丈夫か?」

「い、いいえ。何でもないんです。ちょっと……」


 ぶつぶつと独り言を口にしはじめた有希矢に、アッシャーの気遣いは増す。

 と、皺枯れてはいるが穏やかな声が、有希矢にかけられた。


「神に拝謁なされたか?」

「え?」


 有希矢は老人の問いかけで、ようやく自分を囲むたくさんの人たちの存在を思い出した。

 紅潮した顔が、もっと赤く染まったのは言うまでもない。



 有希矢は、埋まるような柔らかさのベッドの上で、蹲って唸り声を上げながら悩んでいた。

 先ほどの混乱による奇行を思い出して、恥ずかしさから悶絶しているのもあるが、今後の身の処し方がまったくいい案が浮かばないのが一番の理由だ。

 自分が魂のまま、異世界に運ばれた事情は理解した。

 邪神の呪いを浄化するために、穢されてしまった魂を異世界に預けた。有希矢以外の魂は、創造神が造った他の星や世界に分散され、転生して新たな生を与えられた。前世の記憶を消されて、その世界の住人として生死を繰り返し、すこしずつ呪いを雪ぐのだという。

 しかし、有希矢の場合は転生前に馬鹿な女神に取っ掴まり、罪人の魂が墜とされる迷宮に直行だ。

 有希矢として前世の記憶を持ったまま、神に造られた肉体の中に押し込められて、今は地上に這い出てきた。


「私って、無敵亡者(ゾンビ)……みたいなものよね?」


 考えれば考えるほど、嫌な思いに囚われる。

 創造神ブランドの高級な服を着ているが、中身は呪いで常時異常状態だ。加えて、三大欲求は壊滅し、考えなしに収集しまくった使えないスキルを山ほど抱えている。

 無敵チートスキル持ちだが、人外だ。


『いいんじゃないの~ぉ? 泉界の神に聖剣のアタシに無敵亡者ってパーティー』

「そんなパーティーで、何やって生活してけっていうのよ! これじゃ、呪いの影響だけじゃなく人外だってだけで、すでに都市や町で生活できないじゃない!」

「無理というなら、大森林に戻ればよかろう?」


 真剣に悩んでいる有希矢とは対照的に、お気楽な発言をするウルとクルチェはベッドの端で和んでいる。

 それが一層、腹立たしい。


「私はそれでもいいのよ? 前世ですっかり人間不信になってるし、会う必要がないなら森の中で世捨て人生活も快適かなって。でもさ、あんたたちは? ウルは世界漫遊したいんでしょ? クルチェは理想のパートナー探しをするんじゃなかった?」

「『!!』」


 どうにか大森林を抜けて人が住む地域に到着し、創造神に会って真相を知ったところで変に落ち着いてしまい、当初の目的を忘れていたらしい。有希矢の指摘に、今さらながら二人は真剣に悩み出した。

 そんな二人を眺めながら、暗い思考に陥りそうな悩みを一時保留にして別のことを考えた。


「ねえ、二人の声って私以外には聞こえないの?」

『はあ!? それも今さらよ。アタシの声はアタシが意識した相手にしか届いてないのよ。ウルの場合は契約者だけにってことでしょう?』

「え? じゃあ、ウルとクルチェも契約したの?」

『馬鹿ねぇ。アタシは聖剣。神様の力で作り変えられたのよ? 創造神様が造った世界の中なら、どの神様とだってお話ができるのは当然でしょう?』

「どうしよう……この人外パーティー」


 結局は、ふたたび人生の行く先に思考を戻すしかないのだった。


 ベッドに横たわった有希矢は、先ほどの聖堂でのやり取りを思い出していた。

 有希矢と創造神の会見を明言した、穏やかな雰囲気の髭の老人は、バルナス国教聖堂会の祷司長(とうしちょう)だという。舌を噛みそうな役職に首を傾げた彼女に、ウルが「最高位の下の階位だ」とこっそり教えてくれた。

 つまりは、会長の下に就き、会社経営をまかされている社長みたいな立場かと、有希矢は脳裏で変換した。

 宗教は知っていても経営の中身までは知らないし、なんと言ってもここは異世界だ。

 祷司長アルケーと名乗った老人は、有希矢の手を優しく握って微笑む。


「早朝、神託が下りました。迷宮遺跡から少女が来訪する。会わねばならぬから、すぐに聖堂に案内せよと」


 有希矢は、アッシャーが顔色を変えたの理由はこれかと思い至った。

 揉めることなく目的の一つを達成できてほっとしたが、その後アルケーにされた提案に、今はお悩み真っ最中だ。

――当分の間、聖堂会の客室を宿になされてはどうか。

 何の悩みもない立場なら、これほどの待遇はありがたい限りだ。

 この世界に生まれ落ちたわけではないだけに、頼る親も親戚もいない。頼もしい相方は二人いるが、持っている知識はあまりにも古い。何百年も世捨て人をやっていた爺さんとオネェさんをお供に、大森林を出てきた赤ん坊が今の有希矢だ。


「どうしよう……。人外なのに」

 


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