逃げて来る味方
俺はホテホテと、塹壕とは反対側に歩いていく。
面倒臭いので、司令部のテントは遠巻きにして。
そして、簡易的に作られた射撃練習場の様なところに出た。
と言っても、横にロープを張られただけの草原なのだが。
そこには、ジュリアが一人で居た。
ライフルを撃っている。
その銃、良く見ればスコープが付いている。
立ち膝で、草の高さに銃口を合わせて、スコープを覗き、そして引き金を引いた。
銃声を響かせたその後、すぐにスコープをいじって調整を始める。
「スコープ……造ったんだ」思わず呟く。
「レンズはどうしたんだろう?」
この世界にもガラスが在るのは知っていた。
だが、レンズを造るとなると正確に削る必要が有る筈、歪みが出れば何も映らないだろうに。
「レンズは使っていないわよ」後ろからマリーの声。
その手には、幾つもスコープを持っていた。
試作品か?
そのまま、ジュリアの所に行き。
「これも試して見て」と、それを渡す。
頷いたジュリア、スコープを付け替えて、撃つ。
「レンズ無しでどうやって?」俺も側に寄り聞いてみた。
「魔法よ」
「遠目ってスキルが有るでしょ、それを魔法で再現して筒の中に仕込んだのよ」マリーが答える。
「倍率の調整が難しいです」ジュリアがそれを外してマリーに渡す。
「倍率か……」唸るマリー。
「その魔法を2つにして、その間を伸び縮みさせれば?」単純にレンズ2つの望遠鏡をそのまま、レンズを魔法に変えただけ……そんな俺の提案にマリーがポンと、手を叩く。
「成る程、遠目を遠目で覗くのね」
「伸び縮みだけなら、目を切らずに撃てるかも」ジュリアも頷いていた。
「作ってくるは」マリーはトラックの方に走っていった。
それを目で見送り。
ジュリアに向き直る。
「弾は真っ直ぐに飛んでいるのか?」
「少し、曲がったりするときが有るかな」ジュリアが狙いながら。
「じゃあ、弾を回転させて見ればどうだ?」
「ライフリングって言う方法なのだけど、銃口の中に渦巻き状の溝を彫るんだ、それで弾が横回転して曲がらなく為る筈だ」
大きく何度も頷いて「やってみる」と、走っていった。
入れ違いにカエル達がやって来る。
銃剣付きの銃を手に持ち射撃訓練を始めた。
こぎみ良くパン! パン!と音をさせて、頷いて居る。
そんな二人に声を掛けた。
「新型の突撃ライフルを貰えば良いのに」
――あれは、確かに軽いし撃ちやすいんですが……軽い分、暴れて狙いにくく為るのでさ――
「そうなのか?」でも、この間は狙うな! って言ってなかったか?
――大勢で撃つ分には問題ないのですがね……あっしらだけとなるとある程度は狙わないと、魔物相手だと、特に――
成る程、戦争の為と、冒険の為は違うのね。
「ふーん、そんなもんか」と、返事をしておいた。
そして、今度はコツメとゴーレム達が来た、アルマも一緒だ。
それぞれに、コツメとゼクスは短銃。
シルバとアルマは新型の突撃ライフルを持っている。
「その新型、今一らしいぞ」今聞いた話をする。
それに頷くムラクモ。
「そうなんですか?」と、新旧を交互に撃ってみるシルバ。
数発撃って、頭を掻くシルバ、そこに毛は生えていないが。
「成る程……交換してもらおうかな」と、アルマを見てトラックの方に行く。
その後をアルマも着いていった。
「これは関係無いよね」適当に短銃を撃つコツメ。
「ですね」盾を構えながら撃つゼクス。
「片手で撃てるのはこれだけですもんね」
「いっその事、アルマもこれにすればいいのにね」
「アルマなら、両手に持って二丁拳銃が出来るかもね」と、前にマリーに垂れた講釈を思い出した。
敵の中に飛び込むアルマなら、それも有りなんじゃ無いだろうか、撃たれてもいいわけだし。
「やてみます」
後ろにアルマが居た。
えらく早いなと、見ると銃は新型のままだ。
「交換は?」
「どうしようか迷って居たのです」と、途中で引き返してきたのだそうだ。
「短銃を貸して貰えませんか?」コツメとゼクスに頼んで。
そして、両手で構えて撃ってみる。
フルプレートアーマーが二丁拳銃、左右で連続して撃っていた。
「狙えませんね」撃ちながら。
「それは気にしなくてもいいと思うよ、どうせ近付けば良いのだし」
「成る程……確かに」頷いて。
「これにします」と、銃を返して、トラックに走っていった。
皆、それぞれに自分に合う武器を探して居るようだ。
「でも、ゼクスとかシルバの剣もカッコ良かったのに」独り言の積もり。
「もちろん剣も装備しますよ」と、ゼクス。
それにコツメも頷いた。
が、良く良く考えればコツメに飛び道具は要らないだろう、魔法が有るのに。
まあ、良いか……楽しそうだし。
と、頷いた。
自分だけ無いのも寂しいのだろう。
と、ふと考え。
「あれ? セオドアは?」セオドアだけ来ないな。
「セオドアは駄目みたいよ」コツメが笑う。
「体重が軽すぎて、撃てない様です」ゼクスが補足してくれた。
成る程、そりゃそうか……ぬいぐるみだし。
「拗ねてるから、トラックの中で踞ってたよ」大笑い。
ありゃりゃ、俺の仲間だ。
俺も隅に座って黄昏て来ようか。
その日、一日はそんな感じで、敵襲も無くに過ぎていった。
骸骨は国境近くの川で釣りをしていた。
食料調達の為になのだが、一日まだ一匹も釣れていない。
その背中で丸く成っているロリスは、幻影召喚で出した化身でエルフを大量に釣っていた。
そして、その横にはサルギン達が火を起こし、自分達で捕まえた魚にかぶり付いている。
サルギンは川に潜って手掴みだった。
――魚はおるのにのう―― そんなサルギンを見ながら。
溜め息を一つ。
頭目達は、やっとトンネルに入った。
イライラは頂点だ。
骸骨からの連絡は催促ばかり。
何でこれを受けたのかと、フローラルの頭を叩く。
「受けたのは兄貴なのに……」ハンドルを持つ手に力が入る。
そして、次の日。
トラックの中で寛いで居ると。
ジュリアが俺に銃を見せに来た。
スコープも付いている。
ライフリングも刻んだそうだ。
自慢気に説明をしてくる。
ウザイ、モードに入って居た。
ハイハイと、半分聞いて……残り半分は右から左。
と、その時。
カラスから連絡が入った。
何者かが、こちらに走ってきます。
馬車と数名の馬に乗ったものです。
「敵か?」と、トラックを飛び出した。
――違う様です――
「何か来るぞ!」走りながら叫ぶ。
俺の後ろをジュリアも走っていた。
――映像を送ります――
え! あ、いや……そうか、土竜の時のやつか
その送られて来たイメージは、見覚えの有る馬車が出来る限りのスピードで、草原の草を蹴散らし走ってくる。
その脇にはその馬車を守る様にして、並走している騎兵隊が十数名。
しかし、その最後尾が馬ごと揉んどり打って倒れた。
カラスの映像だと、上空高度が高過ぎるのか鮮明さに欠けるのだが……。
見える形は、攻撃された?
馬が撃たれた様に見える。
「見方の馬車がこちらに走ってくるぞ!」
そう叫びながら、到達するで有ろう場所を指差し、土竜にイメージを送る。
そこの塹壕の一部を埋め立てて通れる様にしてくれと、注釈付きで。
すぐに飛んで来た土竜、作業を始める。
その間に、兵士を集めて戦闘体制に入らせた。
「馬車の後ろに敵が居るぞ!」
「何時でも撃てる様に構えておけ!」
その言葉に、しっかりと反応して。
塹壕の中に並んだ兵士達が、土壁にもたれて銃を構える。
ほんの暫く、静寂が続き。
俺の遠目でも見えるぐらいに、馬車が近付いて来た。
その俺に後ろからマリーが望遠鏡を渡してくる。
「ジュリアのとほぼ一緒だけど、単体でも使えるでしょ」
頷いて、それを覗く。
しっかりと見えた。
馬車は、ルイ家ですれ違ったヤツだ、つまり大臣に化けた時に使っていたそれだ。
その後方、騎兵隊は次々に倒れていく。
やはり、何者かに撃たれている。
そして、そのまた後方には銃を構えた騎兵が居た。
乗って居るのはエルフだ。
銃を構えていると言う事は、あれがフェイク・エルフなのだ。
詰まりは敵だ。