ロンバルディア正規軍出兵
次の日。
俺は何時もの場所で一服。
マリーとジュリアは地下の工房、ジュリアの部屋なのだが。
で、作業をしていた。
俺もさっき覗いて見たのだが……到底、女の子の部屋とは思えない。
完全な工房が部屋の半分を占めており、残りは武器屋の様相。
剣とか斧とか弓とかを、壁一面にディスプレイされている。
ほほうと俺が覗こうと近付くと、鬼の形相で見ているジュリア。
いや、別に触らないから、その目はやめて。
マニアかオタクか?
そして、新しい武器、銃をその一角に加える。
もちろん、俺を睨みつつ。
触ら無いから。
結局、その目で追い出されてしまって、今に至る。
何時もの様に、俺一人が暇に為る。
今回はコツメにも仕事が有るのに。
俺は、無い。
その仕事とは、カエル達、そしてゴーレム達と一緒にドワーフの里に行ったのだ。
銃のレシピとゾンビ錬金術師を一名を連れてなのだが、それは里で量産してしまおうと、マリーが計画したモノだ。
だが、お金は一銭も出してはいない。
上手く言いくるめて商業ギルドに出さしたのだ。
でも、それで儲けた金は誰の懐に収まるのだろうか?
その疑問は、口には出さない方が良いのだろうな、と、感じていた。
また、一本の煙草に火を着ける。
そこに、百合子がやって来た、その手には新聞を握っている。
それを、俺に渡して、そして自分のカードを出して、差し出す。
俺は、それに「銀貨1枚」と、言ってカチッと会わせてやった。
新聞配達は百合子の仕事に成っていた。
新聞一枚は銅貨5枚、それを銀貨1枚で買ってやる。
銀貨1枚の価値は煙草一箱分なので、駄菓子を買う小遣いとしては丁度良い金額だろう。
にこりと笑って帰っていく百合子の背中を見送って。
ふと思う、今……仕事をしていないのは俺だけか?
今日も1日、穀潰しのプー太郎を演じなければいけないのか……。
でも、引きこもりのニートでは無いぞ! 断じてそれは違う…………と、思う。
まだ、今日は一歩も外に出ていないが。
ため息と共に新聞を手にして、読む。
文字ばかりの紙面に、写真の1枚でもと思うのは、贅沢か。
で、一面は。
ロンバルディア正規軍、本日出兵。
俺達は、まだ2日有る。
その差、作戦の違いは、俺が思うに大臣の思惑なのだろう。
正規軍が突撃して、こぼれた敵は俺達ベルガモ防衛隊に押し付ける。
大臣達は、後ろを気にせず前進出来る。
あわよくば、国境? それとも曲がってイセオ湖?
どちらにしても、手柄は正規軍のモノだ。
冒険者の寄せ集め傭兵には、手柄は回ってこない。
ただし、突出し過ぎればまた、孤立する事に為る。
その、冷静な判断が出来れば良いのだが。
……。
先に、焦って出た様に見える今の状況では……どうだろうか?
普通に考えれば、先ず防衛戦線を築いて、その後から出るモノだと思うのだが。
その順序が逆なのは、やはり功を焦った?
まあ……どっちでも良いのだけれど。
俺達は、危なくなったら逃げる事としよう。
その為の後方支援なのだから。
マリーがちゃんと理解してくれていたようだし。
流石はマリーだ。
新聞の続きを読む。
しかし、プレーシャの事も救出部隊の事も出ていない。
そろそろ、骸骨も動くだろうに。
やはりそれは書きにくいのだろうか?
まさか、言論統制がしかれたか?
親衛隊あたりが……新聞屋に、顔を出したとか?
まさか……ね。
その、骸骨。
森の入り口に入っていた。
今の姿は骸骨のままだ。
ここから先はロンバルディア兵としてではなくて、魔物の振りをしてエルフに挑む積もりのようだ。
先の大軍のロンバルディア兵が、いつか来るで有ろうと警戒しているエルフ達をそのままに、魔物として迫る。
魔物相手では警戒も解けず、派手に出るわけにもいかない、その隙を突く作戦の様だ。
ネズミを先行させて、索敵しながら少しづつ森の奥へと進む。
カラスは森の木々の上を旋回していた、もちろん爆弾を持って。
ロリスとサルギン達は骸骨の後ろを着いて行く。
出番は、敵に遭遇してからだ。
荷馬車は森の外に置いたまま、カラスが爆弾を補充する為だけなのでそれで問題はない。
広い森も、カラスの高速移動が有ればすぐだ。
――おらんのう―― 骸骨の念話だ。
声を聞かれない配慮も有るのだろうが、こちらの方がより遠くに届くと言う事も有るからだろう。
――うほっ―― ロリスの念話なのだが、それは声でも良いと思うぞ?
――何処まで、逃げたやら―― これは、サルギン王ことアマゴクイ。
――この森に居るのは確かです、直に見付かるでしょう―― サルギン王の側近ことイワナクイ。
――木の上に隠れていたりして―― サルギンのオマケことヤマメクイ。
――…………あ!―― 骸骨の顎が落ちた。
――あの木なんか、隠れ易そうですよ―― と、木の上の方を指差すヤマメクイ。
その動きと同時に矢が飛んできた。
――逃げるのじゃ―― 慌てて下がる。
その背中からヒュンヒュンと、矢が追いかけてきた。
逃げる一行。
しかし、追いかけて来る気配は無い。
安全圏まで来た所で、反撃開始。
サルギンの幻想空間で白い霧を造り出す。
ロリスは踞り、幻影召喚……続々と小ロリスが出てくる。
エルフだけが見えている濃い霧に紛れて、木々を伝い近付き。
確実に仕留めていく、小ロリス達。
骸骨とイワナクイ、ヤマメクイがロイスとサルギン王を守る。
が、一切の反撃を受けずにその場所を制圧してしまった。
低い草木に引っ掛かり息絶えているエルフ達、高い木の上にも引っ掛かっていた。
それを横目に、また前進を始めた一行。
今度は、チャンと木の上も索敵範囲にして。
――危なかったのう―― 笑っていた。
俺はその頃、王都を出て散歩中だった。
ただの散歩ではない、その手には銃が握られている。
実験の為だ。
爆弾は攻撃として使える、もしかすれば放たれた弾丸も同じようにダメージを与えられないかと、試してみたく為ったのだ。
その為に、渋るジュリアを説得して、銃を借りての散歩だ。
ターゲットはスライム。
蜂達を使って探させている。
俺が埋られた墓場を越えて、蜂達を召喚した川を過ぎる。
その先の草原に、スライムは居る筈だ。
そして、やっぱり着いた途端に見付けてしまった。
前方にスライム一匹。
青い体をプヨプヨさせながらにユックリと移動している。
俺は、それに狙いを定めた。
撃つ。
結構な音と反動を感じながらに、妙な満足感なのか? 達成感なのか? が、心を支配する。
銃を撃つと言う事はこう言う事なのかと。
しかし、目の前のスライムはブヨブヨと跳ねながらに逃げていく。
外したか?
もう一度撃つ。
今度は、意識をスライムに集中しながら。
目線を切らずに。
パンとスライムが弾けて飛んだ。
が、すぐにブヨンブヨンさせながらに逃げ惑う。
当たったのに……。
俺の散歩はそれで終わった。
ただスライムの肩凝りを治してやっただけだった。
帰りに市場に寄って、甘いお菓子を買って帰る。
少し多目に抱えて家路を急いだ。
ジュリアの機嫌を取っとかなければと腰の銃を擦りながらに。
日も暮れ掛けた夕方の話だ。
屋敷に帰り着いた俺は、お菓子をテーブルに置いて、一服。
そこに、ジュリアとマリーが地下から登ってきた。
「銃、返すよ」そう声を掛ける。
「で、これは借りたお礼」と、テーブルを指した。
だが、そのお菓子を見たジュリアが俺を睨み付けてくる。
「なんで……お菓子なの?」
あれ? 甘いものは好きだった筈……。
「この男は、こう言う奴よ」マリーがジュリアに。
「ダイエットの話をしていたら、これだもの」
えー……。
それは、聞いていないけど、俺が悪いのか?
「プヨプヨのブヨンブヨンにする積もりね」
と、ジュリアの腹を叩いたマリー。
「スライム腹よ」