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ゾンビに成りたがった少女

 

 部屋の中は明るくて少し広い。

 白を基調にした清潔感の有る感じ……。

 が、ソレを打ち壊す様な禍々しい装置?  

 円筒形の水槽に子供の形をした……人形? 生きてもいないし、死んでもいないし、しかしリアルに肉体は有る……が、液体の中に浮かんでいた。

 ソレが幾つか有る。


 死体も有った。

 硝子の蓋をされた棺の中に裸で横たわる少女。10才位か? ついサッキ迄生きていたかの様な新鮮な死体。

 イヤ、肉体は生きている……辛うじてだが、しかし魂の存在は無い。

 それらを、一目で理解出来るのは、俺が魂の勇者だからか。


 「今、ご主人を呼び出しますので、少々お待ち下さい」と、自身も白衣を着込み部屋の中をウロウロとし始める。

 その足元に魔方陣も見える。

 さっきからソレを踏んづけて行き来しているチビッ子ゴーレムを見るに、ソレはそんなに重要なモノでも無いのだろう。

 

 何処からか取って来た、水晶玉を抱え「さー、いきますよ」

 と、部屋の明かりを消したチビッ子ゴーレムがナニやら呪文を唱え始めた。


 何も起こらない。


 「あれ?」と、声と共に足音。

 そして、灯りが再び。


 「あぁ~」床の魔方陣を指し「誰か踏んだね! チョッと消えてる」此方をチラチラ見るが。

 

 ソレを踏んだのは君だ。あえて言わないが。


 ブツブツと愚痴りながら、しゃがみ込み、チョークの様な物で欠けた魔方陣を書き直す。


 さて、仕切り直し、と呪文。


 魔方陣が光だし、その中心に女性が立っていた。

 透けている。実態はソコじゃなかった。

 チビッ子ゴーレムの抱えて居る水晶玉がボヤッと光り、ソコに魂の存在が確認出来る。


 その透けた方に。

 「約束は果たしたゾ」と、骸骨「魂の勇者を連れてきて遣ったゾ」


 「そうね」俺を見て頷く、透けた女「随分と弱い様に見えるけど」


 「ソレは仕方無い事じゃ、つい最近に召還されたばかりジャからな」頷き「しかし、事は足りるハズじゃゾ」


 「その、約束ってのは……なんだ?」俺が訝しく口を挟むと。


 「ワシとこの錬金術師との事じゃ」と、ニヤリ「主は気にせんで良い」

 

 イヤ、明かに俺の事での約束じゃ無いのか? と、口を開く前に、ソレを制して。


 「あとの事は、その女に聞くが良い」端の方に寄り「ワシはもう疲れた」座り込み「ここで……休ませて貰う事にする」言い終わると、その場にガラガラと崩れ落ちた。


 「魔力が尽きたか……」透けた女が転がり散らばった骨を見て。


 その骨にコツメが近付き、ツツいている。

 「起きない……」俺をみて、透けた女を見る「死んだの?」


 「元々、死んでいるわよ。スケルトンなのだから」少し笑い「ただ、眠っただけよ、永遠にね」

 

 「そう……」少し、寂しそうだ。


 「もう、怖くないのか? 動いて居たときは直ぐに気絶してたのに」


 「うん、急に怖く無くなった」


 「それは、そのスケルトンのレベルのせいね」透けた女が割って入る「滲み出る魔力が、恐怖のオーラとして、見えていたのよ」


 「俺には、何も見えなかったが?」


 「ネクロマンサーでしょう? 貴方は」笑いながら「使役する側の貴方が、スケルトンを見る度に怯えて居たんじゃネー」


 ……成る程、そうだったのか。

 じっと、骨を見る。


 そんな俺に。

 「ネクロマンサーとしてのレベルを上げる事ね」指差し「そうすれば、また会えるわよ」


 「死者召喚か……」

 「そう言えば、ししゃ召喚の方……奴隷印の解除は、どうやるんだ?」コツメを差し「この娘を解放してやりたいのだが」


 「その奴隷印は貴方が掛けたの?」


 頷く。


 「じゃ、無理ね」


 「え?」俺。


 「え!」コツメ。


 「貴方が打ったのは奴隷印ではなくししゃ召喚で、ししゃ召喚≧奴隷印って事なの」

 「奴隷印はそのまま奴隷にするだけ」

 「貴方の打ったししゃ召喚のししゃとは、使者で死者、まあ、簡単に言えばアンテッドの予約みたいなもの」


 首を傾げるコツメ。


 「貴方が死んでも、アンテッドとして仕えるって事よ」チラリとコツメを見る。

 「一生奴隷で、死んでも奴隷なの」少しイライラ気味?


 「えー、そんなの嫌よー」ブンブン首を振り「何とかしてよー」


 「無理!」言い切った。

 

 泣きそうなコツメ。


 「どうしてもと言うのなら、その男が死ぬのを待つのね」


 「アグッ!」コツメの呻き声。


 俺の死に、声を詰まらせるなんて良い奴だな……と、コツメを見ると、手が刀に掛かってる、コイツ俺を切ろうとした。


 「主に危害は加えられないわよ、心臓が握られる様な痛みが走るからね」


 良く見ると、胸を押さえている。

 俺は首を振りながら思う。コツメはこう言う奴なのだ、と。

 「諦めろ……」

 

 「面白い娘ね」

 そして、俺の方を向き。

 「さて、ココからが本題。私が貴方を呼んだわけ」

 「私には体が無いの、魂が水晶玉に保管されてるだけの存在」チビッ子ゴーレムの持つ水晶玉を差し。

 「魔方陣を使って、やっと今のこの感じ」下を差し「ココから一歩も動けない」

 

 頷く。見たまんまだ。


 「ソコで、貴方に頼みたいのが、私にししゃ召喚を掛けて欲しいの」


 ? 首を傾げる。


 「ソコに有る少女の体に私の魂を重ての、ししゃ召喚」

 

 ? ワカラン。


 「ソコの少女は、今、辛うじて生きてる状態で時間を止めてあるのよ、で、魂を入れてからししゃ召喚……わかる?」


 「魂を入れる? どうやって?」


 「スキルを抜き取った事はある?」


 「有る」頷く。


 「その逆よ」

 「その逆を、魂を使ってやるの」水晶を差し「勿論、私の魔方陣で補助もするわ」

 と、チビッ子ゴーレムに指示を出す。


 ゴーレムは少女の棺の硝子蓋、胸の部分に魔方陣を書き始めた。


 「俺には、死者召喚はまだ無理だ、アンテッドは虫位が限界だ」


 「分かってるわよ、だからかししゃ召喚、奴隷印の方よ」

 「いい? この子は直ぐに死ぬの、今はただ、時間を止めているだけ」

 「わかる? この子に私の魂を入れて、貴方が奴隷にするの、そうすれば死んだ後にアンテッドとして、私は体を手に入れられるの」俺に指を突き立て「わかった?」

 

 「成る程……」

 「1つ、聞いて良いか?」


 「ナニよ」


 「この子は……どうした?」少女を見「お前が……」言い掛けた俺を遮り。


 「違うわよ」

 「殺して無いわ」

 「その子は、私のクローンよ」

 後ろの円筒形の水槽を差し「最初は、ホムンクルスを造って、魂をコピーしようとしたの」

 「でも、コピーは所詮コピーでしかない……」首を振りつつ「私じゃ無いの」

 「で、次に考えたのがクローン」少女を見て「でも、ヤッパリ……これもコピー」

 「しかも、クローンには魂の寿命が殆ど無いのよ」深くため息を付く。

 「ドリーの様にはいかないわ」


 「ドリー?」羊のドリー?

 

 俺の問いには答えず、続ける。

 「でも、ソコで気が付いたのよ、魂の勇者」俺を差し「貴方なら、コピーでもない私を造れるって、ね」どーーん! そんな擬音が聞こえる勢いで。




勢いに押された俺は、言われるがままに準備に入る。


「慎重にお願いね」

「チャンスは一度きりだからね」

「巧く行けば、貴方にもメリットが有るのよ」

「稀代の錬金術師を使役出来るだから……」

「わかる? 今後の貴方の……」


「ウーン……騒がしいな~」チラリと透けた女を見て「なんだか、失敗しそうだ」

 

「………………」口を閉じ、ブンブンと首を降りつつ、手を合わせ拝む。


書き上がった魔方陣を指し「これで大丈夫なのか?」


透けた女はじっくりと時間を掛けて何度も確認。と、注文。

チビッ子ゴーレムに、ここが薄いわよ、とか、ここはもっと丁寧に、とか。ソレはしつこく。


「もう、いいかな?」少し……面倒臭く成ってきた。

「始めるよ」


チビッ子ゴーレムが慌てて、水晶玉を魔方陣の真ん中に置く。


「良いわ……初めて」

と、その時コトリと水晶玉がホンの少し動いた。

「あ! 待って」慌てる透けた女。


無視して……続けた。


水晶玉から光結晶を浮かび上がらせ、ソレを硝子を素通りさせて、少女の胸のなかに誘導。


うん! 問題無く出来る。


少女の身体にソノ魂の定着化も出来た。

元々が魂の無い身体、その本来有った筈の場所、隙間にそのまま嵌め込む、そんな感じだ。


「出来たゾ」ソッと額の汗を拭い、透けた女の方を見る。


魔方陣の中のソノ女は、何時の間にかに消えていた。


確認する。

水晶玉の中にはもう居ない。

少女の身体の中には、反応が在る。


「よし! 奴隷印を打つぞ」チビッ子ゴーレムに頷いてやり。

呪文を唱えた。

ししゃ召還。


少女の胸元に奴隷印が浮かび上がり、ソレが直ぐに身体に溶け込み。消える。


チビッ子ゴーレムを暫く見詰めて。

「やれ!」互いに頷く。


そして、蓋に手を掛けた。


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