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強制徴兵


 次の日、大臣は盗賊ゾンビ共と補給部隊を引き連れて王都をたった。


 そして、その同じ日に、冒険者ギルドの目立つ壁に強制徴兵の貼り紙が貼られた。

 それを貼って行ったのは親衛隊。


 冒険者ギルドに登録して居る者は、そのすべてが対象と為る、と書いて有る。


 もう一人の大臣が、なり振り構わずに出たようだ。

 自身の進退が掛かっているのだから、仕方ないのか。


 そして、冒険者登録をしている者は相当数に登る。

 カードの限度額を上げるのに、その登録が必要だったからだ。


 もちろん、俺もしていた。

 詰まりは徴兵の対象だと言う事だ。

 迷惑な話だ。



 俺達は、その貼り紙の前に立ち。

 「俺は、行かないといけないが……お前達は残れ」そう、マリー達に告げる。

 奴隷と言う立場上、冒険者登録をしていたのは俺だけだ。

 俺以外は、強制徴兵の対象には為らない。

 

 「なに言ってるの、一緒に行くわよ」マリーが。

 マリーの後ろに立つ皆も頷いている。


 「お前達は、戦争に行く必要は無いんだぞ」

 それが嬉しくも思うが……しかしワザワザ勝てない戦争に行く事など無いと思うのだが。


 「あんた、何にも出来ないじゃない」そう言いながら、マリーは背を向け歩き始めた。

 「ルイ・シャルルに相談してみましょ」


 ソフィーのお父さん、お隣さんだ。

 全てのギルドを仕切ってもいる。

 そして、貴族だ。骸骨の子孫でも有る……それは余り意味は持たないだろうが。


 

 ルイ家の豪華な玄関をくぐると、見覚えの有る馬車とすれ違った。

 大臣の影武者をやった時に預けられた馬車にそっくりだ。

 何処かの、貴族、それも上の方の誰かが来ていたのか?

 まあ、この屋敷に釣り合うには必要なモノなのかも知れない。

 ……。

 俺達は、徒歩だが。

 いや、ここの当主もその娘達も徒歩だ。

 だからか、その釣り合いなんて一度も考えた事が無かった。

 それも、やはり平和の為せるワザか?


 しかし、その平和も怪しいと言う事に王都民も気が付いた様だ。

 ここまでの道すがらも、町行く人の顔が明らかに暗くなっている。

 それはそうだろう、いくら平和ボケでもあの貼り紙を見ればオカシイと気付く。

 新聞には勝ち戦しか載らないので、余計に際立つ。

 勝っている筈の国が……強制徴兵などと……。


 そして、目の前にも一人、暗い顔の男。

 ここの当主、ルイ・シャルルが玄関の前で立っていた。

 先の馬車の見送りに出ていたのだろう。

 大きなため息まで付いている。

 余り、良い客では無かったようだ。


 そんな、当主にマリーが遠慮無くに声を掛ける。

 「ねえ、ちょっと相談して良い?」

 挨拶も無しに、単刀直入に。

 自身の子供の成を最大限に利用して。


 しかし、そのマリーに暗い顔を少しばかり解されたか、にこやかとまでは行かない顔を見せながら。

 「ナニかね?」


 「私達、徴兵を受けちゃったのだけど」

 「兵士の経験もないし、そんなに強くも無い」

 俺を指して。

 「この人なんかは、実は戦え無いのよ」


 今度はちゃんと笑って。

 「ご冗談を、幾つかの仕事を見事にこなしてくれたでは有りませんか」


 「それが、冗談では無いのよ」口をへの字に曲げて頷きながら。

 「この人のスキルが変わっていて、回復しか出来ないのよ……実は」


 それに合わせて、コツメとジュリアもウンウンと頷いた。


 ソレを聞いた当主、俺をジッと見て。

 「本当に?」


 俺も頷いた。やっぱり口はへの字にしておいた。


 「イヤイヤ、ダンジョン攻略も……今回の大臣の護衛も……」

 一呼吸置いて。

 「本当に?」


 皆で頷く。


 「回復は強力なのよ、確かに」

 「場合によっては、死人も生き返らせれるから……でも」


 確かに間違ってはいない、ゾンビには為るが……生き返る。


 「戦場で最前線は……ちょっと違うでしょ?」

 

 うーんと、考える当主。

 「でも、今回徴兵される冒険者は最前線には行きませんよ」

 「派兵されるのはベルガモ防衛戦線です」

 「最前線には、大臣率いる正規兵が中央突破を試みるそうですよ」

 「その後ろの防衛任務が冒険者です」


 「あら、そうなの?」

 うーんと、考え。

 「でも、それでも……私達は役に立たないかもしれ無い」

 

 「回復専門でしたか?」

 当主も考え出す。

 「でしたら、衛生部隊に配属される様に手配してみましょう」

 「衛生兵の殆どは正規兵なので、回復の専門は冒険者には少ないのでそれも通るでしょう」

 「一応は、パーティー単位なので、その他の皆さんはその護衛としておきましょう」


 「有り難う御座います」俺、一人きちんと頭を下げた。


 「ただ、衛生兵は……戦場よりも過酷かもしれませんよ」


 「それは大丈夫だと思うわよ……この人の回復は魔法じゃ無くてスキルだから……魔力は殆どの使わないのよ」

 「体力勝負の外科医とおんなじ」


 外科医? それは、この世界で通じる言葉なのか?

 

 

 その次の日。

 強制徴兵された者が、城の中に在る広場に集められていた。

 部隊編成の為だ。


 俺達はその外れの、城から一番遠い所でそれを待つ。

 ここは、衛生兵の待機場所に成っていた。

 お隣さんが上手くやってくれたらしい。

 

 それでも、女、子供の居るパーティーは俺達だけだった。

 衛生兵なのだから回復役の筈。

 しかし、何処を見ても男しかいない。

 何人かに声を掛けたのだが、薬師だったり、回復魔法師だったり基本は内科医なのだそうだ。

 正規兵には外科医師も居るらしいが、それは教会学校出身でないと無理なのだと言う。

 そして、教会学校は基本的に貴族の学校らしい。詰まりはエリートと、言う事だ。

 ただ、俺のイメージする外科医では無いようだ。

 回復魔法師と錬金術師を足して、回復役寄りにした感じらしい。

 どうも怪我をして手足を切り落とされる、もしくは切り落とす、それを魔法義手、義足で補う、それをする者達らしい。

 そして、その正規兵を足しても、その人数は少ないのだと言う。

  

 だが、そうかも知れない。

 つい最近まで、冒険者ギルドは潰れかけで、冒険者自体も殆ど仕事が無い状態なのだから、回復役など需要も無い。志す者も居ないだろう。

 戦争の無い平和な街では、せいぜい町医者で十分だ。

 医学の研究なんてモノは貴族の趣味か、余程の変わり者の遊びの世界だ。

 薬と回復魔法で殆どの病気は治るのだから。


 ただ、戦争に為ればそれは外傷の怪我ばかりに為る。

 浅い傷程度にしか対応は出来ないと、薬師も回復魔法師も首を振るばかりだった。


 しかし、その事は衛生兵部隊の指揮官も理解していたようで。

 後方の防衛部隊なのだから、そちらの方が忙しいのではないかと笑っていた。

 この指揮官、一応は正規兵らしいが手柄よりも楽な方が良いと後方支援に志願したそうだ。

 そして、外科医師でもあるらしい。

 らしいと、言うのはその後で、噂で聞いたのだが、どうも見事に落ちこぼれなのだそうだ。

 貴族学校なのだから、適性よりも家柄らしく、そう言う者も多いらしい。


 詰まりはこの場所に立っているのが、そのまま相応しい人物なのだと言う事だ。


 そして、出発は3日後に為る。

 俺達、衛生兵部隊だけが、それを告げられて解散となった。

 それ以外の、戦闘部隊はまだまだ編成に時間が掛かるらしいが、何に時間を掛ける積もりなのかと、俺達の指揮官は笑い飛ばしていた。

 

 その時、現地集合で構わないかとマリーが聞いていたのだが。

 俺も、それは流石にと思っていたら。

 その指揮官。

 まさかの返事と共に頷いた。


 聞いて見るもんだ。

 

 偉いぞマリー。

 流石はマリー。

 マリー様様だ。


 俺達はトラックで行くので、1日遅れでも構わないし、先に行ってのんびり待っても良い。

 何より、歩きか馬車かはわからないが、たっぷり時間を無駄にするのは確か出し、それは嫌だった。


 後で、マリーに何か甘いものでも奢ってやろう。

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