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凱旋


 俺達は、盗賊達とも別れて、王都に戻ってきた。


 町の様子は別段、変った所はなかった。

 賑やかに、にこやかに大通りを行き交う人々。

 だが、そんな中に、黒い服の数人が目につく。

 肩幅程の黒い布を前後、膝上くらいまで垂らしている。

 そして、真ん中に赤い十字の刺繍が大きく目立つ。

 幾人かは、それを腰の辺りで紐を巻いてバタつかない工夫をして居る者も居るが。

 しかし、大半はそのままで、風にはためかせても居る。


 前回、王都を出た時には居なかった格好だ。


 「多分だが、あれが親衛隊だろう」大臣が教えてくれた。

 「濃い緑地に黄色い、Yの字を2つ上下を逆さまにして重ねて刺繍がある者が居ればそれが、正規軍の正装だ」

 「戦争の時か、式典の時にしか着ないモノだ」

 「だから、私も数回しか見た事がない」


 成る程、それで目立つのか。

 その黒い布もそうだが、それよりも態度が異様に尊大に見える。

 そして、道行く人々も、気持ち気を使っている様にも見えた。


 「秘密警察にも、あんな感じの正装があるのか?」

 

 首を振る大臣。

 「秘密警察は目立つ格好はしないし、決まった正装も無い」


 それはそうか、ワザワザ秘密と言っているのだし。


 「まあ、あまり近付かない方が良いのだろうな」

 その親衛隊が、トラックの横をやたらに大きな靴音を響かせて通り過ぎて行く。

 ほんの少しだけ、戦争の匂いをさせながら。



 大通りのどん突き、噴水の在る広場で大臣を降ろして、俺達は屋敷に帰る事にする。

 大臣は真っ直ぐに王の元に向かうのだろう。

 良い仕事をしてくれと願うばかりだ。


 しかし、結構な事をした割には、出迎えもなく寂しい後ろ姿だ。

 エルフを撃退して、魔法学校の村を解放したのに。

 いきなりの帰還だからか?

 それにしても、部下の一人くらいはと、思ってしまうのだが……。

 これが今の大臣の立場なのかと、少しばかり同情もしてしまう。

 凱旋とは程遠い。


 

 屋敷に帰り着いてすぐ。

 ジュリアとコツメが、隣のルイ家に遊びに行った。

 百合子とソフィーの顔が見たかったのだろう。

 

 それ以外の者は、其々に自室に向かう。

 まあ、一時ゆっくりしてくれ。


 俺は、一人で何時もの場所で寛ぐ。

 玄関すぐ横のロビーの端、テーブルと椅子だけの場所。

 煙草を一本。

 

 少しばかり疲れが出たのか、うつらうつらとしていると……。

 いつの間にかに、向かいにマリーが座っていた。

 二人の間の机の上には、新聞が置いて有る。

 

 「起きたようね」起こして悪かったと言うニュアンスでは無さそうだ。


 「寝てしまっていたのか……」まだ、ボーッとが抜けきらない。

 もう一本を咥えて火を着けた。

 ため息の様に煙を吐き出す。


 目の前の新聞を手に取り、目を通した。

 やはり、エルフからの村の奪還が一面だ。

 

 「エルフも強いと聞いていたが……案外だな」


 ため息一つのマリー。

 「それは、骸骨のお陰でしょ」

 「最初のトンネルでの、戦いでトドメを刺さずに見せたでしょう、あれが効いているのよ」

 「村での待ち伏せも、恐怖でいっぱいに為って震えていたのでしょうね、だから、偵察部隊すら出せずにいたのよ」


 「いつ来るかと怯えながらに待っていたのか……」


 「死に対する恐怖よりも、死を見る恐怖の方がエルフにとっては耐え難いのかもね」


 ああ、わかる気がする。

 俺も、自身の死には実感がわかないが、指を切り落とされる恐怖はそんな映像を見ているだけで、背中のお尻の方から何かがムズムズと走る感覚に為る事が有る。


 それを全体で共有したのか。

 だから、あんなに派手に驚かす様な作戦なのだな、それも突然に。


 「経験なのでしょうけど、エルフを知り尽くしているのね」


 「そう言えば、戦争は早さが大事だと言っていたな」


 「恐怖が消えないうちに、ってことね」


 その時、何処かに行っていたカラスが突然に俺の肩に飛んできた。

 そして、すぐにミニ大臣になる。


 「大臣が王と話している」そう告げたカラス。



 「よく無事で戻ったな」玉座の王が、その正面に立つ大臣に声を掛けた。

 そこは、何時もの謁見の間。


 王の隣には、もう一人の大臣も居る。

 

 「捕虜にまでされたのに、そのエルフを逆に撃退して、北の村までも解放したと聞いた」

 

 「はい、運良く出会えました捕虜達が、精鋭揃いでありましたので、うまく事が運びました」


 「捕虜にされたのに……精鋭か」チラリと隣の大臣を見た。


 「しかし兵士達は、戦争を初めて経験するのに、精鋭とは……」その大臣が口を開いた。

 その顔は、何時にも増して厳しく、口も真一文字になっている。


 「モノの見方です……戦争は経験が無くとも魔物相手なら経験できます、そしてエルフは魔物よりも容易い、戦い慣れておるものが居れば、後は戦術と作戦です」その大臣の方を見ながら。


 大きく頷き。

 「指揮官の能力次第と言うわけか」と、もう一度、隣の大臣を見る王。

 

 見られた方の大臣、そのまま黙ってしまった。

 成る程、プレーシャで孤立した兵の事を指してか。

 嫌味な言い回しだ。


 「ですが……ロマーニャとの交渉は、話すら出来ませんでした」

 それが、本来の目的だったのだが。

 

 「トカゲごときが……エルフに唆されおって」吐き気棄てる様に。


 「それよりも、問題はフェイク・エルフの方かと」話を逸らそうとする、王の隣の大臣。


 その大臣を睨み。

 ロマーニャの交渉を提案したのは貴様だろうと、言いたいのを飲み込んだゾンビ大臣。


 「フェイク・エルフを叩けば良かろう」簡単に言い放った王。

 

 お互いの顔を見合わせる大臣同士。

 アディジェの出した兵力が、どれぐらいの規模かもわかっていない上に、それを押し戻そうとすれば、それに合わせて増援を出してくるのは確実だろう。


 先に口を開いたのはゾンビ大臣の方。

 「プレーシャの兵を救出しましょう」

 「すぐ南の森の入り口に、一部ですが兵を待機させています」

 「魔法学校の護衛任務を、私の独断で命じて来ましたが、それを使えば……ただそれ程の規模では無いので陽動作戦程度になりますがエルフの気を引く程度には為るでしょう」

 「その間に、王都からの本隊をアディジェにベルガモ経由で北上させて頂ければプレーシャの兵も動きやすいかもしれません」

 適当な事を言っている。

 しかし、それが通れば骸骨も動きやすい。

 

 だが、プレーシャに足留めの兵は、補給もままならん状態なので、戦力として期待できるのかもわからない、なので救出したところで無駄に為る可能性が多きと思われる。

 一度、何処かで再編成をしなければいけないのだろうが。

 その拠点に為る所が無い。

 王都まで戻せば、大幅に時間が取られる。

 骸骨の言っていた、早さが、失われる事となる。


 だが、ゾンビ大臣も既に、勝つ事は考えていない様だ。

 「もう少し、兵を預けて頂ければ救出まで、持っていけるでしょう」

 「国境はガルダ河を挟んで居ますので、橋さえ落とせば攻め手には防壁代わりとして時間も稼げましょう」

 

 「それは、南に逃がすと言う事か?」王が確認をするように。


 それに頷いた大臣。



 結局、ゾンビ大臣がもう一度、補給部隊と小規模の部隊を連れて戻る事と為った。


 王都からの本隊は、もう一人の大臣が指揮を取る。

 この大臣に取っては最後のチャンスに為るだろう。

 そして、その本隊は、ここ王都に残っているその殆どの兵と為るようだ。

 詰まりは、王都は無防備に近くなる。


 最初のプレーシャ防衛部隊に兵を割きすぎた王の間抜けさが招いた結果だ。

 その後に、ヴェネトに進行してそのまま叩いて仕舞えと、浅はかな事を考えたのだろうが、結局はロンバルディアの兵の大半を使えなくしただけだった。

 

 後先を考えない愚かな王だ。

 今は大臣もそう見える様に成っていた。

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