解放軍
「戦意無く敗走する者は追うな!」
骸骨の叫びが戦場にこだまする。
だが、その声はエルフ共に聞かせる為だろう。
今、逃げれば命はとらん。そんな意味だ。
そして、それはエルフの恐怖も掻き立てる。
この戦いは既に決着が着いている、と。
視界の無い黒煙の中、弓が主力のエルフではただ闇雲に撃つしかない。
しかし、矢も有限だ。
一本づつ何の成果も無く減っていく代わりに、不安だけが増していく事になるのだろう。
そして、敵は矢の届かない長距離からと、弓の意味の無い接近戦闘を仕掛けて来る。
黒煙の中でその敵を目にした時は、弓よりも剣の方が遥かに早い、そんな状況だ。
心折れる者が一人、居てもおかしくはない。
だが、その一人が全てのエルフの心を折る事になる。
繋がっているのだから。
そして程なく、エルフ兵の敗走が始まった。
ルイ王の言葉を信じ、武器をその場に捨てて走り去る。
それは、安全圏に居た者も含めての行動となる。
全くの同時に、全てのエルフがだ。
作戦は、俺達の勝利で終了した。
最後はあっけ無くにだ。
黒煙とエルフの死体を背にして、ルイ王が悠々と村に入る。
そして、勝利の雄叫びを上げた。
同時に盗賊達の歓喜の叫びも交ざり、村中に響き渡った。
随分と芝居がかった行為にも見えたが、それにも意味が有るのだろう。
村人達に対してか。
逃げるエルフ兵に対してかはわからないが。
それよりも盗賊達だ、流石にあの矢の雨は総てを避けきれるわけでも無い、見事に全員が針ネズミ状態だ。
その矢を抜いてやらねば、村人が腰を抜かすだろうに。
それは、面倒になりそうなので兎に角ソレを直ぐに抜けと指示を出す。
もちろん、俺も他の皆も手伝ってやった。
暫く、そんなこんなの騒ぎをしていると。
固く閉ざされた建物から、村人が一人、二人と恐る恐るに出てきた。
そんな、村人に俺達はロンバルディアの解放軍だと教えてやる。
ソレを聞いた男は両手を上げて喜び、すぐに村中を駆け巡り、吉報を知らせて回った。
エルフから解放されたのだと。
暫く、勝ち取った平和をその目で確認して、その後には本来の目的の一つ、その場所に向かった。
俺達は大陸間弾道魔法陣の前に居た。
高い塀に囲まれたそれは、やたらとデカイ。
そして、複雑な紋様だ。
「これがそうなのか?」背後で頭目の声がする。
「うむ、どこも壊されておらんようじゃの」骸骨が頷いた。
「これを描ける者は……もうおらんじゃろうから、使える様で何よりじゃ」
「使うのか?」俺が呟く。
「有るのだからの」
「……起動するのに……13人の命が必要だと聞いたが」呻く様に。
「必要じゃな」さらりと。
「その命……何処から?」
「うむ、今はわしも王では無いからのう」
首を振りながら……。
そして、俺を見て。
「疑似魂の魔石をゴーレム化してくれれば……使える筈じゃ」
「威力は随分と落ちるが、理論上は可能な筈」
「成る程」背後でマリーの声がした。居たのか……。
その又、背後には大臣も見える。
「この学校に、魔石の材料も有ったわ」
「そりゃそうじゃろう」頷き「魔法学校なのじゃから」
「でも、40ッコも造れないと思う」首を捻り、思い出しながらに。
「39個で、三回分か……」フム……と、黙り込むルイ王。
「まあ、仕方無いかの」
「大量破壊兵器なのだろう?」
「辺り一面を無差別に焼き尽くす」
「そうじゃの」
「使わなくて済むのなら、それにこした事はないのう」
「まあ、抑止力じゃな」
「宣伝するのか?」抑止力だと言うのなら、それを相手にわからせ無ければ意味を持たない。
「いや、せん」
「一発、無駄に撃つ事に為るかの」
「これを使える国が他にも有る、今の状況なら準備をしていても損は無いだろう」頭目が頷きながら。
「それも含めて戦争なのか……」と、納得は出来ないが。
しかし、それを無視してただ殺られるだけも……それは違うのだろう。
「防衛手段としてなら……協力しよう」
考えるのは辞めにした。
「でも、撃つ時の呪文は?」マリー。
「王族なら、その呪文は知っておる」
「代々、語り継がれるものじゃ」
「今の王は知らんじゃろうがの」
「詰まりは、貴方だけがそれを知っている……と言う事ね」ルイ王を見たマリー。
頷いたルイ王。
「ここに残るのか?」
「そうなるのう」
「じゃが、ただ待つのもなんじゃし、プレーシャで孤立しておるロンバルディア兵でも救出してやろうかの」最後尾の外れに居た大臣に向けて。
それは、作戦として意味を待たせる様にしろと、言いたいのだろう。
城に帰ってからの仕事だと言う様に。
詰まりは、それも大臣の手柄にして、今の王の信頼を勝ち取れと言う事だ。
そして、そこまでしてやるのだから、その後は……なのだろう。
まあ、良い。
元は、骸骨の国だ。
好きにすれば良い。
俺は、適当に手を貸すだけだ。
せっかく作ったモノを壊されるのは嫌なだけだ。
「俺達は大臣と帰ろう」マリーに告げた。
そして、頭目を見て。
「お前達は、どうする?」
頭目はルイ王を見る。
「ロイスとサルギン達が残れば、わしはそれで良い」
「それだけで良いのか?」
「プレーシャは森の中じゃ、そこでならロイスの能力が無駄無く発揮されるじゃろう、その為に温存していたのじゃから」
成る程、荒野や草原ではただ数が多いだけに為るからか。
森の中なら、隠れながら、木々の上からとロイスの能力が生きると言うわけか。
サルギンは幻影でゲリラ戦でも考えているのだろう。
もう一度、頭目を見た。
「なら、帰るとしよう」頷いた頭目。
次の日。
俺達は、トラックとバスにそれぞれ乗り込み村を出た。
目的地は、俺達は王都へ。
頭目達は、自分達の里へ其々に。
と、言っても殆ど一緒なのだが。
そして、荷車を1つ置いてきた。
ジュリアが幌を付けて、マリーが転送の魔法陣を描いて、それを引くのはロイスだ。
元の巨猿に成れば、それも容易い事だろう。
そして、カラスとネズミも数匹づつ預けて、俺達は別れた。
トラックの中から、遠ざかる村を見て。
「マリーは、学校の子と仲良く為ったのだろう?」
「別れの挨拶は良いのか?」
村を解放してから、ずっと側に居た様だから。
「そんなの、とっくの昔にしたわよ」
「逃げ出す時に」
「ふーん……そっか」
その脇では、ジュリアとコツメが船を漕いでいた。
昨日疲れが出たのだろう。
そのまま寝かして置いてやった。
そうそう、土竜なのだがカラスが運んで来たネズミの死骸からスキルを出して、くれてやったら。
どうも、やたらに相性が良かったのか、猫程のサイズに迄、小さく成れた。
今は、マリーの膝の上で寝ている。
そこが気に入ったのだろう。
子供は暖かいからな。
あれ? ゾンビだから冷たいのか?
どっちなのだろう……と、じっと見る。
「ナニよー」その、後には変態っと続くのか?
声には出してないが、そう聞こえた気がした。
が、俺も反論させてくれ。
見るのも、その膝も……絶対にジュリアの方が良い!
もちろんそれを、声には出さないが。
それは、絶対だ。
と、一人頷いた。
竜の住み処のトンネルを抜けて、荒野から草原へ入る。
そして、やっと道路に出る事が出来たのだが。
その頃には日も落ちて、辺りは真っ暗に成っていた。
道で無い所を走るには、トラックもバスもやたらに時間が掛かる。
そして、乗り心地も悪い。
尻が痛くて我慢の限界でもあったので、ここで夜営する事にする。
火を囲み。
ジュリアの飯を食い。
そして、コツメとマリーの喧嘩を観賞して。
夜も更けていく。
昨日の事などは忘れて。
皆の顔を見ていた。
まだ、誰一人として、欠けていない。
何時ものメンバーだ。