戦線を北へ
俺は、ここ数日の新聞を順番に並べた。
先ずは、捕まった次の日だと、手に取った。
俺達の事が書かれている。
レイモンドに伝えたそのままだ。
大臣、ロマーニャで捕縛される。と、ある。
寄宿学校の占領。も、あった。
しかし、一面は……ロンバルディア軍がプレーシャに到達した。と、それだった。
記事を読むに、一部で戦闘もあったようだが。
大した内容では無いのに、もう既に勝利したかのように書かれている。
次の日の新聞に移る。
ロンバルディア軍、プレーシャ防衛に成功。とある。
しかしそれは、軍事拠点の設営をしただけの様だ。
その次。
ロンバルディア軍、エルフ侵略軍の撃退に成功。
どうも、数人のエルフ達を倒しただけのようだ。
しかし、ヴェネト軍では無く、エルフ侵略軍か……。
次。
ロンバルディア軍、ヴェネトへの進行準備着々。
この日は、書く事が無かったのだろう。
次。
北のアディジェの軍が国境を越えた。と、ある。
眉をしかめた。
「アディジェが攻めて来たようだぞ……」
俺のその言葉に、大臣と頭目が新聞を覗き込んだ。
「三方に囲まれたようじゃの」ルイ王は笑っている。
「西に逃げるかのう?」
「まさか……アディジェ迄もが……」呻く大臣。
「そんなに驚く事かの?」
「アディジェと言えば、フェイク・エルフの国じゃぞ」
「ミズリー・エルフとも言われてるわね」マリーも参加してくる。
「偽物に不幸? 散々な呼び名だな」思わず呟く。
「奴等は、エルフ擬きじゃからな」
そのルイ王の言葉をマリーが捕捉する。
「見た目はエルフだけど、エルフの能力が無いのよ」
「それって、タウリエルの事か?」
「そうね、ヴェネトにも居づらくて、でも見た目はエルフだから他所の国でも住み難いのよ」
「だから、北の不毛の大地に逃げ込んで、ソコで国を作ったの」
「ヴェネトのエルフは、特性を指して居るのじゃ」
「見た目は、あまり関係がない」ルイ王が付け足す。
成る程、意識が繋がるのがヴェネト人……詰まりはエルフ、か。
繋がらないのが、フェイク……偽物と成るのか。
確かに、それは不幸だ。
エルフの見た目だけだと、ヴェネト人はソレをエルフとは認め無いのか……。
「しかし、それならヴェネトを恨んで居るのでは?」
「恨みよりは……憧れなのね」
「逃げ出した頃の大昔は恨んでいたかも知れんがの」
「今は、ヴェネトの言いなりじゃ」
「ヴェネトが動けばアディジェも動く」笑った。
「王都が危ないのでは?」頭目が頭を掻いた。
「うむ、どう動くかの?」
「次の新聞にはどうじゃ?」
次を捲る。
「アディジェ軍、竜の住みかの東側を進軍中。とある」
「となれば、プレーシャが目的地か」
「ロンバルディア軍は挟み撃ちじゃな」
「大変じゃ無いか!」頭目が叫ぶ。
「あそこは逃げ場が無い一本道だぞ」
「戦力を前と後ろにでは、大打撃は必死だ」
「戦闘には成らんだろう」
「なぜ?」
「ヴェネト軍はアディジェが動くのを待っておったのじゃ」
「そして、挟んでにらみ合いじゃな」
「それに何の意味が?」
「ここのトンネルが生きる筈じゃったのじゃろう」
「でも、俺達が押さえた……」
「そうじゃな、だが……ロマーニャは?」
「アディジェも、ただ押さえるだけなら小数でも持つだろう」
「ヴェネト軍だけが攻め上がれない……それだけと言う事か」
「今はの、そのうち北か南かの国を通って出てくるじゃろう」
「いや、出てこないかも……」俺は、少し考えて。
「マリーが寄宿学校で……大陸間弾道魔法がと言っていた」
頷いたマリー。
「その魔法陣を見たわ」
「エルフ兵共が、ソレを動かそうとしていた」
「幸いに、魔法陣は壊れていたけれど……」
そのマリーの言葉に大臣と頭目が眼を剥いた。
「踏む、やはりアレが目的じゃったか」
「知っていたの?」
「魔法学校の女子校と、男子校に有るヤツじゃろう?」
「男子校にもあったの?」
「有るぞ、地下に隠して有るが、その二つで1つの魔法陣じゃ」
「女子校のしか見つけられ無かったのね……だから動かなかったのか」
「男子校の方のは小さいからのう」
「地下に隠して、その上に偽装までしておる」
「魔素供給魔法陣にしか見えん筈じゃ」
「えらく……詳しいな」
「昔、一度だけだが発動させたからの」
「アレを使ったのか?」
「使った」頷き。
「無論、エルフにじゃ」
「アレは凄いぞ」
「地表を光と魔素で焼き尽くすのじゃ」
「一瞬にして、草木一本も残らん焼けた土のただれた大地じゃ」
「そうか……それで地下都市なのか」
「んん?」
「今は、地下に住んでおるのか?」
「成る程、確かに地下には届かん」
「余程に、恐かったのだろうのう」高笑い。
骸骨を見て。
こいつが生きていた時は、一体どんな王だったのだろうか?
今の王の方がマシしかも知れないと、思ってしまう……。
そんな俺の目線が気になったのか、続けて。
「奴等、プレーシャの辺りを寄越せと言ったら……嫌だと抜かしおったのじゃ」
「だから、ちーと御灸をの」
あの辺りはヴェネトのモノだったのか……。
今は、ロンバルディアだと言う事は……奪ったのか。
成る程、大概な事をしているのか……伝説に成るわけだ。
「しかし、魔法陣がエルフに奪われたままなのはいかんのう」
「次は、このまま北上してエルフ共を蹴散らすかの」
そして、俺達は北に進軍した。
大陸間弾道魔法がエルフの手に有るのは、やはりに思わしくない。それは確かだ。
土竜はここに有った一番大きな荷車をバスに繋いで乗っけた。
ミニマムを調達しないといけない様だ、そのままだと大きすぎる。
今も、若干にはみ出ている、手足が地面に引き摺っていた。
「今、一匹ネズミの死骸を運んでます」カラスがミニ・ロイドで言った。
「ウーン、どれくらい掛かる?」待った方が良いかもしれん。
「今日の夜迄には……」
俺は土竜に向き直り。
「手足をこう……上に上げては、無理か?」
それに答えて、ピーンと上げて見せた。
「それで、行けそうか?」
小刻みに頷く土竜。
「そんなに遠く無い距離だから、それで頑張れ」
そう言って、俺もトラックに乗り込んだ。
有刺鉄線の巻かれた柵の外側から村を覗く。
その場所は丘の上。
トラックとバスは、丘の下の影に隠している。
遠くに見える村は、その様子迄は伺えない。
しかし、本来居るで有ろう巡回のエルフ兵の姿も見られない。
とても、静だ。
「奴等、逃げた……とか?」俺。
「警戒はしておるじゃろうが、逃げてはいないようじゃぞ」ルイ王。
「なぜわかる?」
「逃げたと為れば、それは村の解放じゃろう?」
「そうなれば、村人も外に出て来るじゃろうからの」
「成る程、静か過ぎるからか」
頷いたルイ王。
「でも、どうするの?」マリーが。
「村人も……学生も、人質の様なモノよ」
「戦争なのじゃぞ」
「人質なぞ、意味を持たん」
「突撃するのか?」頭目だ。
それに頷くルイ王。
「駄目よ」
「学生達が巻き添えに……」必死に訴えるマリー。
「俺も、あまり気が進まない」
マリーを庇った訳じゃない。
「魔法陣は無傷の方が良いのだろう?」
それも、本当はどうでも良いのだが……。
「フム、確かに魔法陣はそのまま手に入れたい」大きく頷いたルイ王。
「なら、小数でも、村に潜り込むか?」俺。
「中からと、外からか?」頭目。
「私が使ったトンネルなら、女子校に繋がっているわ」
「途中、魔法陣の所にも」
「フム、では前回の様にサルギンに幻想空間で水増しした盗賊共が外から派手にで、お主らは中から攻めよ」
「ルイ王は?」
「わしは外からじゃ」笑った。
「突撃部隊は楽しいからのう」
殲滅部隊では無いのか?
と、ルイ王の顔を見た。
とても悪い顔に見えたのは……気のせいか?