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闘将ルイ王


 俺達の強制労働は終わりに近付いていた。

 もう、トンネルの貫通が間近だ。


 そして、俺の体力も随分と上がり。

 今では、夕方の配給にも並べるし、売店で煙草も買える……売っててよかった、この一服が唯一の楽しみだ。


 だが、それでもキツイし、逃げ出したい。

 

 骸骨の言う、良い考えとは何なのだろうか……。

 下らなかったら、滅してやろう。

 ネクロマンサーを舐めるなよ……。


 そして、今日も土の山の荷車を引く。

 ムラサメ達の凄さを痛感しつつに。



 その日の夜。

 骸骨ことルイ王が部屋の皆を集めた。


 「このままいけば、明日の昼過ぎには開通するじゃろう」

 そう言い、ぐるりと其々の顔を見る。

 「その時にじゃが、出来るだけ開通の瞬間を見れる場所におれ」

 

 皆が頷く。


 俺も頷いた……が、意味がわからん。

 しかし、その口振りから、これで逃げられると推測出来た。

 それは、決して希望的観測などでは無い。

 断じて無い。

 絶対だ。

 ……。

 だよね?


 

 そして、次の日。

 その開通の瞬間。

 俺は、空の荷車を引いて土竜の所へ向かっていた。

 その横をエルフ兵達が列を成して、軽やかな足取りで追い越していく。

 その数、500人程。

 結構な大部隊だ、そのまま王都迄、攻め上がるのだろう。

 裏を突かれた王都軍は大変だ。

 戦力の相当数を反対側のプレーシャに釘付けにされているのに。

 

 そのまま敗戦か……。


 側を通るエルフ兵の顔は、既に勝者の顔をしていた。

 

 

 そして、その時が来た。

 土竜の向こう側が崩れて、日の光が射し込んで来る。

 

 俺も含めて外に流れ出た。

 捕虜の皆は、真上に有る太陽が嬉しかったのだ。

 ここ何日も、ズット暗いトンネルの中で過ごしていた。

 そして、エルフ兵士達は勝利の第一歩だと我先に飛び出す。

 相変わらずに、統率とかは全くに感じられない。

 

 トンネルの向こう側……ソコは、木も草も無い、山の麓と言うよりかは、まだ山の斜面と言う感じだった。

 斜面を見下ろすと、ガレ場の様に大小の岩がゴロゴロと今にも転がって行きそうな感じで踏み留まっている。


 背後にはポッカリ開いた横穴。

 ソコから続々と出てくるエルフ兵。

 緊張の面持ちなんて微塵もないその顔。 


 エルフ兵の半分くらいは出ただろうか?

 無秩序な兵士達で人だかりが出来ていた。

 俺達、捕虜組は少し離れた場所に秩序を持って集められて居る。

 


 そして、その先頭に立つエルフ兵……一番乗りに浮かれていたその額に、突然に一本の矢が刺さり、浮かれた顔を張り付けたままで、その場に倒れ込み斜面を転がって落ちて行った。


 ソレを合図の様にして、穴の上の斜面から爆弾が幾つも転がって来る。

 この人数では狭すぎるトンネルの入り口に入り切らない、溢れて逃げ場も隠れる所も無いエルフ兵が次々と、爆発に巻き込まれて倒れていく。

 一瞬にして恐怖が張り付くその顔で次々と死んでいった。


 そして、その恐怖に追い討ちを掛けにロンバルディア兵がソコへなだれ込んできた。

 続々と現れるロンバルディア兵……一体何人居るんだ?


 完全なパニックのなか。

 「待ち伏せか!」と、思わず叫ぶ。

 その瞬間、俺はトラックの横に飛ばされていた。

 

 見れば、ムラクモが舌で次は大臣だと、引き寄せて居る。

 

 その場所から見ると。

 エルフ兵達は斜面の下。

 そのもっと下にはロンバルディア兵の大軍。


 「良くもこれだけの兵を……」引き寄せられてすぐの大臣も感嘆の声。

 ここからは、辺りが良く見渡せたのだ。


 「50人も居ないわよ」と、トラックの影から出て来たマリー。


 「いや、千人は居るように見えるが」指を指しながらの大臣。


 「見えるだけ」

 「サルギンの幻想空間よ」

 「この兵士達は全員、盗賊ゾンビ達だもの」

 

 

 

 あの日の夜。

 ルイ王の指示で、二手に別れたジュリアとコツメ。


 ジュリアはゼクスとピーちゃんとでマリーの救出班。

 コツメ達残り組は、トラックで山の反対側、開通の予測地点に移動。

 その時に盗賊ゾンビ達を呼び寄せて待ち伏せの準備。


 マリーの置かれて居た状況はカラスの偵察でわかっていたので、本来はこの待ち伏せの後に救出の筈だった。

 が、思いの外、簡単にマリーを助けられそうだったのでジュリアとゼクスで決行したのだそうだ。

 

 

 「骸骨が言った、奴等の弱点」右往左往するエルフ兵を見下ろしながらマリーが呟く。

 「ジュリアから聞かせられた時は半信半疑だったけど、本当だったみたいね」


 「弱点?」


 「エルフは繋がっておる、1人が見たモノ、経験したモノは例えソレが勘違いでも、間違いであっても……その全てが奴等の真実になる、じゃ」と、似てない声真似をしたマリー。

 「って、ジュリアがやってたのよ」骸骨の声真似をしたジュリアの声真似だったのか?

 

 そんなのどっちだって良いのだが。

 

 「成る程」しかし、その骸骨の言った弱点は納得がいく。

 1人がパニックを起こせばエルフ全員が、か。

 それは、恐怖もだろうし、冷静さを失う時もだろう。

 そして、その状態のエルフは弱い。

 立て直す為の指揮官もまたエルフだから、同じようにパニックだ。


 そして、その弱点を寄り大きくするために、待ち伏せと言う仕掛けをしたのかと、考えれば考える程に感心させられた。


 そのルイ王、敵の剣を奪い、高笑いをしながらに、逃げ惑うエルフ兵を背中から斬り付けている。

 頭目も、警備隊の連中も、敵から奪った剣やら槍やらで殲滅戦に加わっていた。

 

 「このまま穴の中に押し込むぞ」ルイ王が気勢を上げている。

 「数で押せ!」


 「ああは言っているけど」マリーが冷静に。

 「早くトンネルの中に入らないと、こっちが危ないのよ」

 「本当は、敵の方が何倍も多いから」

 「広い場所で反撃されたら、一巻の終わり」


 「人数差の関係しにくい狭いトンネル中で……か」俺の呟き。


 「そう言う事」その呟きに答えるマリー。

 「それに、こっちはゾンビ兵だから攻め疲れなんて起こさないから、尚の事ね」


 「でも、こっちにはロリスも居るぞ」

 「人数差は無くなるのじゃ無いのか?」


 「ロリスはまだ、駄目よ」

 「こんな所でエルフに知られたく無いわ」

 「骸骨が、ロリス無しでも勝てるって言うんだから、温存よ」


 「土竜は?」大臣が。

 「あれは……強そうに見えたが」


 「ムラクモとシグレとセオドアが透明化して相手している筈よ」

 「もう既に倒しているんじゃない?」

 「どのみち、土竜もパニックよ」

 「エルフと奴隷印で繋がって居るのだし」

 「あら、奴隷印じゃ無くてエルフ印だったかしら」そう言いながら笑ったマリー。


 「ふむ、成る程」と、俺も下に降りようと歩き出す。


 「どこ行くの?」そんなの俺の腕を取り。


 「いや、俺も仕事をしようかと」


 「エルフを死者召喚はしちゃ駄目よ」


 「何で?」


 「貴方もエルフと繋がるわよ」

 「それ以前に、あんたにはエルフ達の意識を制御出来ないわ」

 キッと俺を睨み。

 「呑まれるわよ」


 「じゃ……戦死した捕虜が居れば、ソイツ等を……」


 「それも駄目よ」

 「戦争中は……兵士は特に駄目」


 マリーの顔を見た俺。


 「戦争後遺症って聞いたこと無い?」

 「ベトナム戦争の後のアメリカ兵の精神疾患よ」

 「戦争ストレス反応」


 「……PTSDか」聞いた覚えがある。


 「そうね、そう言うのでしょうね」


 マリーの時代には無かったのか?

 それとも、知れ渡る前か?

 

 「兎に角、その精神障害も貴方に影響を与えるわよ」

 「それも確実に酷い状態でね」


 「前にも、そんな事を言って居たな」

 「気にしすぎじゃ……」


 じっと俺の目を見るマリー。


 「前のネクロマンサーがそうだったのよ」

 「骸骨を最初に死者召喚した者」

 「何も考えずに、死んだ兵士達を死者召喚していたの」

 「私が初めて会ったときにはもう、気が狂っていたわ」

 「そして、魔王として時と空間の勇者に討伐されたのよ」


 「あの、河津とか言うヤツにか?」


 「まだ、その時はマトモだったのよ」

 「今は、おかしく成っているけど……まるで、あの時の魂の勇者のように……」


 「詰まりは……俺も、今の河津の様に成る……と、言う事か?」


 頷いたマリー。

 今でも、十分に危ういのにと言いたげな眼だ。

 

 「わかった」頷いて返す。

 「土竜……一匹で我慢しとくよ」

 「あれなら大丈夫だろう?」

 「死んでしまえば、奴隷印も消えて普通の魔物だろう?」


 「……」

 「そうね……大丈夫だと思う」


 心配してくれているのだろう。

 そんなマリーに微笑んでやった。


 だが……俺は……。

 俺の存在価値は?

 ネクロマンサーとしての意味は?

 

 戦う事も出来ない俺は……傍観者としてココに居るしか無いのか……。


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