マリーの捕虜生活の始まり
トンネル工事は、結構どころかめちゃくちゃにハードだった。
夕方前には終わったのだが、朝から延々に土の排出作業、重い荷車を引きっぱなし。
スキルが有っても足が潰れるかと思うぐらいに痛く成る。
途中、余りのしんどさに大臣を心配したのだが……やはり、ゾンビだ息1つ切らしていない。
唯一俺だけが、生きた人間……自分の命を初めて呪ってしまった。
小屋に戻り。
汗だくのままに横になり、脚を揉む。
そんな俺に。
「すぐに、慣れますよ」隊長が気遣ってくれる。
こんなの……慣れたくない……。
「あの土竜……容赦ないな」吊りそうな足の親指を引っ張りながら。
「掘るだけの魔物ですからね」
思い出しただけでゾッとする。
前足で土を横に掻きながら、後ろ足でその土を送る。
それをリズミカルに……永遠と。
奴の背後には掘られた土の山。
それをとにかく片付ける。
途中、岩か岩盤に当たった時は、これで休めると思ったのだが……。
あの化け物、口から超音波なのか光線なのか良くわからないが、とにかく魔法なのだろうを出して、それを砕いて進む……止まること無く、減速もせずに。
ついでに俺の心まで砕きやがった。
「早く逃げよう」
「それなのじゃがな」ルイ王が俺に。
「何か、良い方法を見付けたか?」勢い込んで前に出た。
「ウム、見付けた」頷いた。
「どうするんだ?」
「何もせん」
「このままここに居よう」
「え!」
「逃げないのか?」
「今……見付けたって……」
「そうじゃな」
「今、こやつと話しておったのじゃが」頭目を差し。
「ちょいと良い考えが浮かんでのう」
「どんな……」逃げないのなら意味は無いと、明らかに沈んだ声で。
「うーん」
「まあ、おいおいわかるじゃろう」
「その時まで、楽しみに待っておれ」笑った。
「その話を聞かされた時は、流石の伝説の闘将ルイ王だと改めて感心させられた」大きく頷いた頭目。
「だから何を……」頭目を見たのだが。
俺の話等、聞いちゃいない……目もくれない。
ただただ、頷いて感心していた。
「もういい……レイモンドにトンネルの件を記事にしてもらおう」と、ミニマムカラスを出したらば。
慌てたルイ王と頭目に、止められた。
そんな二人に、良くわからないが納得は出来んと一睨みして……ふて寝する事にした。
毛布を被ると。
すぐに、グッスリと寝てしまった。
夢も見ない。
気絶と言っても誰も異議を唱えないだろう勢いで。
そして、翌朝……また仕事が始まった。
嫌な1日の始まりだ。
夕方頃には、泥と汗にまみれたヘロヘロの俺。
這う様に小屋に戻った。
そんな俺に、配給の飯を運んでくれた隊長に目頭が熱くなる。
それに引き換え……と、ルイ王達を見る。
大臣も加わって三人で楽しげに何やら話している。
キッと、睨んで毛布を被る。
気絶だ。
翌朝。
ヘロヘロのままに仕事。
帰って来て倒れる。
そんな毎日。
ここ数日。
しかし、その日の晩は少し違った。
三人が俺の側に寄り、朗報だと告げてくる。
マリーが脱出に成功したらしい。
その話を聞くに。
あの日、俺と別れたマリー。
それから、半日程に馬車に揺られて着いた先が小さな村の学校だった。
道中、一人で暇なマリー、ただただ馬車の車窓を眺めていた。
延々と続く荒野。
その車窓の縁にミカンを置いて、お茶をすする。
「ねえ、何処までいくの?」窓から御者のエルフに声を掛ける。
しかし、返事はない。
「何時になったら着くの?」
やはり、返事はない。
「……」外を見る。
景色はやはり荒野のまま。
「ねえってば」
「退屈なの!」
「暇なの!」
窓から半身を乗り出して。
それでも黙ったままの御者にミカンの皮を投げつけた。
「いいわよ!」
「寝るから、着いたら起こして!」
馬車の椅子の背もたれに深く沈んで寝た振りをした。
が、本当に寝てしまった。
マリーが目が覚めたのは、馬車の椅子の上ではなく、何処かの部屋のベッドの上だった。
そのベッド、木製の二段ベッドで向かいの壁にも同じモノが見える。
合計、4つのベッド。
詰まりは四人部屋。
寝惚けた頭でそんな事を考えていると……ふと、思い出す。
「起こしてって言ったのに!」
ベッドから飛び降りてジタンダを踏んで叫び出す。
「なに?」
「どおしたの?」
聞き覚えの無い女の子、二人の声。
マリーが起こしてしまった二人がベッドから出てきた。
「あんた達……誰?」
「ああ、そうね……ずっと寝てたものね」
「私は、ジェニファー」少し背の高い方の娘が自己紹介。
「ここ、魔法学校の三年生の12才よ」
マリーにお辞儀をした、それも、寝巻きの裾を掴んでのヤツ。
マンガかアニメに出てきそうなお姫様がやるヤツだ。
それに面食らったマリー、言葉に詰まる。
その、可愛い顔の少女はお姫様を演じて。
髪の長いしっかりした感じのお姉さんをも演じている。
その少女に持っていかれた意識を無理矢理に自分に戻すまりー。
この子コツメよりも年下なのに……って、比べちゃ駄目ね、あの娘が馬鹿すぎるだけだから。
「で、そっちの娘がエマ」
頷いた、もう一人の娘。
ショートヘアの可愛らしい感じ。
「二年生の11才よ」
「で、あなたは?」
「私はマリーよ」
「錬金術師のマリー」
この名前聞いたことが有るはずよとばかりに胸を張る。
さっきの私みたいに驚きなさいと、ばかりに……。
「そう、マリーちゃんね」
「もう、遅いからお話は明日にして寝ましょうね」
と、そんなマリーを見事にスカシてベッドに戻る二人。
胸を張ったマリーはそのまま海老反りになり、転けそうに成る。
なによ! 私を知らないの?
しかし、二人の寝息が聞こえ出す。
交互にその二人を覗き見る、平和そうな寝顔。
ため息と共に、私も……寝よう。
と、ベッドに戻った。
翌朝、起こされたマリー。
まだ眠い瞼を擦りながらにベッドから這い出した。
「マリーちゃん、これに着替えて」と、服を渡される。
「あなたの制服よ」
見れば、二人も制服に着替えていた。
その制服……ヒラヒラだった。
黒いワンピースに白いレースの飾りの付いたエプロン……。
……。
メイド服じゃなの!
ジッと渡されたモノを見る。
これを……私が着るの?
そんなマリーを見ていた二人。
着方がわからないと、勘違いしたのかよってたかってマリーの着替えを手伝い出した。
服を剥ぎ取られたマリー。
スッパだったそのマリーを見て……。
「パンツは?」エマが当然の疑問。
だが、ジェニファーは冷静だった。
「宗教か何かかしらね?」
「へー……パンツを履いちゃ駄目なんて、そんなのあるんだ」納得のエマ。
「駄目よ、差別になっちゃうから……そう言いのも有るって事で良いのよ」
違うわよ! 真っ赤に為ったマリーが下を向く。
その隙に見事に着せ変えられたマリー。
「転ばない様にしないとね」と、エマに言われて、部屋を出される。
「先ずは校長先生の所に案内してあげる」ジェニファーが手を引き、強引に引っ張る。
廊下を歩く三人。
窓ガラスに自分達の姿が映っている。
それを見たマリー……うわあ……自分に引いてしまった。
そして、気付く。
ジェニファーの胸元には赤いリボンが巻かれている。
エマには青いリボン。
自分には、それがない。
「私のリボンは?」思わず呟いた。
「リボンは学年で色が変わるの」
「あなたはまだ、クラスが決まってないから、それを校長先生に決めて貰ってリボンはそれからね」エマが教えてくれた。
「そう……なんだ」良くわからないので声も張りが無い。
「大丈夫よ、マリーちゃんはちっちゃいから黄色だと思うわ」
「一年生の色よ」優しい声のジェニファー。
ふーん……黄色かぁ……。
……。
って、ちがーう!
なんで私が入学なの?
私は捕まったのよ!
捕虜よー!
なんで学校なのよー!
キッと、ジェニファーを睨んで、違う、と言い掛けたのだが。
丁度その時、他の生徒とすれ違う。
「おはよう」
「ご機嫌よう」
そんな挨拶をされたマリー。
まごついて固まってしまった。
「アワアワ……」




