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捕虜収容所


 「さて、君らは捕虜なのじゃが」長老王が俺達に話し出す。

 「最低限の生活は保証しよう」

 「少ないが……自由も有る」


 「それを得る為には何をしなければならん?」ルイ王が聞いた。

 「それらを無償で提供する積もりなど無いのじゃろう?」


 「ふむ」頷いた長老王。

 「道路整備と植林を御願いしたい」


 「御願い……なのか?」頭目が小声で呟いた。


 「御願いと言う名の強制労働じゃ」笑ったルイ王。


 「君らは……捕虜じゃからな」さも当然と頷いた。


 「奴隷か……」俺の言葉も口に出た。


 「確かに」頷くルイ王。

 「捕虜と言う名の奴隷じゃ」

 長老王に笑いながら。

 「ワシ等に奴隷印は打たんで良いのか?」


 「それを打てば……ヴェネトの情報が筒抜けじゃ」長老王も笑って返す、が……目の奥は笑って居なかった。


 「ふむ、逆らうかも知れんぞ?」


 「それも、与える自由のうちじゃ」

 「無論、その時は容赦はせんがな」

 話はソコで終わった。

 ここまで、1度も本気で笑わなかった長老王。

 最後は手振りだけで俺達を追い出した。

 

 

 長老王の居た建物を出された俺達は、エルフの兵士達に囲まれながら、小さな小屋に連れてこられた。

 その道中、少しの説明があった。


 決まり事。

 

 「小屋は相部屋だ、先住者とはうまくやれ」


 「喧嘩も含めて騒ぎを起こすな……独房行きだ」


 「飯は1日2度……配給だ。広場に集まれと指を差す」

 先程の馬車を降りた所の様だ。


 「風呂は3日に1度……順番だ」

 何も説明が無いのは、先住者に聞けと言うことか。


 「欲しいモノは売店で買え……そこに売っているモノは買える」

 品揃えは悪そうだ。煙草が有れば嬉しいのだが。


 「労働の後で給料も出る」

 微々たるものだろう、小遣い程度か?


 「他に何か有れば、扉の外の兵士に言え」

 

 最後に……。

 「逆らうな」

 「脱走等も考えるな」

 そう言い、自身の背中の弓を差した。

 躊躇無く撃ち殺す……と言う事なのだろう。


 「仕事は明日からだ」

 そう言いって俺達を小屋に入れた。

 


 中には、確かに先住者が居た。

 6人程だ。

 新入りの俺達を全員が値踏みする。

 その中の一人が声を掛けてきた。

 

 「何処で捕まった?」多分、この小屋のリーダーだろう。


 「ロマーニャだ」それに、俺が答えた。


 「ロマーニャ?」

 「戦争捕虜じゃ無いのか?」


 「ロマーニャとヴェネトは同盟関係だ」

 「それを知らずにロマーニャに入った」


 「それは……俺も知らなかったな」首をひねったリーダー。


 「お前達は何処で?」大臣が聞いた。


 「プレーシャだ」

 「俺はプレーシャ警備隊長だ」

 「お前達の所属は?」


 「私はロンバルディアの大臣だ」

 「ロマーニャには政治交渉の積もりで行ったのだが、この有り様だ」


 その発言に皆がざわついた。

 「大臣……?」


 「本物の……か?」隊長。


 「私の名はマルクス・ブルータス」

 「ロンバルディアの大臣だ」


 リーダーの横に居た男が聞く。

 「見た事が有るか?」と、小声で。


 聞かれたリーダー。

 「いや、1度だけ……遠目で見た」

 「王の息子の誕生式典の時に……」

 「王の隣に居た二人の大臣の、そのうちの一人か?」

 首を降りながら。

 「顔まではわからん」


 「王子は既に……」大臣も、その時を思い出したのだろう。

 少し悲しい目で。


 「証拠は……示せるか?」


 「モノは無い」

 「説明は出来るが……お前達とは接点が無さすぎて、わからんだろう」

 

 「まあ、良いでは無いか」笑いながらのルイ王。

 「今はどちらも、ただの捕虜だ」


 「ああ……そうだな」そう答えながらも、隊長はそれでも気には成るようだ。

 それはそうか、はるか上の上司なのだから。

 もしかしたらが……恐いのだろう。


 「ところで、1つ聞いていいか?」俺は、その隊長に。

 「脱走は、出来そうか?」


 「何をいきなり」辺りを伺う隊長。


 「大丈夫だ、この質問は普通の新入りなら必ず聞くだろうから、聞かれても気にもしないだろう」と、入り口の扉を差した。


 頷いた隊長。

 だが、すぐに首を振る。


 そうか、今のままじゃ無理か。

 やはり、外からの助けが必要な様だ。

 俺も、頷いて返してやった。

 しかし、俺の意図は理解したようだ。

 ジッと俺を見ている。


 俺は、その隊長の所に近付き。

 小声で。

 「脱走は……捕虜に為った者の義務だ」

 「上手く逃げられなくても、それだけで奴等の手間と人員の内の少しでもを、最前線から遠ざけられる」


 小さく頷いた隊長。


 「上手く逃げられたら、今度は捜索に兵士を間引ける」

 

 大きく頷く隊長。


 「作戦を練る前に状況把握だ」

 「色々と教えてくれ」


 もう一度頷いた隊長。



 その日の夜。

 俺はジュリア達と連絡を取った。

 先ずは、マリーの救出を優先してくれと。


 そのマリー、件の魔法学校に連れて行かれたらしい。

 プレーシャで拐われた生徒達の学校だ。

 戦争が始まってすぐに村ごと占領されたらしい。

 完全包囲の為に情報が遮断されて居たようだ。

 生徒達も災難だ、誘拐のすぐ後に捕虜だなんて。


 で、その村の南のロマーニャの国境に近い場所がここだそうだ。

 距離にして馬車で半日なので、それなりに近い距離だ。


 ついでだからと、新聞屋のレイモンドにも教えてやった。

 寄宿学校の村の事と、大臣の捕虜の事をそのまま書けと。

 明日はロンバルディアとヴェネトで、大騒ぎだ。

 ついでにロマーニャもか。

 

 ロンバルディアは、初めての占領に。

 ヴェネトは情報が漏れた事に。

 ロマーニャは同盟相手に大臣を売った事に。


  

 翌朝、俺達は叩き起こされた。

 仕事だそうだ。


 顔も洗う暇もなく、荷車に押し込められる。

 幾つも有る小屋から数人が出されて、それらも荷車に。

 それぞれの小屋が、グループとしての単位らしい、次々と乗せられ出発していく。

 

 俺達の荷車も動き出す。

 行き先は、途中で別れて三方向に進む、仕事の内容も変わるのだろう。

 

 着いた先には既に何台かの荷馬車が有った、捕虜達は降りた後のようだ。

 俺達も下ろされる。

 ソコは竜の住み処のたもと、崖の下。

 そこに大きな穴が掘られている。

 塹壕か? とも思ったが、こんな場所に掘った所で意味も無いだろう。

 それに道路整備……工事の方だろうが、と言って居たので、これはおそらくトンネルだろう。


 こんな所で、トンネル。

 それに意味を持たせるなら、山脈を貫いてロンバルディアに裏から攻める積もりか?


 隊長に尋ねる。

 「何時から堀初めた?」


 「自分達が捕まったのが、戦争が始まってすぐなのだが……その時には既に掘っていた」トンネルの中へと進みながら。


 「何処まで掘った?」


 「もうすぐ……貫通だ」チラチラと後ろのエルフを確認しながら。


 別に私語で咎められる様子もない。

 その辺りはエルフの事だ、私語での情報交換の、そのモノを理解していないのかも知れない。

 彼らには、それは必要無いことだし。

 経験も無いことだろう。

 全ては、意識共有で済むのだから。


 「山脈を貫通?」頭目が刷っとん虚な声を出す。


 「別におかしくは無いだろう、地下都市を造る国なのだから」

 薄暗いトンネルの中、明かりは壁に貼り付けられたランプだけ。


 「いや、しかし山だぞ」

 「それも人が越えられない程の山脈だ」


 「だから……下をクグルのだろう」

 すれ違う捕虜が土の山を乗せた小さな荷車を引いている。

 これがここでの仕事なのだろう。

 結構な重労働に成りそうだ。


 「どれ程の距離だ?」

 「真っ直ぐでも、馬車で何日も掛かるかも知れんのに」やはり信じられんと首を振る。


 「エルフの土木工事は」隊長が。

 「魔物を使うのです」

 

 「魔物?」


 「そうです」

 「魔物を自分達で繁殖させて、奴隷化して仕事をさせるのです」

 と、そう言ってトンネルの奥を指差した。


 ソコに巨大な毛むくじゃらが見えた。

 魔物の尻?


 近付き。

 暗闇を目を凝らし、覗き見る。


 デカイ土竜だ。

 サイズは違うが、俺達の世界の土竜……そのままだった。

 

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