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捕縛


 大臣達が入った部屋。

 その一つしか無いテーブルを挟んで一人のパピルサグ人が座っていた。

 その右側に近衛兵が一人立つ。

 左側にはもう一つの部屋か? に続く扉。

 その部屋には兵士達が待機しているのかも知れないが。

 今、俺の居るすぐ外の部屋にも大量の兵士。

 コレが全て敵に為れば、瞬殺か? 思わず笑ってしまった。


 椅子のパピルサグ人、座ったそのままで。

 「ようこそロマーニャへ」

 初老のガッシリとした肩幅の男。

 笑顔……ではない。


 「私はロンバルディアで大臣を務めさせて貰って居るマルクス・ブルータスと申す者、この度はロマーニャ国にお願いを聞いて頂きたくて参りました」

 「是非に元首殿にお目通りを御願いしたい」

 大臣達には椅子は無い、立ったままだ。


 「……」じっと大臣を見つめる男、自己紹介も無い。

 「何をしたくてこの国に来たのかは……察しが着いている」

 

 「では……」

 大臣が続けようとする言葉を遮り。

 

 「無理だ」にべも無くに言い切った。


 「いや、しかし……まだ何も……」と、いい掛けた大臣をルイ王が止めた。


 「引き揚げた方が良さそうじゃ」


 「そちらは?」ルイ王を見ながら。


 「大臣の補佐をさせて頂いている者です」頭を下げるルイ王。


 「成る程、見た目以上の経験をお持ちの様だ」頷き。

 「貴方の考える通りだ」と、初めて表情を崩した。嫌な笑みだが。


 それを聞いた大臣がルイ王を見る。


 「この国はエルフと繋がっておる」大臣に諭す様に。


 「失敬だな」声は怒ってはいない。

 「同盟と言ってくれたまえ」


 大臣が、副将軍で有ろうパピルサグ人を見た。


 「この国でエルフが特別扱いの、その理由じゃろう」


 「今のヴェネトに逆らう国はロンバルディアくらいだ」

 「未だに自国を強国と信じているとは、大した自信だな」

 

 「我が国は長らく鎖国同然じゃったからのう」頷き。

 「井の中の蛙……ではなく井の中のロンバルディアじゃからな」


 「自国を良く見ておいでになる」初めて、普通に笑った。

 「貴方が、大臣よりも下なのが不思議だ」


 「初対面でソコまで買い被られるのも不思議じゃがのう」ルイ王も笑った。

 「で、ワシ等に仕事は有るのか?」


 また笑った副将軍。

 「それもない」


 「となれば……捕虜か死か、どちらだ?」


 その言葉にギョッと目を剥く大臣。


 「どちらかと言われれば……捕虜の方か」


 「ふむ、その言い回しだと」

 「ヴェネトに引き渡されるのか」


 今、わかった。

 先程のルイ王が言った、仕事が有るかとは、ロンバルディアに帰って王に今の事態を伝える……詰まりはこの国とも戦争だとの報告が必要かと聞いたのだ。

 しかし、それをしなくても良いと言う事は、まだ暫くの猶予も有ると言う事だ。

 国としてはだが。

 俺達は待った無しの捕虜に為るわけだ。


 さて、どおする?

 逃げるかな?

 逃げられそうも無いがと、辺りを見渡す。

 兵士だらけだ。


 ――大人しく捕まれ――

 ルイ王からの念話が来た。

 ――暴れても痛い思いをするだけじゃ――

 

 俺は、マリーを見た。

 マリーも俺を見た。

 お互いに肩を竦めて……諦めた。



 俺と大臣と頭目とルイ王、そしてマリーが馬車に押し込められて町を出る。

 あの後、俺達は普通に兵士に取り囲まれて捕虜に為った。

 が、抵抗しなかったのが良かったのか、縛られる事もなくただ馬車に入れられた。

 馬車の中だけだが自由もくれた。

 もちろん装備は剥ぎ取られたのだが。

 その時、俺だけが裸に剥かれた……丸腰だと言ったのだが、信じて貰えなかったのだ。

 そんなに丸腰が珍しいのか?

 最後、パンツの中まで覗かれた時はゾッとしてしまった。

 あのパピルサグ人の男は、絶対にその気が有る!

 俺の直感……大事な所がそうだと反応していた。

 まあ、有り体に……幼稚園児サイズに縮こまって居たのだ。

 それを、パピルサグの男はジッと見て……ニヤリと笑った。



 さて、事の次第は小さく為ったカラスを通じてジュリア達には伝えてある。

 行き先変更……新たな目的地はヴェネトだと。

 暫くは、大人しく、バレ無い様に着いて来いと。


 そして、その返信が……タウリエルがまた居なくなったときた。


 「迷子……好きね」マリーが笑う。


 「良いんじゃないか?」

 「ややこしい事に成りそうだから、そのまま迷子でも」


 そんなバカ話をしていると。

 一人青い顔の大臣が。

 「何とか……逃げられんだろうか?」と、頭を寄せて小声で。


 チラリと外を見た頭目が。

 「警備を見る限りでは、戦っても勝てるが?」と、俺を見る。


 俺は、若干に驚いてルイ王を見る。

 この二人、わかっていない。


 「折角の招待なのじゃから、受けようではないか」と、ルイ王。


 「今逃げたら、貰った猶予が無くなるぞ」と、説明しないルイ王に変わって。

 「猶予はそのまま戦争のだ……もしかすると、ロマーニャは戦争をする気は無いかも知れないのに」


 「そうよ、逃げたら」マリーも重て。

 「即戦争よ」

 「ヴェネトとロマーニャとに挟まれての戦争」 


 ウッと声を詰まらせた二人。


 「逃げたいなら、ヴェネトに引き渡された後じゃ」

 

 「そうね、そこでなら逃げてもロマーニャの責任では無いものね」


 

 俺達の、捕虜護送と言う旅は続いた。

 馬車なのでやたらにゆっくり走る旅。

 その間、トイレ以外は外に出れないが、それでも飯は旨いし、飲み物も飲み放題で待遇も悪くない。

 一応は大臣の肩書きが効いているのだろう。

 ムチャな事はされない様だ。

 あくまでもロマーニャは、だろうが。


 

 10日ほどたった頃。

 馬車は目的地に着いた様だ。

 マリーを残して男だけが降ろされた。

 その場所は、竜の住み処の直ぐ袂、ヴェネト側だ。

 ロマーニャから南を回り裏に出た感じだ。

 そして、ソコはまだ荒野だった。

 何も無い所に、いきなりの柵で囲われた木造の小屋が連なるその場所。

 そのままに、捕虜収容所か? の雰囲気。

 強烈な陽射しに、ただ立っているだけで目眩がしそうになるそんな所。

 

 すぐにマリーだけを乗せた馬車は直ぐに出発し、俺達はそれを見送った。


 「収容所は、男女別々の様だな」頭目が辺りを見ながら。


 確かに、幾人か見える人影は全てが男だけだった。

 そして、その幾人かはエルフとそれ以外に別れている。

 エルフが監視側で残りが捕虜? もしくは犯罪者か?


 「まあ、しかしマリーは見た目子供だから女性用の収容施設では無いかもね」

 何処に連れて行かれるのかは、カラスに追わせよう。

 俺の服のフードに蜂達と一緒に隠れて居るカラスのボスに指示を出す。

 

 直ぐに何処からか飛んで来た別のカラスが、俺達の真上で一鳴きして馬車を追う。

 マリーとの連絡事態は、カラスの雛を連れているので何時でも着くだろう。


 と、その場で暫く待たされた俺達。

 もちろんエルフの監視付きでだが。


 

 汗が顎を伝って爪先に落ち初めた頃、やっと移動だと呼ばれる。

 行き先は、柵の真ん中に立つ少し小綺麗な建物。

 呼びに来たエルフも監視役のエルフ数人も、背中に弓を掛けて手には槍を持っている。

 今、走って逃げても弓で撃たれるのは必至の様だ。


 そのまま、中へと連れて行かれた、その先は少し広い部屋。

 広いと言っても小学校の教室サイズだが。

 その奥に、教卓ではなく普通に机が有り此方を向いて一人の老人が座っていた。

 置いて有る家具らしきモノはそれだけ。

 俺達は何も無い真ん中で横に並ばされて、その机の老人と対峙する。

 無論、背中には兵士の気配はしっかりと感じていた。


 「また会ったの」その老人が、俺の方を見て。

 「前回は客人だったが……今回は捕虜としてか」


 俺にとっては初対面の爺さんだが……エルフだ、この老人も長老王なのだろう。

 

 「先だっては、助けて頂いて」その長老王を見ながら。

 「感謝しています」


 頷いたエルフ王。

 

 「またお会い出来ましたが……このような形でとは」

 「不思議な縁も有りますね」

 長老王の目を見た。

 だが、俺の言葉に何も反応しない。

 

 あの時はあの時……今は今、なのだろう。

 

 俺は、長老王の言葉を待つ様に口を閉じる事にした。


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