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黒いオーケストラ


 暫く、その辺りをウロ付いていたらば。

 水の枯れた噴水が見えてきた。

 中央広場だ、やはり造りはロンバルディア風なのだろう。

 その、水の出ていない噴水の縁に座って。

 パンを朝食がわりに食べる。

 旅の者の行動としても、違和感は無いだろう。

 

 その時、頭目からカラスを通じて連絡が入った。


 何か動きでもあったのか? と、聞き入ると。

 どうも、大臣に化けた骸骨が連絡してきたらしい。

 蚊のサイズに為って潜んでいる蜂を通じて、その場の黒ずくめの男達の会話を流している様だ。


 「で……ワシを拐ってどうする?」大臣に成りきっての質問だろう。

 「国に金をせびるのか?」

 「それとも、誰かに頼まれての報酬目当てか?」


 「金では無い」この声は……昨夜の襲撃の時に、最初に声を発した黒ずくめか?

 「我々には支援者が居る」


 「では、命か?」


 「そうなら、とっくに殺している」

 「我々が欲しい命は一つだ」

 「国王、一人だけだ」


 「革命家か……」言葉を選んだ様だ。

 大臣から見ればテロリストだろう、俺達からはレジスタンスと言ったところか。


 「我々は……黒いオーケストラだ」


 俺は、本物も方、トラックに逃げ込んでいる大臣に連絡を取った。

 「その黒いオーケストラと言うのは知っているか?」


 「数年程前から、秘密警察に追わせているテロリストグループの一つだ」


 秘密警察ときたか……詰まりはコイツらは政治犯と言うわけだ。

 その秘密警察に名前等は在るのだろうか……いや、それは聞かないでおこう。

 そして、その大臣の口振りから察するに、それを指揮しているのが大臣なのだろう。

 盗賊ギルドと秘密警察を其々に使い分けて、その上に独自の経済論も持ち合わせている。

 この大臣……とんだ食わせ者か?

 

 「して、その革命家殿が、ワシになにようじゃ?」骸骨が。

 

 「……」

 少しだけ考えて。

 「我々の同士に成らないか?」


 「勧誘か?」声がひっくり返った骸骨。


 「貴方は……指導者としての資質は高いと聞く」

 「それに……聡明だとも」

 「なら、今の王国はおかしいと、気付いて居るはずだ」


 コイツらは……大臣が秘密警察を使って自分達を追い詰めている事を知らないのだろうか?

 それ以前に、国のトップ3に入る人間に……レジスタンス活動の御誘いとは……。

 頭が悪すぎるだろう。

 

 「ふむ、話はわかった」頷いた骸骨。


 「では、我々と……」


 「焦るな、もう少し話を聞こうと言う事じゃ」

 

 レジスタンスの活動家が頷いた様だ。


 「でだ、具体的に聞こう」


 「暗殺計画の事か?」


 「違う……だから焦るなと言うておろう」

 「王を暗殺したあとの事じゃ」

 「直ぐに2番目の王位継承者が立つであろう?」

 「その者はどうする? もう懐柔済みか?」


 「いや……未だだ」

 

 「まさか、考えておらんかったのか?」

 「王さえ殺せれば……国が変わるとでも思っておったのか?」


 「いや、しかし……第1王位継承者は、王子は既に死んでいる」

 「その次は姫だが、まだ子供だ」

 「たとえ女王になっても……」


 「甘いのう、わかっておらんようじゃが」

 「その幼い女王は、確かに何もできんじゃろうが」

 「その側に居る大人の言いなりには成るじゃろう」

 「今の体制のままに、傀儡政権が誕生するだけじゃな」

 「なのも変わらん」

 「いや、悪化するかも知れんな」


 「……」

 「なら……その時の、大人と言うものに貴方が成れば」


 「ワシに、その傀儡政権を裏で糸を引けと言う事か?」


 頷いた。


 「お主らの革命の目的、到達点は良くわからんが……」

 「にしても、その革命が成功するのに何十年も掛かる事に成るぞ」

 「少しずつ、幼い女王の信頼を得て……」

 「焦らず、改革の意味を説いて……」

 「やっとそれからじゃ」

 「急ぎすぎては、女王に癇癪でも起こされたら終いじゃからの」


 「……」

 「それでも……今が変わるのであれば……」

 「子供達の時代が良く成るのであれば……」


 「では、良くわかった」

 「今すぐワシを解放しろ」


 「私達の指導者に?」


 「違う」

 「それをすれば、ワシは……その時期女王の側にはいれなく成るぞ」

 「自分の親を殺したレジスタンスの一味の言うことなぞ、誰が聞くものか」

 「たとえ隠れていても、その噂でも耳に入ればそこまでじゃ」

 「ワシの事は間違いとして……他所の他人として解放せよ」

 「……」

 「貴様達の事は……頭の片隅にでも置いといてやる」


 「……」


 「暫く……考えるが良い」


 そう言われた男が地下室から出ようとした時。


 「これは……独り言じゃ、誰も聞いてはせんじゃろうな」と、話を始める骸骨。

 「今の王国は倒されるべきじゃ」

 「その後の事を考えるに、出来れば……戦争ででは無くクーデター辺りが理想じゃろう」

 「そう為れば、内々に他国の干渉無しに国を変えれるかも知れんな」

 「その時の時期王と言う者にも心当たりがある」

 「その者か女王か……悩むところだがのう」

 「……」

 「その時の……次第かの?」


 これは、明らかに骸骨本人の私見だろう。

 それを、レジスタンスの男に聞かせたのだ。

 いや、それだけじゃない。

 俺と……もしかすれば、本物の大臣にもかも知れない。


 


 「さて、大臣」俺は本物の方に声を掛けた。

 「ここに黒いオーケストラが潜伏しているのはわかった」

 「どうする?」


 長い沈黙が続いた。

 大臣は考えているのだろう。

 俺の、どうする? の問に。

 だが、何時までも黙って居るわけにもいかないと、口を開いた。

 「今の話……私は聴いていない……」

 その結論は……先送りだった。

 大臣もやはりに政治家か、困った時は黙りか……先送りなのだろう。

 しかし、先送りをすると言う事は……。

 俺の意図も理解しているし、骸骨の言いたい事もわかったのだろう。

 いや、そんな事は等の昔から知っていたのかもしれない。

 ただ、自身の立場上での……見えない振りか?

 

 どちらにしても、ここへ秘密警察が踏み込んで来る事は無いのだろう。

 命拾いをしたのは、黒いオーケストラの方なのだろう。

 ……。

 このまま、骸骨を釈放すればだが。



 しかし、暫くして骸骨はトラックに戻ってきた。

 タウリエルを連れて。

 俺も頭目も、それを確認して戻る。


 「いやぁ、参ったワイ」骸骨がルイ王に戻って。

 「どうも他人の空似か何かでか、勘違いされて招かれた家で、コヤツが飯炊きをしておる」

 「ビックリじゃ」


 そのタウリエル、大臣とルイ王を交互に見ている。

 それは、不思議だろう。

 あの家の中で出会ったのは大臣の姿をした骸骨。

 今はルイ王の姿で自分の事を話している……首を捻りたくなるその気持ちは良くわかる。


 「また」俺はそのタウリエルに声を掛けた。

 「迷子に為ったのか?」


 まだ、交互に見て悩んでいる様だ。


 「迷ったら」

 「わけがわからなく為ったら」

 「取り敢えず足元を見て、そして、グルリと一周してみろ」

 「その時の見えたものの中に何かヒントが有る筈だ」

 「わけがわからないモノは、わからないんだから考える必要も無い」

 「今、見ているモノから答えを探せ」


 それを聞いたタウリエル。

 その事をやってみた様だ。

 下を見て、辺りを見渡した。


 それに笑って。

 「今、やらんで良い」

 「迷子に為った時にだ」


 あ! と、いう顔をして。

 そして、頷いた。

 大臣とルイ王の事も勘違いとしたようだ。



 「さて、どうするのじゃ?」ルイ王が俺に聞く。

 

 その意味は、幾つも考えられたが……。

 「次の町に行こうか」

 「十分に観光も出来たしな」と、コツメに貰ったパンの残りを骸骨にくれてやった。


 そのパンを齧りながら。

 ふむ、上手く誤魔化しおってと、顔が笑って居た。

 それに釣られてか、その場の皆も笑う。


 一人、大臣だけは強張った笑いだったが。


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