初めてのダンジョン
少女は、幌車の中で、泣き続けていた。
――コツメちゃん……いい加減に諦めて、泣き止みなさい――カエル♀である。
「だって、本当に奴隷にするなんて……グス」
何度も同じ事を言っている。
そして、ずっと泣き続けている。
その合間、合間にカエル♀が名前を聞き出した、年齢も……14で忍者だそうだ。
家は、まだ聞き出せていない。
――ほら、これでも食べて泣き止んで―― ミカンを指し出す。
あの後、気絶したコツメに奴隷印を射って、幌車に放り込んだのだが。
本人の希望だから、そうしたのに。
いつまでもグチグチ言っている。
「諦めろ……奴隷印の解除の仕方は……ワカラン」
実際、頭に浮かんで来ないのだから、仕方ない。
何かしらの方法は有るんだろうけど、ワカラン。
ビヤー。
「あんまり、ウルさくするなら、コノ毛布を剥ぐぞ」毛布の下には、骸骨が居る。
骸骨を見るたびに気絶して、屁を垂れるので隠している。
――旦那……――カエル♂が首を振りながら。
泣く娘には見方が多い。
そして、俺は1人悪者だ!
「ほら……ミカンだ、やるから食え」
「いらない」泣き止まない。
「ミカンが嫌なら何が良い? 欲しいモノを言ってみろ、ココにあるモノなら何でも良いぞ」
1人悪者は嫌だ。
「パンか? 水か?」他は、ロクなのが無いな。あの盗賊共。もっと気を効かせろよ。
「ナンでも?」
お! 初めて、反応した。
ズット、ガン無視か泣くしか無かったのに。
「ナンでも、だ」大きく頷いてやる。
「じゃ……」鼻をすすり上げ「刀……ちょうだい」
「かたな?」
「前に、アンタが倒した人間が持っていたヤツ」
「よく知っているな」
「いいよ」適当に転がしてた刀を渡し「やるよ」
受け取った刀を早速装備して、ニパ~っ、と笑う。
「刀のスキルを持っているわけでも無いのか……」
「何で?」
「腰に指した刀が上下逆」
「え」自身を見直し「そうなの?」
ホントに? って言いたげだ。
「そのまま」手振りして「抜いてみろ」
……。
「難しい」掴んだ刀の柄の部分が、アッチへ行ったりコッチへ来たりで、バタバタしている。
「ひっくり返して、抜いてみろ」
「こう?」差し直し「なんか……変じゃない?」
「いいから」もう一度、手振り「構えて抜いてみろ」
すッ! っと流れるように、刀の先が出た。
「おおおお!」何度か試して「シャキーンって出る」
「そっちの方がスムーズだし……カッコいい」
「うんうんうん」と、声に出して頷き、練習を始めた。
「練習などせんでも、そんなのはスキルで……一発じゃ!」
毛布の下から覗いていたのか?
「スキルなんて無いじゃん……買えば、高いし」シッシッと、出てくんなとばかりに手を振って。
……。
「有るよ」
俺の一言に、ガバッと身を乗り出し「嘘! 有るの? ちょうだい!」
「これは仲間にしか、あげられない」薄く笑いながら。
「アタシ! 仲間! 仲間!」自身を指し「ってか、奴隷じゃん」両手を出して「だから……ちょうだい」最後の一言は、おもいっきり媚びて。
「俺の奴隷は嫌なんだろ?」薄ら笑いはそのままで「さっき迄、泣いてたじゃないか」
「奴隷印の解除……するんだろ?」
「そんな、スグに居なく為る様なヤツには、やれんなー」
「クッ」悩む様な仕草。
目の前にスキル飴玉を並べてやる。
視線が張り付く。
「わかった……暫くだけは一緒に居てやる」
と、言う終わらんうちに。全部をひッ掴み、口に頬張り一気に飲み込んだ。
「あ!」
――あ!――
――あ!――
ブーン
「お!」
ソコの全員が声を上げた。
「もう、食っちゃったよ~」
「アタシのモノ~」
そんなこんなで、進む幌車。
コツメは、一応は仲間で良いのだろう。
裏切る気は満々だろうが。
草原を抜けて森に入り。
道を外れて森を進むと登り坂、山に入る。
その中腹辺り。
その間、魔物には遭遇していない。
それは、骸骨がスキルを使っているのだろう。
「さて、ソロソロかの」骸骨は盗賊団の1人、魔法使いの着ていたローブを頭から被っている。
コツメは、目線に入らない様に、出来るだけ遠くでソッポ向いている。
いい加減に慣れろと言いたいが。
ソレでも、我慢は見えるので止めておく。
「目的の者は、この奥に居る」指す先に、木々に隠れて見え隠れする洞窟の入り口。
見た目、明らかにダンジョンだ。
「モンスターは……勿論、居るのだろうな」入るのが、躊躇われる。
「本来なら、居ないハズじゃ」唸りながら。
「なのじゃが……気配は感じられる様じゃ」
「覚悟は必要か」
盗賊達の装備品の木の胴当て(剣道のソレ? そのままだ)とナイフを、コツメに渡し。
ナイフ使いの着ていた、妙な柄の服を、カエル♂にと思ったのだが。思いっきり断られた。
見るからに防御力は無さげだし、変だし、派手だし、カッコ悪いし……と、言う事らしい。
勿論、カエル♀も、同じだ。
俺は、薬だ。魔法使いの持っていたヤツ。青いのが1個、黄色いのが3個……ただ、何なのかは判っていない。
多分、どちらかが回復薬? そんな分けの解らないモノを投げても良いのかどうか……だが。
そんなこんなの、出来る限りの準備をして。
幌車を置いて、一歩を踏み出す。
洞窟の中は、真っ暗だ。そして、高い湿度に低い気温。
が、自然に出来たものでは無いのは直ぐにわかった。
人が普通に歩けるくらいに平らで、魔物と闘えるくらいの広さが常にある。
まさしく、そのままのダンジョンだった。
先頭はコツメが行く。
指先に炎の魔法を灯し、辺りを明るく照らす。
火炎の術! と、嬉しそうだ。
レベルが低いので、ライターレベルなのだが。
2番手はカエル♂が勤める。
手斧を構えながら。
次はカエル♀、槍だ。
で、俺。
最後が骸骨。
本来なら、骸骨が先頭を行くべきなのだろうが、コツメが嫌がったので最後だ。
まぁ、骸骨を見る度に気絶は、ソレはソレで面倒なのでコノ順番に成った。
それに、この先の分岐までは魔物に出合わないと事前に蜂を飛ばして分かっていたので、これで構わない。
さて、その分岐なのだが、左右に道が別れている。
骸骨を見る。
ワカランと首を振る。
仕方ないのでもう一度、蜂を飛ばして索敵開始。
右手スグに、何匹か居る様だ
左手は居ないが……どん詰まり。
進むのは右で、決まりナノだが。
骸骨に向き「先に出てくれるか?」
間髪入れずに「ダメ! 嫌だからね」コツメ。
「私が行く」と、勝手に先に進む。
「あ! 右!」制して、反対側を指し「コッチ、コッチ」
魔物は、デカいナメクジ1匹ともっとデカいカタツムリ一匹。
俺が見えたと同時にコツメが走り出す。
俺はスキル夜眼で見えているのに、
コツメも持っているのか?
が、今はソレ何処じゃ無い。
勝手に独り飛び出して行ったので作戦もクソもない。
「みんな! コツメを独りにするな!」
「行け!」
――行くよ!お前さん――
――おう!――
――全軍! 突撃!――
「ワシも行った方が良いジャろうの」剣を構えて、一歩。
ソレを「骸骨は! 来んな!」と、叫ぶ、コツメ。
俺を見る、骸骨。
俺も骸骨を見る。
そして、コツメを見ると、もう既に、先頭の大ナメクジに切り掛かっていた。
「ワシは……待機、か?」
「その様だな……」
敵のど真ん中で戦闘中のコツメに気絶されでもしたら……イヤ、骸骨がなんとかしてくれるか……。
ン、そもそも骸骨って、どれ位に強いのだ?
闘って居るのをまだ一度も見ていないゾ。
「ヤーン、コイツら切れない」
コツメの声に見ると。
切り掛かった刀が、粘液の様なモノで滑っている。
他の者も同様だ。手斧も槍も蜂の針も。
「魔法は?」と、言った自分に呆れた。
魔法はコツメにしか使えない。そのレベルはさっきのライターレベルだ。
他も似たり寄ったりで、雷は静電気レベルだし、氷は触ったモノを少し凍らすだけ、しかも液体限定。
「駄目~、どれも効かない」一応はやったみたいだ。
ナメクジの胴体に、コツメの小さな手形の凍った後が有る。
! あっ!
「凍った所を、突いてみろ!」
「? わかった」半信半疑? そんな返事。
パキッっと音がし、ブスッと刀が刺さった。
ナメクジが、途端に暴れる。
効いている様だ。
「コツメ! 全部の魔物を触り捲れ! 氷遁の術だ」
「わかった」と、魔物と魔物の隙間をスルスルと走り抜けながら、カッコ良くを意識した感じでの「氷遁の術」と叫び、手形を着けていった。
「凍った所に、毒針攻撃」蜂に命じて。
「最後に斧と槍だ」
「見事じゃったのー、見惚れてしまったわい」
魔物からスキルを抜く、その横で。しきりに感心する骸骨。
大カタツムリの方は、タダ硬い殻が有るだけで、カエル♂の格闘スキルで投げ飛ばし、転がった所を空いた殻の口を槍で突いて終わった。
デカイだけで、鈍くて弱い。
その上、スキルが酷かった。
[パッシブスキル(引き籠り)]殻に閉じ籠り、現実逃避。って、ナンじゃそりゃ。
大ナメクジは。
[パッシブスキル(粘液防御)]粘液による攻撃回避。
カエル♂に渡す。
盾役が出来そうだ。
有効なのは、先の戦闘で判っている。