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パヴィア


 パヴィアの町は寂れていた。

 活気がまるで無い。

 建物は石と木と土で出来ている、しっかりとした物だ。

 強い日射しで、くっきりとした陰影が出来ていた町並み。

 だがそれらは、かなり古く、そして傷んでいる。

 通りを進んでも人とすれ違う事もない。一応はメイン通りの筈なのにだ。

 勿論、全く人が居ないわけでもないのだが。

 幾つかの店の奥に、店主らしき者は見える。しかし陰に隠れて表情まではわからない。

 

 取り敢えず、中央広場まで進んで、車から降りた。


 町の造りも、中央に噴水広場……枯れているが。

 そこから放射状に伸びる通り……これがロンバルディア式なのだろうか。

 荒れて無く、手入れをされていれば、綺麗な町なのだろう。

 

 「ホテルは……無さそうだな」辺りを見渡し。

 生暖かい風が足元を吹き抜ける。 


 「そうだな」頭目も見回している。


 大臣が一人、建物に向かい歩いていく。

 良く見ると、ひさしの影に椅子を置いて座っている人がいる。

 

 「この町で、食事の取れる店はないか?」大臣が尋ねた。


 しかし、返事が無い。


 俺と頭目とルイ王が近付く。


 椅子の人物は、年老いた男だった。

 返事が無いが、死んでいるわけでも無い。

 じっと、俺達を見ている。


 マリーとコツメとジュリアにタウリエルも寄ってきた。


 そのタウリエルを見て。

 「エルフか……」

 「お前達は……ロマーニャ人か?」


 「イヤ、ロンバルディアの王都から来た」俺が答えた。

 俺達を見てロマーニャ人と聞く所を見ると、ロマーニャにはパピルサグ人だけが住むわけでも無い様だ。


 「エルフを連れて逃げて来たのか……」


 「なぜ?」大臣が聞く。


 それに答えず、スッと何かを差し出す。

 その老人の手元には縦に折り畳んだ新聞が握られていた。

 

 ロイドのヤツは、ここも既にか。

 相変わらずに仕事が早い。

 

 「ロマーニャに行くのなら辞めておけ」

 「あそこは、多民族国家だ、平等だ、とかぬかしているが……」

 「その実、差別と偏見で凝り固まっている」

 「特に……」タウリエルを見て「移民には厳しい」

 そして大臣を見て。

 「まあ……この国の王よりは、増しかもしれんがな」


 俺達の中で、唯一身なりの良い大臣に向かってそれを言った。

 裕福な者に、含みが有るのだろう。


 「飯は……向かいのレストランが夕方には開く」

 「それまで待て」

 そう言い、もう用は無いだろうと、追い払う様に目を閉じた。


 

 仕方ないで車に戻り、待つ事にした。


 「しかし、何とも言えない寂しい町だな」その寂しさが俺達全員を支配したかのように、沈黙を振り撒く。それに抗う俺の言葉もやはりに寂しいものだった。


 しかし、その抵抗にも甲斐があったようだ。


 「ここの領主はどうしたのじゃ?」骸骨、改めルイ王が大臣に聞いた。


 「ここの領主に限らず、貴族達は皆が王都に住んで居ます」


 「なぜ?」

 「自分の領土の管理はせんのか?」


 「長らく続く平和と……王の独裁国家では」言い淀みながらも、続けて。

 「貴族達も、何もする事がないのです」

 

 「成る程、管理は王の匙加減で変わるのか」

 管理と言っても、税金とほんの少しの公共事業くらいのものだろう。


 「その上、鎖国だしな」頭目が。


 「国交が無いだけです」


 「では、国交が有る国は?」チラリと大臣を見た頭目。


 その大臣は、言い淀み何も答える事が出来なかった。


 「民間ではほったらかしだが、国としては鎖国なのだろう?」


 「イヤ……相手にされんだけかもしれんな」ルイ王も続ける。


 それにも答えられない大臣。


 「まあ、今回の戦争でそれも変わるじゃろうて」大臣を責めても仕方の無い事だと、哀れんだか。


 

 そんな時だった、外から騒がしく音がする。

 見れば、幾つもの荷馬車が広場に集まって来ていた。

 そして、その荷馬車の主はパピルサグ人……蠍の尻尾の様なモノと首回りと顔の一部に鱗が見える、きっとそうなのだろう。

 が、先の老人と話していた。

 その他の者は人であったり、獣人であったり、エルフであったりが荷馬車のロープをほどき始めている。


 何事かと、俺達も外へ出る。


 その老人、俺達の時とは明らかに違うにこやかな対応を見せている。

 先程までに悪口を言っていた相手に。


 そのパピルサグ人がこちらに歩いてくる。

 俺達に興味を持った様だ。

 その後ろには件の老人。


 「これは? なんだ」と、トラックを指す。

 「タイヤが着いているようだが……」

 と、首をかしげた。


 「自力で動く、魔法の箱車です」

 後ろの老人が答えた。

 「これは大きいですが」

 「つい先日も、小さい鉄の箱車に乗った男が、やって来まして」

 「どこぞの、錬金術師が造った物なのでしょうが、流行っているようです」


 ジロジロとトラックを見るパピルサグ人。

 「戦争の道具か?」

 戦車として見たのか? 眉をしかめる。


 「そうなら、ここには居ないでしょう」

 「プレーシャ戦線は遥か北西ですよ」

 と、笑った。


 そこへ、マリー達も降りてきた。

 

 その中のタウリエルを見て、頷いたパピルサグ人。

 成る程、エルフと一緒に居る者を、エルフと闘う兵士では無いと理解したか。


 「あなた方はロマーニャ人ですよね?」

 「私達は貴方の国を目指して旅をしてきたのですが」


 頷いたパピルサグ人。


 「ここは……まだロンバルディアですよね?」


 「私達は、ここに交易をしに来たのです」

 「この町の羊は実に良い、毛並みも、味も」と、にこりと笑う。


 「定期的の通って下さるのだ」と、老人。


 成る程、お得意様か。

 と、荷馬車の荷物を広げ出した。

 日用品に雑貨に食料品等を適当に並べる。


 暫く程すると、町の住人達が集まってきた。

 市場に成るようだ。

 しかし、その客の表情は硬く暗いものだ。

 定期的と言うのだから、たまに開かれる市場なのだろうが、それにしては賑やかさがない。

 アレと、コレとを買って、直ぐに帰っていく。

 何も買わずに紙切れだけを渡して帰るものも居る。

 必要なモノだけを注文して、買っていくのだろう。

 直ぐに商品も無くなり、客も消えた。

 そして、羊が数頭、連れてこられて荷馬車に載せられていく。

 

 「では、村長」にこやかに微笑み。

 「また、次も宜しく頼む」と、言い残しパピルサグ人達は帰っていった。

 

 村長と言われた老人は、それを見えなく成るまで見送って。

 そして、地面に唾を吐いた。

 「奴ら、足元を見て買い叩いて行きよる」

 「国は税金の事だけしか言わんし」

 「商業ギルドも寄り付かん」

 「もう、この町は……ロマーニャの属国の様だ!」吐き捨てた村長。


 「銀行やら、保険やらの支店が出来たのだろう?」頭目が。


 「そんなもん、金が有る奴の為のモノだ」

 「この町には意味は無い」

 「まあ、新聞だけは有り難かったがな」

 そう言って、元の椅子の所に帰っていった。

 その帰り際「ほれ、店が空いたぞ」と、指を差す。

 


 レストランの飯は、あまり旨くは無かった。

 羊の肉も今一だ。

 何より店員の態度が悪い、遣る気が無さすぎる。

 店も薄暗いし。

 活気も無い。

 この町の全てが、何とも言えない陰気な雰囲気に覆われていた。


 


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