マリーの昔の仲間
骸骨達は、学校を挟んで反対側の崖の近くに居た。
そこも、最初に降りた場所とあまり変わり無い、若干に背の高いマンションが見えるくらいだ。
「しかし、移動が速いな……」学校に行くよりも距離がある。
「あんたが、あそこで30分程、呆けて居たからよ」マリーが言う。
自覚がない、俺にはあれが……すぐさっきの事の様な気がする。
しかし、そう言われたのだからそうなのだろう。
そんなにショックを受けたのかと、考えれば逆に冷静に成れた気がする。
「で、ヤツは?」
「そこの建物の前に居たのだが」と、前を指差す骸骨。
小さな会社の様だ、建物は一段奥に建っている。
その前はガレージだった。
そしてそこに、エルフの死体が在った。
「ヤツがその者を切り着けているその時に、出くわしたのじゃ」
「良く無事でいられたな」頭目が、そのエルフの死体を見ながら。
「ヤツとワシとで、目が合ったのじゃが」
「ワシと回りの者を見渡して、笑って去って行きよった」
「ただ、あの者……」首を捻りながら。
「何処かで、会ったような……」考え込む骸骨。
「私が駆けつけた時にはもう居ませんでした」ジュリアが悔しがる。
「確認は出来なかったのか……」ヤツで間違い無いと思うのだが。
「なら、ワシを見よ」
と、骸骨が突然に変化を始めた。
その姿は、若い男。
十代半ばに見える。
見た様な……覚えが無い様な為りだ。
しかし、いつの間に変化をと、考えていると。
「アマゴクイ殿がくれたのじゃ」
「うむ、話をしとったら、同じ王の経験者と言うではないか」
「サルギンと人族ではあるが、やはり話が弾んでのう」
「だから、くれてやった」元サルギン王のアマゴクイが笑う。
骸骨は変化が使えるのか、フローラルもだったが……二人は魔物判定なのか?
見た目は確かに魔物だが。
「ねえ……」それまで黙っていたマリーが口を開いた。
「少し、歳をとらせる事は出来る?」
「うむ、想像に成るが良いか?」と、変化を始めた。
「ストップ」その途中でイキナリ止めたマリー。
そして、その変化した骸骨を指差しながら。
「時と空間の勇者……」
しかし、それは二十代後半の男。
俺達が会ったのは、もっと歳を重ねた四・五十の中年オヤジだが。
「この者がそうか?」と、骸骨。
「違うわよ!」声を荒げるマリー。
「違わないけど……」
「あんた、そのままで、そこのガラスの前に立ってみなさい」
言われた骸骨が、ビルのガラス扉の前に立ち。
そして、そこに鏡の様にして映り込んでいる自分を指差しながら。
「河津万年!」
そう叫んで、剣でガラスを叩き割った。
その血相にマリーを除いたその場の皆が驚いた。
「何者だ?」思わず。
「時と空間の勇者」唸り。
「ワシを二度、殺した男だ!」
「そして、私の昔の仲間よ」マリーが話し出す。
「この世界に転生して、逃げ出した時に最初に出会ったのが錬金術師の女だったのだけど」
「その女と旅をするうちに、カエサルと出会い」
ジュリアが自分を指差しながら、私の御先祖様とジェスチャー。
「その次に出会ったのが、時と空間の勇者の河津万年よ」
「一緒に旅をして、その時の魔王……魂の勇者、ネクロマンサーを倒したのよ」
「正確には、引き分けだったのだけど」
「なにを言う」
「お主等が勝ったではないか!」
「ワシは見ておったぞ、我が主のネクロマンサーを倒し、そのスキルを奪ったのを」
「そうね、その時はね」
「でも、そのスキルを奪ったが為に、魔力の回復が出来なく成ったのよ」
そうか、俺のスキルは攻撃が出来ない、しても回復させてしまう。
ヤツのスキルは誰かを攻撃してしか魔力の回復が出来ない。
それを同時に持てば……。
後は、何も出来ずに死を待つのみ……か。
以前にマリーが言っていた事は、その時に見た事実だったのか。
「しかし、ヤツは生きておる」
「今、目の前におった」
「そうね……」
「確かに、死に際を見たわけじゃないわ」
「魔力が回復出来ないとわかったその時、気が狂った様に暴れだしたのよ」
「私とカエサルで……二人して逃げるのが精一杯だったわ」
「ちょっと待て」思わず割って入った。
「そいつが、このダンジョンを創ったのか?」
「魔力の回復も出来ているぞ」
「それは……」
「わからないわ」
「どうやって、元に戻したのか……」
「でも、ネクロマンサーでは無いのは確かね」
「だって、ヤツは一人も使者召喚でアンテッドを造って無いもの」
俺達は、トラックに戻っていた。
あの後、ダンジョンを隈無く探したがヤツは居なかった。
見付けたのは、エルフの死体と転生者の死体だけ。
捜索をダンジョンの外にまで広げたが、結局カラス達も何も見付けることが出来なかった。
「仕方ないのう、旅を続けるかのう」
と、初老の男が俺に言う。
? あんた誰だ?
「あれ? ソフィーのお父さん?」コツメがその初老の男を指差して。
「ルイ・シャルルの事?」とジュリアが。
「でも、老けすぎだよ」
「ア! ほんとだ」
「ソフィーのおじいちゃん?」と、小首を傾げた。
「おじいちゃんにしても、なぜここに居るの?」馬鹿な子を見る目のジュリア。
そんな二人に笑いながら。
「ワシはルイ・オーギュストじゃ」
「誰それ?」コツメとジュリアが同時に。
ついでに俺も、心の中でホボ同時に。
「骸骨よ」マリーが素っ気なく答えた。
「え!」三人同時に大臣と頭目も加わって。
確かに腰の錆びた剣には、見覚えがある……てか、有りすぎる。
骸骨と言われても違和感だらけだ。
それに、伝説の闘将ルイ王にしては……威厳の欠片も見られない。
確かに、歳の割にはシュっと伸びた背中と、引き締まったお腹なのだが……やはり、少し痩せ気味の、ただの初老の男だ。
これは、ルイ家の血筋なのは理解は出来たが。
まあしかし、この姿はコツメにとっても恐くないのか、いきなり手裏剣を投げる事も無くなった。
トラックは進む。
草木の背丈が低くなり、荒野が景色を染めていく。
ドワーフの里の辺りとも似ているが、あちらは高地、若干に空気の重さが違う気がする。
それだけで、この景色も違う様にも見える。
「ビリー・ザ・キッドでも出てきそうな雰囲気だ」
「二丁拳銃?」マリーが返す。
それ以外の者には、わからない会話だろう。
「それは、間違ってる」フフンと。
「ビリー・ザ・キッドは実在した人物だ」
「昔の西部開拓時代のアメリカに居たのだが」
「で、その時代の拳銃はリボルバーと言って、弾倉の弾を撃ち尽くしたら手動で1発づつ込め直さないといけないのだが、その時に二丁目の予備の拳銃に持ち変えたのだ」
「だから、二丁拳銃は間違いだ」
「あれは映画の中だけの話」
「そう……」マリーが、俺がたまにジュリアに向ける様な目をしながらに、から返事。
俺が尚も話を続けようとしたのを遮って。
「そう言えば、拳銃ってゴーレム化出来るのかしら」
「そしたら撃てる様になるのかな?」
「弾は造らないといけない……か」
銃か……ダンジョンに落ちている様な物でもない。
それを、試す機会も無い。
自衛隊の基地でも転生しないと、そんなのは無い。
それに、そんなピンポイントな転生は、宝くじだ。
……。
イヤ、交番のお巡りさんは持っているか。
街中の警察署とかは? まだ可能性が在りそうだ……。
そんな俺を、マリーがニヤ付いて見ている。
あ! まんまと誘導された。
ウザイ話をかわす為の話にのってしまったのか!
と、マリーはジュリアとコツメの方に顔を向けた。
くそう……今度、ジュリアにやってやろう。
そんなこんなで、パヴィアの町にたどり着いた俺達。
その頃には、学校の巨大ハムスターの事などすっかり忘れていた。
あれは、ショックを受けたのか?
ネクロマンサーとしての死者の意識の流入ってヤツなのか?
それすらも考えるのを忘れていた。