ジュリアの恋
「なんだかわけわかんない」コツメが頭の上の氷を落とさないように手で支えながら。
「社会主義ってなに?」
「最近、そんなの多くない?」と、俺を睨む。
「確かに」首をかしげたマリー。
「ちょっとクドイと言うか……」
「面倒臭い感じになっているかも」
コツメも頷いて「大臣を奴隷にしたからじゃないの」俺を指差し「その影響よ、きっとそう」
「あんた」マリーが。
「今すぐ、誰かを奴隷にしなさい」
「え?」そうなのか、自分ではわからない。
「何処かに、頭がお花畑な子は居ないかしら?」マリーがコツメを指差しながら。
「こうゆうのを足せば、ちょうどいい感じに成るんじゃない」
「ちょっと、悪意が感じられるんだけど」睨むコツメ。
「お花畑って……」
「良い意味よ」ニィっと笑ったマリー。
「そうは思えないんだけど」キィと。
「……」マリーが目を閉じながら。
「ちょっと想像してみて」
「広い草原のお花畑」
「それが何?」
「いいけど」想像を始めたようだ。
「綺麗でしょう」
「うん……素敵な感じ」目を瞑りながら。
「そこで、お昼寝したら、気持ちよくない?」
「気持ちいいと思う」頷いたコツメ。
「ね……いい意味でしょう」
「そうなのかな?」悩み始めたコツメ……悩むんじゃ無い。明らかに悪い意味だ。
考え始めたコツメの隙をついて、マリーがジュリアを呼んだ。
「あんたは、何で誘拐されたの?」
「え……間違えられて……」ボソボソと。
「違うわよ!」
「どうゆう風にかを聞いてるの」
「えーっとね……酒屋で美味しそうなお酒が有ったの、それを買うかどうかで迷っていたら……」突然にニヘラと笑い始める。
その笑い方に引っ掛かったマリーが「男前でも居たの?」
「なになに! カッコいい感じ?」コツメも食い付いた。
そのジュリアの話なのだが……。
こうだ。
酒屋で良い感じの酒瓶を見付けたジュリア。
ソコに運命の出会いを感じたそうだ……酒と目と目が合ったと……。
瓶に目など無いと思うが。
その目が買ってくれと懇願している様に見えた。
思わず手に取ろうとしたその瞬間に、後ろを歩いていたおじさんが急に呻き声を上げて踞った。
おやおや? っと顔を覗き見ると苦しそうにしている。
「大丈夫ですか?」と、声を掛けようかどうしようかと迷っていたら。
背中から「どうかしましたか?」の声。
振り向くと、ソコにカッコいいお兄さんがいた。
酒屋の店員らしく、酒の入った木箱を担いでいる。
その姿が、前掛けが凛々しく、木箱の重みで腕の筋肉がパンと張った逞しさも在ったのだけど、でも全体は細身でスラリとした背の高い……優しい感じの若いエルフだった。
その描写……くどくないか?
と、口に出そうとする前に、マリーとコツメに睨まれた。
その目力が邪魔しないでよ! と俺の口をふさぐ。
続けるジュリア。
「このおじさんが急に」と、指差したジュリアだが、その目はエルフのお兄さんから離せないでいた。今、目線を外したらもう2度と会えないんじゃ無いかと心が不安に成ってしまったの。
と、うっとり。
ウンウンと頷くマリーとコツメ。
そしたらおじさんがお腹を押さえながら「持病のシャクが……」と……唸りながら。
シャクがって……なんだか……と、その先も止められた。
考えただけでもダメらしい。
「この先に病院が有るのですが」と、お兄さんが言うの。
でも、お仕事中でしょう、だから「私が連れていきます」って、お酒の瓶を渡して「後で買いに来ますから」と、別れたの。
その時、ほんの少し触れた指が、長くて、細くて、力強くて、カッコ良かったの。
おじさんを連れて歩いている時も、後ろに視線を感じたわ。
振る向く事は出来なかったけど。絶対にそうよ。
普通に仕事に戻ったんじゃないの。悟られ無い様に微動だにせず頭の中で。
で、病院が近付いて来たときに、おじさんが急に私を路地に引き込んで、甘い匂いの布を口許に当てられて気絶したの。
そう言えば、そのおじさんの描写が微塵も無いな。
気が付いたら、縛られ、猿ぐつわをされて何処かの知らない部屋の中に座らせられていたの。
初めてのそれも外国の町だから、そりゃ知らない部屋だろう。
なんだか狭い部屋に三人の男の人達が居て、そのうちの一人はさっきのおじさんなのだけど。
話をしていたわ。
そわそわしながら、無理矢理に不安を隠すようにお金の使い道を話し合ってた。
家を買うんだとか、仕送りがとか、何処かの飲み屋のお姉さんがとか、そんな下らない話をしてた。
「奴隷の解放とか、仲間の釈放とかは、無かったのか?」思わず。
キット睨むマリーと、コツメ……だと思ったが、二人には普通にスルーされた。
「そんな話は無かった」良く思い出す様に小首を傾げて「それは、救出された後に聞いたくらいかな、助けてくれた人に」
やはり、金目的か。
暫くはそのまま。
時間が立つのがユックリで……思わず自分の運命を呪ってしまった。
このまま、この人達に殺されるのかとか……。
さっきのカッコいいお兄さんとはもう会えないのか、とか……。
身長はもう伸びないのか、とか……。
お爺ちゃんは呑んだくれ出し……。
マリーはチビペチャ出し……。
コツメちゃんはアホ出し……。
その中に俺は出てこないのか……。
それはそれでへこむなあ。
まあ良い。
しかし。
身長は……無理じゃないかな?
殺されても、ゾンビに成ってそのお兄さんに会いに行けば良いのでは?
呑んだくれは……君もだ。
コツメとマリーは……仕方ない。
その二人、ムッとした顔を見せていた。
その時にコツメちゃんから連絡があって……そのあと直ぐに救出隊の人達が来てくれたの。
で、その中に、あの酒屋のお兄さんが居たの!
ムッとした顔から一変、身を乗り出した二人。
運命を感じたわ。
私の為に来てくれたんだと。
「運命ね」頷く二人。
その時のお兄さんがカッコ良かった。
扉を蹴破って飛び込んで来て、クルリと回転して弓を放ったの。
狭い部屋でか?
他の人達も剣でブスリ! あ、短い剣だったからあれがトレンチナイフ? なのかな?
他の人は……描写は無しか……武器に対する興味は忘れないのだな。
で、お兄さんが私を両脇に抱えて外へと連れ出してくれたの。
「お姫様抱っこ?」コツメが羨ましいそうだ。
「ちょっと……違ったかな」両腕を肩に振り上げて「こう……こんな感じ」
成る程、米俵みたいに担ぎ上げられたのか。
その酒屋のお兄さんは民兵だったのだな。
イヤ、エルフの性質を考えると民間防衛としての行動か?
その両方なのかも知れない。
一瞬の出来事だったわ。
兎に角、カッコ良かったの。
うっとり。
「その酒屋に行きましょう」マリーが立ち上がった。
「お酒を買う約束をしたんでしょ」
「うん行かなきゃね」と、コツメもジュリアの腕を取った。
頬を赤らめ頷いたジュリア。
三人して部屋を飛び出して行った。
数分後。
帰って来た三人に声を掛けた。
「酒は買えたか?」
首を振る三人。
「酒屋まで行ったら、確かに男前が居たのだけど」マリーが。
「その人、赤ん坊を抱いて奥さんらしき美人と話をしてた」
はあ、と……ため息の三人。
明らかな敗残兵っぷりだ。
独り遠い目をしながら……しょんぼりと座り込んだジュリアの肩を、ソッと叩いてやった。
仕方ないよね。