奴隷志願の少女その名もコツメ参上
貴族の小娘の処遇は、この近くの村に届けてと言う事に成った。
この先の分かれ道を反対側に少し進んだ先にあるラシイ。
少々、回り道に為るが、まぁ仕方無い。
騒がしい小娘を連れて歩くのもどうかだし。
実際……うるさい。
道中、タマに気が付いては騒いでいる。
スグに骸骨があやして、静かになるが。
この骸骨は中々に子守りがウマイ。
起きてナニやら騒がしく為ったら、すぐさま覗き混む、タダのそれだけで寝かし付けてしまう。
寝ると、言うより気絶だが、しかし、素晴らしい才能だ。
で、この小娘。
タマに起きての一言、二言から察するに、この国の貴族で現王の祖先が倒した、前政権の王の末裔ラシイ。
とても由緒正しい家系の出だそうだ。
今の王とは、何の血の繋がりも無いのに……意味も無いと思うのだが。
だが、ソレを聞いた骸骨は「ほう」と、唸り。小娘の側にベッタリとなった。
意味は有る様だ。
また、カエル♀が言うには、小娘を見るときは微笑んで見える、とか、孫を見る様な眼だとか。
あり得ん。
骸骨に頬も目玉も無い。
只のロリコンだ。
きっとだ。
道中、池が近くに有るとかで、カエル達が寄りたいと言うので、ソコに行く。
蜂も増やしておこう。
池は、道の外れの林の中に在った。
カエル達は行水中。
俺は、新人蜂の調達。
計19匹に為った。
蜂の隊長と相談し、副隊長を3匹に隊員5匹ヅツを割り当てた。
そして、ソレゾレに出世した大隊長と小隊長らはとても張り切っている。
早速に、ルーキー達をシゴキ初めた。
蜂部隊! ブートキャンプの始まりだ。
隊列の組み方から編隊飛行に何故か……ほふく前進……。
ソレは、意味無いと思う。
そんな蜂達を見ながら一服。
煙草の本数も10本を切った、心許ない。
今までも大概我慢しているのに、無くなった時を思うと……恐ろしい。
と、イライラ気味に考えていると、おもいっきりムセてしまった。
煙草を池に投げ……様として、思い止まる。
カエル達が、楽しそうに泳いでいるのが眼に入ってしまったからだ。
しかしと、煙草を見る。火はまだ着いている。
ウーン。
ん?
よい感じの竹の竿を、発見! 池の縁近くに刺さってる。
その穴、投げれば入るかな?
と、適当な事を考えていると、頭に浮かんだ。指弾。
お! さっきの投擲のやつか?
煙草を指で弾いて見た。
一直線に飛んで、見事に竹竿の穴に吸い込まれて消えた。
おおおお中々に凄い。
?
竹の竿が、なんか変に動いた様な?
側からブクブクと、大きな泡。ソレがとても臭い。
魚も浮いてきた。
そして、竹の竿は沖に流れて行って……刺さってるのでは無く浮いていたのか。
と、水中へ、消えた。
やたらと臭い匂いと、魚だけを残し。
余りの臭さに、カエル達も蜂達も早々に幌車の中に退散し、俺を呼んでいる。
急遽、出発の様だ。
急いで、魚を数匹、拾い上げて俺も乗り込む。
後で、焼いて食おう、晩飯確保!
池から村までの間。
スライムと、針ヌートリアを数匹倒し。
蜂達の成長の糧とした。
相変わらずその2種類しか出会わない。
ソレは、道路の結界と村に近付いて、村の結界とが重なったせいラシイ。
骸骨がそう言っていた。
まぁ、ルーキー達には丁度良いのだが。
そうそう、途中。
道の真ん中に、変な岩が落ちていた。
カエルが邪魔そうに、槍でつついたら、臭い匂いを吐き出し、蠢き初めたので、モンスターかと構えたら。
我慢出来ないとカエル達が走り初め、倒す事も出来ずに幌車の中から見送った。
まぁ想像するに、倒して出るスキルは臭いナニかを出す……そんなスキルだろうし、要らないか。
そんなこんなで、とても平穏に旅は続き。
アッサリと、村にたどり着いた。
小さな農村のようだ。
第1村人! 発見!
骸骨を毛布で隠し。
のんきそうに、草刈りをしている農民に声を掛ける。
小娘と盗賊の話をしたら、直ぐに村長の家に案内してくれた。
とても良く喋る、人懐っこい……牛柄の男。
ホルスタインの獣人だ、きっとそうだ。
村長の家は割りと近く、すぐに着いた。
店舗付きの住宅。
雑貨屋だ、食料品から衣服まで、何でも有る感じ。
この村の唯一の店なのだろうと予測出来るくらいに、何でも有る。
今は、店に用も無いので裏に回る。
裏庭には、荷車とニヒキガエルが居た。はっぴを着ている、フンドシもだ。
ソレをウラヤマしげに、うちのカエル達は見ていた。
そう言えば、裸だ。
当たり前の様に思っていたが。服を着る事も有る様だ。
今度、買ってやろう。
まぁ……向こうも、うちのカエル達が持っている斧と槍をウラヤマしげに見ていたが。
中をを覗けば、直ぐに村長を見付けられた。
牛柄の男が事情を話し。
気絶した小娘をそのまま預け。
村を後にする。
村を出て……スグ。
道路に大の字に寝っ転がった、丸っこい獣耳の少女? 女の子? が、叫んでいた。
「さー殺せ! 私の負けだ! 今殺せ!」キッと、俺達を睨む。
?
先頭で幌車を引いていたカエルが立ち止まり、俺を見た。
「道の真ん中に寝ていたら危ないぞ……邪魔だし」声を大きくして告げてみる。
「ウルサイ! アンタ達の勝ちだって、言ってンだ! 好きにすれば良い」キッ!
「勝ちとか、敗けとか……わけがわからん」頭を掻く。
「だから!殺せー………………イヤ、痛いのヤだから……」ウーンと唸り「奴隷でも何でも、好きにしろー」
さて、この少女。
名前をコツメと言い、忍者である。
と言っても、半人前どころか駆け出しにも成っていない……自称、忍者だ。
本人の希望もあり、以降は忍者と言っておこう。
そんな忍者少女が。
遡る事、数日前。
とある場所で、魔物に襲われているカエル車を見付けた。
草村にジット潜み、成り行きを見ている。
近く、斜め前には異世界風の着物を着た男がタダ立っている。
比較的、安全な場所だ。
その後ろのコツメは、もっと安全な場所。
二本脚のモンスターと蜂のモンスターと、三人の人間の男の闘い。
ソレをジーっと見詰めている。
その焦点は、人間の男の持っている刀だ。
少女は忍者だと言うのに、ソレを持っていなかったのだ。
欲しくて欲しくて堪らなかったモノがそこに有る。
そして、成り行きを見ているのである。
共倒れで、全滅なら……直ぐに拾える。
この異世界の男が1人残っても、勝てる自信は有る。弱そうだもん。
モンスターが勝って、立ち去った後に拾えば。めっちゃ楽やン。
が
勝ったのは人間側。
どうする?飛び出して……やっつけるか? 今ならきっと弱ってる。
勝てるかな? 微妙だな?
?
イヤ、待て……今度は人間同士で争い初めた。
お! あのナイフ使い! 動きが速い。イヤ、上手いんだ。これは勉強に成るぞ。
あ!魔法使いも居る!
これは、迂闊に出ないで正解だった。危ない危ない。
しかし、あの異世界服の男も、運の無い……アレれ? 蜂のモンスターが帰って来た?
ンーん、ココも危ないか?
見辛くは成るが安全が第一。
チョッと後退。ソロリソロリと。
…………
あ!しまった、下がり過ぎた。見えない。
チョッと前進。ジリジリと。
………………
終わってる。
異世界の服の男の勝ちだ。
……
弱そうに見えたが、実は強かったのか?
これは、様子見、様子見。
刀だけは見失わない様に、だ。
暫くして。
その、刀は、カエルに拾われ幌車の荷台に投げ入れられた。
勿論、ソレはコツメも見ている。
ササっと後ろに廻る。
しかし、盗み出す隙がない。
幌車の前と後ろにカエルが陣取ってる。
どおあがいても、近寄れば見付かる。
こうなれば、コの爆弾で……イヤ、早まるな私! コレは1個しかない! 私の取って置きだ!
全財産をはたいた爆弾だ、外せば洒落にナラン。
全財産とは言うが、所詮は小遣いである。タカが知れているのだが。
それに、その全財産で買ったのは、縁日で売られていた癇癪玉。ソレを砕いて丸めて固め直したもの……ドウ贔屓目に見ても、ヤッパリ知れてるだろう。
あ! カエル共が中に入った!
チャーンス! 今しかない!
爆弾に火を着け、ササっと近付く。
ジジジジジジジジ……。
ササササっとサササッ。
幌車の後ろに着いて、今投げ込もう、と、した時。
幌車からナニかが飛んできた。
そして、見事にソレを踏む忍者少女。
スッテーン。
コツメの足裏から宙を舞うミカンの食い残し。
手からは、爆弾が明後日の方向へと飛んでいく。
ドーッカーン!
コツメは、勢い余って幌車の下に滑って行き……車軸の所にしこたま額を打ち付け。
気絶した。
気絶から目覚めたコツメ。
道の真ん中に大の字だ。
痛む額を擦りながら起き上がる。
この仕返しは、必ず!
幌車は……もう、無い。
逃げ足の早い奴等だ。
「しかし、私から……そう容易く逃げられると思うなよ」
忍者の本領! 見せてやる!
キョロキョロ。
!
コッチだな……。
「クククっ」口元を抑え「愚かな奴等だ! なんか、イロイロ落としてる」
ソレは、ゴミだと言って幌車から放り出したモノ。
ソレが、道に転々と転がっている。
コツメはそのゴミを頼りに走り出す。
脚には自信が有る。
「スグに追い付いてやる」
ササササーっ、の、シュタタタターッ。
実際、スグに追い付いた。
池に向かう為に、道を外れ様とした所。
「見つけたゾ!」ゼーハーゼー「サスガ私! スーパー忍者!」ゲホゲホ。
幌車一行は別段急いいるわけでも。逃げているわけでも無い。
寄り道も含めてのノンビリとした、旅。
追い付いても、当然だと思うのだが。
確か……この先には池が在ったはず。
奴等、ソコへ向かったのだな。
「名推理だ! サスガ私!」
「先回りして、待ち伏せだ」
小さめの池。
コツメの隠れている、対岸には件の幌車一行。
どう……近付こうかと思案を廻らしていると。
カエル共が水浴びを始めた。
ソレを目にしたコツメ。
頭の上に、架空の電球がピカリと光る。
「ここは……水トンの術」ニパっ。
1度遣ってみたかった、憧れの技。
ワクワクを隠さず、準備を始める。
竹筒を一本探す、ソレをスグに見付けた。
服を脱ぐ。
キチンと畳まれた服は汚れない様にと草の上に置いておく。
下着姿のコツメが静かに池の中に……潜る。
水面には竹筒の先。
すーっ、と動く水面の竹筒。
プルプルと動き出した、竹筒。
スグに水から出てくる、コツメ。
「失敗、失敗」
竹筒に棒を差し込み、節を抜き。
また、静かに……水の中へ。
すーっ、と動く竹筒が、対岸の幌車の側、見付からないと思われるギリギリへと移動。
目的のモノはスグソコに在る、幌車の中にだ。
今飛び出して、一気に行くか?
イヤイヤ、ソレはスマートじゃ無い。
大忍者の私の遣ることじゃ無い。ソレは盗人のやり方。
誰にも見付からず。痕跡も残さず、だ。
ムフフ流石、私!
水中から辺りを確認する。
カエル共が泳ぎだした。ラッキー幌車の方を見ていない。
あの男は?
ウーン……近いナ~。
煙草なんか吸い初めて……もっとアッチ行けよー。
!
咳き込んでる、ザマー、ハハハッ
さーどっか行け。
ン?
コッチ見てる?
近付いてる?
近すぎて、波か? 反射か? 良く見えない。
!!!!!!!
竹筒の中に!なんか入ってきた!
あ! アイツ! 煙草! 捨てた~。
アッチ~!!
ブヘッ……驚いて屁を垂れた。
イヤーン。
アイツ! 煙草を投げ捨てるなんてマナーがなって無い奴だ。
しかも、ヒトの竹筒の中に放り込むなんて……ソレで息吸ってンだから、口に入るの! 当たり前じゃない! 本当に想像力の無い大人なんて大嫌い!
道の真ん中、岩の色に塗った布を被り丸まりながら、ブチブチ。
さー来なさい! 今来なさい! 私の渾身の作! 岩に化ける為の布で、土トンの術よ!
さー早く来なさい。
……。
……。
……。
来ない……。
……。
全然来ない……。
…………。
待ちくたびれて……寝てしまった……コツメ。
熟睡。
ソコにやって来た幌車。
カエルが指差し、男と相談?
そして、岩に成って寝ていたコツメの尻を槍でつつく。
ビックリして目と屁が同時に飛び出した。
ボフゥッ。
「イヤーン」
火トンの術も、水トンの術も、土トンの術破られた。
しかも、大事な岩に化ける為の布を被ってたせいで、自分の屁の匂いで気絶までしちゃったじゃない。
その布を、地面に叩き着ける。
と、同時に、ヒューっと風が吹き……飛ばされる布。
あ! っと、追いかけ、掴み損ねて滑って転ぶコツメ。
「ナニを……ナンなのよー………………もう」
その時の、ガタガタと音。
見ると幌車がスグ側に居た。
!
ナンでココに居るのよー!
パニクったコツメ。
「さー殺せ! 私の負けだ! 今殺せ!」キッと、異世界服を睨む。
「ウルサイ! アンタ達の勝ちだって、言ってンだ!好きにすれば良い」
「だから!殺せー………………イヤ、痛いのヤだから……」と、ココで閃いた「奴隷でも何でも、好きにしろー」
このまま負けたフリをして奴隷って事で、幌車に乗り込めば良いんだ。
名案!
奴隷印は、街まで行かないとうてないし、その間に盗んでトンズラよ! 完璧じゃない。
「さー私を奴隷にしなさい!」
「ウルサイのぅ……さっきウルサイのと別れたばっかりナノに、ココでもか」幌車の中から声がする。
異世界服を、と喋ってる?
え? もう1人居たの?
「本人が望んでおるのじゃ……奴隷にしてやれ」
おお、いいぞいいぞ、コイツは良い奴だな。
もっと言え。
しかし、異世界服は渋っている様だ。
「良いではないか、獣人娘でも、飯炊きでもさせてやれば」
カタカタと嫌な音はするが、声は渋めの……おじいちゃんかな?
「料理は得意だ、奴隷にしろ~」
「それに、中々に可愛いデワ無いか。してやれ」
「ありがとー渋い声の人!もっと言って~」
「旅は道連れ、とも言うしの。してやれ」
「そーよ、世は情けよ」
「第一……邪魔だしの」と、幌車から降りてくる、気配。
渋めのロマンスグレーかな?
ダンディーな感じかな?
……。
何でもいいや! と、骸骨に抱きついた。味方にしてしまえ。
!
骸骨!
「ギャー」バフン「イヤーン」
そのまま気絶した。