ヴェネトの長老王
さて、城下町を進む俺達だが。
そこに町と認識出来るモノは無かった。
ただの森の道。
途中にたまに見掛ける木造の家、最初は小屋だったのが進むに連れて、今は普通に家、それでも森の中にポツンと建つ一軒家。
概念と言うのか基準の違いなのか……理解は出来ないでいた。
城下町と言われただけの森。
そして、そんな感じなので未だに誰ともすれ違わない。
コツメも退屈しているようだ。
外国の珍しいお店を期待していたのだろうから無理も無い。
「買い物とかは……どうするんだろう?」食料品に日用品とか、娯楽とか。
「さあ、自給自足とかじゃないの?」マリーが適当に。
イヤ、適当でも無いのか? 錬金術師なのだから色々なモノが造れる。
自給自足もある程度は可能か。
それでも、材料が必要だろう、それは売り買いか?
いやまて、プレーシャではヴェローナと交易をしていた。
やはり店は有るはず。
辺りを見渡してみる。
ただの森、それらしいモノは見えない。
が、目の前の道が途切れていた。
その前には少し大きな木造の屋敷がある。
他に道は無かった、この国に入ってからは一本道だ。
と言う事はだ。
この何処かの別荘地に在るようなそれが、この国の王城か?
と、馬車がその前で止まった。
ロイドが一人降りて来て頭を掻いている。
その時、目の前の屋敷から一人のお爺さんが出てきた。
白髪の長い髪、伸びきった眉毛に白い髭の100歳に近いんじゃないかと見れる老人。エルフだ。
しかし、背骨は曲がっていない。
威厳まで醸し出している。
その老人にロイドが話し掛けた。
そして俺もトラックを降りて尋ねる。
「この辺りに宿屋は無いですか?」このままでは自称、城下町で野宿だ。
「この者は?」しわがれた声。しかし眉毛に隠れた眼光は鋭い。
「プレーシャと言う町で知り合いに為りました旅の者です」ロイドが適当に。
「我が国の新しいギルド、保険と銀行の支店作りに国を回っていたのだそうです」
「そこで、私がどうせならと、この国に観光はと進めた次第で」
「ほう……」
暫く間を空けて。
「地上は何もないぞ」
「年寄りどもの住む家ばかりじゃし」
「地上は?」
「町は地下に在る」
「地下に降りる階段は至る所に在る」
「大木の裏」
「各々の家の裏」
「成る程」頷き「有り難う御座います」
「私達はそこへ行っても宜しいのですか?」
頷いた老人。
そしてロイドが。
「ご老人、先程もお話しした、この国の王様に会うにはどの様にすれば宜しいのでしょう」
「ワシがそうじゃ」
「もう、会っておる」
「え!」思わず声を出した俺とロイド。
そんな俺達に対して「この国では、これが普通だ」
「イヤ、しかし無用心な」ロイド。
「暗殺でもされれば」今の俺が暗殺犯だとすれば、手の届く所に居るぞ。
「構わん」
「ワシはこの国での最長老にすぎん」
「この国の王では有るが……その王の一人にすぎん」
「王の一人?」聞き慣れないぞ。
「無数に居る王の一人だ」
「王が複数人」理解が難しい。
「エルフ族は、歳を取り魔力が上がると意識の共有が始まる」
「詰まりは、年寄りは身体は無数に有るが、意識は1つに為る」
「そうなれば総ての者が王じゃ」
「ワシは便宜上ここに住んでおるだけじゃ」
「フム、良くはわかりませんが……納得はしたとしまして」ロイドも混乱しているようだ。
「我が国の大臣の接見はこの屋敷で良いのでしょうか?」
「構わん」
「連れて参れ」
と、屋敷に戻る老人……長老王。
屋敷の扉は開け放たれたままだ。
俺とロイドは顔を見合せ。
ロイドは大臣を連れて、屋敷の中へ。
俺は、蜂を一匹忍ばせて、トラックへと戻る。
何処かに置場所を探して、地下の町へと行く事にしよう。
さて、長老王と大臣の会談だが。
端的に言えば、エルフ族はロンバルディアに攻め居る積りは無いと言う事だ。
ただ、リグーリアと言う名の国で大陸間弾道魔法が開発されていると言う。
首を傾げた俺に。
「ココからロンバルディアを挟んだ東の国がビエモンテで、その南に在る小国よ」マリー。
頷いた、聞いた事が有る。
「大陸間弾道魔法は、離れた空間に大規模な魔法爆発を起こす攻撃魔法よ」
「その使用も開発もロンバルド大陸間協定で禁止されているものよ」
「その協定自体は何百年も前のモノだけれど……一応は生きている筈よ」
「そんなに古いのにか?」
「人道的に不味いのよ」
「そんなのは、戦争に為れば……」
「それは無差別に殺すのよ……大量破壊魔法」
「そして、その発動方法にも問題が有るのよ」
「空間の位置の指定に人間の記憶を使うの、正確にするには出来るだけハッキリとした記憶」
「長いことソコに住んで居る位のね」
「そして、魔法の発動魔力はその者の命と合わせて13人の命が必要なの」
「それは……お互いが撃ち合えば……」
「国が滅ぶ以上の事に成りそうだな」
たった13人の命だが、10発も撃てば130人……。
そして、報復も有るだろうから、無限の撃ち合い……。
協定違反なら、その他の国も黙っては居ないだろう。
結局は大陸十に撃つ事になるだろう、その先に滅びの道しかない。
「その魔法は3国だけが開発に成功しているの、大昔の事だけど」
「私達の国と、この国と、南のロマーニャよ」
「人体実験が必須うだから、難しいのよ」
「その魔法は今も撃てるのか?」
「その3国は……」
「さあ……わからないわね」
「どこも、その実験も訓練も出来てないでしょうから」
「失敗すれば……自爆だし」
詰まりは、その国の方が戦争の意志が有るのか……。
それだけの危険とリスクを背負うのだ、何らかの意志がソコに在るだろう。
しかし、その警告の為に大臣を呼んだのか?
イヤ、それだけならメッセンジャーでも十分だ……。
他にも意図が有る筈だ。
しかし、その日の謁見はそれで終わった。
大臣達は国賓用の屋敷に案内されて、また翌日にとなった。
俺は考えていた。
今日のこの話は前フリだとして、明日が本題か?
戦争絡みの話には為るのだろうが……。
イヤ、大臣は先遣隊なのだから本題は、長老王と王が出会ってからか?
「ちょっと……聞いてる?」
ん?
と、目をやると、皆がトラックを降りる準備を終えていた。
「早く行こうよ~」コツメがウズウズを隠さない。
ジュリアも目の輝きが尋常じゃない、小声で「武器屋、防具屋、雑貨屋、農機具に調理器具にお酒」
最後の1つは、ジジイの血が出たな。
そして、サルギン達もロリスもピーちゃん迄が変化を終えている。
皆、大小のゼクスだが。