奴隷狩り
トンネルの中は、剥き出しの土の壁が適当に整えられただけの、ほぼ洞窟と言う感じだった。
若干に狭い通路。
ソコをアルマを先頭に、下って行く。
何処まで下りるのかはわからない。
トンネルが短い距離で、直ぐに曲がっている、クランクの連続だった。
「面倒臭い~」コツメがイライラしはじめている。
「何で、真っ直ぐじゃないの? こんなの真っ直ぐ掘れば良いじゃん!」
「真っ直ぐじゃ、塹壕の意味がない」答えてやった。
「この距離で曲がっていれば、弓も魔法も使えないだろ? トンネルの大きさも槍を制限する為だ」
短めの剣が有利に造ってある、所々に隠れる為の凹みを配置し、それが此方から……攻め手からは見えない様に角度も付けられていた。
防御型の立て籠るタイプの城の様だ。
「良く出来ている」
「なんだか、歩き難いし」
「坂の角度が少しづつ変えてあるからだ」
「何で? 適当に掘ったから?」
「違う」笑ってしまった。
「登りは気にならないが、下りだとリズムが狂って走れないようにだ」
そんなやり取りをしている後ろで、マリーと大臣が話している。
「彼は、どんな性格なんだ?」
「さっきまでは、冷静で冷酷で大胆な様に見えたのに……」
「今は?」マリーが、笑い。
「娘に笑って答えているのが、ただの普通の青年に見える」
「ネクロマンサーの宿命みたいなモノで、性格がコロコロ変わるのよ」
「さっきの場所は、戦闘で倒した敵の死体がゴロゴロ有ったのよ」
「その死体を無意識に感じ取って、そのうえにゾンビ盗賊達も近くに大勢居たから……その影響を受けたのよ」
「死体が有るだけでか?」
「そう、猫にマタタビみたいに、ネクロマンサーに死体なのよ」笑いながら。
「彼の本当の性格なんて、多分誰も知らないんじゃない? 本人も含めて」
そうだったのか! なんて事は言わない。
本当の俺なんて……産まれてこの方、一度も意識した事が無い。
あれもこれも俺なのだ……もうそれで良いじゃ無いか。
面倒臭い……って、これは誰の影響だ?
いつの間にかに下り坂が終っていた。
結構な距離を歩いた。
「しかし、この規模を良く掘ったな」大臣を見て感心する。
「総てを掘ったわけでは無い、元々は天然の洞窟だった所を利用しているのだ」
「この辺りは昔は、山と森のお陰か地下水の豊富な場所だったらしいが、いつの間にかに枯れて洞窟だけが残ったのだ」
「何処かにダンジョンが出来て地形が変わったのね」マリーが考える。
――誰か居ます―― アルマが止まった。
その先を、ソッと覗く。
狭い通路が途切れて、大きな広間に成っている。そのまま天然の大洞窟だ。
広間に幾つかの通路が繋がっているのも見えた。
奴等もそこに居た。
その真ん中に、ローブの男が、もう一人の少し毛色の違う男に怒鳴っていた。
蜂をミニマムで蚊のサイズにして飛ばし、男の話を盗み聞きだ。
繋がった通路にも偵察を出す。
このまま飛び出して伏兵に挟み撃ちは、嫌だ。
そしてカラスが「どうも、ローブの男の前に居るのが雇い主の様です」
その話は、詰まりはこう。
俺達を襲う様に、仕事として頼んだのだが。
その時の情報が間違っていたと、怒鳴っている。
話では、多少の犠牲は出るが簡単に勝てる筈だと聞いていた様だ。
それを、ワザと負けたフリをして、町に通してやれば後は、仲間が大臣を連れてくると。
なのに、100人以上の仲間が、今は20人程しかいない。
それは、何故かと問い詰めていた。
そして、今は俺達に追い詰められている。
「通路に飛んだ蜂が、学生達が捕まっているのを見付けたそうです」
「コイツらは、元々は普通の奴隷狩りを生業にしていたのが、その男に上手い事を言われたのだろう」頭目が。
カラスがそのままに通訳「大臣は死んだ、それはこの目で見た、だから約束の報酬は払う」
「その額では割りに合わない」
「わかった、増額を用意する」
男が、ローブに結構な大きさの袋を渡している、見た目に重そうだ。
それを見た、頭目が「奴等は、許しては置けんな、成敗してくれるは」
イヤ、金に目が眩んだだけだろう。
あれで、宿代を払う積もりだな。
「マリー、爆弾は有るか?」
「爆弾は不味いんじゃ無い?」天井を見て。
「こんな所で生き埋めは嫌よ」
確かにそうか。
「じゃあ、癇癪玉は?」それなら、音だけだから大丈夫だろう。
それを受け取り「こいつが合図だ」と、それに頷く全員。
ローブ目掛けて思いっきり投げた。
結構な距離が有るが、ちゃんと届いた。
鳴り響く爆発音。
その振動でか、パラパラと小石が落ちてくる。
そして、セオドアがアルマを抱えて飛び出した。
敵の真っ只中に着地。
アルマはそのままに、空中戦宜しく飛び回る。
突然の奇襲に驚いた奴等だが、音で耳がやられたのか指示も統率も無くにバラバラの行動。
敵のど真ん中に仁王立ちのアルマに斬りかかる者。
飛び回るセオドアを追う者。
ただ、逃げる者。
その場に立ち竦む者。
そこへジュリアの弓の雨。
その後に俺達がなだれ込んだ。
数にモノを言わせての殲滅戦。
頭目は他の者には目もくれずにローブに一直線に走り寄り、一撃で仕留めた。
その目の前の雇い主はロイドが斬り着ける、ロイドも二刀流だ、ナイフだが早い!
ロリスは幻影召喚で逃げ道を塞ぐ様に取り囲む。
それでも逃げようとするものは、ピーちゃんに乗ったジュリアの弓に撃たれて倒れた。
俺とマリーとサルギン達は、捕らえられて居る学生達の所へと走った。
奥の通路の1つ、途中に鍵が掛けられた鉄格子の扉。
それをサルギンの側近イワナクイが剣で鍵を叩き壊して飛び込んだ。なかなかの剣さばき、実は強いのか?
その先直ぐに、袋こうじの小広間に出る。
そこには子供達が居た。
衰弱している様子もなく、元気そうだが、やはり怯えていた。
その中に、何故かタウリエルが居た。
「何で?」思わず。
「迷子に成って、いつの間にかにココに」涙と鼻水のその顔……二度目だ。
「またなの?」呆れたマリー。
「それで捕まっちゃたのね」首を振る。
「取り敢えず、逃げるぞ」
頷いたタウリエル、子供達に向き直り。
「大丈夫よ! この人達は良い人だから」
子供達を引き連れて広間に戻ると、もう終っていた。
頭目はニンマリ。
ジュリアは首を傾げている。
そのジュリアに「どうした?」
「弓者が居ないのです」
「コイツでは無いのか?」と、雇い主を指す。
見ていたと言ったのだから、コイツがそうだと思ったのだが。
「弓者にしては、指が綺麗過ぎます」
そのまま首を巡らし「やはり、何処にも……」
「逃がしたか」
「それとも、まだ合流して居なかったか」
「その話は後でお願い」マリーが遮って、天井を指差した。
パラパラと小石が落ちてくる。
ずっと、落ち続けている。
「さっきの……あれ、不味かったかも」と、同時にドンと地響きがした。
顔を見合せ、全員で頷く。
「走れ!」
「逃げろ!」
通路を走り。
入り口を最後に飛び出した俺、その時。
背中を空気と土煙に押され宙を舞う……草村に投げ込まれて。
そしてもう一度、今度は大きな音での地響きがした。
今日もやっぱり遅く成った~
貯金しなくちゃ~